第二十一話「女王対決」後編
シロとヴァイス、クイーンヴァンパイアとスノークイーン。女王同士による対決が目の前で行われようとしていた……。
「同じ女王同士……仲良くしましょうよ」
「ふん、女王と言っても格という物がある。一緒にしてもらっては困るのう」
互いに獲物の色は純白、双剣と鎌で押し込めず膠着状態がまだ続いている。
「ヴァイスいい加減にしろ! 今日のおやつ抜きにするぞ!」
「えー、それはい……ぁ……」
状況を動かしたのは、何とかヴァイスを止めようとしたミツルの一声だった。一瞬ミツルの方を向いたヴァイスのお腹にシロが前蹴りを入れて神殿の外壁までふっ飛ばした。
「ざまぁないのじゃ」
叩きつけられる前に足を壁に付けて一回転し綺麗に氷上へ着地したヴァイス。しかし、蹴りが直撃した影響かその場でゲホゲホと苦しそうに咳き込む。数秒咳き込んだ後に藍色の瞳を鋭く光らせながらシロを睨む。
「……殺す」
そう一言だけ呟いたヴァイスは、手に持っていた鎌を片手でクルクルと高速回転させる。そしてもう片方の手の平をシロの方に向ける。
「アイシクルストーム」
その一言と同時に強烈な吹雪が発生する、吹雪だけではなく一緒に放出されている物は……先端の鋭い氷柱だった。俺が食らったら間違いなく即死するであろう……。しかし、シロは余裕の表情を見せていた。同じように手の平をヴァイスの方に向けて呟く。
「アイシクルストーム」
シロもヴァイスと同じ呪文を唱えた、二人の間で呪文同士がぶつかり合う。氷柱同士が衝突して地面に氷の塊がボロボロと散乱していく。
「……ダンジョンコア、これ戦況はどうなってるんだ?」
「魔力量は互角です。しかし、ここは相手のホームなので長引いたらまず勝てないでしょうね……それに」
「それに……?」
「クイーンヴァンパイアは、氷結系の呪文を得意としているようですが……相手は氷結呪文のスペシャリストです呪文対決は分が悪いと思われます」
何とか戦いを止めたいが……ヴァイスがブチ切れているようで少なくとも俺には止められそうにない。ミツルも頭を抱えている、ミーツは楽しそうに目を輝かせてるけど……。
「仕方ない、もう全員でシロに加勢して早く終わらせ……」
「加勢は要らぬぞ、マスター」
俺が考えた全員でリンチして終わらせる短期決戦案は、見事に却下されたのであった。
「こんな女、妾一人で十分じゃ。マスターは安心してそこで見ているが良い」
「……あのー、シロさん? もしかして怒ってらっしゃいますか?」
「怒ってなぞおらぬ、ただこの女が気に食わないだけじゃ」
駄目だ、完全に戦闘モード入ってる。でもシロがあんなに怒るなんて珍しいな……。
「あのように仲の悪い魔物も居ます、ダンジョンが大きくなったマスターの悩みの1つですね。大体は階層や部屋を分けたりして隔離してしまいます」
まるで熱帯魚みたいだな……シロやクロのように無条件で仲良しというわけにはいかないのか、とは言っても俺にはまだ無縁だと思うけど……。しかし目の前の戦闘がどうなるのか非常に気になる、シロの強さは知っているが相手は同じくらいの強さだろうし、かなり苦戦しそうだが……。
「……ねぇ、皆どうしようこれ」
「シロなら大丈夫ですよ、見守りましょう。マスター」
「……まぁ、私よりも強いし大丈夫だと思いますよ。マスター様」
「うーん、総合的にみたらシロの方が強いんじゃないかな?」
「女王様が負けるわけがないだろ! 大人しく見てろ!」
全員一致でシロが勝つと判断しているようなので少し安心しながら見守る事にしよう……。
「ところでさっきからずっと鎌を回転させてるけどあれ何の意味があるの?」
「魔力を集めているようですね、アイシクルストームは囮でしょう。あの溜めている方が本命だと思われます」
未だクロに抱きかかえられている俺であったが、下手に離れると飛び火した時に死にかねないので我慢する。折角なのでクロに戦況を解説して貰う事にした。
「……という事は、このまま膠着してたらシロやばいんじゃないの?」
「あえて同じ呪文で相殺しているという事は、シロも本命が見たいのだと思います」
時間を稼ごうとしている相手の意図に敢えて乗っているという事か、何故わざわざ危ない橋を渡るのかよくわからないがシロにも考えがあるのだろう。
「……私の事舐めてるわね」
「さぁ、どうじゃろうな」
「後悔するわよ」
回転を止めて鎌をシロの方に向ける、先程の見ただけでわかる怒りの感情は消え氷のように冷えた表情で呪文を呟いた。
「ブリニクル」
鎌の先端から発生した青白い竜巻、この竜巻は見た事があった……そうヴァンパイアハンター戦の時にシロが放った竜巻とそっくりだ。1つ違う点があるとする竜巻の大きさだ、シロが両手で放った竜巻よりも巨大で周囲の温度を極端に下げた。
「……ブリニクル、氷結最上級呪文の1つですね」
「最上級呪文!? そんなの食らって大丈夫なのか……?」
「直撃したらいくらシロでも危険ですね、ただ何かしらの解答を用意してそうですが」
シロは、最上級呪文を前にしても余裕そうな表情を崩さない。シロは両手の平をヴァイスに向けた。
「ニクル」
両手の平からシロも青白い竜巻を発生させて、ヴァイスの竜巻にぶつける。素人目でも押し負けているのがわかる……。ヴァイスの方が強力な呪文を使っているからであろう、しかし、何故かそれでも余裕そうなシロにヴァイスは怪訝な表情を浮かべている。
「一体何を考えて……!?」
ヴァイスと共に俺も驚いてしまった、シロの姿が突然消滅したのだ。周囲を見渡せどシロの姿は見つからない。
「え、シロどこに消えたの!?」
「霧散化の呪文ですね。霧になっているのでマスターの目で追うのは大変だと思います」
霧になれるなんて凄いな……日常生活で使えたら悪用しまくれそうな呪文だ。
「……霧散化? その程度の目眩まし私に通用すると思っているの?」
「お主には通用せぬかもな。でも良いのか? 後ろががら空きじゃぞ」
「何が………………ミツル!?」
ヴァイスが慌てて振り返る、シロは何とミツルに向かって純白の双剣の内、1本を投げていた。しかし、剣はミツルには当たらず少し離れた場所に突き刺さった。
「うわぁぁぁあ!?」
「きゃ~、殺される~」
ビビりまくるミツルに台詞が棒読みのミーツ……外したのを見て即座に前を向くヴァイスであったが……。
「……どこに?」
霧散化したとはいえ場所を捉えていたシロを見失ったのだろう、周囲をキョロキョロと見渡す。
「どこを見ておるのじゃ?」
「……上!?」
声の方向を向くヴァイス、俺も釣られてヴァイスの真上を見上げてみるとシロがゆっくりと姿を表した。
「この……」
「遅いのう」
慌てて真上に鎌を向けようとする前にシロは既に行動に入っていた。
「カオスインフェルノ」
両手から放たれた黒色の炎は、ヴァイスを一瞬で包み込んだ。身体を丸めた状態で地面に叩きつけられ燃えた状態で蹲る。
「大丈夫かあれ……死んじゃったんじゃ……」
「いえ、シロも手加減したようですから平気だと思います。それでも暫くは動けないはずですけどね」
蹲った姿勢のまま動かないヴァイスを見て心配になる。
「わ……悪い、うちのシロがやり過ぎちゃって」
「い、いや……先に仕掛けたのはこっちの方だし良いよ。ミーツ、とりあえずヴァイスの治療をしてくれ」
「はいはーい、ヴァイスちゃん。今治療しますからね~」
ミーツが神殿の上からヴァイスの傍に着地し治療しようと手を伸ばすが、その手を払い除けて立ち上がる。
「……ヴァイスちゃんー? 反抗期ですか?」
「…………連れがいるから……加減してやったのに」
ブツブツと何かを呟いている、俯いているために表情が見えない。しかし俺の予想では……間違いなくキレてる。
「あー、妾も少しやりすぎたな。すまんのう、ついムキになってしまって……」
シロもずっと俯いて立ったまま、ブツブツと恨み言を言い続けているヴァイスを見て気まずくなったのか手を合わせて謝罪する。しかし、そんなシロの事をヴァイスは最早見ていなかった。
「……………もう、手加減なんてしないから」
そう言って大鎌を地面に叩きつける、氷がヒビ割れ……うん? 形が何か変なような……。
「え……なんか氷に模様ができてる……」
「ま、魔法陣です! それもかなりの大きさです」
ヴァイスが鎌を叩き付けた先からヒビ割れのように広がっていったのは魔法陣、それも俺達の下にまで広がり敷地全体にまで描かれてていく。
「空よ、大地よ、母なる海よ、凍てつき凍れ……針まで凍った時の中、世界は私の支配下にある……アブソリュー……」
「そこまでだ、ヴァイス」
空中から突然振ってきたのは、3本の氷で出来た大剣。大剣は氷の上に突き刺さり、氷に描かれた魔法陣を消滅させた。
「……ケーニヒ、邪魔しないで!」
「我らがマスターまで凍らせるつもりか? それに全ての非があるとは言わんが原因は、お前にある。手を引け」
渋くて格好いい声が聞こえてきたのでそちらの方を見る……そこに居たのは巨大な雪だるま、青いバケツを頭に被せてあり太い木の枝が腕の変わりに突き刺さっている。
「ねぇ、ダンジョンコア。何あの巨大雪だるま」
「あれは、キングスノーですね。150万DPクラスですね」
「雪国行って頑張れば作れそうなあの雪だるまが!?」
初めて見た150万DPの魔物は、巨大な雪だるまでした……。でも、明らかに危険な局面を助けてくれたのは事実なので感謝しなければいけない。
「いやー、ありがとう。ケーニヒ……だっけ?」
「礼には及ばない、こちらに責がある……。しかし、先程のマスターを狙った一撃、当てる気が少しでもあったなら全員の首を落としていたところであった」
ファンシーな見た目をしているくせにとんでもない事を言いやがったこの雪だるま……。
「うぅ……ケーニヒの奴、今度隙見てお湯掛けてやる」
「まーた、頭だけ残して氷の中に埋められますよ~」
ヴァイスの方は、ミーツが治療している。先程のブチギレ状態は解除されているようなので一先ずは安心と言ったところだろうか。
「うぅ……寒いぞ」
「羽が凍りそう……」
「解凍しましょうか?」
「だからちょろっと炎出してるんじゃないわよ! 冷凍した肉じゃないのよ!」
「ちょっと待ってね、今この周辺だけ暖かくするから」
我らがメンバーは、戦いの影響で低下しきった周囲の温度に震えていた。エミがオレンジ色の光を出してくれた事によりかなり暖かくなってきた。もう暫くすれば寒さに震える事も無くなるだろう。
「なぁ、お前の名前教えてくれよ」
「相川瑠比、ダンジョンのないダンジョンマスターだ」
「…………? そ、そうか」
ちょっと格好良く言ってみたら引かれたんだけど、納得出来ない……。
「よかったら中に入って休んでくれよ、ダンジョンマスターと話すのは久しぶりだしな」
「折角だしお邪魔しようか、ずっと外にいるのも寒いし……」
ミツルが神殿の扉を開けてくれたので、皆で中に入っていく……ただ唯一神殿に入れない者がいた。
「……ケーニヒさん、詰まってるけど大丈夫なの?」
入り口よりも大きい雪だるまは、内部に入れず悲しそうな顔をしていた……。どうやってここに来たんだよ。
ダンジョンマスターですが、雪遊びのしすぎには気をつけましょう。




