episode5 道化の素顔は如何なモノか
エミリア達と話してて分かった事が2つある。
1つは、自分は人と話すときに変な口調になること。
変というのは少し違うかも知れないが、お客様対応の口調になってしまうのが未だに抜けない。
前の世界では、人と話すときはずっとお客様対応の口調だったので、それが癖になってしまっていた。
こちらの世界でもこの癖は直っていないようだ。
そして2つ目はこの世界の事。
この世界は、エルナトと言われているらしい。
5つの大陸が存在しており、魔法も存在し、魔物と言われるモンスターまで存在しているらしく、それを倒したりしながら生活する冒険者と言う職業もあるとのこと。
更に、モンスターの巣窟でもあり、宝の山でもある迷宮と言われるモノまで存在する、本当にお伽噺のような世界だな。
5つの大陸には、1つの大陸に1つの国が存在しているのだが、人族至上主義の帝国と、亜人と言われる種族やエルフ等に差別意識がない王国は、1つの大陸に2つの国が存在しているので、表面的には争い事など無く良い関係に見えるが、裏では両国とも大陸を支配したいが為に、様々な工作をしているとの事で、もしかしたら戦争に発展する可能性もあるとかないとか。
後の4つの大陸には、亜人族至上主義の亜国、宗教至上主義の法国、エルフと呼ばれる種族のみが存在するエルフ国。
そして、国すら存在していないと言われている大陸は、暗黒大陸と言われているらしい。
未だに何があるのかすら掴めておらず、情報も取ろうと各国が手練れの者を送るが誰一人帰還することがなく、被害を出さぬ為に手を出さないというのが暗黙の了解である。
「と、言うことです」
「なるほど、よくわかりました」
「いえ、これぐらいの事でしたらいつでも聞いてくださいませ。それにしても、この世界の事を教えて欲しいとおっしゃられた時は少し驚きました」
「すいません、この世界の事は何一つわからなかったもので」
「い、いえ!きっと何かの事情があっての事だと思われますので気になさらず質問してください」
「そうさせてもらいます」
そして私は、王国へと戻るエミリアとスカーレットに頼んで、王国へと連れていってもらう為に馬車に同乗させてもらっている。
王国へと着くまでの間、エミリアにこの世界について色々と教えてもらっていた。
スカーレットは、馬を走らせているので馬車の外にいるから会話には入ってこないが、時折外からこちらチラチラ見ている。
「あ、あのクラウン様。一つお願いがあるのですが聞いてもらえますでしょうか?」
「私の叶えれる範囲内であれば」
エミリアは、こちらを見てはすぐに視線を外し、口をパクパクとさせて何かを言いづらそうにしているが、決心したのかこちらに視線を戻す
「その仮面を外して素顔を見せて頂けないでしょうか!?」
「ん?」
「い、いえ!そ、そ、その……助けて頂いた方の素顔を見なくては誰かわからず、お礼が出来ない事になってしまうかもしれないので」
何を言いづらそうにしているのかと思えば、仮面の事か。
確かに自分の命を救ってくれた人の顔を知りたいのは、女性なら当然。
お伽噺では、イケメンの王子様が窮地を助けに来て恋に落ちると言うのが定番で、この世界でもその認識は間違っていないのだろうか?
しかし、エミリアを助けたのは仮面を付けた男であり顔すらわかない。
ならば仮面の下の素顔を知りたいと言うのが本心で、お礼云々は建前なのだろう
「別に構いません、特に隠してる訳でもありませんから」
「で、では!」
「そんなに期待されても応えられませんよ?期待が外れてショックを受けても責任は取りませんよ?」
エミリアは、期待の眼差しをこちらに向け、痛いほどに視線が突き刺さる。このプレッシャーが凄い重く感じる
スカーレットも話を聞いていたのかチラチラ見ていたはずが、今ではじっとこちらを見ている。運転は大丈夫なのだろうか?
こんなに視線が痛いと思うのは久しぶりだな。
はぁ、イケメンの王子様でもなければ、男前でも無い顔に期待されても困るんだけど、見せればこの視線が収まるのなら見せて楽になりますか
内心で盛大に溜め息を吐きながら、視線が突き刺さる中ゆっくりと仮面を外しエミリア嬢を見る。
「これでよろしいですか?」
「……」
「……」
「どうかしましたか?」
エミリアは、こちらをぼーっと眺めており目の前で手を振っても反応が無い
スカーレットは、こちらの素顔を二度見してから自分の仕事を忘れたかのようにずっと眺めている
「言葉を忘れるほどに酷い顔ですか?少し傷つきます」
自分の顔は、それほどまでに酷い物なのだと言われている気がした。今の自分の顔がどうなっているのかもわからないが前の世界のままなら男前な顔をしているとも思ってはいないが、言葉を忘れるほどに酷い顔だとも思っていなかったので二人の反応に少し傷つく。
もしかしたら、完全な別人の顔になっているだろうか?
「もうよろしいですか?」
「はっ!!申し訳ございません!決してクラウン様の顔に見とれていたわけではございません!」
「仮面を付けている理由も何となく理解できた気がするな」
「ま、まさか本当に王子様のような方に助けて頂いたのですね!顔立ちも良く、力もあり優しく器量もある。そんな殿方とお会い出来るなんて、夢を見ているようですわ」
顔を真っ赤にしながら慌てて手を交差しているエミリア後半は何か呟いていたがよく聞こえなかった。
外で何かを言っているスカーレットは、聞き取る事は出来なかったがその顔は赤く染まっている
もういいと判断し仮面をつけ直す。先程から後ろを向きブツブツと小声で何か言っているエミリアだが、当分会話が出来なさそうなので、横に置いてある長い棒になってしまった武器を見る。
本当に、私の要望通りに変化する。
馬車に乗るので、刃をしまって棒のようになれれば良いと言ったら、本当に棒になってしまったし。
クラウン・ジョーカー《道化の切り札》は、馬車に乗る際、呟いた一言で刃は消え長柄だけとなったが、元に戻す事も確認済みなので問題はない。
そんな万能な武器を掴み、仮面越しに見つめると最初と同じく白い線が伸び説明文のような文章が現れる
更新情報のみの説明になります
☆クラウン・ジョーカー《道化の切り札》
・現在のソウルポイント 34
強化出来る性能
・狩魂の大鎌 必要ポイント10
追加スキル
・スタミナ強化
・剣術 Lv2
・槍術 Lv1
・盗術 Lv5
取得条件を満たした為スキル名を開示します。
・ソウルテイカー
ん?前と違う事しか書かれていない?
ソウルポイントというのは魂という事か?盗賊の数と狩魂の大鎌の効果を合わせたら20になるので計算が合う。
ソウルポイント=魂か
そのソウルポイントを使って強化出来るようだが、後から必要になりそうな気がするのでやめておく。
そして、スキルも二つ増えている、何故増えているのかはわからないが戦った事で増えたのか?。
いや、その考えは剣術がある時点で捨てる、剣を使っていないのに剣術があるというのはあり得ない。
この開示されたスキルが原因だと見て間違いでは無いと思うが
「様!……クラ……様!」
「ん?」
「クラウン様!」
「はい!」
「気付かれましたか?先程からお呼びしたのですが、お返事が無かったもので心配致しました」
「すいません、少し考え事をしてました」
「何かお困りでしたら、すぐに仰ってくださいね」
呼び声に気付き前を向くと、いつのまにか普通に戻っているエミリアが、こちらを心配そうに覗き込んでいた。
どうやらこの大鎌について考え過ぎていたようだ。
こちらが気付くと笑顔で答えてから、馬車の窓を指差す。
その先には、自分の何倍もの高さの外壁に囲まれている場所があり、その外壁越しからでも分かるほどの大きな建物が見えた。
「見てくださいませクラウン様!あれが私達の住む王国でございます!」