第十話「ダンジョンマスターの闇は深い」
どうも、祭りから帰ってきたばかりで疲労しているダンジョンマスターです。
しかし、休む暇は俺にはない、ダンジョンコアの親友であるサヤが急遽遊びに来てしまったからだ。
黒白茶の3名は疲れたという理由で一足先に自室に戻って行ったので接客対応を俺とダンジョンコアがする事になった……。
とりあえずサヤの身体に突き刺さっていたトラップの毒矢を抜いて上げた。矢と言っても相手を毒状態にする事しか出来ないので直接的な痛みは無いようだ。というかダンジョンコアは状態異常にならないとの事……便利だなぁ。
「ところで来たのはサヤだけ? マスターは来ないの?」
「あー……、私のマスターはあまり外に出たがらない人なのですよ~。
所謂引きこもりだろうか、いいなぁー、俺もダンジョンの中にずっと篭っていたい……と思ったがこのダンジョンにずっと居てもやる事がないからそれはそれで辛いかもしれない。
「出来れば会って見たいんだけど……連絡取れたりしない?」
「うーん、今の時間なら起きていると思うので通信してみますね」
と言ってサヤは両手を両耳に当てながら目を瞑った。恐らくマスターと話をしているのだろう。
俺が何故マスターと会って見たいかと言うといい加減相談相手が欲しいからだ。ダンジョン経営を楽に進めるにはどうしたらいいのか知るために先人のアドバイスを聞いておきたいのである。
「面倒臭いから嫌だと言われました……」
「そこを何とか頼む! 5分……いや3分でいいから!」
「……移動が面倒臭いから幻影術で会話するだけなら良いよとの事です」
「幻影術……ってのがよくわからないけど話せるならそれでいいよ」
この世界は、DPを消費する事でダンジョンマスター自身も様々な魔法を使う事が出来るらしい。ただ大体高いため俺には手が出ない……、俺も移動系呪文が欲しい!
俺が羨んでいると目の前に人の姿がゆっくりと浮かび上がって来た。なるほどホログラムみたいな物だろうか? 離れていても会話出来るとか凄くない?
「……あー、人が惰眠を貪ろうと思った矢先に何の用?」
目の前に現れたのは、上下赤いジャージを着ている金髪少女だった。身長は160cmくらいだろうか、髪は金髪だが日本人的な顔立ちで童顔なためヤンキーにしか見えない。
車の後ろに視界を塞ぐレベルにぬいぐるみを並べてそうな見た目をしている……。まぁ、明らかに言ったら失礼だから言わないけどな!
「いやー、俺ダンジョンマスターになって日が浅いからさ。折角だから色々教えて貰おうかなって」
「めんどくさーー! 何で見ず知らずの奴に教えてやんないといけないのー?」
「いいじゃん、ダンジョンコアが仲良い同士。俺達も仲良くやろうぜ」
「えー……、私コミュ障だからそういうの無理ぃ……」
見た目だけなら友達とカラオケでオールしてそうなのに……。人は見かけによらないんだな……。
「まぁまぁ、マスター! ずっとダンジョンに引きこもってるせいで友達が居ないマスターに友人が出来るチャンスですよ~! 折角ですから会話しましょう!」
サヤが助け舟を出してくれる。というか可愛い顔してかなりズバズバ言ってるな……というか友達が居ないのくだりは俺にも当てはまるから止めて欲しい。
「……まぁ、サヤが言うならちょっとだけね」
「そんな時間取らせないから頼むよ」
「何が聞きたいの……?」
ダルそうな表情を浮かべて欠伸をする金髪少女……、とりあえず名前から聞くか。
「俺の名は相川瑠比。そっちは?」
「……ん、篠原メイ」
「篠原かよろしくな」
「……メイでいいよ」
「じゃあ、俺の事も瑠比って呼んでくれ」
「はいはい……」
簡素な自己紹介が終わった所で俺にはどうしても聞きたい事があった。
「それで聞きたい事なんだが……」
「なーに? 早くしてー、私は惰眠を貪りたいのだ」
「メイのダンジョンではどうやってDPを稼いでるの?」
俺も早くダンジョンにいるだけでDPを稼げる生活を送りたいので何か裏技的な物がないのか聞いておかねば……。
「……あー、うーん。普通に稼いでるよ?」
元々目線を合わせてくれてはいなかったが、露骨に目が泳ぎ始めた。こいつは嘘を付いている、俺にはわかる!!
「サヤー、メイはどうやってDPを稼いでいるの?」
「マスター教えても大丈夫ですか?」
「ダメでしょ! 言ったらダメだよ!」
「……という事なので教えられません、ごめんなさい」
ふむ……。意外とセキュリティは硬いのか?
「ダンジョンコア……」
「なんですか、マスター」
俺はダンジョンコアに小声で耳打ちする。
「サヤにメイがどうやってDPを稼いでいるのかこっそり聞いてくれ」
「……わかりました」
テクテクとサヤの方に歩いて行くダンジョンコア、そして二人は何やらヒソヒソと話し合っている。……やったか?
「聞いてきましたマスター」
「どうやって稼いでたの?」
「はい、そこそこ名のある冒険者を全自動処刑機に乗せて1日中DPを搾り取っているらしいです」
「えぐぅ!? 全自動処刑機ってなんだよ!! 名前がそもそも直接的すぎない??」
衝撃のあまり大声で叫んだ俺に情報が漏れた事がわかったメイがサヤに抗議の視線を向ける。
「……サヤァ~」
「なんですか? マスター」
「なんですかぁ、マスター? じゃないわよ! 何で言わないでって言ったのに簡単に言っちゃうの!」
「……?? 相手のマスターには言ってませんよ?」
「ダンジョンコア経路から余裕で情報漏れてるから!」
「でも、ナシコイちゃんに隠し事はしたくありませんし……」
「……私の事を……ナシコイと呼ぶのは止めてくださいと言いましたよね?」
「んーー!! ふがーふぐー!」
困惑するサヤを問い詰めるメイ……。そして口が滑ったサヤの口を塞ぐダンジョンコア……、場がカオスになってきたな。
「もう聞いちゃったんだしいいじゃん、どこかにバラすわけでもないしさ……」
「……仕方ないわね、絶対言わないでよ」
「言わない言わない……それで全自動処刑機って何?」
現代のマフィアですら使用してるか怪しい名称の機械について尋ねるとどう言っていいのか迷っているサキ。
「……サヤ、説明してあげて」
「はい、わかりました~」
説明するのが面倒なのかそれとも口に出したくないほどエグい物なのかわからないが説明をサヤに丸投げした。サヤもわかりました~と軽い感じで返事をした。
「簡単に説明しますよ~。まず、全裸の冒険者をですねぇ」
「何か開幕からやばくない? 大丈夫?」
「大丈夫です! いかがわしい装置ではありませんから!」
いかがわしさの心配はしてないのだが……、とりあえず話の続きを聞く事にした。
「まず平面的に3×3マスの正方形型に掘ります」
「ふむふむ」
「全部動く床にしてぐるぐる回るようにします」
工場のベルトコンベアみたいだな……。
「左右の壁と天上に半ブロックを設置します。半ブロックは0.75mの厚みを持っているため1マス内の猶予スペースは、実質横幅0.5m、縦幅は床の仕掛けを含めると1mです!」
「くっそ狭いな」
「その中に冒険者を入れて殆ど身動きが取れない状態を作ります!」
「……お、おう。てか横幅狭すぎて詰まるんじゃね?」
「大丈夫です! 小柄な探索者が現在とてもガリガリな状態なので!」
「そう……」
なんだろう、凄い嫌な予感がする。いや、全自動処刑機っていう名前の時点でやばい機械なのはわかってるけどね?
「後は道中に即死トラップと蘇生トラップを設置して完成です! 全自動で即死と蘇生を繰り返して放置してるだけでDPが稼げちゃいます~!」
「わぁ~凄い~」
あまりにもやばいDPの稼ぎ方に思わず拍手をしてしまう俺……、非人道的すぎてとても真似出来ない、ダンジョンマスターってやべぇな!!
「……ちなみにこれを思いついたのは」
「勿論マスターです!」
チラっとメイを見る、俺の目は恐らくやばい奴を見るかの如くドン引きしてる感じだと思う。正直マジで引いている。
「ち、違う! 確かにやる決断をしたのは私だけど……器材自体は買った物なの!」
「……買った?」
「そう! 楽にDPを稼げる話を闇商人からされて……そしたらあの機械を買わされたの! 全財産使ったんだから使わないと生きていけないから仕方ないの!」
慌てたように弁解し始めるメイ……。 楽に稼げるとかいう詐欺の常套句みたいな台詞に引っかかるなんて……まぁ、一応楽に稼げてはいるから詐欺ではないのか?
「ダンジョンコア……DPの稼ぎ方としてはどうなの?」
「正攻法とは言えませんが……冒険者をDPに変換しているという点ではまだマシな方ですね」
「え、これでマシな部類なの!?」
俺が思っているよりダンジョンマスターは闇の深い職業なのかもしれない、というか魔王側の人間だから非人道的行為をするのが普通なのだろうか……。
「……ちなみにマシじゃないDPの稼ぎ方ってどんなの?」
「前にも少しお話したようなダンジョンマスターでしか知り得ない情報を冒険者に売りさばいたお金をDPに変換している者もいます」
「情報ねぇ……正直全自動処刑機よりマシな気がするんだけど」
「ダメですよー! 仲間に対する裏切り行為ですよー!」
サヤが頬を膨らませて軽く怒ったような表情を見せる。
「……裏切り行為?」
「はい、他人のダンジョンの位置、ダンジョン内部の詳細な地図、ガチャの限定アイテムを手に入れたマスターの名前など冒険者に優位な情報を故意に流す行為は原則禁止です」
「あ、自分の情報を流すのは自己責任なので平気ですよ~。宣伝行為をして冒険者を呼び込むのはやってる人多いですからね~」
「なるほどなぁ……」
冒険者を生きる屍としてDPを搾り取るより仲間の情報を売る方が罪深いらしい。ダンジョンマスター……恐るべし。
「参考までに……他に違法なDPの稼ぎ方ってどんなのがあるの?」
「ふむ、最近話題になったのだと……家主がいましたね」
「あ~、話題になりましたね!」
「……家主って何?」
「ダンジョンマスターは一定の土地が与えられるわけです……勿論地上にも」
俺で言うとこの森の中にある平原地帯が与えられたエリアだな。面積自体は広いけど……どんだけ土地が広くてもDPがないからあんまり意味がないわけだ。
「その地上に住宅を何個も建てて冒険者にお金を貰って貸しているダンジョンマスターが問題になりました」
「しかも地下にダンジョンを作る事で定期的にダンジョンに入って貰い入場DPも稼ぐという徹底ぶりだったんですよね!」
「……へー、ダメなのそれ?」
「ダンジョンの使用方法として適切ではないので禁止になりました」
要するにダンジョンマスターじゃなくてマンションオーナーになってたからダメという事か。というかよく色々思いつくなぁ、俺全然思いつかないんだけど……。
まぁ、変な事やって上に目付けられるより堅実にやった方が良いに決まってるよな!
「という事は……一見やばいように見えてダンジョンマスターらしくはDPを稼いでいるのか」
「……そう、だから問題ないわけ」
「人としては問題大アリだと思うが……まぁいいか」
何とか自分を正当化しようとしているのが見え見えであったが……これ以上問答をした所で別に得る物が何もないため止めた
「……そういう瑠比はどうやってDPを稼いでるの?」
「……」
「何で黙るの! 私が言ったんだから瑠比も言ってよ!」
救いの目をダンジョンコアに向ける、視線を逸らすダンジョンコア……ひどい、助けてくれよ!
「マスター、先程クイーンヴァンパイアとダークドラゴンナイトを見ましたよ! きっと凄く稼いでいますよ!」
「えぇ!? 50万クラスを2体……やるわね」
凄く尊敬の目で見られているが全然嬉しくない、何故なら騙しているようで罪悪感を覚えるからだよ!。
「……ダンジョンコア、ここの事情はサヤに伝えてないの?」
「……伝えていません」
「あれ、親友には伝えてるものだと思ったけど……」
「心配を掛けたくないのと……私にもダンジョンコアとしてのプライドがあります」
小声でやり取りする俺達、俺は知り合いが居ないのもあって別に恥ずかしくもないが……。
ダンジョンコアは、コア同士で繋がりがあるだろうしダンジョンコアなのにダンジョンが無いなんて恥ずかしいなんてレベルじゃないだろうな……。
「そうだなぁ……まぁ、冒険者を倒してたらDPなんて自然と貯まるさ」
「……かっこいいわね、ダンジョンマスターらしいわ」
「正統派ダンジョンマスターという奴ですね~!」
「……」
何か言いたげそうなダンジョンコア。城下町で働いたり冒険者として他人のダンジョン攻略してお金稼いでますなんて言えるはずがないから仕方ないだろ……。
「あ、そうだ! ナ……」
「……」
「……ダンジョンコアちゃん、私あれが見たいなぁ~」
「マスター、サヤはブラックアイテムが見たいそうですよ」
ブラックアイテム……あぁ、レインボーソードの事か。
それよりもサヤがナシコイと言いかけたのをダンジョンコアが睨んで止めさせたように見えたのに気を取られていた。
すぐ帰って惰眠を貪りたいとか言っていたサキも折角だから見たいと言ってきたので最深部まで案内する。
「わぁ、これがブラックアイテムですかー! 初めて見ました!」
「こんな入口付近に設置するなんて……余裕あるのね」
「「……」」
どうやらメイは、ダンジョンはまだ続く物だと思っているらしい。勝手に勘違いしている分には都合がいいかと思ったので俺とダンジョンコアは何も言わないでおく事にした。
「ところであそこに置いてあるやけに豪華なベッドは何……?」
メイが指差した先には、パーティー会場で貰った無駄に豪華な寝具が置いてあるその上には祭りで疲れたであろう3人が爆睡していた……。幸せそうに眠っていて羨ましいなぁ。
「あれは、この前行ったパーティーで貰ったんだよ」
「ダンジョンコアちゃんから聞きました! モンスターデュエル大会で優勝したんですよね~」
「やるわね……というか50万クラスの魔物を召喚してれば勝って当然よね」
初戦は結構危なかったけどな……。
というかダンジョンコア優勝した事ちゃっかり自慢してない? ダンジョンコアの方を見ると目線を逸らされた……最近目を合わせてくれないんだが反抗期なのだろうか。
「……あ、そうだ」
ふと思い出したかのようにダンジョンコアに声を掛ける。ダンジョンコアも頷いて胸に手を突っ込んでプレゼント用に綺麗な包装をされた木箱を取り出した。……なんて所から取り出してるんだろう、一瞬ドキッとしてしまった。
「マスターからプレゼントです」
「わぁ~! 私にですか?」
「欲しがっていた調理器具をマスターが買ってくれましたよ」
「ありがとうございます~! とっても嬉しいです」
満面の笑みを見せるサヤ、そのまま何を思ったか突然ハグして来た、かなりフレンドリーな性格だなぁ……。
「いいな~、私にプレゼントはないの?」
「いや……メイと会ったの今日が初めてだし」
何か俺の周りにいる女性陣は、やけにプレゼントを求める気がするのだが……そんなにプレゼントって欲しい物なのか?
サヤに抱擁されている時にダンジョンコアと目が合うが……。
「……」
「……」
無言でこちらを凝視し続けるダンジョンコア……表情から感情が読めないため今何を思っているのかわからない。
しかし、どこか恐怖を覚えたためずっとハグしているサヤを引き剥がした。
「あ、全自動処刑機のメンテナンスの時間が迫ってました。そろそろ帰らないと」
「もうそんな時間なのね……寝る予定だったのに結局ずっと起きてたわ」
「ん、帰るのか」
「今度こっちのダンジョンにも遊びに来てよ」
「そうだな……時間あったら行きたいな」
他人のダンジョンに行ったのはシロと行ったおっさんのダンジョンくらいしかないから内部を細かく見てみたくはある。
全自動処刑機はあんまり見たくないけど……。
「じゃあ、さようならまたね瑠比!」
「今日はありがとうございました! また遊びに来ますね~、ダンジョンコアちゃんもまたね~」
「おう、またな~」
「今日はわざわざありがとうございました」
サヤは何やら瞬間移動の呪文なのか知らないが一瞬で身体がどこかに飛んで行った。メイの幻影も静かに消えた、そしてその場には俺とダンジョンコアだけが残った。
「あー……凄い疲れたなぁ。俺も寝ようかなぁー」
「マスター」
「……んー?」
疲れのせいかぼーっとしていた俺に突然抱きついてきたダンジョンコア……。
「……はい? ダンジョンコア?」
「……」
「あの……ダンジョンコアさん?」
「……」
10秒くらいだろうかどうしていいのかわからずにその場で硬直していた俺からゆっくりと離れていくダンジョンコア。
「……どうしたの?」
「いえ、抱擁とはどのような感覚なのか確かめたかっただけです……そこまで良い物じゃありませんね」
スタスタと歩いて行くダンジョンコア……一体何だったのだろう。というか勝手に抱きついて良くなかったってひどくない!?
ダンジョンマスターですがダンジョンマスターって大変ですね。
気がついたら評価が150を超えていました。
本当に皆様ありがとうございます!