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episode2 どの世界も弱肉強食なのだと道化は笑う

 目的となる場所から少し離れた所で、目の前で起こっている事を確認する。

 武装がしっかりとしており統一している者達は、馬車を守るように展開している。

 武装がバラバラだが数が多い者達は兵士一人につき三人で戦っている。

 武装統一側に守られている馬車の中には二人の女性が肩を抱き合っているのが見える。恐らく今戦っているのは、女性を守る側と襲う側なのだろう。


「女性が乗っている馬車。護衛と襲撃者……か」


 馬車を守るように、襲撃者に抵抗しているのが五人。

 五人とも同じような鎧を着て、武器は長剣を使っており馬車に乗っている女性の護衛をしている者達。

 そして、護衛の五人と戦っているのが十五人の襲撃者達。

 着ているものは皆バラバラで嫌悪感を覚えるような汚れた服装をしていて、容姿もよい方ではなく、常に下卑た笑みを浮かべている。

 その下卑た笑みを見ていると、前の世界での思い出したくも無い奴等の顔を思い出してしまい気持ちが悪くなる。

 外見と服装がマッチしていて、盗賊をしていると言われれば皆が納得する容姿をしている。武器もナイフ、槍、短剣、長剣とみなバラバラ。

 その襲撃者の中で、唯一ましだと思われるのが、戦闘を繰り広げている集団から外れて馬車に近づいている二人。

 一人が鉄の鎧を着けていて、一人が皮鎧を着けている。

 武器は、鉄の鎧を着ている者が長剣を持ち、皮鎧を着ているものが短剣を持っており、体つきも良さそうに見える。

 襲撃者達の頭と側近だと思われる者達を含め、合計十七人からなる襲撃者達。


 そして、護衛側と襲撃者達の戦いは終わりを迎える。

 護衛達は、技量や装備がしっかりとした物であるように見えていた。

 それは一対一でなら負けるような事はないだろうが、数の暴力の前では一人の力などあまりに無力だった。

 五人で馬車を守るように戦って襲撃者の数を減らそうとするが、護衛の一人が隙を突かれ後ろから首を槍で突き刺された瞬間に戦線が崩壊した。

 そこからただの虐殺へと変わる。

 残りの護衛四人は、暴力の海へと沈んで行く。一人は、後ろを警戒しているところ前後から数で攻められ顔に剣を突き立てられる。

 一人は、襲撃者五人に囲まれ為すすべもなく崩れ落ちた。

 最後の二人は、三人が殺された所で負けを悟ったようで襲撃者に対して命乞いをするも虚しく、鎧を剥がれ暴力の雨が降り注ぐ。


「弱き者は強き者の娯楽の対象……こちらの世界もそれは同じ。弱肉強食が世の常なら教えてあげなきゃ、弱者が誰なのかを……アハハハッッッ!!」


 今見ていた光景が、何度も頭で再生される。

 護衛の者達を笑いながら殺していく、泣きながら必死で命乞いをする者でさえ襲撃者達を楽しめる為の道具になり果てる。

 鎧を剥がれ、腹部を裂かれ、臓物を撒き散らす様を周りはただひたすら笑って見ている。

 目の前盗賊達の行動が、前の世界で見たものと重なって見えてしまった。

 その光景が再生される度に、自分の中に黒き情動が流れて行くのを感じている。

 黒き情動が流れ出る度に、情動は衝動に変わっていく衝動が体を突き動かす度に自分ではない何かが体を支配していくかのような感覚がする。

 支配されていく感じはするが恐怖はない。

 ただ、視線の先にいる襲撃者達を見ると笑いが込み上げてくる。

 自分では、わかっている。

 仮面の下では笑っているのだと。何故笑っているのかはわからないが、体の奥から笑いが込み上げてくる。

 体を支配していく"衝動"に身を委ねるように静かに歩いていく。


「さぁ狂演の幕は上げられた。私は道化。この舞台で演じて見せましょう」

 

 感情が昂るままに言葉が出る。これから起こる戦い宴を楽しむかのように。仮面の中で狂気の笑みを浮かべながらゆっくりと歩いていく。


 護衛の惨殺楽しんだ襲撃者達は、頭と側近が馬車の中にいる女性二人を連れ出してロープで手足を縛っている。

 これから起こるであろう肉欲の宴に、襲撃者達の気分は最高潮に達している。

 女性二人を中心に周り囲むようにする襲撃者達。その輪の中では頭が一人の女性の服を裂き胸部が露になった事で周りは騒ぐ。

 頭が、下着を脱ぎ始め汚い物を晒して女性に近づいていくたびに周りの熱もより一層高まっていく。

 周りの視線と意識がそちらに向いた時を見計らい行動する。


 自分達が強者であることを疑わず、襲われるなど微塵も思っていないのだろう。

 そのうえ、これから起こる宴を前に気分が高まっているのだから警戒などしているわけがない。

 背後からゆっくりと近づいているにもかかわらず、こちらに気づくことなく声も上げさせることもなく一人、また一人と首から上を切り落とし絶命させていく。

 

 一人の命を奪っていく毎に心が満たされていく感覚がする。

 それは、喉が渇いた状態でゆっくりと水を飲むことで、渇きが少しずつ潤っていくような感覚に似ている。

 渇きが潤っていくと同時に、体を支配している衝動が徐々に収まっていく。


「ぎゃあぁぁぁ!」

「ひ、ひぃぃ!」

「な、なんだ!どうした!?ッツツ!だ、誰だてめぇは!」


 異変に気付いた者達が、首を切られて殺されていく仲間を見て驚きと恐怖が入り混じった声をあげる襲撃者達。

 だが、声をあげた瞬間に首を切り落としていく。なにかも既に手遅れ。

 武器を持ち戦おうとする者、仲間を盾にしながら交代していく者、未だ何が起きているのかさえ理解できず茫然と立ちつくしている者反応は様々だが関係ない。

 一人、また一人と絶命させていく度に渇きが無くなっていき満たされていく。

 襲撃者達の頭らしき人物も反応は同じで、呆然としていたが武器を持ち仲間を殺していくこちらを睨む。


「どうですか?強者だと思っていたはずが、弱者になり狩られる立場は?」


 衝動のままに言葉を発する。

 それでも、内心は凄く驚いている。だって、今までここまで凄惨な状況は見たことがなかった。これに近い事なら何度か見せられた事があるだけ。

 当然。人を殺したことなどあるはずもないのに、自分ではない誰かが体を使っているのではないかと勘違いしてしまう程に落ち着いていると同時に思う。 命とはこれ程までに軽いモノなのだと。

 行動を起こしているのは自分のはずなのに、そんな自分を他人事のように思ってしまう。 

 恐怖も罪悪感も何も感じない。

 大鎌を構え、未だ渇いたままの心を満たす為に、唯一生き残っている頭へとゆっくりと近づいていく。

 

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