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episode3 狂気に染まる道化

 標的は、長剣を構える男のみ。それ以外の襲撃者は、全員血の海へと沈んでいる。

 そんな状況でも最後まで戦おうとするのは、未だ自分が強者なのだと疑っていないからなのか、ただのプライドなのかはわからない。

 それでも戦おうと、逃げようとも……やることは変わらない。


 「てめぇ!こんなことしておいて五体満足で帰れると思うなよ」

 「ハ八ッ!こんな状況なのに自分が殺されることなんて微塵も思ってないんですね」

 「ただの不意打ちで雑魚共を殺したぐらいで、図に乗ってんじゃねぇぞ!!」


 相手の顔はこの距離でもわかるくらいに怒りで紅潮している、相手の言葉は自分は絶対に負けるはずがないと信じて疑っていない。

 

 「誰が弱者だ?何が狩られる立場だ?そんなもんてめぇに決まってんだろうがぁ!」


 相手がこちらとの間合いを詰めるべく駆け出すと同時に、こちらも動き出す。

 距離が詰まると相手は長剣を上段から振り下ろされ、大鎌の刃で受け止めようとするが、それを読んでいたかのように振り下ろされるはずだった長剣は軌道を変え横薙ぎに振られる。

 目前に迫る白刃を長柄で受け止めるが、剣戟はまだ終わらない。

 上下左右斜めからの剣戟をただ受け止めることだけに集中する、

 

 「おらおら!さっきまでの威勢はどうした!」

 「……」

 「達者だった口も開く余裕もねぇか!」

 

 ただひたすらに迫りくる白刃を受け止め、反撃しようとしないこちらの反応が、相手には受け止めることで精一杯だと思っているのか余裕の笑みを浮かべ始めている。

 その瞳は、この後どのようにいたぶってやろうかという意思が感じられるほどに、汚くぎらついている。


 「そろそろですか」

 「は?恐怖で頭でも……っっアッアッアアァァァァl!!」

 「フフツまだ終わらせるつもりはありませんよ」

 

 剣戟を受け止めてから長剣を弾き、返す刃で長剣を持っている右手を腕ごと切り落とした。

 切り落とされた右手の断面から噴き出す鮮血。

 先程まで自分が優位に立っており、こちらをいたぶる未来さえ見ていたはずが、そんな幻想を一瞬で砕いたのだから精神的にも追い詰めることが出来たはず。

 右手を失い、驚愕と痛みで叫び、膝から崩れ落ち必死に右手を押さえ止血しようとしている男に一歩一歩近づいていく。

 目の前に立ったことで、見上げるようにこちらを見る顔は先程の余裕の笑みとは真逆の恐怖と痛みで歪んだ表情で見てくる。


「アッ、ガッ、ひ、ひぃぃ!!」

「先程までの威勢はどうしたんですか?」

「ヒっ!アッ、ゆ、ゆるじで……ぐださい!いのっいのぢだけは!」


 目の前には、地面に頭を擦り付けながらも必死で謝り、命だけは助けてくれと懇願する男。

 そんな男を見て感じることは唯一つ、渇き。

 どんなに懇願されようと、どれほど謝罪をしようとこの渇きだけは潤うことはない。


「貴方達は、そうやって命乞いする人を助けましたか?」

「……」

「貴方達は相手がどれほど命乞いをしようとも、自分達が楽しむためにその願いをただ笑って聞き流し道楽の為に殺しましたよね?私も同じなのかもしれません。渇きを満たすために貴方を殺します」

「……だ、やだ、いやだ死にたくねぇ!死にた……」


 殺すといった直後に、逃げようと立ち上がり叫びながら走り出す。

 しかし、少し走りだした所で背後から大鎌で首を切り落とす。

 それと同時に先程まで感じていたはずの心が満たされていくのを感じ、体を支配していた黒い衝動が消えていた。


「終わりですか……あの渇きは一体」

 

 何故あのようになったのか、思い当たることは一つだけ。

 あの襲撃者達に対して強い負の感情が沸き上がったと思ったら、次に感じたのは何かに対する渇き。喉が渇いたと感じた時、水を飲めば満たすことが出来るのと同じように、あの盗賊達を殺せば、渇きが潤うのだと感じた。

 この大鎌の性能なのか、それとも仮面によるものなのかはわからない。情報がないままではどうすることも出来ない。


 とりあえず今は考える事を後回しにして、襲撃者達によって手足を縛られている女性二人を見つけたので近づいていくのだが、こちらが一歩ずつ近づいていく度に二人の表情が恐怖に歪んでいき目の前まで近づいた時に恐怖が限界に達してしまったのか、二人の座っている場所から聞きなれない音と共に水溜まりが出来始めている。

 水溜りは、現在進行形で水量を増していき鼻につくアンモニア臭がそれがなんなのかを嫌でも教えてくれる。

 それはそうか。さっきまで盗賊達に襲われる直前だったのに、その盗賊達を目の前で全員殺したんだから怖くないはずがないか。

 内心で盛大に溜息を吐きつつも、今起きていることに気づかないふりをしてあげたほうが彼女達の名誉の為だと思う。

 結果的に助けた形にはなっているのだが、こちらは大鎌を持った男で、返り血も多く浴びてしまっている状態なのだから、どうやって話せばよいのかが分からず思考の海へと沈んでいく。

 

 

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