遠足で女子の部屋に入れても浮かれるな! 俺たちの本当の戦いはこれからだ!
風呂の時間になって、裸の付き合いをしようと村木を誘ってみたけど部屋に備え付けの風呂でいいと断られてしまった。
他の奴らを誘ってみたけど、みんな部活の仲間と裸の付き合いしなくちゃと、たまたま同じ部屋に割り当てられた俺とは裸の付き合いをしてくれる奴はいなかった。
結局、田辺を誘って大浴場に向かうことにした。2クラスごとに順番に入ることになっていたから、1クラスに一人いるかいないかの柔道部のメンバーで、俺が風呂に一緒に入れるのは田辺だけだった。
かけ湯をして汗を流した後、田辺と並んで湯船につかる。
「どうだ、村木は。機嫌は直ったか。」
「まあ、普通にしてるよ。風呂には付き合ってくれなかったけど。」
「気をつけろよ。合同演目が上手くいけば、お前や他の奴らだって演劇部の女子と仲良くなれるんだから。」
「わかったよ。なあ、それよりさっきのお姉さんたちとの話はどうなったんだよ。」
「悪い。」
申し訳なさそうに頭を下げる田辺に俺は言ってやった。
「断られたか。まあ、そりゃそうだよな。まあ、良かったんじゃねえの。抜け出すの、バレたら、先生たちに怒られるだけじゃすまないだろうし。」
田辺は肩を落として俯いたままだった。俺は田辺の肩をたたき、励ましてやる。
「気にすんなって。ここは、学生らしく、女子の部屋に遊びに行くくらいにしておこう。」
「そうじゃねえんだ。」
田辺は呟くように言った。
「なんだよ。」
「お姉さんさ、村木を連れてきてくれって。」
「え?」
「悪い。遼太。俺、村木と行くから。ごめんな。」
拝むように手を合わせる田辺に何も言えなかった。田辺は、悪いな、そう一言、言うと一人で湯船からでてしまった。
俺は体を洗い始めた田辺の横顔を見つめ、田辺と村木とお姉さんが爆発することをただ祈る。
そうしているうちに田辺の野郎がやたらとアソコを洗ってやがるのに気が付いた。腹が立った俺は、湯船から出て体を洗う田辺の横に腰をおろした。
「楽しんで来いよ。俺は俺で女子の部屋で楽しむから。」
「そうか、それでこそ遼太だ。お互いガンバローぜ。」
ほんとにほっとしたような顔で田辺が言う。俺はボディシャンプーのノズルを何度も押して掌の大量のそれを股間に擦りつけた。田辺と村木よりも今日という日を楽しんでやる。
そう心に決めた。
◇◆◇◆◇◆
夕食の時間に食器を運んでいる桂木に声をかけた。消灯時間が過ぎてから部屋に遊びに行かせてくれと頼み込んだ。断られるかと思っていたけど意外とあっさりオーケーしてくれた。
「よかったよ。断られるかと思ってた」
「まあ、女子も楽しみにしてる子いるしね。あー君も来るんでしょ?」
「いや、あいつは疲れたからやめておくって」
いくら、俺がモテないからって、村木が女子から評判を落とすようなことはしない。
あいつのおこぼれをもらう作戦がうまくいかなくなったら困るからな。
俺は入学してからどんな時もリア充への布石を打っておくことが身についていた。
「ふーん。他に来るのは?」
「村木を抜かして俺と相部屋の奴みんな。5人だな」
「そう。じゃあ、みんなにも言っておく。おやつとか飲み物とか持ってきてよね。」
「ああ。」
そう言って桂木は女子のグループのところへ駆け寄って行った。
重大な交渉を終えた俺は意気揚々と相部屋の奴らに結果を報告した。みんなの顔が緊張から笑顔に変わる。
自分が英雄になれた気がした。
消灯時間が過ぎて間もなく俺は他の奴らを引き連れて外に出た。
村木は情報が漏れるとまずい、ということで相部屋の奴らにも仮病を使っていた。俺たちが出て行ったらタイミングを見て田辺と一緒に宿を抜けるという話だった。
もう夜中なのに、あのお姉さんやその友達に待っていてもらえるとはたいしたもんだ。
だが、うらやむ必要はない。俺は俺でクラスの女子たちとキャッキャ、ウフフワールドの住人となるのだから。
桂木たちの部屋をノックした。しばらく、反応がなかった。俺たちは顔を見合わせる。
嫌な予感しかしない。
小声で俺たちがどうするか相談し始めたころに、そっとドアが開かれた。瞬間、シャンプーのニオイに包まれた。
思わずニヤケてくる。
布団が敷き詰められた部屋のなかでみんなが思い思いに座る。照明は窓から外に光が漏れないようにしたからかテレビだけがつけられていた。
そんな薄暗がりの中、俺たちは貢物として持ってきたお菓子を適当に拡げた。
最初は男子同士、女子同士でぎこちなく喋っていた。盛り上げようといろいろ話しかけてみたが、俺のトーク力で突破できる壁ではなかった。
何となく白けたまま時間だけが過ぎていく。時々、テレビのなか笑い声だけが聞こえてきた。女子の誰かが言った。
「もう、遅いし、今日はこの辺にしない?」
俺はデジタルウォッチを確認する。俺たちが部屋に入ってから10分もたっていなかった。俺たちが顔を見合わせながら途方に暮れていると。ノックの音が響いた。みんなが息を呑むのが分かった。
「とりあえず、男子、押し入れに隠れて。」
桂木の声に弾かれたように俺たちは押し入れに潜り込んでふすまを閉めた。狭い押し入れの中、野郎同士で息を潜める。体が密着するし、何より暑かった。息苦しい中、声を出さないように口を押えていると聞こえてきた。
「キャー。マジ。」
「大丈夫?調子悪いって聞いてたけど。」
「あ、これ食べて。ねえ。」
「みんな、シー。声が大きいわよ。」
最後のセリフは桂木だ。女子たちが落ち着いたところで聞こえてきた村木の声。
「お前ら出てこいよ。ドアの前にカメラを仕掛けておいたから先生が見回りにくるとすぐわかるからさ。安心しろ」
襖をあけると、村木が立っていた。その手にはスマホが握られていて、なにかの映像を映し出していた。そして、その顔はくやしいくらいにさわやかな笑顔だった。
俺たちが出て行くと村木は俺の耳元で囁いた。
「お前、勃起してんの、まるわかりだぞ。」
俺は視線を落とすと確かにジャージの下で、俺の分身が自己主張していた。
『この俺様がこの夜を忘れられないものにしてやろうかっ!』
◇◆◇◆◇◆
村木の登場でテンションがあがった女子たちはよく喋った。さっきまでとは大違いだ。布団に寝そべりながら輪になって喋る。俺だけが押し入れに体の下半分を入れた状態でその様子を見ていた。
なぜかって?勃起が収まらないからだ。
当然の処置だ。
「ねえ、山川君もこっち来なよ。」
クラスメイトの中川が誘ってくれた。
「ああ、でも、ほら場所埋まっちゃてるしさ。それに俺、暑がりだからさ、ここが丁度いいんだ。エアコンの風があたって」
「いいのよ。あいつはあそこで頭冷やしてれば。」
俺の必死の説明に桂木が冷たく言い放つ。
爆笑が響いた。
「シッ。」
村木の短く鋭い声がみんなの笑いを留めた。緊張感が走る。
「隠れろ」
村木の声が響いた。
女子たちが一斉に自分の布団に潜り込む。当然、他の男子たちも一緒に布団に滑り込む。拒否られてる奴はいない。
それを確認すると俺も押し入れから抜け出し、中川の布団を少し捲って手を合わせてお願いした。
「頼む、中川」
「いやよ。何されるかわかんないもん。」
「何もしないよ。頼む。」
中川と見つめ合う中、ノックの音が部屋の中に響き始めた。しばらくして鍵を開ける音。そして間もなくドアを開ける音。
「テレビ消すよ。」
桂木が小声で言う。
「頼む。」
そう言い切ると中川の布団に潜り込む。
蹴りだされた。
懐中電灯が順番に女子の顔を照らす。くそ。押し入れに引っ込んでりゃよかった。戻るか。いや。この暗闇のなか、歩いたら他の奴らを踏みつけちまう。くそ。どうすんだよ。俺。身を守るために何をすればいい?
◇◆◇◆◇◆
「山川君なの、顔を見せなさい」
前川先生の声が響く。みんなが布団の中で息を潜める中、俺は、両膝を床につ き、両手を胸の前で交差させて襟元を掴んで額を床に押し付けていた。
亀と呼ばれる柔道の防御態になって間抜けな姿をさらしていた。
「あなただけ?」
「はい。」
「ついてきなさい。あと、みんな寝ているみたいだけど起きている人がいたら聞いて。次の巡回は岩本先生よ。わかるわね。」
前川先生は諭すようにそういうと部屋から出て行った。俺は先生の言いなりになるしかなかった。自分の部屋に連行されるその間、先生のスエットのお尻のあたりに現れるパンツの線を堪能することで、不安を紛らわせることしかできなかった。
分身の自己主張は収まることはなかった。
『このまま前川先生と夜の個人授業に突入せよ!』
もちろん、分身の自己主張を無視して部屋に戻り布団に潜り込む。眠れるわけなんかない。今頃あいつらは楽しんでるはずだ。俺という尊い犠牲の上で奴らのキャッキャ、ウフフな幸せは成り立っている。
岩本先生にこっぴどく叱られろ。廊下で朝まで正座でもするがいい。俺はこのぬくぬくした布団で朝までぐっすり眠らせてもらうぜ。
眠れるわけがなかった。
そんな想いが何十回かリピートされたあと他の男子ももどってきた。部屋に入るなりそれぞれの布団に飛び込んでいくのが気配で感じられた。
「おい、お前ら俺の犠牲があって楽しめたんだろ。話ぐらい聞かせろよ。」
どこかの布団の中からの返事
「大した事ねえよ。ちょっと話してきただけだ。あれからすぐに岩本が来てよ。俺たち速攻で逃げて来たんだから。」
「本当か?」
「本当だよ。明日詳しく話すからさ。もう、寝ようぜ。」
その言葉に俺はすっかり安心した俺は、女子の部屋で嗅いだニオイやパジャマ姿を頭に思い浮かべながら眠りに落ちていった。
気が付くと女の子が何人かが俺の胸のあたりを撫でている。俺の初恋の宮本も。桂木も中川も、前川先生も、あの時助けた女の子も。俺の体を撫でまわしながら口々に言う。
「好きよ。頑張るあなたが。」
「好きよ。やさしいあなたが。」
「好きよ。みんなの犠牲になれるあなたが。」
女の子の声で、好きよの声が続いていく。俺を撫でている手が暖かい。
「いいよ、もう気にしないで。終わったことだから。」
俺は頬に冷たいものを感じて目を覚ました。なぜか俺は泣いていた。そんなことどうでもよかった。
それよりも大事なことがあったんだ。
冷たいのは頬だけじゃない。
俺は涙が流れるままに夢精で汚したパンツを秘密裏に処分する作戦を考え始めていた。
ふと何かの気配を感じる。
そっと目を開けてみた。
目の前に誰かの顔あった。
「大丈夫か? なんかうなされてたぞ。」
村木だった。
「何でもないよ。」
俺はそういって布団をかぶることしかできなかった。布団をかぶった俺に村木は言葉を続けた。
「何でもない、か。なら、いいけどよ。一応言っとく。お前が布団かぶったとき、なんか臭ったぞ。早えとこ何とかしろよ」
布団をはねのけ言ってやった。
「だが、断る。」
村木はニヤリ、ともせず、窓を開けるとそのまま、布団に戻って行った。
俺はそれを確認するとコソコソとパンツを洗いに洗面所に向かった。