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番外編2「自由のないクイーンヴァンパイア」

本編に出てくるクイーンヴァンパイアのシロが相川の元に来る前のお話。

ギャグ要素は少なめです。

 妾は誇り高きクイーンヴァンパイアじゃ。今は……特にやる事もないので寝室でゴロゴロしておる。

 やる事がないのは今日だけではない、毎日毎日屋敷の中で楽器を弾いたり読書をしたりするくらいかのう……後は食べて寝るだけじゃ。これは妾が進んで怠惰を貪る愚者になっているわけではない


 クイーンヴァンパイアという種族は魔族の中でも強者の部類に入る。優秀なダンジョンマスターに仕えたり能力が良いと魔王様の下で働く事も可能じゃ。


 妾の一族はクイーンヴァンパイアという種族の中でも上位5本の指に入る名家……。しかし、跡継ぎが妾一人しかいない、所謂一人娘という奴じゃ。他のクイーンヴァンパイア達は社会勉強で外に出ているというのに……過保護過ぎる父上が悪いのじゃ!


「お嬢様、夕食の準備が整いました」


「……うむ、すぐに向かう」


 妾の部屋に召使が足を運びいつものように声を掛けてきた。黒い髪に赤い目、真っ白な肌。この召使は元人間の女じゃ、市場で売られているのを父上が買い付けたそうじゃが……。


 元人間の召使は何人も居るが父上の趣味じゃろうか? 何故元人間なのかというと全員父上の血を与えられておるから半吸血鬼みたいなもんじゃな。こいつの事はメロと呼んでおる、これも父上が与えた名前じゃ。メロに扉を開けて貰い、入った先では既に父上と母上が席についていた。


 初老の夫婦を想像して貰うのがわかりやすいかのう、吸血鬼に年齢など死ぬその日まで殆ど意味をなさないが二人は吸血鬼の中でもかなり年齢が高い部類じゃ。若く見せる事も出来るのに敢えてこの姿にしているのは自分達なりに考えがあるのじゃろう。


「どうした? 早く座りなさい」


「今日はあなたの大好きな鶏肉のトマトスープ煮よ」


「おぉ! とても美味しそうじゃな!」


真っ赤なスープの中には鶏肉以外にもジャガイモや人参などの野菜が煮込まれている。吸血鬼なのに血は飲まないのかじゃと? 血は味の当たりハズレが激しいので必要な時以外はあまり飲みたくないのじゃ。知り合いに味覚が子供だと言われた事があるが違うぞ、むしろ繊細な味覚だと自負しておる!


 並べられていく料理を食べ終えて食後のトマトジュースが運ばれてきた。父上と母上は人間の血を飲んでおる。召使が獲物を解体し搾取した新鮮な血液であろう、本来ならば優雅なティータイムとなるが今日の妾は違うぞ、この二人に交渉せねばならない事があるのじゃ。


「……父上、母上」


「うむ? どうした、味が悪かったか?」


「トマトの質が悪かったかしら、今違う物を持ってこさせるわね」


「いや、そうじゃなくてな……」


 さて、どう言った物かと悩んでしまう。心配そうにこちらを見つめる二人、意を決して口を開く。


「妾も外に出てみたいぞ!」


「なんだ、月の光を浴びたいならいつでも言いなさい」


「じゃあ、護衛にメロを連れていきなさい。朝日が昇るまでには戻ってくるのよ」


「ちがーう!!」


 妾がなるべく驚かせないようにやんわりと伝えた結果、ただ散歩に行きたいだけのように捉えられてしまった。仕方ない、思い切って伝えるしかないようじゃな。


「他の子達のように妾も外の世界に出てみたいのじゃ!」


「「……」」


 困ったようにお互いを見つめ合う二人。どう言い聞かせようか迷っているようじゃな。しかし今日の妾は一歩も引かぬつもりじゃ!


「外の世界に行って何をするんだい? お前が思っているほど綺麗な世界じゃないぞ」


「そうよ……、外の世界には危険が沢山あるのよ。もしもあなたに何かあったらお母さんショックで灰になっちゃうわ」


「妾がそこらへんの奴に負けるわけなかろう! それに他の家の子達は皆ダンジョンマスターの召喚に応じたりしておるのじゃぞ! 妾も社会勉強で外に出たいのじゃ!」


「よそはよそ、うちはうちだよ」


「そうよ、それにダンジョンマスターなんて皆自分勝手でどうしようもない生き物って聞いたわよ?」


「うむうむ、何でも知らない世界から来た者が勤めているそうじゃないか。そんな得体の知らない者の下に就かせるわけにはいかない」


 その後1時間ほど問答を繰り広げたが……。向こうが折れてくれる事はなく疲れた妾は一時撤退する事にした。


「はぁ……どう説得すればあの頑固な二人は納得するのかのう……」


「お嬢様……」


「む……メロか」


 妾が途方に暮れて自室のベランダで魔界独特のどす黒い空を見上げている所にトマトアイスを持ってきたメロが立っていた。


「お疲れのようでしたので……こちらをどうぞ」


「すまんのう、ありがたく頂くぞ」


「また何かありましたらいつでもお呼びください」


「うむ……」


 貰ったトマトアイスを受け取るとメロが音も無く下がっていく。


「む、待てメロ」


「何でしょうか?」


 妾が声を掛けるとすぐに目の前に戻ってきた。メロを見て思い出した事がある、メロは元々外の世界出身だという事を。


「メロは父上に拾われるまでは外の世界に居たのじゃろ? どんな所だったのじゃ?」


「……私の過去などつまらない物ですよ。それに私の過去は醜いので聞くに耐えないかと」


「何を言う、どんな人物であろうと生きてきた歴史がつまらないわけがなかろう。それにメロは醜くなんてないぞ」


「お嬢様は優しいですね……。そうですね、私の覚えている範囲でよろしければお伝えします」


「うむ、頼むぞ」


 今まで知らなかったメロの人生を聞く、物心付いた時から孤児院に居たそうだ。両親には会った事がないと言う、少し悲しくなったが父上と母上が私達を親だと思ってくれて構わないとか言ったらしい。


 まぁ、あの二人はかなり優しい性格じゃからのう。優しすぎるせいで妾は苦労しているのじゃが……。 話を戻すとして、人間の年齢で二桁になった時に労働力として他所の家に引き取られたそうだ。最もその家での扱いはだいぶまともだったらしく簡単な雑用をこなしていたらしい。


 しかし、人間の賊が家のある村を丸ごと襲ってそのまま拉致されたとの事。その後の事はあまり詳しく語ってくれなかったがきっと辛い目にあったのじゃろうな……。その山賊もまた魔族に襲われメロは魔界の市場に商品として流された。後は食料になるか何かの実験道具になるかという所を父上が拾って家に来たというわけじゃな。


「……というわけで、外の世界は文献で見るような明るい事ばかりではないですよ」


「まぁのう……それはわかっておるが……」


「お二方も私のような境遇を知っているので外の世界をあまり信頼してないのですよ」


 あの二人が妾を心配しているのは嫌というほどわかっておる。しかし、ここで頑張ってメロだけでも仲間にしておかなければどうしようもない。頑張って言いくるめねば……。


「しかしのうメロ……よく考えてみてくれ」


「……? 何をでしょうか」


「あの二人はいつまでも妾を子供扱いし続けるじゃろう……。きっと妾が一人前の大人になってもじゃ。妾はずっとこの屋敷にいるのかえ?」


「あのお二方ならありえそうですね……」


「そんな事になったら妾は行き遅れてしまうぞ!!」


「……」


 口元を手で抑えながら目が泳いでおる。恐らくありえそうだなとでも思っておるのじゃろう……。


「確かに……お嬢様は溺愛されておりますからね。見合いとかもさせて貰えるかも怪しいですね」


「そうじゃろう? 今若い内にでも経験を積んで置くのが大切なのじゃ!」


「一理あると思います」


「そこでじゃ! メロに協力して欲しい事があるのじゃ」


「申し訳ありませんがご主人様の意に反する事は……」


「わかっておる。契約に反するほどではない簡単な事じゃ」


 メロが父上の眷属になる上で恐らく簡単な契約を結んでいるであろう。主人の意に反する事や危害を加える事は出来なくなっているはずじゃ。


「しかし……」


「妾が優秀な才女となるのはこの家のためじゃぞ? 協力してくれなくてもし将来妾に婚約相手がいなかったらメロにも責があるからの!」


「えぇ……それは困ります」


「ならばメロは妾に協力しなければならぬぞ!」


 どうしたものかと悩んでいたメロであったがどうやら観念したようじゃ。


「……わかりました。でも本当に簡単な事だけですよ」


「うむ、是非もないぞ」


「それで……私は何をすればいいのでしょうか」


「それはな……」


……


…………


………………


「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」


「うむ? どうしたメロ」


「お庭の事なんですが……」


「まぁ、ここでは何だからリビングにでも行って座りながら話そうか」


「対した案件ではないのですが……恐縮です」


 うむうむ、屋敷の中にいた父上にメロが声を掛けてくれた。メロに頼んだ事は単純で暫く父上を自室から遠ざけてくれというだけじゃ、今回たまたま自室に居なかったため庭に呼び出す必要もなく済んだ。


 何故自室から遠ざける必要があるかというと……。妾の目的が父上の自室にあるからじゃ。そんなわけで父上の自室にやってきた、誰も無断で入らないだろうという信頼のためか部屋には鍵がかかっていなかった。


「書類はどこじゃ……」


 そう妾の目的は書類、何の書類かというと父上の捺印が入ってある書類じゃ。


 魔族の間で様々な契約を交わす時に使われる書類なのじゃ、何故必要なのかというと妾がダンジョンマスターの元に行くために必要だからじゃ。ダンジョンの魔物として働く場合下級の魔物ならともかく、妾レベルの魔物はちゃんとした契約を元に召喚に応じなければならない。そうでなく無造作に飛ばしていては魔族からクレームがくるからのう。


「……見つけた。後はこれを記載して魔王城に送るだけじゃ」


 とりあえずお目当ての書類を見つけたので自室に持っていく事にする。帰りにリビングを覗いて見るとメロが頑張って話を続けていた。メロに感謝しつつ自室に戻る。


「さて……クイーンヴァンパイアとしてダンジョンマスターの召喚に応じる事をここに誓うと」


 本来なら細かい条件を色々付けられるのだが早く屋敷から出たかったので条件に『なんでも良い』と記載した。使い魔の蝙蝠に書類を魔王城まで送ってもらい、充実感に満ち溢れた妾はフカフカのベッドにダイブした。


「楽しみじゃのう~、どんなマスターの元に行けるのじゃろうか」


 空中に浮かぶ城……はたまた水中の中にある神殿。夢が膨らむのう! 期待に胸を膨らませてはいたものの直ぐに召喚されるという事はなかった。恐らく召喚の順番待ちであろうな。


 しかしいつ無断で書類を出した事が父上達に知られるとも限らないので出来る限り早く旅立ちたかった。今か今かと待ち望む日々を送っていると……その時はやってきた。 家族で食事を取っている時に妾の身体は光に包まれた。


「な、何!? 一体何が起きてるの?」


「ま……まさか、父さんの書類を勝手に使ったな!」


「ふふふ……すまんのう。父上、母上、でも安心するのじゃ! 妾は立派な淑女となって帰ってくるからのう!」


 光に包まれ屋敷から消える妾。その場に残されたのは父上と母上だけであった。


「やれやれ、仕方のない子だ」


「どうしましょう……」


「何あの子は強い子だ。心配は要らないよ……。ただ念には念を入れて魔王城にいる知り合いに確認させてみるよ」


「変な所に行かなければいいけれど……」


 目を開けると真っ白な光しか入ってこない。ここは一体どこだろう。


『クイーンヴァンパイア、あなたを呼ぶマスターがいます。召喚に応じてください』


 無機質な声が脳内に響く。ついに来たかとその声に力強く答える。


「うむ! クイーンヴァンパイア、召喚に応じるぞ。そのマスターの元に召喚せよ!」


『わかりました。マスター名、相川瑠比の元に召喚します』


 金色の魔法陣からかっこよく飛び出し着地する。第一印象が肝心という言葉をどこかで聞いたのでカッコつける事にする。


「クイーンヴァンパイア、馳せ参じたぞ。お前がダンジョンマスターか!」


 ……。まぁ、結論を言うなら妾はとんでもない所に来てしまったわけじゃが不思議と嫌ではなかった。初めての外の世界じゃ精一杯楽しんでいこうと思うぞ。


『さて、マスター。妾を退屈させてくれるなよ?』


皆様のお陰で100ptいきました。

ありがとうございます。

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