第十四話「皆で食べる鍋は美味しい」
どうもタダで仲間を増やしたダンジョンマスターです。タダより怖いものはないって言うけどそんな事を言っている余裕は我がダンジョンにはないわけで……。
「エミ、ぽよぽよ草を持ち帰ってきたよ」
紫色の薬草を入れた袋を片手にダンジョンの最奥に帰ってきた俺達、すると何故かブランが起きていて俺に駆け寄ってくる。
「うわーん! 帰ってくるのが遅いぞ!!」
「あれブラン、なんで起きてるの?」
「なんじゃ元気そうじゃのう……死にかけてるものだと思っておったわ」
病気で寝込んでいる割には機敏に動いているブランにとりあえず安堵の表情を浮かべる面々。やっぱりブランは元気に走り回ってる方が似合うな、でも怯えているような気がするのは何故だろうか……。
「お疲れ様、これだけ沢山あれば暫く困らなそうだよ」
「ところでブランなんだか怯えてない?」
「そう? 気の所為じゃないかな」
どこか楽しげに微笑むエミに怯えた表情でエミを見るブラン……。まぁ、深く突っ込まないでおこうか。
「おぉ……ここがダンジョン、初めて来たわ」
ダンジョンをキョロキョロと見渡すグレー、都会に初めて来た若者感が出ていてどこか微笑ましく感じる。
「おい、何か変な女がいるぞ!」
「変な女とは失礼ね! 私は誇り高き暗黒鳥の変異種よ!」
「そんなに立派な種族でもないですけどね」
新顔に驚くブラン……。グレーとはあんまり相性よくなさそうだけどどうだろうか。そしてクロさんは暗黒鳥には無駄に辛辣ですね。彼女の過去になにがあったのだろうか。
「ところで窪みが3つあるけどあれは何ですか?」
「あぁ、あそこは皆の部屋だよ」
グレーが指差した場所は、1マスだけ開けた黒白茶の部屋だ。ダンジョンを拡張する際にいい加減専用の部屋が無いのは可哀想だと思い作ってあげたのだ。
「へぇ、部屋の中見てみたいわね」
「妾は別に良いぞ、特段何もないがの」
「私も構いませんよ」
「俺様も別にいいぞ」
3人の許可が出たためグレーと一緒にそれぞれの部屋に向かう。かく言う俺も3人の部屋を覗いた事はなかった。さすがに女の子部屋を勝手に見るのは気が引けたためだ。
「じゃあ最初はシロの部屋を見てみるか……」
申し訳程度についてある木の扉を開けて中を見てみる。籠に沢山入ったトマト、や瓶詰めされたトマトジュースが部屋の隅に置かれている。シロらしいと言えばシロらしいが……部屋というよりは食料庫にしか見えない。
「……非常食置き場?」
「失礼な女じゃのう、魔力を維持するためにはトマトが必要なのじゃ」
「後天上に張り付いてる蝙蝠は何……?」
「おぉ、これは使い魔を繁殖しておる所なのじゃ」
上を見てみると天上に大量の蝙蝠がくっついていた、ただの模様だと思っていたため少し鳥肌が立った。まぁ、吸血鬼なら普通なのか……?
「じゃあ、次はクロの部屋を見てみるか……」
扉を開けてみると、中には大量の食品……。壁には肉の燻製や魚の干物。床には氷結呪文で冷凍されたお肉が転がっていた。シロごめん、こっちが本当の食料庫だった。
「非常食置き場じゃない!」
「失礼ですね、非常食ではありません。おやつです」
「あまり変わらないわよ!」
たまにイノシシとか担いできたりしていたが部屋内で保管されていたのか……。クロらしいと言えばクロらしいがとてもではないが女の子の部屋とは言えない空間であった。
「最後にブランの部屋を見るか……」
部屋を見ると机や棚など木製の家具が並び、壁には花で出来た飾りが掛けられており華やかである。棚の上を見てみると変な人形があり何だこれと思ったが祭りで貰った粘土の人形か……。案外物持ちがいい子なんだな。
「わぁ~、可愛いお部屋ね」
「可愛い……? 普通だろこれくらい」
「前二人が普通じゃなかったから女の子らしくていいと思うわ!」
「なんじゃと! 妾は女の子らしくないと言うのか!」
「不服です! 私くらいの年代だとこれくらい食べるのが普通なはずです!」
黒白が不満の声を上げる。クロのツッコミもどこかズレていると思ったがそっとしておく事にした。
「うん……? なんだこの匂い」
気がつくとダンジョン内にどこか魚介風のいい匂いが漂ってくる。匂いの発生源を探すとダンジョンコアとエミが大釜を木の棒で混ぜていた。
「何やってるの二人共」
「あぁ、滋養強壮の鍋を作っているのさ。君から貰ったぽよぽよ草を使ってね」
「その手伝いをしています、マスター」
鍋を見てみると紫色のスープに魚や野菜が一緒に煮込まれていた。非常に食欲をそそる匂いなのだが……。
「このスープの色なんとかならないの……? 食べるの怖いんだけど」
「残念ながらどうしようもないね、ただ人体には影響はないからマスターも安心して食べるといいよ」
まぁ……人体に影響はないって医者が言うなら大丈夫か。いつの間にかクロが横に正座して鍋の配膳を今か今かと待ち望んでいた。
「とりあえずブランに多めに食べさせると良いよ。また倒れないようにね」
「ありがとう、ほらブラン。沢山食べてもう寝込まないようにな」
木の器によそってブランに渡す。見た感じスープが紫な事以外は普通のようだ、蝙蝠や蜘蛛が入っているなどという事はない。
「……わざわざありがとう」
受け取ったブランは恥ずかしそうにお礼を言った。
「俺は何もしてないけどな……お礼を言うなら他の皆に言ってあげて」
「何を言う我らの手柄はマスターの手柄じゃぞ」
「そうですよ、もっと堂々としてください」
「全部マスター様のお陰ね!」
「何故お主が誇らしげなのじゃ……むしろ邪魔しておった立場じゃろ」
ダンジョンマスターってそういうものなのだろうか、何か納得できずにダンジョンコアの方を見る。
「運も実力のうちと言いますし、あの二人を引き当てたマスターの豪運は凄いという事にしておきましょう」
「そういうものなのかなぁ……」
「ダンジョンマスターとは戦う職業ではありませんから、例外もいますが……。マスターにはマスターの出来る事がありますよ」
俺の意図を察してかフォローを入れてくれるダンジョンコア。絶望的なスタートだったがあの2人を引けたのは運が良かったし、ブランやグレーと出会えて仲間になったのも幸運な事だ。
皆に配膳が行き渡ったようなので食事を始める、見た目がかなりあれなので食べるのが怖いが意を決して食べる。うむ、美味い。スープが染み込み紫色になっている野菜や魚が不気味なのを除けば魚介風の出しが効いていて美味しい。本当に魚介をダシに使っているのかは怖くて聞けないが大丈夫だろう……多分。
「美味しいです!」
「クロは何を食べても美味いと言うではないか」
「確かにご飯は美味しいですが皆と食べるご飯はとても美味しい物です」
「あ、ちょっと! 魚ばっかり取らないでよ!」
「野菜は肌に良いそうなのでどうぞどうぞ、私は魚の方が好きです」
「むぅ、トマトを鍋に入れても良いかえ?」
「女王様……それではトマト鍋になってしまいますよ」
「魚介ダシにトマトをぶちこむのは勘弁してほしいなぁ」
和気あいあいとした雰囲気で鍋を食べる。今までの人生でこんな大勢で鍋を食べる機会なんて無かったけど悪くないな。などという感傷に浸っている間に鍋の中身が凄い速度で無くなっていく。
「ダンジョンコアも早く食べないとなくなっちゃうぞ……」
「……」
「ダンジョンコア?」
木の器を床に置き、両手を耳に当てて目を瞑るダンジョンコア。この動作は……他のダンジョンコアと通信をしているのだろう。他の皆が鍋を巡って談笑をしている中、俺はダンジョンコアが通信を終わらせるまでゆっくりと待った。
「……マスター」
「どうしたダンジョンコア」
いつものように無機質な瞳を俺に向けるダンジョンコア。ダンジョンコアが言いよどむ時は、大体良くない事だ。そして俺の予感は当たってしまった。
「このダンジョンに冒険者……いえ、傭兵団が向かってきています」
鍋を皆で囲って食べる、そんな平穏な空気もどうやら長く続けさせては貰えないらしい。
ダンジョンマスターですが遂にダンジョンマスターとして仕事が出来そうです。
皆様のお陰で200PT超えたためクロの番外編を早い内に投稿します。