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東口百貨店闇物語  作者: リノキ ユキガヒ
「点と面」
8/25

「重擲だとぉぉぉぉ!!」

美雨は驚きの中に憎しみを込めた叫び声をあげた。

重擲から放たれた砲弾は大きく弧を描き美雨の近くに着弾した。

轟音と爆風が彼女の身体を切り刻む。

咄嗟に顔を交差した両腕で塞ぐ。

爆風にもてあそばれるように吹き飛ばされるとそのまま屋上の地べたを転がって行った。

「くっ」

屈辱に滲んだ口元から思わず苦悶の吐息がこぼれた。

頭上からは砲弾がヒュルヒュルと不気味な音を立てながら落下して来る。

反射的に起き上がる美雨。しかし自分の手元にメインウェポンであるMG34はない。先程の至近弾の爆圧で剥ぎ取られてしまったのに今気が付いた。

「くそっ!」

美雨は悪態をつくと腰にあるコルトガバメントを走りながら抜いた。

自分の後ろで砲弾が爆ぜる音が聞こえる。

「畜生!この私がヤツに押されっ放しだとぉ!ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」

憎悪の化身の様に美雨は爆風の中を縫って走る。

つるべ打ちされる擲弾筒の前に彼女はよけるのが精一杯だった。

爆煙で志摩丹の屋上が包まれ美雨の気配が消える。

華は擲弾筒を抱えたまま志摩丹の屋上を伺った。

徐々に爆煙は晴れ、砲弾によってあちこちエグられた無惨な屋上になった様子をじっくりと見た。

「さすがにあの方でも重擲の攻撃はキツかったのかしら?」

そう呟くと六越の屋上からガラスの板の上でも歩くように華はスタスタと宙を志摩丹の屋上へ向かい歩いて行った。

「我ながら派手に撃ったわねぇ」

志摩丹の屋上に降り立った彼女はその無惨な様子を冷ややかな目線で舐めた。

アチコチにコンクリートの破片が飛び散りその上を華はジャリジャリと音を立てながら歩く。

華は数歩進むと足を止めた。

次の瞬間にこめかみの辺りにヒヤリと硬い感触がするのに気付いた。

「さすがに重擲のつるべ打ちは効いたぞ」

唸るような声が華の耳元に聞こえた。

「御満足頂けたかしら?」

華はそう言い放つと視線を冷たい感触のする方から声のする方へ向けた。

視界の端に美雨が僅かながら映り込む。彼女は華の背後に立っていた。

激しい爆風と爆炎で顔は煤けており、長く美しい黒髪もそのツヤを失いまとまり無く垂れていた。

スーツの方もアチコチ裂けており、擲弾筒の威力の凄まじさを華に伝えてきた。

「しかし、お前もバカだなワザワザ私の間合いに入って来るなんて」

美雨の口元が歪んだ喜びに満ちる。

「あら、あなたその身体で私と対等でいられると思って?」

「なにお!」

美雨はコルトガバメントの銃口を華のこめかみに再度グイと押し付ける。その勢いで華の頭が傾く。

彼女はそれでも微動だにしない。

「接近戦の方は私に分があるわよ美雨さん」

華はニヤリと笑うと顔を思い切り美雨の方に向けた。

「き~さ~ま~…。私を名前で呼ぶか」

なにが彼女の気に障ったのか?怒りで顔を赤くし激しく口元を歪めて奥歯を噛み締めながら美雨は華を睨み付けた。

お互いに一触即発の状態だ。

華は身体ごと美雨に改めて向ける。

その間も華の頭にガバメントの銃口は張り付いたままだ。

お互いに向き合って隙を伺う。

砲弾の着弾した跡からブスブスと煙が上がる。

華はユックリと擲弾筒を持っていない手を腰に動かした。

その様子を察知した美雨はガバメントの撃鉄を起こした。華は本能的に腰に付けてある銃剣を素早く引き抜くと、それを電光石火の如く美雨の喉元に突き付けた。

一瞬のけ反る美雨だがコルトガバメントの銃口を華の額に押し付ける。

美雨が引き金を引こうとした刹那


「ねー、ねー、二人共楽しそうな事してんじゃん♩」


なんとも間の抜けた声が聞こえてきた。


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