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第十六話「消耗戦」

第一章終了が近いためシリアス成分が多くなってきました。

戦闘により一部流血シーンがあります、ご注意ください。

 どうも、ダンジョンマスターです。作戦会議も終わり後は、傭兵団が攻めてくるのを待つだけ……。正直ここまで大規模な戦闘が起きるなんて思ってもいなかったわけで不安で仕方がない。


「お任せくださいマスター様、絶対お守りしますから! ついでにダンジョンコアも守ります!」


「私はついでですか」


 グレーが自身気に親指を立てている、俺もこれくらい自信持ちたいなぁ……。願わくはここまで敵が来ない事を祈る。


 そしてその時がやってきた。ダンジョンコアが俺の方を見てゆっくりと口を開く。


「敵が領域に侵入しました、その数350。現在ダンジョンの地上部分にいます」


聞いていた数より更に50上乗せされた数字がダンジョンコアの口から発せられた。と言っても俺に出来る事は皆が相手を撃退してくれる事をここで見守るしかない。


「敵がダンジョン内部に続々と入ってきます」


「……クロ大丈夫かな」


 上に一人残したクロが心配だ、クロの強さは知ってるけど350人も撃退出来るのだろうか……。


「敵がどんどんDPに変換されていますね、恐らくダークナイトドラゴンが倒しているものだと思われます」


 俺の心配を他所に侵入者を撃退し続けているクロ。クロってやっぱり凄いんだなぁ……この戦いが終わったら沢山お肉食べさせてあげよう。


「もう50人くらいDPになっていますね。凄い速度です」


「むむむ……やるわね」


 ひたすら来る敵を切り刻んでいるのだろうか、上はきっと無双ゲームのような光景になっている事だろう。ダンジョンコアにログを見せて貰ったら傭兵達がダンジョン内部に入ってからまだ10分くらいしか立っていないが500も溜まっていた。


「もう500溜まってるのか、侵入者倒すのって美味しいな……」


「……本来ダンジョンとは冒険者を倒して得るDPで運営していく物ですよ」


「1人大体DP10だとすると……3500も貯まるのか! 今夜の夕食は奮発しよう!」


「ふむ……1人当たり10はかなり少ない方ですが数だけなのでしょうか」


 数は凄いけどやっぱり烏合の衆だったのかな。良かった大量の傭兵団は全て俺のためにDPに変換されるであろう、これでダンジョンを大幅に改造出来る……。

 俺が脳内でダンジョンをどう広げるか妄想しようとしていた所にシロが冷たい声を発する。


「マスター、巻き込まれないように気をつけるのじゃ」


「……はい?」


 入り口を見張っていたシロが跳躍し部屋の中央に着地する。気がつくとグレーが俺とダンジョンコアを庇うように前に立っている。


「ふむ、移動系スキル持ちだね。ポータルで大量に兵士が来るよりはマシかな?」


 エミの呟きを聞くが一体何の事かよくわからない。必死に目を凝らして見るとシロの目の前に黒い人影が3つ床に映っている。そしてその影の中からゆっくりと出てくる。


「こんな狭いダンジョンにクイーンヴァンパイアが本当にいるとは……珍しいな」


 真っ黒な甲冑鎧を着込んだ男が出てきた。鎧は180cmほどだろうか少なくともシロよりは大きい。他の影2つからも真っ黒な鎧が2つ出てきているが声を発しないため男か女かわからない。


「ふむ、妾に何か用かの?」


「なに、ちょっと解体させてくれさえすればそれでいい」


 物騒な台詞を男が言ったと同時に鎧を着た3人がシロに襲いかかる。それぞれが腰の鞘から銀色の刀を引き抜いてシロを斬り伏せようとしてくる。


「そんな単純な攻撃……妾に効くと思っておるのか」


 シロが3人の刀を軽々と跳躍で躱し、鎧武者の肩を踏み背後に周る。そして背後から胸の部分を素手で貫く。これで一人撃破か……さすがだな。


「……む? 手応えがない」


「まずい、離れた方がいいよ!」


 エミが叫ぶと同時にシロが手を引き抜こうとする。しかし、鎧の中から黒い影のような触手が伸びてシロの手を絡め取り離さない。

 シロが抜くのに手間取っている間に他の2人がシロを斬り刻もうと剣を振るう。


「……ッチ」


 慌てたシロは、片手を触手に掴まれたままその場でぐるっと空中で一回転する。ブチ……と嫌な音と共に鎧武者から少し離れた位置に着地する。


「……シ、シロ」


「だ……大丈夫ですよ、マスター様。クイーンヴァンパイアの種族は再生力が異常なほど高いですから!」


 シロの右腕は無くなっていた。いや、無くしたと言っていいだろう逃げられないとわかり自分で切り離したのだ。再生力が凄いのはわかるがそれでも痛々しくて見ていられない、それに……シロの表情がどこかおかしい、そして恐らくこの場にいる全員が違和感を覚えただろう。


「女王様! 大丈夫ですか!?」


「……おかしい、再生しないね」


「シ、シロ……」


 シロは自分で切断した右腕の肘上部分を左手で抑える、そして焦った表情で相手を見据える。


「……お主、まさかヴァンパイアハンターか」


「どうだろうねぇ、それよりお嬢ちゃん人様の胸に手を突っ込むのは礼儀がなってないんじゃないか?」


 ヴァンパイアハンター……? 俺が聞きなれない言葉に首を傾げるとダンジョンコアが教えてくれた。何でもヴァンパイアという種族は、とても強力な魔物なのでヴァンパイア討伐に特化した冒険者らしい。大抵ヴァンパイアハンターは専用の装備を持っており吸血鬼に対して致命傷を与えたり吸血鬼の力を封じたりする事が出来るようだ。


「……という事はシロの腕が再生しないのはそのせいか」


「はい、恐らく先程の黒い触手の影響だと思われます」


「マスター様、私が行きましょうか」


 グレーがゆっくりと鎧武者に近づこうとするがシロが手で制する。


「グレー、お主はマスターを守るのじゃ。いつ違う敵が来るかもわからん」


「……でもあんたその腕じゃ」


「なーに、片腕で十分よ」


 魔法陣から純白の剣を出して左手で掴む、本来なら双剣になったはずだが片腕のせいで本領発揮出来ないだろう……。だがシロはまだ気持ちの上では負けてはいない、今の俺に出来る事は……。


「頑張れシロー!」


 悲しいかな大きな声で応援する事しか出来ない。しかしシロは俺の方を一瞬だけ振り向いて笑顔を見せた。


「なーに、マスターはそこで妾が勝つ所を見ておるとよい」


「ほう、随分な自信だな」


「手の内は見切ったわ、他の2体は触手の詰まった偽物。本体のお主さえ倒せば終わりじゃ」


「なるほど、だが手品の種がわかっても出来るとは限らないぜ?」


「妾なら出来る、何故なら妾は天才だからじゃ」


 そう言って声を発していた鎧武者に向かって凄い速度で飛び出していくシロ。そのシロの行く手を阻むように妨害する他の2体……。鎧の間から黒い触手がシロを捉えようと伸びていきそれを避けるために防戦一方になっているシロ。


「エ、エミ。女王様の腕を治せないのか?」


「……うーん、恐らく再生防止の呪いが掛けられていると思うからそれを消さないといけないね。どんな種類の呪いか調べるのにかなり近くにいないといけないから厳しいね」


「むぅ……」


「でも……援護くらいは出来ると思うからもう少し時間を稼いでもらおう。いざとなったら防御壁を出してね、ブラン」


「……わかった」


 ブランとエミが話し合いをしている。エミの援護でシロが少しでも楽に戦えるようになるといいが……。


「ダンジョンコア、クロの様子はどう?」


「はい、DPは増え続けています。120ほど倒したでしょうか」


「凄いな……しかしどうやったらそんなに倒せるんだろう」


「あそこは直線ですから、貫通魔術だけでかなり倒せると思います。ただ……さすがに魔力が尽きないか心配ですね」


「魔力が尽きるとどうなるの……?」


「完全に無くなるとダンジョン内に吸収されて魔力が一定量供給されるまで復活出来ません。ダークナイトドラゴンは、上級種族にしては魔力量が少ないため心配ですね」


 ……クロの方も数押しされて魔力が尽きるという問題があるのか。予めやばくなったら無理せず退却するように言い聞かせてあるけど心配だ。しかし、今は目の前の戦いを何とかしなければいけない。


「ま、待ってくれ。そこの鎧の人!」


「気を引こうたって無駄だぜ、それくらいで乱れる集中力じゃない」


「違う、交渉しようじゃないか」


「ほう……話くらい聞こうか」


「マスター! 話なぞする必要はないぞ、妾が倒してみせる」


「……こいつに時間を掛けすぎると上にいるクロの負担がやばい。話し合いで解決出来るなら穏便に終わらせよう」


 シロもクロの事が心配なのか鎧武者を警戒しつつも一度距離を取り話せる環境を作ってくれた。


「それで……いくらで雇われた?」


「残念ながら俺は金で雇われていないよ、ただ素材の権利を全て貰っただけさ」


「……素材の権利?」


「あぁ、吸血鬼の部位は高く売れるからな。血液から目玉、心臓まで全て売れる」


「つまり……莫大な金さえ手に入れば、手を引いてくれるんだな?」


「ほう、そんな金があるのか? 言っておくがクイーンヴァンパイア1体を解体すると300万Gはするぞ。少なくともそれ以上貰わないとな」


 腕を組んで俺の方を向く鎧武者……正直タダで渡すのは嫌だが背に腹は代えられない。こいつに帰って貰ってシロを治療した後にクロと役割を交代して、クロを休ませる必要がある。


「……そこに突き刺さってるレインボーソードは999万DP……約10億Gの価値を持つ代物だ。それを持ち帰っていい」


 ガチャで偶然当たった超激レア宝具。どうせ30DPで引いた物だしこの窮地を脱する事が出来るなら安いもんだ。


「ほー、限定宝具か! 冒険者育成用のダンジョンより狭いくせに凄い物持ってるな」


「……狭いのは余計だろ、とりあえずそれで満足してくれないか?」


「そうだなぁ、悪くはない……が」


 突然黒い触手を俺の方に向かって放ってくる。死に際のスローモーションの如く触手が伸びてきているのがわかるが避けれるはずもない。


「マスター様危ない!」


 咄嗟にグレーが俺とダンジョンコアの身体を掴んで横に飛び退いてくれた。黒い触手は壁にぶつかり土を削り取る。


「……10億Gじゃ満足出来ないのか?」


「いや、十分さ。ただ全員殺してから奪った方が吸血鬼の素材も手に入るしもっと稼げると思っただけだ」


 交渉は決裂した、どうやら話し合ってわかる相手じゃないようだ……。一瞬いけると思ったんだがな。


「貴様……よくもマスターを狙ったな」


 目を紅く光らせ怒りの感情を見せるシロ、片手で小さい竜巻を発生させて鎧武者にぶつける。3体の鎧武者が一瞬で氷漬けになる。部屋の温度が急激に低下してガタガタ震え出す。


「どうじゃ、思い知ったか妾の強さを!」


「氷結上級呪文のニクルか……やれやれ、片腕がなくてこの威力とは恐れいった」


 氷の中からビキビキという音と共に触手が伸びていき、再び鎧武者が動き始める。シロの呪文が効いてない……? そんなのありかよ。


「どうした? 属性呪文の対策をしてないわけがないだろう」


「……まったく面倒な奴じゃな」


「でもまぁ……かなり強い部類なのはわかった。限定宝具をさっさと持ち逃げしたいし早く終わらせようか」


 鎧武者が足で地面を強く踏むと他の2つの鎧が砕けて触手が地面に溶け込んでいく……。いったい何をしてるんだ……?


「……ま、まずい! グレー、マスターとダンジョンコアを!」


「う、うん!」


 慌ててグレーが俺とダンジョンコアを掴んだまま飛び上がる。よくみると地面が黒く侵食している、そして黒い部分から俺達に向けて触手を伸ばしてくる。


「ブランのところに来て! ブラン、防壁を……」


「わ、わかった!」


 グレーがブランの所に急いで飛ぶ、しかし……。


「……やばっ」


 空中で片足を掴まれたグレー……そのまま地面に凄い力で引きずりこまれようとしている。これは……ダメかもしれない。


「マスター様とダンジョンコア。頑張って着地して!」


「……へっ? おい、グレー!」


 空中で俺とダンジョンコアをブランとエミがいる所まで投げるグレー。そのままグレーは地面の中に引きずり込まれた。


「入った、ブラン!」


「……うむ」


 俺とダンジョンコアは、尻もちをつきながらブラン達の近くに着地する。黒い触手はすぐに俺達4人の元に伸びてくる。

 しかし、すぐに地面がドーム状の壁となって俺達を包み込む。触手が直ぐに突き破ってくる事はないが……時間の問題かもしれない。

 エミが手のひらを上に向けて小さい光を灯してくれる。


「……状況は最悪だけど、どうしようか」


「エミ、援護はまだ出来ないのか!」


「今必死に頭の中で術式を組んでるけど……魔力増強だけであいつを倒せるかな」


「クイーンヴァンパイアは片腕を失っていますからね、呪文の威力も制限されてしまっているため厳しいと思われます」


 いつ破られるかわからない防壁の中で絶望的な空気が流れる。しかし、必死に戦っている皆のためにもここで諦めるわけにはいかない。


「……ダンジョンコア、今DPいくつある?」


「2000ほど溜まってます、ダークナイトドラゴンが戦っている相手も少しずつ強くなっているようですね」


 2000……それだけあれば何か買えるだろう。俺はダンジョンコアにこう告げた。


「……ダンジョンコア、DPで買える魔法のリストを見せてくれ」


 正直シロの呪文が効かない相手に付け焼き刃で覚えた俺の呪文が効くとは思えないが……それでもこの状況を打開するために何か行動を起こさなければいけない。


 ダンジョンマスターですが精一杯足掻いてみせます。


DPのG換算が一部間違っていたため修正させて頂きました。

申し訳ありません。

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