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東口百貨店闇物語  作者: リノキ ユキガヒ
「美雨と華」
5/25

思考

志摩丹の前にある通りを挟んで斜向かいにこれも老舗デパートがかつてはあった。現在はお家事情により家電量販店になってはいるが、新宿駅東口を彩る一翼を担っていた。その名は


「六越新宿店」


ほんの数年前までは志摩丹と双璧を成す新宿の顔として君臨して来たが、長い事続く不況の煽りと本店の散漫な経営のお陰で黒字にも関わらず閉店を余儀なくされた。悲運の店舗だ。

そしてそこにも「開かず間」は存在した。

しかし志摩丹と違ってこちらは屋上にあった。

それはエレベーターの機械室の片隅にあり昼間にも関わらず薄暗く、大型のモーターから発せられる熱でほんのりと生暖かい変な感じのする所だ。

そして入り口は床にあり、長きに渡り積もった埃によってその存在を知らなければ発見は容易ではない。

この部屋の存在もまた志摩丹と同じで歴代の店長しか知らされていない。

しかし、六越新宿店は数年前にその歴史に一旦幕を降ろした。

なのでその事実を継承するものは今ではもういない。

しかし、名を変え主人を変えてもその建物から怨みが消える訳ではない。

そして美雨と同じで「負」のエネルギーが生み出した産物がこちらにもある。

閉店という巨大な負のエネルギーは彼女に強大な力を与えた。

この部屋の主


はな


が、それだ。

華は有りしの六越新宿店の日々を思い起こすように静かに椅子に座り佇んでいた。

巨大なモーターから発せられる轟音のような作動音にもろともせず彼女は静かにそこにいた。

またいつの日かここが百貨店として蘇る事を願いながら。



華は薄く目を開くと考え深げに一人喋り始めた。

「あの方の事だからもっと強力な武器で次は攻めて来るに違いないわ」

彼女はそう呟くと立ち上がった。

「こちらも何か考えないといけないわね」

そして武家の娘がまるでたすき掛けをするように今一度メイド服のエプロンを締め直した。

その瞬間大きくパッチリとした瞳にキリリとした光りが宿る。

きびすを返すと彼女の肩辺りまである髪がなびいた。

華は片手をアゴに当て軽くうつむくと

「昨日は重機関銃があったけど間合いを完全に潰されたわ。彼女のスピードにどうすれば付いていけるのかしら?」

そう呟き思案に暮れた。

ランプの薄らボンヤリした灯りに彼女の姿が映し出される。

彼女も人ではないのだが屋上に普段いる分、美雨に比べると光りに対する耐性は少しある。

それに電気的に生み出される光りと違いランプの作り出す光りは彼女に安らぎをあたえる。

彼女は揺らめく炎を見ながら昨日の事を思い返すように静かに目を閉じた。

手は顎から腰へ。

そして軽く曲げて正面で右手が上になる様に組んだ。

華にとってこの姿勢が一番しっくりくるらしい。

仮にも彼女には、かの老舗デパート六越の魂が宿っている。

美雨と違い怨念や呪いだけで構成されてはいない。ほんの僅かだが彼女の身体の中には人に仕える喜びのような物が宿っている。

両腕を腰の辺りで曲げ、お客様に不浄の左手を隠すように両手を合わせる。

この来客を待つ際の基本動作がなりよりの証だ。

そして売り場に立っている時の姿勢はある種の戦闘モードのようなものだ。

客が何を望み、何を欲しているのか?いち早く察知しなければ接客業は成り立たない。

それは闘いにおける場合でも変わりはない。

相手の出方をいち早く察知し反応しなければやられてしまう。

彼女はその姿勢まま微動だにせずじっとしていた。長いスカートの裾が揺れる気配は全く無い。

そこまで集中しているのだ。



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