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ナンパ戦士の救出と解けない謎

 俺たちは駅前広場のベンチに集合していた。


 タイムリミットの午後6時まであと10分という時間だった。ナンパ戦士たちは傷ついていた。みんなベンチに腰を下ろし俯いている。


 頼りの田辺も結果を出せないでいた。


「悪いな。お前らも折角頑張ってくれたのにすまん。」


 絞り出すような声を出す田辺。


 誰も田辺を責める奴はいなかった。声をかけることはかけるが、無視され続けていた俺たちは途中で心が折れて声をかけるペースも格段に落ちてしまっていたのだ。


 一方、田辺は効率を上げるためには5人ばらばらで声をかけた方がいいのに、一人じゃ怖いと二人ずつチームわけした俺たちと違って、少しでも効率を上げるために一人で声をかけ続けていた。


 ナンパで成功できなかったときのペナルティを上乗せさせてしまったとはいえ、そんな田辺を責める奴なんているはずがなかった。


「まあ、女装で花火大会もおもしろそうじゃん。」


 誰かが言った。


「いい経験したよ。これからは、演劇部関係なしにナンパしに来ようぜ。今度はうまくいくかも」


 誰かが言った。


「花火大会でさ。女装でナンパもあり、かもな。」


 誰かが言った。


 みんな笑った。力のない笑いだった。


 俺はそんな中、考え続けていた。なんで俺たちはキレイな女の子に相手にしてもらうためにこんなに努力しなくちゃいけないんだろう。


 少なくても俺が好きなライトノベル小説では高校に入ったら可愛い女の子たちが周りにいて、主人公たちは、ただそこにいるだけで愛されているじゃないか。


 そんなやり場のない怒りが頭の中でぐるぐると回り続けていた。繁華街のいい時間だ。いちゃつくカップルが目立つようになってくる。そんななかには、俺たちと対して見た目も変わらないような奴が綺麗な女の子を連れて歩いている。


 俺たちは少なくても勇気をだして50人くらいには声をかけた。彼女がいる奴はこれ以上のことをしているとでもいうのか。クソっ。ここで、終わっちまったら、人ごみの中をあてもなくぶらつくただのモブキャラだ。


 俺だけじゃない。


 柔道部の仲間たちもだ。


 このまま終わるのだけは嫌だ。


 ただ、そんな思いで顔をあげて前を見据えて気が付いた。


「え?うそだろ。」


 思わず声に出していた。


「どうした?


 田辺の声を無視して俺は思わず駆け出していた。人ごみの中でチラチラと見える後姿。


 少し背は伸びたみたいだけどギャル風の染めた髪とファッション。それに似合わない少し内また気味の足の運び方。間違いない。


 そのギャルは俺が中二の時に沢田達から助け出したあの女の娘だった。


「ちょっと待って」


 声をかけても立ちどまろうともしない。むしろ歩くスピードが少し早くなった。


 怪しまれた。


 俺もスピードをあげて彼女の前に立ちはだかる。


「邪魔なんだけど。」


 彼女の突き放すような低い声が耳のなかで木霊する。


 あのときと違って、メイクはバッチリ決まっていた。


 でもはっきりわかった。この娘はあの時の娘で間違いない。


 改めて見るとキレイな顔をしていた。


 そのキレイな顔を警戒心丸出しにして、俺を睨みつけている。


「ごめん、ナンパじゃないんだ。」


 そこまで言って我に返った。


 俺……


 何するつもりだ?


『君、2年前沢田達にひどい目にあわされたろ?あれ止めたの、実は俺なんだよね。今度は俺を助けてよ。女の子ナンパしなくちゃいけないんだ。』


 とでも言うつもりなのか。


 この娘にとって、絶対触れちゃいけない過去だろうが。


 汗が頬を伝わり顎の先から落ちていく。


 顔を拭うこともできずに俺はただ彼女の顔を見つめることしかできなかった。


「キモッ。」


 彼女は俺を押しのけるようにして行ってしまった。


 俺は振り返ることもできずにただ立ち尽くしていた。


 彼女の様子からは俺に気が付いたとは思えない。嫌な過去を思い出したようには

 見えなかった。


 俺は何度もそう自分に言い聞かせていた。


「はい、ドーン。」


 背中に衝撃。考え事に夢中になっていた俺はあっさりと膝をつく。何が起きたかわからなかった。ゆっくりと振り向くとそこにはさっきの彼女が立っていた。ニヤニヤ笑っていた。


「ナンパじゃないってなんだよ。ナンパだろ?」


「はい?」


 俺は立ち上がることも出来ずに彼女見上げながら言葉を待った。


「さっきからお前の周りうろついてやってたのによ。声かけんのおせーんだよ。」


「はい?」


「ナンパで連絡先きかないと困るんだろ?」


 俺はただ、コクコクと頷いた。さっきから頭が状況に追いついていかない。


 彼女は柔道部が座っているベンチの方へ向けて軽く顎をしゃくった。


「あいつらが証人だな。これからメルアド教えてやる。あーちゃんも知らない奴だから証拠にはなるだろ。」


 血が体の中を駆け巡る音が聞こえた気がした。


 脳みその右後ろの方でブーンと冷蔵庫が夜中に出すような音が響き始めた。


 歯が震えてうまくかみ合わない。


 頭のなかで言葉が浮かぶ。


 いろいろな言葉。


 それでも口から発することがなかなかできない。


「まだ、わかんねえのかよ。俺だよ。村木だよ。」


「わかってたよ……」


 呪いが解けたように言葉が出た。立ち上がり膝の汚れを払った。村木に言われるままにスマホをに渡す。すると村木は器用にメルアドの転送を終えた。


「じゃあな。田辺には見抜かれそうだから、俺はここで帰るぜ。このことは柔道部の奴らにも黙ってろよ。こういうのは知ってる奴が少ない方が上手くいくもんだから。」


 そういうと村木は俺にスマホを押し付け行ってしまった。少し先で振り向き軽く右手を振った。


 その顔にはとびっきりの笑顔が張り付いていた。


 村木はあの時助けたのが俺だってことわかってるんだろうか。


 そして、気が付いていないなら俺は自分から村木に教えてやって、忌まわしい過去に村木と一緒に立ち向かってやるべきなんだろうか、


 どう考えても結論はでなかった。


 それ以来、村木と二人きりで話すことはなくなり、俺は柔道部の危機を救った英雄として語られるようになり、演劇部女子もチョビ髭をつけることなく、中川も俺を指さしてクスクス笑うこともなくなった。


 そんなわけで演劇部との合同演目は裏方の俺たちも仕事を無事にこなし、客の反

 応も主役の村木の女装が大いに受けて盛況だった。


 演劇部女子と柔道部で花火大会に行くことになったのはとても自然な流れだった。


 こうしてリア充への階段をまたひとつ上った俺はふと思う。


 俺は成長しているのか? 


 それとも……


 嘘や誤魔化しが上手くなっただけなのか?

  

 いくら考えても結論なんて出せなかった。

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