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第二十四話「超高級ホテル」後編

 シルクで出来たカーテンを開けると朝日が部屋に入り込む。この世界に来てから大体朝早く起きる健康的な生活を送っている。パソコンやゲームなどという娯楽がないのでやる事が無いせいであるが……今の方が充実している気がする。


「ぁー……身体が溶けるのじゃ……」


 朝日を顔に浴びて死んだような顔をして起きるシロ……もう少し寝覚めをなんとかして欲しい。


「おはようございます、マスター」


 いつも通りの無表情で起床したダンジョンコア。昨日の夢かどうかわからない体験を思い出す。


「そういえば、ダンジョンコア。昨日俺の寝具に入ってきた?」


「……いえ、入ってませんよ」


「そうか……じゃあ、俺の気の所為か」


 案の定俺が寝ぼけていただけのようだ。そしてシロも現在進行形で寝ぼけて壁に頭を擦り付けて前進を試みている。ゲームのデバック作業をしているプレイヤーのような動きに思わず笑ってしまいそうになるが、とりあえず身体をずらして洗面台に向かえるようにしてあげた。


「マスター様、おはようございます!」


 扉を開けて元気良く入ってきたグレー、割りといつも朝元気なのは鳥だからだろうか。とりあえず、おはようと声を掛けたが他の3人が入ってくる気配はない。シロ以外は朝に弱い子は居なかったはずだが……。


「あれ、他の3人は?」


「あー、ブランとエミは昨日遅くまでバタバタと暴れあって疲れたのかまだ寝てますね」


「あの二人はいつも仲良さそうだなぁ……クロは?」


「クロは……起きてはいますがお腹が減りすぎて動けないそうです」


 日に日にクロの燃費の悪さがひどくなっている気がする……。クロのためにも早くダンジョンを作らないといけないな。とりあえず、ホテルだし朝食が出るだろうからクロに食べてもらうとして……。


「エノルル地方に着いたのは良いけれど、この後どうしようかなぁ」


「とりあえず、周囲を探索してみますか? 他のダンジョンマスターに会えるかもしれませんよ」


「確かに他のマスター達に会わないと現状とかわからないしな……。そうだ、ダンジョンコア、他のコアと連絡取ってマスターを紹介したりとか出来ないの?」


「難しいですね。ナンバー同士は確かに繋がりを持っていますが派閥の関係上、仕方なくです。サヤのような親交が深いコアがいれば別ですが……残念ながらエノルル地方には居ません」


 ダンジョンコア経由なら楽に出会えるかと思ったが、そう簡単にはいかないか。しかし、この地方のマスター達も人手は絶対に欲しいだろうから誰かに出会えれば、話は比較的スムーズに進みそうな気がする。問題はどうやって出会うかだな……。


「ダンジョンコアってそのサヤって子以外は、友達どれくらいいるの? 友達いるように見えないんだけど」


「…………それなりにいますよ」


「目逸した! 目逸したわ、この子! 友達いなさそう!」


「…………」


 無言で拳を握ったダンジョンコアをそっと抑える。安心してくれダンジョンコア、少なくとも俺よりは友達いるから……。


「グレーもどうせ友達なんぞおらぬ癖に良く言うのう」


 洗面所から顔を洗ってようやく目覚めたシロが戻ってきた。欠伸をしながら大きく背伸びをしたが対して伸びていない。


「わ、私は沢山いるわよ! 決めつけないでくれる!?」


「暗黒鳥の変異種なぞ殆ど出ないと聞くぞ、まともに話せる相手なぞ弟と長老くらいしかおらんかったじゃろ」


 そうか、グレーの場合あの山にずっといたら対等な友達は作れないのか……。それでもグレーの事だから外出して友達の1人や2人くらい作ってそうだけどな。


「い、いたわよ! 同じ山の暗黒鳥達に名前付けて話しかけたり……」


 …………それは、ただのペットではないだろうか? しかし、ツッコムのも可哀想だったのでやめておいた。シロも若干呆れた顔をしている。


「そういうあんたこそ友達居ないでしょ! 偉そうだし!」


「やれやれ、勝手に決めつけないで欲しいのう……まぁ、父上のせいで男の知人は居らぬがな」


 シロが腕を組んでため息を吐いた瞬間に建物が突然大きく揺れた。元々地震大国にいたとはいえ、この世界の建物は倒壊しやすいので非常に怖い……今いる建物とか半分既に倒壊しているのでこの揺れで全壊してもおかしくない。


「ちょ……いくら友達居ないの指摘したからって怒らないでよ!」


「妾が怒りで揺らしているわけではない! そこまで器量は狭くないぞ!」


 地震だろうか……? いや、違うな。建物自体が攻撃されているのだろうか、衝撃音が度々聞こえる。恐る恐る窓の方に近づいて見てみると、建物から300mほど離れた場所に人影が多数見える。目を凝らして見てみると、何と鎧を着込んだトカゲが二足歩行をしていた。


「ダ、ダンジョンコア! なんかトカゲが歩いてるけどあれ何!?」


「あれは、リザードマンという種族ですね。肌の色が赤いためレッドリザードマンという個体です、種族的に言えば真ん中くらいの強さでしょうか訓練すれば人語も喋れる知性を持っています」


 丁寧に説明をしてもらった、目の前にそのレッドリザードマンが目測で100体くらい見える。リザードマン達は、とある武器を使ってこのホテルを攻撃していたのだ。その武器とは……。


「げ、あのトカゲ達、攻城兵器使ってるの!?」


 所謂、投石機だろうか。岩などをぶつけて建物を破壊する事を用途とする兵器を5台くらい持ってきたリザードマンは、現在進行形でこの建物に石をぶつけている。ただ、命中率はそれほどでもないのか大きい建物なのに半分くらいしか当たってはいない。

 しかし当たる度に建物が揺れて、命中した部分が粉砕されていく。もしもこの部屋に命中したら俺もタダでは済まない。


「……よし、逃げよう!! 隣の部屋にいる3人を連れていこう」


 厄介事には極力巻き込まれたくはない、何より戦闘になったら魔力を消費するので面倒臭い……。俺がとりあえず、隣の部屋に行こうと扉を開けると同時に部屋に入ってきた人とぶつかった。


「……いってぇ」


「あぁ、旅のお方助けてください!! リザードマンに襲われてるんです!」


 ぶつかった時の衝撃で尻もちを着いた俺、対してぶつかったのにリアクションがまったくない受付のお姉さんだった。


「いや……確かに襲われてますけど。もうそろそろ外出しようかなーって思っていたところで」


「白状ですね! あなた達見た感じ冒険者でしょ……困っている市民を助けないでどうするの!」


 冒険者ではないのだが……むしろ立場的には、あそこで岩をぶつけているリザードマンと同じような者である。俺が極悪人だったら内部から破壊されていたであろう。


「いやぁ……さすがに投石機はちょっと……」


「そこを何とか……父から譲り受けた大切な建物が壊れてしまいます。私に出来る事なら何でもしますから助けてください……」


 涙目で頭を下げるお姉さん、さすがに泣かれると助けてあげたくなるな……。このまま無理ですと立ち去るほど非情になれない。


「じゃあ……もしも助けたら俺の仲間達に沢山の料理をご馳走してください」


「そんな事で良いのですか!? 勿論、沢山お作りします!!」


 今の仲間達は、食事でしか魔力供給が出来ないためご飯を沢山食べられるかどうかは死活問題になってくる。とりあえず、戦闘後に魔力供給はするとして……。


「あの数のリザードマンに勝てる? なんか投石機持ってるけど……」


「大丈夫じゃろう、あんな石に当たる奴なんぞ居らぬし、レッドリザードマンならグレーでも対処可能じゃろうな」


 こんな状況下でもまだ欠伸をしているシロ、さすがの頼もしさだ。しかし、この状況でもまったく起きてこない隣の2人は大丈夫だろうか……。

 お姉さんにとりあえずクロが動けるように朝食を持ってきて貰う事にした。そして窓を開けてグレーとシロが外に出ていく。


「さすがに目立つのはよくないからのう、普段の姿にはならない方が良いじゃろう」


「……まぁ、私達が魔物だとバレたらマスター様の立場が怪しいものね」


 二人は、着地と同時に地面を蹴りリザードマン達の群れに突撃していく。グレーが放つ無数の風で出来た刃によってリザードマンが次々と切り刻まれていく。シロも純白の双剣を取り出してグレーと同じように敵を切り刻んでいく。地面を高速で動く2人に投石機の攻撃が出来るはずもなく、ただ蹂躙されていくトカゲ達……。


「つ、強い……!?」


 2人の無双具合に目をキラキラさせ、窓枠から身を乗り出して戦っている様子を見続けているお姉さん。この2人の活躍を目に焼き付けて是非覚えて欲しい、俺の仲間がどれほど強いかを……。


「……あれ、あの2人って昨日受付しましたっけ」


「…………」


 やっぱり覚えなくて良いや……忘れて欲しい。15分ほどだろうか、逃げ惑うリザードマンを1匹残らず殲滅して悠々と帰ってきた2人。あまりのワンサイドゲームにトカゲには同情してしまう。


「二人共お疲れ様です、活躍は窓から見ていましたよ」


「さすがは女王様です! しっかり見ていましたよ!」


「……ふぁ、お疲れ様」


 パン籠を片手に持って入ってきたクロ、二人が戦闘している間ずっとご飯を食べ続けて復活してきたようだ。そしてエミとブランも起きていたらしい、ただエミはかなり眠そうである。軽く髪が跳ねていて普段のギャップで可愛くみえる。


「こんなに強いなんて……名のある冒険者様ですか? 」


「……いやー、まぁ無名かな?」


 冒険者として活動した事なんて無い……、いやどうなのだろうダンジョンマスターより冒険者としての方が下手したら名があるかもしれない。大食い大会で優勝したりしたし……。


「……あの、もしよろしければ私に着いて来て頂けますか?」


「え? どこ行くんですか?」


「着いて来て頂ければわかります……お食事以外のお礼も出来ると思います」


 よくわからないが、もしかしたら宝物庫があってお金やお宝をお礼としてくれるのかもしれない。少し期待を膨らませて皆揃ってお姉さんに着いていく。受付の奥にある部屋に入る、ここはお姉さんの私室だろうか、寝具やクローゼットに机や本棚が置かれているが窓はない。


 私室に呼んで何をするのだろうと首を傾げていたが、突然本棚を力で横にスライドさせたお姉さん。すると本棚で隠された壁に扉があった、所謂隠し扉という奴だ。でもこういう仕掛けは普通レバーを入れたら本棚が自動的に動いたりする物だと思うが人力なんだ……。


「入る時、頭をぶつけないように気をつけてください」


 扉を開けると地下へと続く階段になっていた。ちょっと怖くなってきたが、折角なので最後まで着いていこうと思う。階段を下っていくと壁に灯りすらない暗い地下通路が真っ直ぐ続いていた。お姉さんが持ってきたランプが唯一の灯りだ。15分くらいだろうか、地下通路を歩き続けると突然広場のような場所に出た。


「……ここは?」


 広場には、木箱が沢山積まれており壁に掛けられたロウソクの灯りで周囲が見えないという事はない。真ん中に椅子と机が無造作に並べられておりそこに人が何人か座っていた。


「ここは、エノルル地方で暴虐の限りを尽くすダンジョンマスター達に対抗するために作られた秘密組織……影の冒険者ギルドです」


 俺が何を言っていいのかわからず、唖然としている所に椅子に座っていた人が俺達の方に歩いてきた。


「チーが連れてきたって事は、そこそこ腕があるって事よね? 私はルル、よろしくね」


 緑色の髪に紫の瞳、獣の革で出来た鎧を着て自分の身長より大きい斧を持った、身長140cmくらいの少女が最初に挨拶をしてきた。


「俺の名前はリード。馴れ合いはしない、実力で魅せてくれ」


 椅子に座ったまま顔を向けず、エールを飲んでいるのは赤いフードが付いた革のコートを着ていた男。身長は180cmほどで4本の刀を左右に2本挿していた。


「…………よろしくー」


 床で寝ていた人がこちらに顔を向けて、手を振ってきた。修道服を着ているが……シスターだろうか? 黄色い髪に黄色い瞳、武器の類は持ってはいない。最初死体かと思った……。


「……あのー、よろしくって一体何? 何をよろしくされるんですか?」


 話にまったく付いていけない俺であった、他のメンバー達も流れがよくわかっていないのか首を傾げている。


「ここに呼んだのは他でもありません……あなた達の腕を見込んでお願いします! 私達の秘密組織に入ってください!」


「…………はい?」


 思わぬ展開に気が抜けた声が出てしまう。助けを求めるようにダンジョンコアの顔を見るが……ダンジョンコアは静かに首を横に振っていた。どうやらどうしようもないらしい。


 ダンジョンマスターですが、マスターじゃなくて冒険者になりそうです。


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