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第二十話「第一回大食い大会」

 どうもエノルル地方を目指す途中で幽霊退治を終えたダンジョンマスターです。早く目的の場所まで行きたいところなのだが、我々はとある街の中で歩みを止めていた、その理由は……。


「……大食い大会?」


「はい、1年に1度行われる行事でございます。旅のお方も良ければ是非……」


 食事を取ろうと街中の食事処を訪ねたところ、どうやら大食い大会のイベントを行っているらしく自信があるなら店で食事をする前に挑んでみてはどうかと声を掛けているらしい。


「折角だから出てみようかな、ちなみに優勝したら何かもらえるの?」


「はい、優勝賞金は2000Gほど出していたはずです」


 優勝賞金2000G、DPにすると20……あ、ダンジョンないんだった。すぐにDPに変換してしまうのは職業病なのだろうか……。しかし、食費を浮かせる上に賞金2000Gは美味しいぞ。


「これは、出るしかないな。2000G欲しいし」


「……マスター、勝算はあるのですか?」


「え? クロがいれば優勝とか余裕でしょ。大丈夫だよね、クロ」


「よくわかりませんが、ご飯が沢山食べられるのですね? 早く食べたいです!」


 お腹を手で撫でながら空腹を抑えているクロ、空腹のクロに大食い大会? 落ちている金を拾わないほど俺は酔狂な人間ではない。


「まぁ、クロなら余裕で優勝じゃろうな」


「クロさんなら余裕でしょうね……」


「まぁ……クロの食欲は凄いものね……」


「そうだね、クロがいれば余裕だと思うよ。僕達はクロが稼いだ賞金で何か食べさせてもらおうかな」


 満場一致でクロが勝つ事を疑っていない、おやつにイノシシの丸焼きを食べきるような大食いに人間が勝てるとは到底思えない。


「……そう簡単にいくと良いのですが」


「大丈夫だってダンジョンコア、クロが負けるはずないさ」


「まぁ……普通にいけばそうですが、何か嫌な予感がします」


「気の所為、気の所為、とりあえず会場に向かってみようか」


 ダンジョンコアの嫌な予感、それは現実となって俺達に牙を向くことになった……。


「……5人で1チーム?」


 会場に行きルールの書かれた紙を見る、


・5人で1チーム

・参加費は1チームで500G

・3人前の料理を10品提供

・提供した料理を食べきると次の料理を出す

・1番早く10品を食べきったチームの優勝


 参加費取るのかよと思ったがそれもそうか、タダ飯食わせるほど街に余裕があるようにも見えない。それより食べた量じゃなくて1番早く食べきったチームが優勝か……これじゃ早食い競争じゃないか? でもまぁ、クロは食べる速度も早いから多分大丈夫だろう。


「まぁ、とりあえずチーム組むか……クロは確定として、俺とシロとグレーと後一人どうしようかな……」


「む……妾は確定なのかえ? そんなに食べるように見えるかのう……」


「私もそんな大食漢じゃないですよ……マスター様……」


 シロとグレーが少し恥ずかしそうな顔をする、女の子的に大食いだと思われているのは嫌なのかもしれない。


「あぁ、大体はクロが何とかしてくれるだろうから俺達は数合わせだよ。二人がそんなにバクバク食べるとは思ってないから安心して」


「それなら良いのじゃがな」


「あ、でも多少は食べますから安心してくださいマスター様!」


 2人の機嫌も回復した事なので後一人を誰にしようかそれぞれの表情を伺ってみる。


「……俺様はそんなに食べれないぞ」


「僕も食は細いから勘弁して欲しいなぁ、それに腹痛を治す要因として待機しておきたいしね」


 ブランは視線を逸してしまったし、エミも納得の出来る言い分で断りを入れてきた、そうなってしまっては俺の取れる行動は……。


「……何故私を見るのですがマスター」


「いやー、もうダンジョンコアしかいないからさ。頼むよ~」


「一応言っておきますが、初期設定のダンジョンコアはそもそも食事を取る必要性が……」


「わかってる、わかってるって大丈夫。後はクロが全部何とかしてくれるから」


 ダンジョンコアは、とりあえず何も言わなかった。渋々で納得してくれたのだろうか、何はともかくこれでチームが出来たので大会に参加出来る。後はクロに沢山食べて貰って優勝賞金をゲットだ……後、ついでに食費も浮かすために夕食の分まで食ってやろう。


「見たところ妾達以外にも結構参加しておるのう……」


「しかも大柄な男性ばかりですね……」


 周囲を見てみると野外に設置された木の机が10個ほどだろうか無造作に並べられている。その周囲には筋肉質な男達、細そうな人もいるが背中に剣を背負っているため見るからに一般人ではなさそうだ。少なくとも女性は居ない、チームの内4人が女性の我々は嫌でも目立ってしまうので観客達の視線が熱い。


「お母さんー、あの人達も参加するのー?」


「えぇ、剣を持ってるからきっと冒険者様よ。皆で応援してあげましょうね」


「うん! 冒険者さまーがんばってー!」


 見た感じブランと年齢がそう変わらなそうな幼女が応援している、それに釣られてなのか他の街人達も微笑ましい視線を向けてくれている。


「なんかやけに応援されてるなー」


「恐らく記念に参加しただけだと思われているのでしょうね、まさか優勝を狙っているとは夢にも思っていないでしょう」


 まぁ、そりゃそうか。見た感じ食の細そうな面子にしか見えないよな。しかし大柄だから沢山食べるとは限らない、TVに出てくる大食いタレントも細身の女性とかが出てくるし、クロの食欲に驚くが良い。


「さて、では最初の1品目を各テーブルに運んでいきますね。食べ終わったら手を挙げて申告してください」


 司会役を努めているのは優しい顔をして全体的に身体がふっくらとしているおじさんだ。そのおじさんの一声と共にテーブルに運ばれて来たのは……大量のパン。


「うわー……すごい量のパンだな」


「ライ麦パンですね、とても3人前だとは思えない量ですが……」

木の大皿に載せられたパンは、高く積まれて山盛りになっている。1品目からパンのみとか嫌がらせにも程があると思う。


「とりあえず食うか……」


 一応お腹は空いているので食欲を満たすために目の前のパンを手にとって齧ろうとするが……。


「かってぇ!!」


 この世界のパンは何十個も食べてきたが、こんなに硬いパンは初めてだ。このまま噛み続けたら歯が持って行かれるであろう。


「どうやって食うんだこれ……」


「マスター、どうやらミルクはおかわり自由らしいですよ」


 ダンジョンコアが木の容器いっぱいに汲まれたミルクを持ってきてくれた。なるほど、これに浸して食えばいいのか。さっそくミルクに付けてパンを食す……が。


「浸しても硬いんだけど」


「……顎がくたびれそうじゃのう」


「手でちぎった方が早いわねこれ」


「確かに一口サイズにちぎった方が楽でよいのう」


 そう言ってシロとグレーがパンを素手でブチブチと一口サイズにちぎっていく。このパン冗談抜きで石のように硬いのだけれど、それを物ともせずにちぎっていく様に観客が早くもどよめき始める。

 

 しかし、1皿目から硬いパンの山とか完食させる気ないだろ……。ミルクを大量に付ければ食べられない事はないかもしれないが、その分胃への負担は大きくなってしまう。周りの机を見てもパンが減っている気配が全く無い。


「マスター、マスター」


「どうしたクロ……って、うん?」


「次の料理はまだですか?」


 そう言ったクロは木の容器に入っているミルクを一気に飲み干す。一体何を言ってるのかちょっとよくわからなかったが、皿の上を見てみるといつの間にか大量にあったパンが無くなっていた。


 え、これ全部クロが食べたの? 本当に? 不正を疑われてもおかしくないがとりあえず俺に出来ることは1つだ。


「……あ、食べ終わりました」


 その場で手を挙げて、次の料理を要求する事であった……。


……


…………


………………


 その後、料理は次々と運ばれてきた。味がやけに薄い粥やら苦すぎる野菜のスープなど明らかに食わせる気があるのか怪しい料理が来るが、それをクロが全て完食していく。その度に観客達からは拍手が送られる。本人のクロはいい加減お肉が食べたいと不満げだがこのペースだと10皿なんてすぐだなと思う俺であったが……料理が7皿目に突入した時に問題は起きた。


「……ぎゃぁぁあ!! なんですかこれ!?」


 運ばれてきた料理にクロが思わず悲鳴を上げた、気持ちはわかる。正直俺でも悲鳴を上げたい何故ならその更に乗っていた料理は……。


「虫料理ですね、バッタ、セミ、イナゴが塩ゆでされているみたいです」


 ダンジョンコアが冷静に分析してくれたが、頼りのクロが恐怖のあまり手をまったく付けられない。


「ちょっと、クロ! 早く食べなさいよ」


「無理です、無理です! これは食べ物ではありません!」


「食べ物よ! 虫に失礼でしょ!」


「そんなに言うならグレーが食べれば良いじゃないですか……」


「食べるわよ……ふーん、味付けは今までの料理にしては中々じゃない」


 そう言って虫を手づかみで食べ始めるグレー、ちなみにクロだけではなくシロも手を付ける気配はない。露骨に嫌悪感を示しているため無理に食べさせるのも悪いか……。


「マスターは食べないのですか?」


「虫かぁ……」


「うぅ……マスター様ぁ……」


 グレーが泣きそうな顔で虫料理を口に運んでいる、さすがにグレー1人に3人前食べさせるわけにもいかないか……。ここは勇気を振り絞って虫料理を口に……。


「うぉおおおおおおお!!」


「…………うぉおおと叫んでいる暇があれば手を動かしてくださいマスター」


「……勢いだけは凄いのう」


 仲間から白い目で見られてしまったので仕方なく口に運ぶ。

 うーむ、確かに今までの料理と比べたら味付けはかなりまともな方だ。いい感じに塩が効いている……いるが、口の中に殻やら足やら突き刺さって痛い。これはこれで早く食べるのは色々と無理な気がする、しかし以外にもグレーの食べる速度は早い。


「……ねぇ、結構量多いんだけど?」


「頑張るのじゃ、グレー。お主はこの虫料理を食べきるために生まれてきたのじゃぞ」


「どんな生涯よ!? 前世でどんな罪を犯したらそんな事になるのよ!」


「まだですか? 私早くお肉料理を食べたいのですが」


「口の中に虫突っ込むわよ!!!」


 ギャーギャー文句を言うグレーであったが、何とか虫料理を食べきった。ダンジョンコアも割りと協力してくれたので実質1人前食べるだけで済んだ。お腹がもう八分目くらいになっているがそのうちの8割は、虫料理によって構成されていると思うと複雑な気持ちになる。


 何はともあれ次の料理がやってきた……。


「次の料理は……おぉ、ピザか!」


 机の上に運ばれてきたのは、トマトとチーズが沢山乗ったピザだった。8皿目にしてようやくまともそうな料理が登場してきた、もう正直嫌なお腹の膨れ方をしているのだが……。


「わぁ、美味しそうな…………ねぇ、なんか目の前から具が1つ消えたんだけど?」


 グレーの指摘に何のことか目の前のピザに目を凝らしてみると、見事にトマトだけが全部消えていた。


「……シロー?」


「……ふぁんのことしゃ?」


「リスみたく口膨らませてるんじゃないわよ! トマトだけ器用に全部取っていくなんてどれだけ偏食家なのよ、あんた!!」


「……むぐむぐ、ごっくん。そういうグレーは虫を沢山食べるではないか」


「あんたらが食べないからでしょうがーーー!」


 二人がこの会話を繰り広げている間に机の上にあったピザは、クロのお腹の中へ消えていったのであった……。


「次が9皿目か……一体何が出てくるんだろう」


 目の前に置かれたのは、真っ黒な物体が山盛りに……これは?


「蝙蝠の姿煮ですね。珍しい食材を使っているのですね」


 へぇ……蝙蝠の姿煮かぁ、初めて見た……これ食えるの?


「ここの責任者を呼ぶのじゃ、話したい事がある」


「うん、落ち着こうシロ。揉め事は不味い」


「蝙蝠も不味いわ……」


 微妙に怒っているシロと一口食べてまずそうにしているグレー。うーん、俺もあんまり食べたくないなぁ……。なんかお腹壊しそう……。


「そうですか? 結構美味しいですよ」


「クロ? せめて少しくらい遠慮気味に食べてはくれるぬかのう?」


 首を傾げながら蝙蝠を咀嚼するクロ、虫はダメでも蝙蝠は良いんだ……。


「よし、最後の料理だ。これを食べたら終わり……」


 そして運ばれて来た料理を見る。鳥の丸焼きかな? 非常に美味しそうな匂いがする、良かった最後は美味しく食べられそうだ。


「ちなみにこれは、どんな料理?」


「暗黒鳥の丸焼きだそうです」


「同胞ぉおおおお!!!」


「突然叫び出すでないわ!」


 目の前に運ばれてきた料理を見て、崩れ落ちるグレー。まぁ……同じ種族がこんがり丸焼きになってたらショックだろうな……。


「あぁ……こんな姿になっちゃって可哀想に……」


「ん~おいしぃ~」


「何無駄に味わってゆっくり食ってるのよ! ぶんなぐるわよ!!」


 そんなグレーの気持ちも知らず美味しそうに肉を食べるクロ、俺も食べようかと思ったけど流石にグレーに悪いのでやめておく。


「グレーもさっき蝙蝠を食べたではないか」


「シロと蝙蝠は遠い親戚みたいなものでしょうけどね、私とこの子は同じ種族なのよ!」


「おかわりはないのですか?」


「何さらっと追加で要求してんのよ!!」


 シロと蝙蝠は、人間でいうとチンパンジーくらいの関係なのだろうか……いや、わからないけどね。なんやかんや色々あったが優勝賞金2000Gを無事に手にした俺達であった。


 ちなみにこの大会の料理が不味いだけだと思っていたけど、夜お店で食べた料理も同じくらい不味かったのであった……。翌日お腹を壊す羽目になったのはまた別のお話。


 ダンジョンマスターですが食あたりには気をつけましょう。


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