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第十八話「ダンジョンのないダンジョンマスター」

 どうも傭兵団の襲撃を何とか防いだダンジョンマスターです。とりあえず黒白の2人と共に最深部へ戻って来た。エミの治療が終わったのかグレーも目を覚ましていた。


「マスター様! 無事でしたか!?」


「まぁ、なんとか……グレーも大丈夫?」


「はい! 私は優秀なのでこれくらい平気ですよ~」


「……頑張って治療したのは僕なんだけどなぁ」


 何故か自信気なグレーとどこか不服そうなエミ。その近くでクロが部屋から取り出したお肉をパクパクと食べている。今日はいつもより食べるのが早いのでお腹が限界だったのだろう。


「ダンジョンコア、もう敵は攻めて来ない?」


「はい、どうやら撤退したようですね。ダンジョン領域内から離れていきました」


「よかった……でもゴリ押ししてきた割にはあっさりと撤退したのは何故だろう」


「恐らくヴァンパイアハンターが彼らの切り札だったからだと思います、これ以上続けても攻略出来ないと思ったのでしょう」


 実際にはあのまま続けて攻められたらかなりきつい状況になっていたが撤退してくれたのなら助かるな、お陰で皆の消耗を回復する時間が出来た。


「シロも本当に大丈夫? かなりきつい戦闘だったけど……」


「なーに、妾の魔力量は元々高いから平気じゃ。たださすがに眠いのう、眠ればある程度魔力が回復するから大丈夫じゃがな」


「魔力回復か……俺に何か出来る事があったら言ってくれ、対した事出来ないけど」


「ふむ……そうじゃな」


  シロは少し考える素振りを見せたかと思うと俺の目を見ながら楽しげに微笑んだ。なんだろう怖いのだが……。


「そうじゃのう、では妾の頭を撫でるのじゃ」


「え……そんな事で良いの?」


「うむ、他の者が見ていないうちに早く撫でるのじゃ」


「いいけど……これと魔力回復になんの関係が……」


「良いから早く撫でるのじゃ!」


 頭を差し出してきたシロの頭を撫でる。シロは気持ちがいいのか頭を撫でている手に押し付けてくる、犬みたいで可愛いな。シロは満足したのかほくほく顔で離れていった。


 そういえばブランは大丈夫だろうかと心配になったので周囲を見渡す、すると椅子に座りながらぐったりしているブランの姿があった。


「なんか1番疲れてそうだけど大丈夫?」


「お前の魔法が眩しくてずっと叫んでいたら喉が枯れた……」


 確かに声がかすれている、サンフレアが発動している間ずっとギャー! という悲鳴を上げ続けていたからだろう。仕方ない状況だったとはいえ責任を感じてしまう。


「……なんか俺に出来る事ある?」


「あー? そうだなぁ……」


 考えているのかブランはだるそうに天上を見上げている。


「うーん……じゃあ、頭を撫でてくれ」


 頭を撫でるのが流行っているのだろうか、それともダンジョンマスターが撫でると魔力が回復する効果でもあるのだろうか。まぁ、撫でたところで俺の手が擦り切れるわけでもないのでブランの頭に手を伸ばす。しかし、ブランが頭を横に動かしたせいでうまく撫でられない。


「おい、動くなよ」


「……やっぱりいい、ダンジョンコアの頭でも撫でておけ」


 そう言ってぷいっと横を向いて俺の方を見なくなったブラン、どういう事なのかさっぱりわからず女心って難しいなと思った……。


「あー、あれは恥ずかしがっているんだよ」


 いつの間にかエミが横に立って小声で話しかけていた。


「あれで恥ずかしがってるの? とてもそうは見えないけど……」


「やれやれ、君にはまだ乙女心はわからないようだね」


 呆れた表情を浮かべながら去っていくエミ……。ちょっと納得いかないんだけど乙女心の解説をしてほしいな……。


「マスター、少しよろしいでしょうか」


「ん、どうしたダンジョンコア」


「今後のダンジョン経営について相談があります」


 勝利に浮かれていたが今回の戦いで大量にDPを得たためその使い道をどうするか話し合いたいのだろう、別段皆がいる所で話してもいいのだが今は勝利の美酒に酔っていた方が良いと思い二人で少し離れた場所に行く。


「それで相談の内容はDPの使い道でいいのかな?」


「まぁ……間違ってはいませんが」


 いつもと違いどこか歯切れの悪いダンジョンコア、お互い沈黙し10秒ほど経った後にダンジョンコアが再度口を開いた。


「今回相手した貴族はこの土地でかなりの力を持っていたようですね」


 350という軍隊のような数を引っ張ってきたり、クロ以外の全員でようやく倒せる強さのヴァンパイアハンターを雇用してきた相手だ。実力者じゃなかったら嘘になるだろう。


「確かに手強い相手だったな、でももう来ないんじゃないかな。あれだけの数で来てダメだったし」


「いえ、今回の件で面子を潰されたため恐らくなりふり構わず攻めてくるようになるでしょう」


「えー……でもまぁ、DPを稼ぐお得意様みたいになったりしない? 今回増えたDPでまたダンジョン広げたりしてさ」


「マスターの豪運で強い魔物を引き当てる事が出来れば稼ぐ事は可能だと思います……が」


 ダンジョンコアが動作を停止したように固まる、俺の顔をじーっと見続けている。


「おーい、ダンジョンコア……大丈夫か?」


「マスターには本来お伝えしてはいけない情報なのですが」


「……うん?」


「この世界には、伝説の勇者がいるのです」


「伝説の勇者……?」


 なんでも伝説の勇者とは魔王討伐を目的とした者の事で最上位クラスのダンジョンを破壊して周っているらしい。普通の冒険者が通常ダンジョンの破壊までは行わないのに対して伝説の勇者はダンジョン内の宝には一切の興味を持たずダンジョンコアの破壊だけを目的に動いているとの事。


「こえー……でも、その伝説の勇者がどうかしたの?」


「あまりにも攻略不可能なダンジョンだと有名になりすぎると伝説の勇者が来るという噂です」


 何とも迷惑な存在だ、経営が順調にいったとしてもダンジョンを破壊しに来るなんて……しかも最上位ダンジョンを破壊して回れるほど強いとかもうどうしようもないだろう。


「じゃあ、どうすればいいんだ……適当に貴族に負けた振りしてお茶を濁す?」


「わざわざヴァンパイアハンターをピンポイントで雇った時点でこちらの手の内はバレていそうなので誤魔化すのは難しそうですね」


「手を抜くのもダメ、本気出して撃退し続けても伝説の勇者が来る可能性がある……詰んでない?」


 どう頑張っても滅びの未来しか見えない現状に頭を抱えたくなる。


「1つだけ方法があります」


「あるの!?」


「はい、このダンジョンを捨てて違う地方に行くという手があります」


 衝撃の言葉がダンジョンコアから聞こえたので思わず耳を疑い聞き直す。


「え、ダンジョンって捨てられるの!?」


「はい、ただ代償があります、まずDPが1000必要です。これはヴァンパイハンターを討伐したDPで足ります」


 ヴァンパイアハンターの人、強いと思ったけどかなりDPを落としてくれたんだな。


「次に定住する場所を探すわけですが、好きな場所にダンジョンを設置出来るわけではありません。元々ダンジョンがあった場所、もしくは未開発地しか設置出来ません」


 まぁ……極端な話、街の真ん中にダンジョンが突然出来たら困るよな。


「最後にDPで購入した全ての所有権を失います」


「……所有権って?」


「例えばレインボーソードや幹部様から頂いた寝具等は持っていけません、そのままだと移動する際に消滅してしまいますね」


 それはかなり勿体無い、寝具はともかくとしてもレインボーソードだけは何とかしたいな……。俺が迷っているとダンジョンコアが権利を他のダンジョンマスターに譲渡する事が出来るらしいのでメイにでも渡そうかな。


「所有権に関してですが……そのダンジョンに所属していた魔物の権利も全て失ってしまいます」


「……という事は?」


「契約がその時点で終了という事になりますが、魔物側が契約を延長すると自分で判断すれば権利はそのままです。しかし延長しなかった場合魔物は元居た場所に帰っていきますね」


 なるほど、かなり代償が大きいな。よほど切羽詰まっていない限り破棄するマスターはいなさそうだ。


「……まぁ、あくまでも方法の1つなのでゆっくり考えるのが良いと思いますよ」


「いや、良いよ。破棄して違う所に行こう」


 俺が即答した事でダンジョンコアの動きが硬直した、恐らく驚いたのだろう。


「……良いのですか?」


「うん、ダンジョンコアは付いて来てくれるんだろ?」


「はい、付いて行きますよ。マスター」


 じゃあ、後は皆の判断に任せよう。今日みたく全滅寸前の危ない橋はもう渡りたくない。


「あ、レインボーソードとかの権利をメイに譲渡出来る?」


「はい、サヤに伝えておきます」


 まぁ、メイなら受け取ってくれるだろう。限定宝具を消滅させるのはさすがに他のマスター達にも申し訳ない。


「……他の皆にはいつ伝えますか?」


「うーん、移動するなら早い方が良いよね。明日の朝にでも伝えるよ」


「わかりました、私も準備しておきますね」


 そう言って離れ行くダンジョンコア。この世界に来て初めて持った自分のダンジョン、最初は穴すら空いていない場所だったけど、気がつけばかなり広くなっていた。これでも他のダンジョンと比べれば狭いとはいえ……。


 正直、全員付いて来てくれるかは怪しいよな……。皆下手したら死ぬ寸前だったし、普通ならもっとまともなダンジョンマスターの元に行きたいよなぁ。

 明日の朝が少し怖いが今は忘れて、皆のところに一度戻るか。


 最深部に戻ってみると何やらいい匂いがしてきた。土で出来た大きな机の上に料理が並べられていた。皆机の周りに置いてある椅子に座って俺の見てきた、よく見るとダンジョンコアも座っている。恐らく座らせられたのだろう。


「ほれ、マスター。早く座らぬかクロを抑えておくのも大変なのじゃぞ」


「あぁ、今座るよ。この料理は誰が作ったの?」


「僕がダンジョン内にある材料だけで作ったよ」


 エミが全部作ってくれたようだ、ダンジョン内にある材料……なるほど全部肉料理なのはそのためか。トマトと一緒に炒めてある物や香草と共に焼かれている物もある。


「マスター……早く食べたいです」


「ごめんごめん、じゃあ皆で食べようか」


 俺の声と共に皆、目の前に置いてある料理に手を付ける。料理の味は非常に美味しかった、何の肉なのかわからないが臭みはなく濃い目の味付けで美味しい。肉しかないためずっと食べていると胸焼けしそうになりそうだが……。


「ちょっと……トマトだけ取っていかないでよ」


「なんじゃ、暗黒鳥もトマトが食べたいのかえ? 贅沢な奴じゃ、肉でも食っておれ」


「肉と一緒に食べたいの!」


 シロとグレーは皿の中にあるトマトを取り合いしている、戦いの後なのにこの二人は元気だなぁ……。


「ほら、ブラン。お姉ちゃんが取ってあげるね」


「誰がお姉ちゃんだ! というか横の席に座るな、この幼女!」


「……だから自分だって幼女じゃないか」


 エミとブランは常に一緒にいる気がする、同じ種族同士やはり仲が良いのだろうか。


「マスター!」


「ん……どうしたクロ?」


「お肉美味しいですよ!」


「そうか、そうだ。DP使うから何か食べたい物あったら言っていいよ」


「お肉があれば大丈夫です!」


 笑顔でお肉を口に運ぶクロ、とても幸せそうだ。



「……皆」


 思わず口から言葉が出てしまっていた。他の皆が会話を止めて俺に視線を集める。


「俺……このダンジョンを破棄して違うところに行こうと思ってるんだ」


 皆の顔が見れず視線が少し下がり机の上にある料理に向いてしまっているが言葉だけは矢継ぎ早に続ける。


「破棄すると皆の契約が切れるらしいけど……」


 手を握りしめて頑張って視線を上に引き戻して皆の顔を見る。


「契約を更新して俺に付いて来てくれないか……?」


 明日の朝まで不安を抱えて寝るのが怖くなったので声が出てしまった。誰も喋らず場がシーンとなるがシロがはぁ~というため息と共に口を開いた。

 

「なにを言い出すかと思ったら、そんな事かえ。付いていくに決まっておるじゃろ」


「マスター様、どこまででもお付き合いしますよ! ちょっと、だからトマトを持っていかないでよ!」


 俺から視線を外しまた皿の上にあるトマトを巡ってくだらない戦いを繰り広げる二人。


「……俺様は付いていくけど、お前は付いてこなくていいんだぞ?」


「え? 付いていくよ、他に行く所もないし」


「くるなー!」


 掴みかかるブランを楽しそうに捌くエミ。


「マスターもお肉食べましょう!」


「クロは付いてきてくれるのか……?」


「はい、当然ですよ!」


 むしゃむしゃとお肉を食べ続けるクロ。


「良かったですね、マスター。人望があって」


「なんで皆文句も言わずに来てくれるのかな」


「……さぁ、何故でしょうね?」


 こんな劣悪な環境なのに皆良く付いて来てくれるな……。本当に良い仲間に出会えて良かったと思う。


 そのまま祝勝会はクロが全ての料理を食べ尽くすまで続いた……。俺の不安は解消し朝までぐっすりと眠れた。


……


…………


………………


 朝になりダンジョンの外に集合した一同、皆不安な様子もなくむしろピクニックに行くようなワクワク感でいっぱいなようだ。


「瑠比!」


「メイ、わざわざどうしたの?」


 ホログラムのような姿で浮かび上がってきたのは、冒険者を全自動処刑機でDPに変換してニート生活をしている金髪ヤンキー少女のメイだった。


「サヤから事情は聞いたけど……あんな豪華な宝具をなんで私に預けたの?」


「いやー……だってメイ以外に知り合いのマスター居ないし……」


「限定宝具よ、限定宝具! 取られちゃうとか考えたりしないの!?」


「まぁ、どうせ移動して消えるくらいなら知り合いに上げた方がマシじゃない?」


 メイは何故か呆れたような表情を見せる、俺何か間違った事言ったか……?


「……預かるだけだからね。早くダンジョン構えたらすぐに突き返すからね!」


「別に返さなくてもいいけど……」


「それだと私が困るのよ……」


「わかったよ、またダンジョン出来たら教えるから」


「……きっとよ、道中気をつけてね」


 そう言って手を振ってくれるメイ、俺も手を振り替えしてゆっくりと離れていく。


「さて、マスターどこに行きますか?」


「実は1つ行く宛がある」


 俺の言葉に全員が本当か? みたいな疑いの目を向けてくる、俺ってそんなに信用がないのだろうか。


「ふふふ……これを見よ!」


 俺がポケットから取り出したチケットを2枚、皆に見せる。そう、これは祭りのクジ引きで入手したエノルル地方の観光招待券である。

 

「……ダンジョンもないのに観光に行くのかえ?」


「観光は実は目当てではない、ダンジョンコア。確かエノルル地方はマスターと冒険者ギルドで抗争が起きてるんだったよね」


「はい、本来リゾート地方だったエノルルも今では観光客がめっきり減ってしまっていますね」


「それがどうかしたのですか?」


 クロが首を傾げたので俺は自信満々にこう発言した。


「恐らく破壊されたダンジョンがあるはず……そこにダンジョンを設置する。一度破壊したダンジョンなので冒険者ギルドも攻めてこない! そこでほとぼりが収まるまでゆっくりしよう!」


 皆の顔は本当にそんなに上手く行くのか疑問の顔だったがとりあえず行く宛もないのでエノルル地方目指して出発する事になった。


「しかし、妾は海を見たことがないから楽しみじゃのう」


「私も山産まれだから見たことないわね……」


「リゾートにはどんな美味しいものがあるのでしょうか、楽しみですね」


 思ったより皆、観光気分だった。全員で楽しく話しながら歩いて行く。振り返って今まで居たダンジョンを一瞥し敬礼して別れを告げた。今までありがとう……、今度はもっと立派なダンジョンを作るからな。


 ダンジョンマスターですが僕のダンジョンがありません……でも仲間はいます。


これにて第一章完結です。

ここまで見ていただいた皆様本当にありがとうございます。

第二章を頑張って作成致します。

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