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第十七話「太陽の光」

「ダンジョンコア、DPで買える魔法のリストを見せてくれ」


「魔法……ですか」


 ブラン、エミ、ダンジョンコアの3人が俺の顔を見る。ブランは不安で泣きそうな顔をしている、エミも平時の時みたいに余裕のある表情は崩れ焦りが見える。


 わかってる、俺が覚えたての魔法を使った所で何とかなる相手ではない……。でもこのまま全滅するのは嫌だ。

 今までの人生を振り返る、特にやりたい事もなくただ漠然と生きてきた……いや、違う。やりたい事がなかったんじゃない、考えるのが嫌だっただけだ。先の見えない将来が不安で考えるのを拒み自分で未来を捨てたのだ。


 現実で逃げ続けてきたのに非現実でも逃げたら俺の居場所はどこにも無くなってしまう。あの世界で俺の存在は他人から見たらもう死んでいるのだ、一度死んでいるならもう恐れる必要はない。


 ダンジョンコアはいつもと変わらない無機質な表情を俺に向ける。感情は読めない、しかし普段通りでむしろ安心してしまう、まだ俺の手を握り続けてくれている。


「どうぞ、マスター。現在のDPで購入出来る魔法のリストです」


「ありがとう、ダンジョンコア」


 ダンジョンコアから貰ったリストを見てみる、今まで見た事が無かった魔法のリスト。1番安いので500DPのライト……エミが使ったように周囲を明るく照らす呪文だ。

 ただ光を灯す呪文で500もするなんて非常に高価だ、現状で買える物を見ても初級魔法が精一杯、氷がダメなら火でも買うか……と俺が決めようとしていた時だ。


 恐らくクロが戦い続けてくれているお陰だろうかDPが2500溜まり購入できるようになった魔法に目が向く。ディルーク……効果は何が起きるかわからない。他の呪文は軒並み火の弾を飛ばすやら氷の礫をぶつけるとか効果がわかるものだがこの1つだけ異質だった。


「……ダンジョンコア、この呪文はどういう奴?」


「なるほど……マスターにぴったりの呪文かもしれませんね」


「俺にぴったりの呪文……?」


「その呪文は効果通り何が起きるかわかりません、3割の確率で何も起きませんが……7割の確率でランダムに呪文の効果が発揮されます」


 なるほど、ゲームの中に1つはあるかもしれないランダム要素を持った技。大抵は使い勝手が悪くネタにしかならないが……今この状況を打開するには運に縋るしかない。


「ダンジョンコア、その呪文を買う。買ったらすぐに覚えられるよね?」


「はい、DPで購入したと同時に呪文は覚えられます。では購入しますね」


 ダンジョンコアがDPを消費する。それと同時に俺の脳内に流れる読めない記号で構成された文字……何これ、どうすればいいんだ? 俺が呪文の使い方がわからずに戸惑っているとダンジョンコアがディルークと唱えるだけで良いと言ってくれた。唱えるだけで瞬時に脳内で詠唱を完了してくれる便利仕様との事……。


「ダンジョンコア、ちなみにこの呪文は何回連続で使える?」


「マスターの魔力量だと……連続使用は厳しいと思われます」


 つまり勝負は一度きりか、7割の成功を掴みとった上で有用な呪文を発動させないと意味がないという大博打。


「やばい、障壁がもたないぞ!」


 ビキ……ビシ……という音と共にブランが作った土を硬質化させた障壁にヒビが入る。後は俺の運に賭けるしかない。


「仕方ない……ブラン、どうせ割られるくらいならこっちから解除しよう。飲まれるよりは……時間が作れると思う」


「……わ、わかった」


 エミもブランも覚悟を決めたようだ。


「マスター」


「どうした、ダンジョンコア」


「どのような結果になろうとダンジョンコアはマスターを責めません、責める権利を持ちません。だから……いつも通りのマスターでいきましょう」


 ブランが自ら障壁を解除する。その際、外側に向けて障壁を押し戻したため触手に飲まれるまでにまだ時間はある、そっとダンジョンコアの手を離して立ち上がる。もう手の震えは止まっていた。


「……」


 触手に飲まれたグレーの姿は見えず、シロは黒い触手に捕らえられていた。鎧武者に敵意の視線を向ける。


「わざわざそっちから解除してくれたのか、手間が省けて助かる」


 再び触手が俺達を飲み込もうと迫ってくる、俺は深呼吸をしてから唱えた。


「ディルーク」


 脳内に流れる読めない記号で出来た文字、先程流れたのと同じに見えるがこれが詠唱か……一瞬の間を置いてまた文字が流れ始める先程とは違う文字の羅列。長い、とにかく長い脳内が解読できない文字でいっぱいになり頭がおかしくなりそうだ。


 文字が止まり、体内が急激に熱くなり身体が自然に両手を鎧武者に向けていた。


「……は、なんだこれ?」


 手の平から飛び出してきたのは米粒サイズの光。ふわふわと天上付近にまで浮かび上がる。これもしかしてライトでは? こんな重要な時に限って運がないのか……と落胆したその時であった。


「うわあああ!」


 突然光が強烈な輝きを放つ、あまりにも眩しすぎて直視できず目を瞑ってしまう。


「なんだこれ!! どうなってるんだ!」


「おい、目が潰れる! なんとかしろ!」


「俺に言われても!!」


 あまりの眩しさにブランから文句の言葉が飛ぶ、味方すら害を被るこの呪文は一体なんだよ! しかし、触手がいつまでたっても襲っては来ないのは何故だ……?


「……この呪文は、まさかサンフレア?」


「サンフレア……?」


「光最上級呪文の1つですよ、マスター」


 エミの言葉に思わず反応したらダンジョンコアが教えてくれた、まさか最上級呪文を引き当てるとは俺の運は捨てた物じゃなかったらしい。


「まさか、サンフレアをこの目で見れるとはな……だが触手の動きは止めれても俺は止まらんぞ!」


 まったく戦況がわからないが……恐らく鎧武者本体は動いてこちらに向かっているのだろう。


「光最強の呪文じゃないのかよ、ただ眩しいだけじゃないか!」


「呪文自体は強力ですがマスターの魔力量は少ないですからね、DPで増強しないと魔法の威力は低くなってしまうかと思われます」


「それを先に言ってー!」


 触手を止める事は出来たようだが鎧武者が直接俺を斬り殺したらそれで終わってしまう、運だけに頼った結果がこれか……でも俺にしてはよくやった方かな。皆ごめん……。


「……魔力量、一か八かやってみようか」


 俺が死ぬ覚悟を勝手に決めているとエミがボソッと呟く。一体何をするつもりなのだろう……。すると俺の身体が増々熱くなり身体が燃えているような感覚になる。


「あぁぁぁぁ!! 燃やされた、焼死する! 苦しぃ!!」


 自分の熱さで苦しむが中々死ねない、生き地獄である。そして眩しさは増々強烈になり目を閉じて地面に倒れ込んでも視界は真っ白……。目の裏がチカチカしてくる。ブランもあまりの眩しさに悲鳴をあげている。


「ば……かな……魔力量が急激に増えた……だと」


 何やら俺の知らないところで動揺している鎧武者、一体何が起きているんですか……?


「なるほど、魔力増強でサンフレアの威力を上げたのですね」


「うん……最初はシロに使おうと思っていたけどちょうど良かった」


「くそ……からだが……溶ける」


 鎧武者と一緒に俺の身体も溶けてしまいそうなのだが? 俺がこんなに苦しんでいても普通に談笑しているエミとダンジョンコア。眩しくないのかな……一体どんな眼球なのだろうか。


「さすがマスターじゃ、お陰で呪いが解けたぞ」


「シ、シロ! 無事か!」


「うむ、傷口も回復したからもう平気じゃ」


 両手でなるべく光を入れないようにガードしつつ死ぬ気でシロの方を見る。シロの腕から黒い煙が出ていくと共に腕が再生していく。

 鎧武者を見てみると、なんと鎧がボロボロと崩れ落ちていた。中から黒髪のイケメンな男が出てくる、顔はイケメンだが左目の全体が真っ赤で夜に遭遇したら絶対に泣く自信がある。


「さて、折角じゃ妾の魔法……両手で放つから食らってみるとよい」


「……ま、まて。まってくれ」


「属性呪文の対策はしておるのじゃろ? なら平気じゃな」


 両手で青白い竜巻を放つシロ、片手で放ったより大きな竜巻が当たり生身の身体が瞬時に冷凍された。


「胸に手を突っ込んだ非礼は詫びよう、すまなかったのう」


 パチンと指を弾くと同時に氷が細かく砕けキラキラとした欠片が床に散らばる、


「シ……シロ、よくやった!」


 見事強敵の撃破に成功したシロを褒め称える、俺の身体が急に脱力して床に倒れ込むと同時に頭上で光り輝いていた球体が消滅した。


「マスター、大丈夫かえ?」


「あ……あぁ、シロも腕大丈夫か?」


「うむ、ほれこの通りしっかり動くぞ」


 よかった……。シロが俺に肩を貸してくれる、とりあえずシロは大丈夫そうだけど……。


「そうだ、グレーは!?」


「今見てるよ、大丈夫。気を失ってるだけだ」


 地面に横たわっているグレーをエミが見てくれている、手の平を光り輝かせグレーのお腹と頭の部分を撫でている。治療の呪文でも唱えてるのだろうか? グレーもエミに任せておけば大丈夫そうだな。


「ダンジョンコアとブランも無事か?」


「ダンジョンコアに異常はありませんよ、マスター」


「……まだ目がチカチカするがとりあえずは平気だ」


 よし、大丈夫そうだ。後は……上にいるクロの安否だけだ。


「ダンジョンコア、クロはまだ戦ってる?」


「いえ、DPはこれ以上増えていませんね。少なくとも戦闘は起きていないと思われます」


「と……言う事はクロが全部倒したのかな」


「いえ、DPの数値的には350人倒せてはいないですね」


 ……うん? どういう事だ、まさかクロが……負けた?


「シロ、クロを助けに行くぞ!」


「勿論じゃ! マスター背中に乗るのじゃ、その方が速い!」


 背中に乗るとシロは凄い速度でダンジョンを駆け抜けていく。シロも先程の戦闘で疲弊しているから無理をさせたくないが今はクロが心配で仕方がない。あのクロが負けるはずがない、頼むから無事でいてくれ


 階段を上がり地下1Fの通路に着いた途端立ち止まるシロ、俺はシロの背中を降りて通路に目を向けると……。


「……クロ」


「ど、どうしたシロ!?」


「ク、クロ!」


 地下1Fはかなり悲惨な光景になっていた、壁は血まみれで床にはダンジョンが吸収しきれていない死体が散乱しておりひどい臭いが充満していた。しかしそんな事を気にしている場合ではない。


 俺は壁を背にして床に座り込んでいるクロに慌てて駆け寄った。眠っているのかわからないが目は閉じている……しかし、顔が青白く生気を失っているようであった。


「クロ大丈夫か!」


 血で濡れるのを躊躇せずにクロの肩を揺する……返事がない。嘘だろ?


「シロ、クロが……」


「魔力の消費が激しいのう……普通ならダンジョンに一度吸収されるだけなのに様子が変じゃ」


「なんとか出来ないか……?」


「……ふむ、妾の魔力を分け与えてみよう」


 そう言ってクロの顔を手で自分の元に引き寄せるシロ……。そして突然キスをし始めた、無言でキスをし続けるシロ。魔力を分け与えるのにキスをしないといけないのか……真面目な表情で魔力を供給し続けるシロを見守る。


「……マスター」


 シロが供給を終えるとクロが目を覚まして俺の方を見た、今にも消え入りそうな声を発するクロ。まさか……消える? と最悪な事態が脳をよぎる。


「クロ、大丈夫か!?」


「お腹が空きました!」


 ぱぁっと笑みを浮かべて腹の音を鳴らすクロ。俺とシロは安堵の表情を浮かべた。


「よし、今日は好きなだけお肉を食べていいぞ!」


「本当ですか!」


「やれやれ……まぁ、なんとかなって良かったのう」


 お腹が空きすぎて動けないクロをシロが担ぐ、そして最深部に戻っていく俺達であった……。


 ダンジョンマスターですが強敵をなんとか凌ぎました……。


次で第一章最終話です。

頑張って早めに投稿します。

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