第二十三話「異世界でのクレーム対応」
どうも氷の神殿を後にして旅を続けるダンジョンマスターです。エノルル地方を目指した旅路も終わりに近づいていた。現在俺達は、ミツルが言っていた街に滞在している。
この街を出て半日ほど歩くとエノルル地方に遂に到着する。ここが最後の休息地点になるだろう……エノルル地方に入ったら恐らく安らぐ暇はないはずだ。
というわけで、いつものように皆は宿屋で休んでもらい俺だけが出稼ぎに行く……はずだったのだが。
「マスター様だけ働かせるわけにはいきません! 私もお供します!」
「確かにずっと宿に篭っておるのは暇じゃしのう、妾も暇つぶしに付いていこうかのう」
「むむ、シロやグレーが行くのなら私も行きます」
「じゃあ、僕達はお留守番しておく? また二人だけになれるね」
「俺様もいきます! 絶対行きます!」
「……一人だけ残る意味もないのでダンジョンコアも行きます」
何故か全員付いてくる事になってしまった、こんな大所帯で彷徨いたら非常に目立ちそうだが……。まぁ、最悪バレても走って逃げればエノルル地方まで逃げ切れるだろう。問題は、こんな人数で働く場所があるのかという事とこのメンバーに出来る仕事があるかどうかだ。
「ちなみにマスターは、普段どのような仕事をしているのですか?」
「うーん……酒場や宿屋でお皿洗ったり、掃除や洗濯したりとかかな?」
「……掃除?」
「……洗濯?」
困惑した顔をするシロとクロ。まぁ、二人はお嬢様らしいから掃除や洗濯をした事がなくても仕方がないか……。
「お皿洗い……?」
いや、皿洗いで困惑しないでグレーさん。 さすがに山に居た頃もお皿でご飯食べてた……よね? もう既にダメな気がする、このメンバーで働けるところがない気がする。
「でも、働くとしたら裏方の方がいいよなぁ……変に目立ちたくもないし」
「さっきそこの提示版に貼られていた求人紙を何枚か持ってきたから、皆で見てみようか」
さすがのエミだ、ちゃっかりしている。とりあえずエミが持ってきてくれた求人紙を皆で見る事にした。
『女性大歓迎、酒場での接客業です。制服としてメイド服を支給します』
1枚目の紙にはこう書かれていた。接客業か……業務内容はともかく皆のメイド服姿は凄く見てみたい。制服として支給しているくらいだからさぞ可愛いのだろう。
「皆この接客業はどう? たぶん注文聞いて料理運んだりするだけだけど……」
「「「接客業……?」」」
シロ、クロ、グレーの3人が完全にキョトンとした顔をしてしまっている。困った顔でブランとエミの顔を見る俺。
「……接客業、しかもメイド服なんて着たくないぞ」
「とりあえず他の求人紙も見てみようか」
思ったより不評だったので仕方なく次の求人紙に目を通す。メイド服似合うと思うけどなぁ……。
『畑作業の手伝いをお願いします。農具はこちらが用意します』
畑作業か……。現代の農作業ですら大変そうなのにこの時代とか機械もないだろうし、重労働だろうな……。でももしかしたら興味あるかもしれないし一応聞いておくか。
「皆、ちなみに農作業とかは……」
「「農作業……?」」
シロとクロが再びキョトンとした顔をしてしまった。もしかしてこの2人、野菜をどうやって作っているのか知らないのかもしれない。魚の切り身が水の中を泳いでいると信じてそうだ……。
「あら、農作業も知らないのね。やれやれこれだからお嬢様は……」
農作業を知っているだけでドヤ顔をするグレー。先程皿洗いでキョトンとしていた事を俺は忘れてないからね。
「土弄りは楽しそうだから俺様は良いぞ」
「うーん……筋肉痛になりそう。僕肉体労働は得意じゃないんだよね」
農作業もかなり不評なようだ、ブランだけ乗り気だけどさすがにブランだけ農作業に行ってと言うのは可哀想なので他の求人紙を見ていく。正直どれもここにいるメンバーにやらせるのは不安要素があるものしか無く、諦めかけていた時であったが……。
『文字の読み書きが出来る人限定、雑貨屋の書類整理のお手伝いを募集しています』
書類整理……どんな事をやるのかわからないが文字の響きだけで見ると楽な部類じゃないか?
「皆は文字の読み書き出来る?」
「うむ、当然出来るぞ」
「はい、読書は大好きですから」
「文字の読み書きくらい当然だろ、俺様は子供の頃から出来たぞ」
「僕も普通に出来るよ」
「ダンジョンコアの基本機能です」
皆ちゃんと出来るようだ、そしてブランにも小さい頃があったのか……今でも小さいのに子供の頃は一体どんな大きさだったのだろう。
「あ、私も読み書き出来るわよ」
「「「「えっ!?」」」」
グレーの発言に驚愕する一同、文字の読み書きすら出来ない存在だと皆に思われていたらしい……。
「何驚いてるのよ、出来るに決まってるでしょ!」
「あんな山奥で読み書きなど何に使うのじゃ……?」
「待ってくださいシロ、ただグレーが出来ると思い込んでいるだけかもしれませんよ」
「まぁ、魔物は見かけによらないと言うからな……」
「変異種になると知能面も向上するのかな? 興味深いね」
「こいつら……」
散々な言われようである、グレーの頭を軽く撫でてあげた。しかし、一応全員読み書きが出来るようなのでこの仕事に決定だ。求人紙の隅に書かれた店の場所まで足を運ぶ。
着いたお店は、かなり大きく立派なお店だった。店内ではガラスケースに入れられた武具や書物など高価な物、食料品や日用雑貨まで幅広く売られていた。店主らしき人が店内を歩いていたので声を掛ける。
「あのー、すいません。求人紙を見て来ました」
「おぉ、よく来てくださいました。ここでは何ですから奥へどうぞ」
店主は優しそうな顔をしたお爺ちゃんであった。他に店員が見当たらないので一人でこの店を経営しているのかもしれない。大変だな……と思いながらも店の奥に向かう。
店の奥は、店主の居住スペースになっていた。開けてすぐ目の前に調理場があり少し離れた場所に寝具が置かれていた。建物の内2割くらいだろうか、全体の大きさから言えばかなり狭いと言えるだろう。
「皆様、全員文字の読み書きは可能という事で……この書類を何とかして欲しいのです」
そう言って店主が寝具の近くにあった机の上に紙を並べていく。書類に描かれている文字は、綺麗な物もあれば汚くて読めない物もある。色んな人が書いた書類のようだ。
「これは……?」
「お客様が書いてくださった要望書です、直接言いづらい要望でも伝えやすいように紙に書いて頂いているのです」
俺の居た世界のお店にも似たようなのが貼られていたなぁ。たまに凄い上手い絵が描かれてたりしてた事もあったな。
「つまり、この紙の内容見ながら返答していけば良いのかな?」
「はい、お願いいたします」
「でも良いの? 僕達、お店の事とかよくわかってないけど」
「いやー……実は老眼で文字が見えづらくて……。それに要望書と言えば堅いですが内容は、そこまで対した事ではないですから当たり障りのない返答をして頂ければ結構です」
「そんな適当な感じで大丈夫なんですかね……」
「大丈夫です、一応書いて頂いた物は最後に確認しますから……それでは少し知り合いのところに顔を出してきますので店を空けますね」
そう言って店主は、離れていってしまった。とりあえず、仕事を受けたからには目の前の書類を片付けていくしかない。
「じゃあ、仕事していくか……皆やり方はわかるよね?」
「うむ、書いてある事に返答する文を紙に書いていけば良いのじゃろう?」
「私達にお任せください、マスター」
「俺様達に任せておけ!」
「そうですよ! 私達に任せてマスター様は休んでいてください!」
さすがに皆にだけ任せるのは不安でならないのだが……。俺が何か言う前に押しのけられて各々作業を始めてしまった。仕方がない皆が作業した内容を確認する役目になるか……。
作業開始から30分くらいしただろうか、さすがに手持ち無沙汰なので皆が書いている物を見て行く事にする。最初はとりあえずシロのから見ていく。
「シロー、作業はどんな感じ?」
「おぉ、マスター。良いペースで進めておるぞ」
「おー、さすがシロ。ちょっと見せて貰ってもいい?」
「うむ、良いぞ」
机の上には、書類が重なっており要望書とそれに答えたシロの返答文がセットになっている。まずは、要望書から見ていくか。
『入口の高さが足りず、頭をぶつけるので何とかして欲しい』
……そんなに低かったかな? 確かに高くはなったが2mはないと頭をぶつけないと思うのだが……まぁ、要望が来てしまったからには仕方がないけど、シロはどう返答したのだろう。
『人間の癖に頭が高いぞ、頭をたれよ』
「うん、これはダメだね。書き直そう」
「な、何故じゃ……完璧な返しではないか!」
「何の解決もしてない上に喧嘩売っちゃってるからね!? いや、まぁ……頭を低くしたらぶつからないかもしれないけど、とにかくもうちょっと下手に出る感じで……」
「むむむ……難しいのう……」
そう言って頭を抑えながら書類を直し始めるシロ、俺そんなに難しい事言ったかな? シロがこれだと他のメンバーにも不安しか感じないが……クロを見てみるか。
「……クロ、書類作業はどんな感じ?」
「マスターですか、はい順調ですよ」
「そう、良かった。ちょっと見せて貰っても良い?」
「ぇ……あ、あのー……」
何かクロがモゴモゴ言い淀んでいたが、あまり気にせず近くにあった書類に手を伸ばす。
『カッコいい男性店員を雇ってください! 出来れば配達とかもして頂ければ……私は満足なのですが……』
うわー……。これはまた、何とも返答し難いのが来たな……もう己の欲望しか考えてないけど……クロはどうやって返答したんだろう。
『もしかしてあなたは人妻ですか? 格好いい男性店員と禁断の愛がしたいわけですね? 店に通い仲良くなった後に夫の居ない間を見計らって配達を…………』
途中で思わず見るのを止めてしまった。初めて見たよ、返答文に疑問形使ってるの……しかも完全に人妻って決めつけちゃってるし。この後も、まるで官能小説のようなストーリーが描かれているけど……。
「……クロさん?」
「…………こ、こっちを見ないでください」
「か、書き直しといてね?」
「…………はい」
顔を真っ赤にして俯き、借りてきた猫のように静かになってしまったクロを一旦置いといて。次はグレーか……。
「グレー、調子はどう?」
「マスター様! 勿論順調ですよ!」
「ちょっと見ても良い?」
「はい、どうぞ!」
自信満々なので先程のような事故は、起きないであろう。目の間にあった書類を見る。
『絵が好きなのですが、このお店で絵は扱わないのですか?』
うむ、まともな要望と言えるだろう。少なくとも先程の要望書よりは……。そしてこのまともな要望書に一体グレーは、どんな返答をしたのだろうか。
『絵? それなら私が描いてあげるわよ! ありがたく思いなさい!』
うん、客が求めているのはそういう事じゃないんだよなぁ……。しかも滅茶苦茶上から目線で描いた絵が……。
「……これ何? 猪?」
「い、犬です!! ほら、ここが耳で……」
あぁ、これ耳だったのか鋭角すぎて角にしか見えなかった……。しかし、いきなり店にこんな絵置いてもさすがに誰も買わないと思う。そこまでこの世界の人達の目も腐っていないだろう……。とりあえず、言葉遣いを丁寧にするように伝えておいた。
「お、ダンジョンコアも書いてくれてるんだな」
「そうですね。手持ち無沙汰なので」
一体どのような文面になっているのか気になったので手に取って見てみる。
『お前の店は、商品の値段が高い! だからいつも金が無くなる、もっと安くしろ!』
暴論にも程があるな……じゃあ、利用するなよと思ってしまうがダンジョンコアはどう答える?
『まず、商品が高いとの事ですが輸送費等を考えると特別高くはありません。そしてあなたのお金がないのは、あなたが無駄使いしすぎているからです。しっかりと計画して使わないからすぐにお金が無くなるのです。もっと使い道を考えてください』
何故だろう、俺の心が抉れて苦しい。涙が出てきそうになる……。
「……ダンジョンコアさん?」
「何でしょうか」
「もうちょっと……柔らかい感じで書いた方が良いと思う」
「何故マスターが泣きそうなのかわかりませんが、わかりました」
顔も見た事がない赤の他人の要望書であったが……何故かこの人に感情移入してしまった。頑張って節約してくれよな……。
そして次はエミか……。エミならまともな事書いてくれてそうだから安心出来るな。
「エミ、作業の方は順調?」
「うん? あぁ、書き進めてはいるよ」
「おぉ、もうこんなに終わらせたのか」
作業完了した書類が積み上がっていた。さすがの作業ペース、何気なく手にとって見てみる。おぉ、凄いちゃんと丁寧な言葉遣いで返答してる、さすがの常識人枠……うん?
『私は女性ですが女の子が好きです、彼女に何を上げれば喜んでくれるでしょうか?』
もう、このお店関係なくない? ただの恋愛相談になってしまっているが……こんなのエミだって答えようがないようなぁと思いながら返答文を見ようとした……が。
「僕は大丈夫だから、他の人を手伝ってあげてよ……ね?」
凄い速度で手に持っていた返答文を奪い取られてしまった。まぁ、確かにこの調子なら平気か……。ニッコリと微笑むエミがどこか怖かったが、最後にブランの様子を見る。
「……ブラン、調子はどう?」
「ん? あぁ、書いてはいるぞ」
「見ても良い?」
「見るのか……? 俺様の作業の邪魔になるなよ」
嫌そうな顔を浮かべながらも許可を出してくれたので、書類を見てみる。意外な事にペースは、エミと同じくらいこなしていた。問題は中身だが……。
『店内の衛生管理がひどいと思います、食料品も扱っているのにあの衛生状況で良いのですか?』
これに対してのブランの返答。
『大変申し訳ありません。当店の清掃が行き届いておりませんでした、今後は、このような事が起こらないように尽力していきますので。今後共よろしくお願いいたします』
…………凄くまともな事書いてるー!!! 俺様口調すら消えてもうこれ誰が書いたのかわからないレベルになってる。他のも見てみるが、当たり障りのないまともな返答文しかなかった。
「ブラン……やれば出来るじゃないか!」
「俺様が普段出来ない子みたいに言うのはやめろ!」
結局書類の8割は、ダンジョンコアとエミとブランの3人に書いてもらい。残りの2割は俺の監修付きで残りの3人が仕上げてくれた。店主から報酬の1000Gを貰った、宿屋に戻り一息付く俺達。
「……明日、エノルル地方に到着か襲われないといいなぁ」
「襲われないという保証はないので、なるべく目立たないように行動したいですね」
何とかなるだろうと気楽に考えてはいたが、直前になると現実味を帯びて恐怖感が出てきた。
「大丈夫じゃ、マスター。何も心配せずとも良い、妾達にまかせておくのじゃ」
「マスターの傍にずっと居ますから安心してください」
「何かあったら私がマスター様を背中に乗せて逃げますから!」
「まぁ、何とかなるだろう。最悪土の中を掘って逃げればいいだろ」
「身体が消滅しなければ蘇生してあげられるから、安心してね」
なんか最後らへんに怖い台詞が聞こえたけど……とにかく皆の声に励まされた。……よし、エノルル地方で俺は……隠居生活をする!!!
ダンジョンマスターですが、争いなんて嫌いです。
いつの間にか評価が550を通り過ぎていました……。
皆様本当にありがとうございます。
すいません、本日7/13日投稿予定でしたが7/14日に変更させてください。
申し訳ありません。




