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山川と村木のダイアローグ再び

村木に呼び出されたのは一学期の終業式の日の夜だった。二人きりで話したいことがあると言われれたらもう断ることはできなかった。


いつかも呼び出されたファストフード店で村木を待つ。


「こんにちは、ここ空いてるかな」


目の前に座ったのは、見たこともないパンクでキュートな美形女子。


「勝手に座れよ。お前の席なんだから」


「つまんねえな。もうバレちゃったか」


「さすがに2度目はな。予感もあったし。話ってなんだ?」


村木は席に座るといきなり切り出した。


「俺、9月から留学することになった」


「え? マジかよ」


「ははは、これは驚いたか」


「なんでまた急に」


「まあ、元々、女装が噂になって付属高校にあがれなくなっちゃたし。倉田祭の女装でさ。親が懲りないのかって。ほとぼり覚めるまで、あっち行ってろだってさ」


「そりゃ、芝居でお披露目してたらな。でも演劇部の活動だろ」


「今もしてるでしょうが」


「ま、そうだけどよ。で、話ってそれか」


「一応別れの挨拶位はしておこうと思ってな。」


「いつから行くんだ?」


「8月の頭だ。花火大会。一緒に行きたかったんだけどな」


「そうか。残念だな」


しばらく沈黙が流れた。俺たちはただ見つめ合いながらそれぞれドリンクを飲むくらいしかできなかった。


もう、会えなくなるかもしれない。


そう思うとすべてのことを確かめたくなった。


だけど村木を傷つけることはしたくない。


遠回しな言い方になる。


「なあ、聞いていいか」


「そんなこと聞く前に聞けよ。どうせ答えたくないことは答えないだけだ」


「そうだな。お前、気持ちはどうなんだ。女の恰好してるけど喋り方は男だし」


「ああ、ビミョーなんだよ。女の子とHしたこともあるんだけど、あんまりいいとも思えなかった。女装は必要に迫られてやってるだけなんだけどな。まあ、正直、自分でもよくわかんないよ」


「そうなのか。って、まずはHしてくれた女の子に謝れ」



村木は曖昧に笑うだけだった。別にこれはツッコミじゃない。俺の本音なのに伝わらない。


「あとそれからな、女装の必要に迫られるってどんな時だよ」


「芝居とかモテない柔道部の奴らを救ってやるとき」


「そういや、ちゃんと礼を言ってなかったな。ありがとう。で、今日はなぜ女装?」


「礼なんていいんだ。好きでやってることだから。今日の女装はこの方がお前に伝わるかなって思ってさ。」


ふと疑問がわいた。


「お前って実は単なるいい奴なのか?」


「そうだよ。俺は単なるいい奴だけど、なにか?」


村木は小首を傾げ俺に尋ねた。


「いや、正直不思議だったんだよ。入学した時からお前みたいなリア充が桂木まで巻き込んで俺みたいな非モテに絡んでくるからさ」


村木は俺の目を見据えたままドリンクに手を伸ばしストローを咥えた。


俺も目を反らさず先を続ける。


「なにか俺に特別な思い入れでもあるのか? 今日も俺好みのファッションだし」


「そうか。ありがとう。お前にでも褒められるのは嬉しいもんだな」


「で? なんで妙に俺に絡んできたんだ?」


「お前、ナンパさせられたとき俺のこと見て馬鹿みたいに固まってたね。あれ、なんで?」


俺たちは見つめ合いながら村木はストローを俺はカップを口に宛がう。先に離したのは村木だった。


「復讐しなきゃ先へ進めないって言うけどさ。そんなこと忘れて自分の夢とか目標を追いけた方がよっぽどいいよね。そう思わない?」


俺はカップから一口コーヒーを啜る。


「意味わかんねぇんだけど」


俺は一言そういうとカップに口をつけた。


「そうか。昔、聞いたときさ、お前サーティーンのこと知らないって言ってたよな」


「ああ、知らないよ。そんなの。なんの関係があるんだ?」


「そう言うなら簡単に説明しておくけど。サーティーンってのは復讐代行人、金を出せば恨んだ相手を代わりに痛めつけてくれる。っていう都市伝説みたいな噂の人物」


「だから。なんの関係があるんだよ」


村木は俺の質問に質問で返してきた。


「高田さんって覚えているか。お前が彼女だとか大嘘ついてた人」


「当たり前だろ」


「彼女がサーティーンだったんだよ」


「おいおい、話が見えねえぞ。そんなことはわかってんだよ。俺のおでこに13とか書いてるんだから。何が言いてぇんだよ。はっきり言ってくれ」


「悪いな。これでもお前に気を使ってるんだぜ」


「そんな気を使わなくていいから、はっきり言えよ。何が言いてえんだよ」


「そう急かすな。俺だって、どう伝えればわかってもらえるかわかんないの。もう」


そういうと村木はスマホを取出し俺に差し出した。隠し撮りしたようで、少し離れた位置からの横顔だった。それでも誰だかはっきりわかった。高田さんだ。


「なんだよ。これ」


村木は首を振る。


「俺は興信所を使って調べたんだ。間違いない。高田さんこと13(サーティーン)はそこに住んでいる。高田ってのも偽名だ。本名、沢田鉄也。俺らとタメでお前と同じ中学出身」


「そっか? だから、なんだ?」


自分の言葉が耳を通り過ぎていく。


自分の耳じゃないみたいだった。


「それ動画だからしばらく再生してみて」


スマホの画面をタッチすると映像が動き出した。高田さんがどこかの洒落た高級そうなマンションのドアから中に入っていく姿が映った。


映像が一旦途切れるとまた同じマンションのドアが映し出されている。しばらくするとそこから男が出てきた。沢田かどうかは帽子のせいでよくわからない。


「うん、ゴメン。だから何? 高田さんが男と同棲してるって話じゃねえの?」


俺は膝が震えているのを感じていた。平静を装って村木の顔を見る。村木は悲しそうに目を伏せていた。涙で頬を濡らす村木を見ながらただ迷っていた。


なんで時々、女言葉なんだよ、ってツッコむか、覚悟を決めて村木と話し合うか。


それが問題だった。


村木がゆっくりと顔をあげた。村木の言葉を待った。そしていつかどこかで聞いたような途切れ途切れのか細い声が聞こえてきた。


「ねえ、高田さんって」


「なんだよ」


「男だったんじゃないの? 山川なら知ってるはずでしょ?」


涙で化粧の崩れた村木の顔。


やっぱりパンダみたいだった。


そう思ってしまったのだから仕方がない。

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