第九話「初めてのお祭り」前編
どうも魔王軍の幹部であるおっぱいお姉さんの視察を乗り切ったダンジョンマスターです。
いやー、あのお姉さんちょろかったですね~、とまぁ、危機的かと思われた状況を乗り越えて現在俺達は城下町に来ている。それは何故かというと……。
「おぉ!? 屋台が沢山あるぞ!」
「マスター、マスター! あそこに置いてある肉の塊はなんですか!? 是非食べてみたいです!」
「うぉーーー! 色んな素材が売ってあるぞ! おい、あの店に行くぞ!」
「まてまてまて、全員止まれ! おい、動くな!! 散るな!!!」
「……皆楽しそうですね。マスター」
「……そうだな」
俺達が城下町に来た理由だが本来は、ダンジョンコアの親友であるサヤが遊びに来るとの事で、スーツを貸してくれた礼に何かプレゼントでも買ってやるかと俺が言ったからだ。
お金がないんじゃないかと思うだろうが、あのおっぱいお姉さんが案内してくれたお礼に1000Gくれたので祭りで遊ぶくらい余裕なわけですよ。
そう言ったら皆、自分にはプレゼントしてくれないのに他の女の子にはプレゼントするのかという小言を言ってきたが……。そのうち余裕が出来たらしてあげようとは思う、という事で城下町に俺とダンジョンコア二人で買い物に行こうとしたのだが。風のうわさでちょうどお祭りをやっていると聞き折角なので全員で来たのである。
ちなみにこの祭りが何の祭りなのかまったく知らないで来たがどうやら王の生誕祭らしい。王様がわざわざ挨拶していたので顔を見てみると、白い髭を蓄えた以下にも西洋RPGに出てきそうなテンプレート王様だったために速攻で興味が無くなった。美少女だったら誕生を心の中で盛大に祝ったのに……。でもそれだと王女になってしまうのか? などというくだらない事を考えるのは止めにして皆の方を見る。
「皆祭りとか行った事ある?」
「妾は祭りに来るのは初めてじゃ!」
「私も家が厳しかったので……しかし、実際来てみると輝かしい所ですね!」
「俺様も……こっちの祭りは初めてだな」
「ダンジョンコアも初めてです。他のダンジョンコアから情報は聞いていますが」
「まぁ、難しい事はなく楽しめばいいよ」
3人共目を輝かせながら屋台をキョロキョロと見渡している。ダンジョンコアも周囲をキョロキョロと見ているのは慣れてないからだろうか。何だかかなり微笑ましく感じる
「で、クロはこの屋台の肉が食べたいんだっけ」
「はい! 是非……是非に!」
「わかった、わかった。皆の分も買うから待っててな」
屋台の前に立ち商品を見る、現実世界で言うケバブみたいに牛肉の塊が屋台の中に吊るしてある。それを切った部位を目の前で焼いて野菜と一緒にパンに挟んで出してくれた。ケバブ的な食べ物と言っていいのだろうか。香辛料の匂いがとても美味しそうである。それを人数分皆の所に持っていく。
「ほら、買ってきたよ。牛肉サンドだって」
「わぁ!? 美味しそうですね!」
凄い勢いでかぶりつくクロ……。ブランもダンジョンコアもクロほど勢いよくはないかが齧りついて食べている。
「ん、どうしたシロ。食べないのか?」
「いや、どうやって食べていいかわからん……」
「そのまま齧り付けばいいじゃん。首元から血を吸うイメージで」
「……妾は直接血を吸った事などない。いつもグラスに注がれた物しか飲んでおらん」
そういえばシロとクロはお嬢様だったな……。クロはとてもお嬢様に見えない齧りつきをしているけど……。
「この前食べた牛串みたく齧ればいいよ」
「あれは持ち手があったからのう、それに齧りついたら肉汁が飛び散りそうで怖いぞ……」
要するに大きなハンバーガーをどうやって食べればいいのかわからなくなっている人だな、シロは口が小さいので食べにくいのかもしれない。
「どうしたのですか女王様、食べないのですか?」
「む……犬は関係ない!」
「ブラン、シロは牛肉サンドの食べ方がわからないらしいから食べさせてあげて」
「それでしたらこの犬におまかせください! はい、あーんしてください!」
「な、何で犬に食べさせ……ちょ、ま、まて。口元に近づけるなー!!」
楽しそうにじゃれ合う2人を眺めていたらクロが近づいてきた。
「マスターマスター!」
「どうしたクロ?」
「今度はあれを食べてみたいです!」
「どれどれ」
クロの指差す屋台を見てみると何とそこにはたこ焼きがあった。この世界にもたこ焼きが存在するのか……、俺も久しぶりに食べてみたかったので屋台に並んで見る。
「親父、これって……たこ焼き?」
「おぉ! たこ焼きを知っているのか。美味いぞ~、彼女の分と合わせて2つどうだい?」
「か……彼女だなんて、私とマスターはそんな淫らな関係じゃありませんよ!」
顔を真っ赤にして首を横に何度も振って否定するクロ。クロ的には恋人は淫らな関係なのか……? それは置いといてこの親父に聞きたい事があった。
「……何で親父はたこ焼きを知ってるの?」
「いやー、実はね。知り合いの冒険者がダンジョンマスターと知り合いでな、異世界の料理を教えて貰ったんだよ」
「あー、なるほど」
俺が前に魔貴族の所でカレーを作ったように異世界から転生した他のダンジョンマスターがたこ焼きの存在と作り方を教えたのだろう。
「もしかしてあんたもダンジョンマスターかい? そこの彼女にマスターと呼ばれていたけど……」
「で、ですから彼女ではありません! わ、私とマスターはもっとこう……王と騎士のような立派な関係で……」
「さぁ、どうだろうね」
ダンジョンコア曰く、ダンジョンマスターである事を冒険者や一般市民に知られるのはよくないらしい。基本的には魔物を生み出し災害をもたらす存在なため人々に警戒されているとか。中にはたこ焼きを教えたダンジョンマスターのように利害関係を結んだりしている奴もいるみたいだけどな……。
「ダンジョンマスターだったとしても言いふらしたりはしないさ。俺も教えて貰ったたこ焼きで利益を上げてるからお互い様だ」
「まぁ、お互い何も聞かなかったって事で……たこ焼き5つくれ」
「ありがとう、25Gだ!」
「たけー、生地にタコ入れてるだけだろ! 15Gにまけろ!」
「折角いい感じに終わり掛けてたのに値切るのかよ! この生地作るのに苦労したんだぞ!」
「知るか! 高い物は高いんだよ!」
たこみたいな頭をした、たこ焼き屋の親父とバトルを繰り広げ何とか20Gにさせた。それでも俺からすると高く見えるが祭り価格という事で何とか納得した。
「美味しいですねぇ~たこ焼き」
「クロさん食べるの早くない? 6個のたこ焼き3歩で無くなってるけどどうやったの?」
「あ! マスター、あの食べ物も美味しそうですよ!」
「待って、まだたこ焼き届けてないから落ち着こうね!」
クロは食べ物に目がなさすぎるので困った物だ。食べてる姿は結構微笑ましい物はあるが食べるのが早すぎるのでその光景もすぐに終わってしまう、とりあえず熱々のたこ焼きを3人の元に持っていく。
「はい、皆たこ焼き買ってきたよ」
「む、たこ焼きとはなんじゃ?」
「まぁ、俺の世界の食べ物かな……所でブランは何で下半身土に埋まってるの?」
「調子に乗ったバツじゃ!」
「そう……とりあえず皆の分のたこ焼き置いとくね」
「まてー! たすけろー!」
「ほれ、犬。妾が食わせてやるぞ」
「待ってください! そんな熱いのを口元に近づけたら……ぎゃー!!!」
何か悲鳴が聞こえた気がするが気の所為だろう。何かあったとしても俺にはどうしようもない。ふと周囲を見てみるとダンジョンコアが少し離れた場所から祭りの様子を見ていた。
とりあえずクロに100Gくらい渡して好きなの食べてきていいよと言っておきダンジョンコアの元に向かう。
「どうした、ダンジョンコア。お祭りつまんない?」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「それならいいけど、何見てるんだ?」
「お祭りに参加している人々を観察していました」
人間観察的な趣味だろうか……? うちのダンジョンにお金がないばっかりに自己紹介の時に言ったらかなりやばい奴扱いされるであろう趣味を身に着けてしまったのかと心配になってしまう。
「マスター」
「……ん?」
「ここに来れてよかったです」
「それはよかった……」
そんなに人間観察が出来て楽しかったのだろうか……。俺がどうコメントしていいのかわからなくなっている所にダンジョンコアが一言……。
「マスターに出会えてよかったです」
「……」
いつも通りの無機質な瞳、ただ口元が少し微笑んでいるように見えたのは俺の見間違いだろうか。相変わらず人混みを眺めるダンジョンコアとそれを見守る俺。暫しの間会話もなく周囲の喧騒だけが聞こえる空間がここにあった。
「マスターマスター! 屋台の食べ物はあらかた食べ終わりましたよ!」
その空間も5分くらいで無事にぶっ壊れた。
……
…………
………………
その後まだ土に埋まっていたブランを掘り起こして屋台巡りを継続した俺達。食べ物はもう満足したので食べ物以外の屋台を中心に見ていく。色んな地方から商人が来ているようなので様々な特産品が並べられている。
東洋風の刀、日本刀というよりは青龍刀に近い物や怪しげな壺やら絵なども並んでいる。こういう物は基本的に観光客相手で値段が高いと相場が決まっているので買う気は更々ない。
「うむ? 何やら並んでおるぞ?」
「本当ですね。何の食べ物を売っているのでしょうか」
「……並んでいるからといって必ずしも食べ物の屋台ではないのでは?」
ブランがクロに突っ込みを入れるのを聞きながらその屋台の方に向かってみる。……福引屋? 屋台の看板に書いてある文字にはそう書かれていた。並ぶ客は木で出来た箱の中に手を突っ込んでいる。
「何だこの店……」
「お一人様1回のみでクジが引けるようですよ、マスター」
「一回10Gかよ……無理に引かなくてもいいだろうし先に行こうぜ」
「むー、折角祭りに来たのじゃからクジくらい引いてみたいぞ」
「そうだそうだ! 祭りのノリもわからぬ奴め!」
「クジを引くと何か食べられるのですか?」
約一名何か趣旨を勘違いしていたがノリの悪い奴と思われるのも癪なので全員に10Gを握らせてクジを引かせてみる事にした。ワクワクしながら各々手を入れてクジを引いている。
「おぉ、5等の取れたて野菜が当たったぞ! 当然トマトを選択する!」
「9等か! ……何だこれ?」
「あぁ、それは俺の娘が粘土で作った人形だよ。いや~、あの子人形作るのにはまっちゃってね~」
「そんなもの景品にいれるなー!!」
「クジを引くと飴が出るのですね。初めて知りました」
参加賞である水飴を舐めているクロ……幸せそうだからいいか。そしてトマトを美味しそうに齧るシロに水飴を無表情で舐めるダンジョンコア。
……埴輪みたいな粘土で出来た人形を片手に困惑しているブラン。10Gの商品ではなかったが各々が楽しそうなので良しとしよう。
「よし、次行くか!」
「待ってください、マスター」
「ん?」
「マスターもクジを引くべきだとダンジョンコアは思います」
「……俺も?」
「そうじゃ! こういう運が絡む物はマスターの出番じゃ!」
「お前の豪運はこんな時にしか役に立たないのだからとっとと引け!」
正直この世界に来るまで運が良いと思った事は一度もなかったのだが……。
こういう祭りのクジってどうせ1位が抜かれていて当たりが出ないようになっているはずだ、簡単に一等を取られたら稼げなくなってしまうからな!
「マスター美味しい物が出たらちょっと分けてくださいね!」
「……まぁ、一応引くかぁ」
やる気無く手を箱の中に入れて中に入った紙を取り出す。しかしそこには何等かを表す数字が書かれていなかった。
「……ん? 特??」
「おぉ!! おめでとうございまーす!!! 特賞です!」
「……はい?」
親父が投げた紙吹雪が周囲に舞い散る……そして鳴り響く銅鑼の音ってうるせぇ!!! 普通こういう時ってベルだろ!! 戦に行くんじゃねぇんだぞ!
「いやー! お客さ……が……ね!」
「銅鑼の音がうるさすぎて聞こえねぇよ!! 鳴らすのを止めろ!」
「あぁ、東洋の商人から貰ったんだが音が大きすぎたか……」
「……それでこの特賞って何?」
「これがその特賞の観光招待券です」
チケットらしき紙を2枚受け取る、我がダンジョンの同居人達も全員覗き込んでくる。
長方形の紙に南国のヤシの木にプールの絵が何故か書かれており右隅にどこかの国王であろう捺印が押されている。
「……これ何?」
「エノルル地方という超有名なリゾート地方があるのですがそこで最高級ホテルの宿泊券です! なんと二泊三日ですよ!!」
「お……おぉ!?」
「マスターはやはり運だけはいいのう!」
「さすがだ! 運だけが取り柄の男なだけあるな!」
「食べ物ではないのですか?」
何故だろう全然褒められている気がしないぞ。そして俺は特賞を引き当てたわけだがそこまで喜びがこみ上げては来ていない。
何故か? それは今までの経験から推定すると……碌でもないオチが待ってそうだからだ。
「ダンジョンコア……」
「はい、何でしょうかマスター」
「このエノルル地方ってどんな所か教えて」
「わかりました」
ダンジョンコアによる説明が入る。何々、エノルル地方はここから馬車などで半月ほど移動した所にある場所で一年中暑い所らしい。綺麗な海や自然に恵まれており海沿いにはリゾートホテルが並ぶセレブ御用達の場所らしい。
「へー……で、ダンジョンコア」
「はい」
「本当にそれだけ?」
「マスターは勘が良いですね。それだけではありません」
「やはりな……」
何でもこの地方にある冒険者ギルドとダンジョンマスターの派閥が抗争を起こしているらしく。
ダンジョンマスター側が故意的にリゾート地に魔物を放ったりしていてかなりやばい状況らしい。……なるほどねぇ。
「クソ親父!! 何が特賞だ! 絶対これ売れないから押し付けただろ!」
「……何のことやら」
素知らぬ顔で紙吹雪を箒で片付ける屋台の親父、この野郎……。
というかダンジョンマスターと冒険者ギルドの抗争ってやばすぎるだろ、俺がダンジョンマスターってバレたら冒険者に処刑されそう……。
「……これどうしよ」
「まぁ……行くかどうかは置いといてとりあえず貰っておけばいいのでは?」
「そうするか……」
とりあえずポケットに観光招待券を仕舞いつつ屋台巡りを続ける……、と言ってももう大体見て回ったので目新しい物も特にはない……と思っていたのだが。
「……」
ダンジョンコアがとある屋台の前で足を止めた。そしてその中にある商品を見つめ始めた。
「む? どうしたのじゃダンジョンコア」
「……いえ」
ダンジョンコアが何かに興味を持つ事が気になったので俺もその商品を見てみる事にした。
そこには紫色の宝石が置いてあった、大きさはピンポン玉レベルで色はどこかくすんでいる。正直言ってあまり商品状態は良くなさそうだ。
「ダンジョンコア、これが欲しいのか?」
「……」
返事もなく宝石を見つめるダンジョンコア、物欲の無いダンジョンコアがものを欲しがるのは珍しいので買ってあげようと思う。
とりあえず値札が付いていないので店主のおばあさんに値段を聞こうとした時にダンジョンコアがようやく口を開く。
「これは……」
「うん?」
ダンジョンコアが言ったその一言を咄嗟に理解する事は……俺にはできなかった。
「私の妹です、マスター」
「……は?」