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第二十一話「女王対決」前編

 どうも大食い大会で旅費を無事……に稼げたダンジョンマスターです。エノルル地方を目指して旅を続ける我々。後もう3日もすれば目的地であるエノルル地方にたどり着こうとしていたが……。


「まだ追って来てるのか……?」


「そうだねー、でも正確な数がわからないんだよね……」


「そのうえに距離を保ったまま付かず離れずじゃ、嫌な予感がするのう……」


 街から離れ3日ほど歩いただろうか、道中に村の1つも無い辺境な場所を歩いていたのだが突然矢が数十本ほど飛んできたのだ。恐らく山賊だと思う……何故断定しないのかというと相手が姿を見せて来ないからだ、普通に金や物が目当てなら多少の危険は犯してでも殺しに来ると思うのだが……。


 極力魔力消費を抑えたいため、戦闘を避け無視して森の中を逃げている最中である。クロがエミとブランをそれぞれ片手で脇に抱えて、シロが俺をグレーがダンジョンコアを背負って走っている。


「これ、相手賊か……? の割には全然殺しに来る気配ないけど……」


「いくら何でもこの速度で走って付いてこられる人間がいるのでしょうか、魔力を消費しすぎないように抑えているとは言っても馬よりも少し早いくらいですよ」


「しかもいつの間にか行く道を遮られたりしているからねぇ、これは誘導されているとみていいと思うよ」


 そう、この俺達を付け回している賊はいつの間にか俺達の逃走先に先回りして逃げ道を限定させてくるのだ。とは言っても待ち伏せからの奇襲をしてくるという事もないので増々不可解極まりないのである。


「こいつら一体何がしたいんだ……?」


「さぁ……? あ、前と左側にいるよ、一体何が目的なんだろうね」


「マスター、もう戦った方が早いんじゃないですか? 走りすぎてお腹が空いてきました」


「まだ10分くらいしか走ってないよね!? でも……確かに面倒臭くなってきたから次先回りされたらグレーとシロお願いね」


「はい、マスター様!」


「仕方ないのう……まぁ、素手で事足りるじゃろう」


「あれ、マスター……私は?」


「クロは燃費悪いからダメ」


 しょんぼりとするクロであったが、クロは確かに凄いく強いし頼りになる……があまりにも燃費が悪すぎる。ダンジョンがあった時は、魔力の半分は勝手に供給してくれていたが今は食事だけで全ての魔力を補う必要がある。


 そうなると食費が大変な事になってしまうのである。他の6人の食費を足してもまだクロの食費に追いつかないという恐ろしさ……エノルル地方でダンジョンを再び持てるまでクロには休んで貰う必要がある。


「マスター……前を見てください」


「うん……?」


 シロの背中越しに前を見てみると、今まで木々が生い茂っていた景色が突然変わった。そしてそれと同時にいきなり周囲の温度が急激に下がっていくのを実感出来る……。


「……氷の神殿?」


 そう、目の前に突然出てきた景色は表情が透き通るように綺麗な氷……。かなりの広さを持った氷上の上に、これまた氷で出来た綺麗な神殿が設置されていた。神殿自体も大きく俺の世界でいうと学校にある体育館くらいだろうか……。


「なぁ……ダンジョンコア、これってもしかして……」


「はい、ダンジョンですね。マスター」


「どうやら、妾達を誘導していたのはここの主だったようじゃのう」


「うー……肌寒いぞ」


「温めてあげようか?」


「近寄るな!」


 ブランが寒そうに腕を抱えているのを見て近づいていくエミ、そしてそれを躱すブラン……相変わらず仲が良いな。


「うぅ……でも確かに寒いわね」


「温めてあげましょうか?」


「なにちょっと手から炎出してんのよ! 焼き鳥にする気!?」


「クロ、やめるのじゃ! その炎でパン5個分のエネルギー消費じゃぞ!」


「私の心配をしなさいよ!!」


 こちらはこちらで仲が良さそうだ、そしてそのエネルギー消費は洒落になってないのでやめて頂きたい。さすがに手からちょろっと炎出してパン5個はないと思うけど……ないよな?


「おいおい、さっさと中に入ってこいよ。面倒臭いなぁ……」


「誰だ!?」


 俺達が神殿の入り口前で談笑しているとどこからか男の声が聞こえてきた。声の発生位置は俺達よりも上……。見上げてみると神殿の上に人の姿が2つ見えた。


「俺か? ここのダンジョンマスターのミツル様だ」


「きゃー、マスターかっこいいー! あ、私はここのダンジョンコアでミーツと言いますよ」


 一人は俺と同じくらいの年齢の男だ、髪と瞳は緑色で顔は……確かにイケメンだな、ムカつく。

ミーツと名乗ったダンジョンコアは身長170弱ほどで黒髪をサイドテールにしている。そして服装がまるでチアガールのようでスカートが極端に短い、気合を入れれば中身を覗けそうだが他メンバーの視線が怖いので今はやらない。


「……あー、それでここのダンジョンマスターが俺達に何の用?」


「用……? そんなの冒険者はDPに変換するに決まってるよなぁ?」


「……悪いけど、俺達冒険者じゃなくて同業者なんだよね。俺もお前と同じダンジョンマスターだから」


「え? そうなの……? ミーツ、話が違うぞ」


 困惑したように横にいるミーツの顔を覗くミツル。ミーツはじーっとこちらを見つめて何か考えているようだ……そしてとんでもない事を言いやがった。


「大丈夫ですよ、マスター。ダンジョンマスターがダンジョン以外にいるわけがないじゃないですか! さくっとDPに変換してやりましょう!」


「……確かにダンジョンマスターがこんな所にいるわけがないか」


「いやいや! ダンジョンコアも何か言ってやって! ダンジョンコア同士って通信とか出来るんだったよね?」


「無理ですね、私……いえ、私達と彼女は相容れない関係にあるので」


 相容れない関係……? どういうことだ、ダンジョンコアって皆仲良しじゃないのか? ダンジョンコアとミーツは互いに見つめ合っている。ダンジョンコアはいつものように無表情、ミーツは笑顔だが目が笑っていない。後でダンジョンコアに事情を聞く必要があるな……。


「悪く思うなよ冒険者共、ダンジョンの糧となってくれ」


 ミツルが指を鳴らすと周囲に冷気が吹き荒れる。というか何そのかっこいい台詞、俺も言ってみたいよ、ダンジョンの糧になれとか冒険者に言ってやりたいなー。俺がそんな事を思っていたら周囲に数十体の氷で出来た兵士が生み出されていた。


「やれやれ……ダンジョンマスター同士で争うなんて不毛だねぇ」


「まったく……どうするんだ?」


 エミとブランも呆れてる、どうするか……向こうがやる気満々なようだし応戦するしかなさそうだよな。


「仕方ない……グレー、お願い出来る? シロは俺達の護衛をお願い」


「任せてください、マスター様! こんな雑魚楽勝ですよ」


「まぁ、この程度グレーでも楽勝じゃろう。妾達はのんびりさせてもらおうかのう」


 擬人化の呪文を解除し翼を広げて空を飛んだグレー、腰の刀は既に抜いてある。指で氷の兵士を指で数えているようだ。


「お、おい。ミーツ! 翼を生やして飛んでるぞ、あいつ……絶対あれただの冒険者じゃないだろ!」


「大丈夫ですよ~魔法で飛んでるだけですから、あの翼は飾りです」


「本当かよ……」


 ミツルとミーツが何やら揉めているが……その間にグレーは、俺の目ではとても追いつけないくらい素早い動きで氷の兵士に接近していく。


「なんだ、案外柔らかいのね」


 氷で出来ているのだからある程度の強度はあるはずだが……まるでバターをナイフで切るかの如くサクサク氷兵士を切断していくグレー、敵が振る攻撃は恐らくスローモーションのように見えているのだろう、容易く躱している。


「……へー中々やるな」


「感心している場合じゃないですよ、マスター。ヴァイスを呼んでください!」


「……うーん」


 頭を掻いて悩んでいる素振りを見せるミツル、困ったように俺の方に視線を向ける。


「なぁ……お前本当にダンジョンマスターなのか?」


「そうだよ、今はちょっと訳ありでダンジョンを捨てて移動中だけど……魔王幹部様主催の新人歓迎会とか出席したりしてるし……あ、そうだシロとクロ擬人化解いてあげてよ」


 俺の声と共にシロとクロが擬人化の呪文を解いて本来の姿を見せる。


「クイーンヴァンパイアのシロと、ダークナイトドラゴンのクロだよ。さすがにこんな冒険者いないだろ?」


 意外にも相手のマスターは戦闘に乗り気じゃなさそうなので説得を試みる、ミツルはシロとクロを一瞥して苦々しい顔でミーツの方を見る。


「ミーツ……さすがにダンマスと事を構えるのは不味いだろ……」


「むぅ……不味いですかねぇ?」


「不味いに決まってるだろ……いやー、悪かったな。こっちの手違いで襲ってしまって」


 そう考えると他人のダンジョンを金策のためとはいえ攻略した俺って相当やばいのでは……まぁ、仕方ないか。何はともあれ事を構えずに済みそうだ……。


「マスター、危ない!」


 突然クロが俺に抱きつき地面に一緒に転がる事になった。クロの腕の中で見た景色は俺の傍にいたシロが純白の双剣で襲撃者の攻撃を受け止めている景色だった。


「待てヴァイス! 同業者だ、俺と同じダンジョンマスターの連れだ!」


「知ってるわ、でも良いじゃないマスター……味見くらいさせて欲しいの」


 襲撃者は白く長い髪をした女の子だ、身長はシロと同じくらい。藍色のヒラヒラした服を着ており何より目を引くのは身長以上に大きい純白の鎌を持っている事だ。まるで死神が持っていそうな大鎌を持っている少女は、シロの顔を見ながら不敵に微笑んでいる。


「クイーンヴァンパイア……可愛い顔してるのね。少し私と遊んでくれない?」


「なんじゃお主は、いきなり人に鎌を振りかざすとは教育がなっておらぬのう」


 双剣と鎌でお互い押し込めずに硬直している二人、ヴァイスと呼ばれた少女が微笑んでいるのと対極にシロは冷めた表情をしている。


「ダンジョンコア、あの子は一体……」


「あれは、スノークイーンと呼ばれる魔物でクイーンヴァンパイアと同じ50万DPクラスの魔物です」


 ヴァイス……ドイツ語でシロと呼ばれた少女は、どうやら手を引く気はなさそうだ。周囲の温度が更に下がっていくのを俺は肌で感じていた……。


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