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番外編4「マスターの居ない日常1」

ダンジョンコア視点での日常シーンです。

 ダンジョン№74251のダンジョンコアです。まぁ、今はダンジョンがありませんのでダンジョンコアの存在意義すら怪しい状態ですけどね。


 エノルル地方に新天地を求めて現在歩みを進めている我々ですが、今は旅路の途中で街の中にある宿で休んでいます。

 宿といっても費用の節約のため客室ではなく、少し広い物置の床に雑魚寝している状態です。壁際には、古い木製家具や壊れかけの農具などが置かれています。清掃は時々されているようで埃っぽくはありません。


 マスターは、この街の中で旅費を少しでも稼ぐために出稼ぎに行っています。我々はその帰りを待っています。

 

「あいつ……ちゃんと稼いでくるかな」


「ブラン、マスターなら大丈夫ですよ」


 膝を抱えその膝に顎を乗せて座っているブラン、正座しながら肉に付いていた骨をずっとかじり続けているクロ、恐らく口を動かし続ける事で空腹を誤魔化しているのだと思われます。


「あー……私もマスター様に付いて行けば良かった……」


「擬人化しているとは言えあまり町中を歩き続けるのは良くないと思うよ、グレーはシロとクロの2人より看破されやすいわけだし」


 グレーも強い魔物ではありますが、シロとクロの2人と比べるとランクが落ちてしまいますからね。看破してくる冒険者がいないとも限りません。リトル族の二人は……正直リトル族自体が稀少すぎて存在を知っている冒険者はいても、実物を見た事の無い者が殆どだと思います。


「むー……それはトマトではない……潰れた人の頭じゃ……」


「ねぇ、凄く怖い言葉が聞こえて来たけど……」


「シロの寝言ですね。さすがシロ、寝言まで可愛いです」


「どこが!? クロの感性の方がやっぱりおかしいわよね!」


 シロは背中を丸めた状態で眠っています。昼なので吸血鬼の種族にとっては、今が寝るのにちょうどよい時間になりますね。

 ダンジョンにいた時は、魔力供給があったお陰か昼間でも活動を続けられていましたが、ダンジョンの無い今は睡眠をしっかり確保しないと魔力消費が抑えられないのでしょうね。


「しかし、彼が帰ってくるまで暇だねぇ」


「仕方ないだろう……俺様達は勝手に外出するわけにもいかないし」


「娯楽品は高いですからね、食費と宿泊費で精一杯な我々には無縁です……久々に本を読んでみたくはありますが……」


「うぅ……マスター様に働かせて私はここでのんびりなんて耐えられないわ……」


 初期設定のダンジョンコアである私は、退屈という感情が与える害すら無縁なので問題はないのですが……他の皆は、そうはいかないみたいですね。


「実は僕の所持品には、娯楽品が色々あってね……暇つぶしに今日はこれで遊んでみない?」


 そう言ってエミが白衣のポケットから取り出したのは小さな木箱、箱を開けて出てきた物は……。


「……何これ?」


「これはトランプですよ、グレー」


「そう、クロの言うとおりこれはトランプと言われる物だよ。これを使ってゲームをしよう。いい暇つぶしになると思うよ」


 そう言いながらカードをシャッフルし始めるエミ。どうやらゲームをする事は確定のようですね。


「……ゲームって言われてもやり方とか私わからないわよ」


「俺様もゲームは、あまり得意じゃないからルールが簡単なのにしてくれ」


 不安げなグレーとブラン、ブランは知的な面もありますがグレーに知的なゲームが出来るか不明ですね、鳥頭というのは失礼ですが暗黒鳥という種族自体の知能が低いですからね……。


「ふむ、そうだな……では、ババ抜きにしようか」


「……ババ抜き?」


ルールがわからない人のためにエミが皆に説明してくれました。トランプは1から13までの数字と4つのマーク、計52枚で構成されています。

 この中から12……クイーンを抜き取り、その後カードを配り手札に同じ数字があれば捨てていく、左隣の相手のカードを1枚引いていき手札を無くした人が勝ち、最後にクイーンが1枚残った人の負けというルールだそうです。


「……うーん、難しそう」


「多分トランプのゲームで1番簡単な部類だと思うけど……まぁ、やればわかると思うよ」


「とりあえず、やりましょう! エミ、カードを配ってください」


「そうだね、でも……ただババ抜きするだけだとつまらないし……」


 エミは口元に手を当てて何やら考える仕草をしています。彼女は表情に含みを持たせてくるため何を思っているのか読めないタイプです。


「……そうだ、罰ゲーム有りにしよう。その方が皆本気になって面白いよ」


「面白そうですね! 罰ゲーム望むところです!」


「罰ゲーム……? 一体何をさせる気だ?」


「罰ゲームねぇ……あんまり過激な事はやめてね、私ゲーム不慣れだから」


 罰ゲームですか、楽しむためにゲームを行うのにわざわざ不利益を被る危険を負おうとするのは、あまり理解出来ませんね。まぁ、当人達が楽しめるならわざわざ茶々を入れる必要がないので言いませんが。


「そうだなぁ……じゃあ、5ゲームやって1位を多く取った人が好きな人に1つ命令する権利を得る……というのはどう?」


 これまた随分な内容ですね。命令内容に制限がないため勝者しだいでは厳しい物になりそうですね。


「好きな人に命令……それってマスター様を含むの?」


「さすがに当人がいないところで決めるのは問題があるから、ゲーム参加者限定にしようか」


 当然ですね、そもそも魔物がマスターに命令しようと思う事自体がおこがましいですけどね。


「……なによ、別にあんた達に命令したい事なんてないわよ」


「おや、そうなのですか? 私が勝ったらグレーを暫く食料調達係にしようと思っているのですが……」


「なんで私なのよ! そんなに私の事嫌いなの!?」


「いえ、グレーなら大量の鶏肉を用意出来そうじゃないですか!」


「満面な笑みで何を言ってるのよ! クロの胃袋を満たすためだけに同胞を差し出せるわけないでしょ!」


「むぅ……仕方ないですねぇ、じゃあグレーには狩りに付き合って貰いましょうか」


「あくまでも私狙いなのね……というかなんでもう勝ちを確信してるわけ? クロが勝つとは限らないじゃない!」


 グレーの言うとおりですね、順当に勝負していくと勝つのは恐らくエミでしょう。道具の所持者であり罰ゲームまで設けるという事は、負けないという確信があるのでしょう。


「……ちなみにお前は、誰に命令する気なんだ?」


「さぁねぇ、誰だろう? でも逃げる事は出来なさそうだよ、ご主人様はやる気満々のようだし」


「ふーむ、何やら面白そうな事をやろうとしておるのう。妾も混ぜるのじゃ」


「……だ、誰も逃げ出そうとはしていない! 魔王をあまり舐めるなよ!」


 あ、その設定まだ引っ張るのですね。しかし、シロまで参加するとなると少し勝敗がわからなくなりそうですね。


「じゃあ、ダンジョンコアを入れて6人だね。カードを配るよー」


「ちょっと待ってください」


 いつの間にか面子に加えられていたためストップを掛けます。


「何故私もゲームに参加する事になっているのですか?」


「こういうゲームは、人数多い方が楽しいし……何よりダンジョンコアに命令したい人とかいそうじゃない?」


「私は、あなた達に命令を出す気はないですよ。そもそも感情がないためゲームをしても楽しいと思えません」


 へぇ……という声と共に不敵に笑うエミ。一体何を考えているのですか?


「ダンジョンコアが参加しないなら……そうだなぁ~、僕が勝ったら誰か1人はマスターにキスしてもらおうかな~」


 ……エミが発言して10秒くらい時が止まったかの如く静かになりました。恐らくそれぞれが思考しているのだと思います。


「マ、マ、マスターと……キス……そんな淫らな事、出来ません!」


 顔を真っ赤にして両手で顔を隠すクロ、妄想とかしてませんよね?


「わかったわ、エミを勝たせればいいのね? このゲーム簡単じゃない」


 突然本気モードになるグレー、顔が笑っていませんエミの持っているトランプだけを凝視しています。


「……別にあいつとキスなんて求めてないんだが」


 目を泳がせながら指をもじもじ弄っているブラン、顔が少し赤く見えるのは気の所為ですか?


「ふむ……なるほど? ダンジョンコア、参加せんでも妾は構わぬぞ。マスターとの接吻は頂くがの」


 エミの意図を汲み取ったのか私の方を見てニヤニヤしているシロ、明らかにエミの挑発行為だとはわかっています。まぁ、そもそもマスターがこの中の誰かと接吻しようと私の知る由ではないのですけどね。

 …………とは言え、売られた喧嘩を買わなかったらダンジョンコアとして舐められてしまいますね。これはダンジョンコアの権威を落とさないためです、他の感情は一切ありません。何しろ私には感情機能がありませんから。


「……いいでしょう、私も参加します。カードを配ってください」


「よし、揉める前にルールをしっかりと決めておくね。5回勝負で1位を多く取った人の勝ち。勝者はこの中の誰か1人に好きなように命令する権利を得る。勝つために全力を尽くす事……くらいかな?」


「特に問題はありません」


「私もないわ」


「妾もないぞ」


「俺様も特には……」


 ふむ……1つ目と2つ目はわかりましたが、最後の勝つために全力を尽くす事とは一体……? 普通何かが賭けてある勝負は、全力で挑む物ではないのですか? 


「……ダンジョンコアも特に問題はありません」


 考えていても仕方がないのでとりあえずゲームを開始しましょう。エミが私の言葉を聞くとカードを手際よく皆に配っていきました。

 配られた9枚のカードのうち6枚のペアを捨てて残り3枚、手札にクイーンはありません。周りを見渡すとクロとブランが3枚、シロ、グレー、エミが残り2枚ですね。

 配置的にいうと。シロ、私、クロ、グレー、エミ、ブランで円になっています。私はシロの手札からシロはブランの手札からカードを引く形になりますね。


「じゃあ、最初にカードを引くのはシャッフルした人からという事で……グレーの手札から1枚引くね」


 しっかりとルールを決めると言った割には、後出ししてきましたね。誰かが何か言う前にグレーの手札からカードを引くエミ。……これで揃ってしまったら早くも1位抜けしてしまうのでは? 


「おや、残念。揃わなかった」


 早くも1ゲーム取られる事はありませんでしたが、これでグレーが揃ってしまうと同じ事です。


「じゃあ……私はクロの手札から……」


「あ、ちょっと待ってくださいね!」


 そう言って手札を後ろに隠してカシャカシャ音を立て始めるクロ。


「はい、どうぞ!」


「……あんたクイーン持ってるでしょ!」


「はい? 何のことですか?」


「とぼけないでよ! 持ってなかったらわざわざカードを並び替えたりしないでしょ!」


「そうなのですか?」


「……その手には乗らないわよ」


 クロの手札を凝視しながら慎重に1枚引くグレー、果たしてクロがクイーンを持っているのでしょうか?


「……よし、クイーンじゃない」


 揃っているわけでもないのに勝負に勝ったような顔をしているグレー、本当にルールをわかっているのでしょうか……。クロの表情的にあれは何も考えていませんね、首を傾げていますし。


「ふむ、では私はダンジョンコアのを……おっと揃いましたね」


 手札にあった6を引かれてクロが手持ちのカードを1枚捨てる、これでクロも残り2枚ですね。

 私は無言でシロのカードを1枚取ります、クイーンではありませんでした。しかし揃うことがなかったため3枚のままです。この勝負はどうやら勝てそうにないですね。


「ふむ……そうじゃのう……」


 シロはブランの手札に手のひらを向け静止した状態を保っています……これはまさか……。


「どうしたの……? 早く引きなさいよ」


「なるほど、これじゃな」


 シロがブランの手札から1枚引く、するとペアが揃ったようでシロが1位抜けになりました。


「楽勝じゃな、簡単なゲームじゃのう」


「ちょっと!? まだ一巡すらしてないんだけど!」


「ふむ……そういうのも有りなのですね」


「さすがシロ、僕の意図を汲み取ってくれたね。やられたよ」


「……俺様まだ一枚も引いてない」


 シロが使ったのは探知呪文の1つ、わかりやすく言えば透視能力でしょうか。本来なら宝箱の中を透かして見たり出来ますが恐らく応用してカードを透かしてみたのでしょうね。


 ……なるほど全力を尽くすとはそういう意味でしたか。思ったより厳しい戦いになりそうですね。


 その後も座る場所を変えたりしてゲームは続けられたのですが……。


「ほれほれ、クロ。手札を早く見せるのじゃ」


「ちょっと待ってください……はい、どうぞシロ」


「なんじゃこのカード!? 真っ黒ではないか!」


「中身を見られるのが嫌なので……これなら見られませんよね?」


 クロが持つカードは全部黒く染まっていた、シロの探知呪文を妨害しているのでしょうね。


「……よし、揃った」


 ブランがカードを引いたと同時に床に落として1位抜け……。やけに早いですね、ブランの落としたカードを凝視していると、エミがかき混ぜようとした時にカードの表面が割れて下に違う数字が出てきました。

 薄くコーティングした土に他の数字を描いていたのですね。意外と器用な事をしてきますね……。


「さて……僕もそろそろ本気を出さないとなぁ」


 エミが全員の顔を順番に見ていく、私の顔だけやけにじっくりと見てきますね。全員を見終わったエミはその後、最速で1位抜けをしていきました。


「……エミ、妾達の手札を覗いたであろう?」


「えぇ、どうやって!? そんなの反則じゃない!」


「さぁ、どうだろう? 言いがかりはよくないなぁ」


 ふむ……どういう手を使ったのか断定は出来ませんが、1番有り得そうなのは五感を共有する呪文……相手の視覚を通して手札を覗いたのが有り得そうですね。かなり高等な呪文ですがエミならやりかねません。でもこんなくだらないゲームでそんな高度な呪文使わないで頂けますか?


 その後も勝負は続いていき、グレーが全員のカードを風で吹き飛ばしたり、クロが室内を完全に暗闇状態にしたり激しい攻防が続き最終的な勝者はエミになりました。

 

「僕が勝者だね、そうだなぁ~。誰にしようかな」


 エミが不敵に微笑みながら私達の顔を見る。


「エミ……いえ、エミ様! 是非私にご命令を!」


「……プライドもあったものじゃないのう」


「わ……私でも……いいのですよ? あ、ただ変な命令はやめてくださいね!」


 グレーやクロが自分を指定するように言っています、最早罰ゲームもあったものじゃないですね。まぁ、わざわざ私を指定するわけもないでしょうし関係ないですね。


「じゃあ、ダンジョンコアを指定するね。内容は~」


「ちょっと待って下さい」


 突然私に飛び火したためまたストップを掛けます。


「何故わざわざ私なのですか?」


「おや、僕がダンジョンコアをわざわざ誘ったのに理由がないとでも思った?」


 ……やられました。ゲームの人数確保のためだけだと思っていましたがまさか最初から私狙いだったとは。エミの狙いはダンジョンコアの権限内で出来る事の悪用でしょうか……果たして何を命令してくるのか。


「ダンジョンコアへの命令は……」


……


…………


………………


「はー、疲れたー。皆帰ったよー」


「マスター様! おかえりなさいませ!」


「お疲れなのじゃ」


「お帰りなさいませ、マスター」


「お疲れ、ちゃんと稼いできただろうな」


「あぁ……まぁ、多少の足しにはなるかな。ところでダンジョンコアはどうして無言なの?」


「……いえ、お帰りなさいマスター」


 周りの皆がじーっと私の顔を見続けている、ニヤニヤしている者もいれば警戒している者もいる、しかし大半が興味の視線を向けています。

 エミが私に命令した権利は……マスターに自分の思っている事を伝える。どういう意味かを聞いても自分で考えろと言われました。


「……マスター」


「どうしたダンジョンコア?」


 マスターが私の顔を見てきます、そんなに見つめないでください。脳内にノイズが発生しそうになります。そして周りの皆はいつまで見てくるのですか、殴りますよ?


「……」


「うん? なんか今日のダンジョンコア様子おかしくない?」


 マスターに自分の思っている事……別にマスターはマスターですから特に思っている事なんて……ない……はず…………です。


「……お」


「お?」


「……お疲れ様です。マスター」


「……? あぁ、ありがとう」


 どこからかため息が聞こえてきました、何なのですか? あなた達は私に何をさせたいのですか? 理解出来ませんね……。マスターだけが状況を飲み込めずポカーンとしていましたが説明する気にもなれないので放置しました。

 こうして今日も一日平和? に終わりました……。早くダンジョンを持ちたいですね。


気がつけばブクマも100を超えていました……。

皆様本当にありがとうございます。

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