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東口百貨店闇物語  作者: リノキ ユキガヒ
「幸」
9/25

 いつの間にか居た彼女。

 彼女の間の抜けた声に美雨と華の殺気は消え失せた。

「うるさい。ガキに用は無い消え失せろ」

 美雨は呆れた様子でその女に言い放つ。

「ガキとはなによー。こう見えてもアナタ達ができるずーーーー…っと前から東口に居たんだから」

 彼女は腕を組みプウッとほおを膨らませる。

「こう見えて」と言うとおり彼女の容姿は二人と比べると幼い感じがする。

 金髪のツインテールに真っ赤なルージュで彩られた唇。釣りあがった目尻。タイトなミニスカート、そこからスラリと延びる脚とニットのトップスから見える幼くも色っぽい肩。

 腰にはガンベルトではない太めのベルトを巻いている。

 そしてなりより異様な雰囲気を醸し出していたのは彼女が握っている日本刀だった。

「接近戦だったらサチ。自信あるんだけどなー」

 サチと名乗った女はなんの疑いもなく彼女達に近づいて行った。

「ッチ!」

 美雨は舌打ちをすると彼女に向けてコルトガバメントを放った。

 しかし弾丸は虚しくコンクリートの地べたに火花をまき散らすだけだった。

 華の前に突然サチが現れたかと思うと彼女の日本刀は美雨の首筋にピタリと付けられていた。

 あとは刀を引くだけで美雨の首から鮮血が迸るのが目に見える状態だ。

「がっ…」

 美雨の顔が屈辱と感じる事のなかった恐怖に歪む。

「ほらね」

 サチはクスリと小悪魔の様に微笑むと、きびすを返しその刃を鞘に収めた。

 すると美雨は己の首が繋がっている安堵感からか思わず膝を付いた。

「ぐっ…」

 彼女は苦虫を食い潰したような形相を浮かべるとサチの方を睨み付けた。

「ふーん。まだヤル気?いいよ、かかって来なよ」

 サチはニヤけた顔で美雨を挑発すると腰にある日本刀を身構えた。

「くそぅ~」

 膝を付いた屈辱を晴らさんばかりに美雨の全身から殺気がほとばしる。


「もう、その辺にしたら?サチ御姉様」


 その勝負に水を指すように華が冷ややかに言い放つ。

 サチはチラリと華の方を見ると鼻で笑い刀の柄から手を離した。

「相変わらず、いい子ちゃんね~。華は」

 サチは華をからかう様な口調で話しかける。それに対して彼女は呆れたような表情をみせてそれに答える。

 サチはその表情を汲み取ると今度は美雨の方を見て

「そうね。傷だらけの娘を痛めても面白くはないわ。」

 ピシャリと言い放った。

「なんだと!」

 怒りに任せて美雨は立ち上がったが足元はおぼつかない。

 美雨はボロボロになったスーツの上着を脱ぎ捨てるとサチに詰め寄った。

 しかし華が美雨の肩を掴みそれを制止する。

「やめなさい。傷を追ったあなたにサチ御姉様の相手は無理よ。悪い事は言わないわ。またにしなさい」

「このまま小娘に馬鹿にされたまま引き下がれと言うのか!?」

 目を血走りながら怒鳴り散らす美雨を尻目に

「お~コワ」

 と、サチがおどける様に声を発する。

 華はサチのその挑発とも取れない行為にいささか苛立ちを隠せなくなり

「御姉様もそんな事言うのは辞めて」

 と語気を荒げる。

「ま、私はどーでもいーんだけど…あっちがなんてーか」

 と言いながらサチは東の空を指差した。

 雑多な歌舞伎町の向こうが白みかけていた。どうやら夜明けが近いらしい。

「あ…。」

 美雨が絶望に満ちた表情を浮かべる。

 そしてそのままガックリと膝を再び落とすとそのままスーっと消えて行った。

「あーあ。彼女消えちゃったよ~」

 気の抜けた声で華に話しかけるサチ。

「御姉様!」

 美雨は少しキツめの口調で諭すように言葉を返す。

 それはまるで過ぎたイタズラをしようと企んでいる子供をたしなめる母親みたいな感じに見える。

「アンタまで怖い顔しないでよ。私の方がおネイさんなんだから」

 むくれた感じでサチも言い返す。

「ったくもう」

 華は腰に手を当て諦めに近いような表情でサチを見返すと大きな溜め息を付いた。

「ふぁー。何だかサチ眠くなって来たからオルタに帰るわ」

 そう言うと華に背を向けた。

 そして首を二、三回コキコキと鳴らし「ふんっ!」といきると彼女の背中から突然、悪魔の羽根の様な物が生えた。

 そして「じゃ~ね~、華~」っと軽口を叩くとその羽根を羽ばたかせて飛び去ってしまった。

 一人志摩丹の屋上に取り残された華。

 彼女はサチが去った空を見上げると自分もその身を静かに消して行った。


 新宿東口の夜が何事も無かったように開ける。もちろんそこには彼女達が激しい戦闘を繰り広げた跡は一片もない。

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