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東口百貨店闇物語  作者: リノキ ユキガヒ
「美雨と華」
4/25

MG34

老舗デパート志摩丹の地下深くに空かずの間がある。

そこに何かの設備がある気配は無く、その扉は硬く閉ざされ、開いた事は公けには一度も無い。

ドアの外見は昔の「蔵」を思い出させるような趣きでドアノブは無く、代わりに大型の南京錠で施錠されていた。

誰の目に見てもそれが普通では無い事は明らかだ。

しかし、その開かずの扉の向こうに彼女はいた。名前は


美雨みう


暗い狭い空かずの間に彼女は椅子に腰掛け机の上に足を放り出し、組んだ両腕を後頭部に回していた。

三つボタンのスーツの前をはだけてくつろいでいる様に見える。

美雨は煙草の煙をくゆらせながら天井をあおぐと、昨晩の事を思い出した。自然と奥歯に力が入る。

「ヤツの力があそこまであったとは…」

そう呟くと腰元のホルスターからコルトガバメントを引き抜いた。

煙草の種火に照らされそれは怪しく光る。

そしておもむろに銃を握った腕に付けてある腕時計を見た。

「ッチ。夜まで大分時間があるな」

彼女は溜息混じりにそう言葉を吐き出すと、机の上に載せてある足を地べたに下ろした。そしてその下ろした両膝に腕を預けた。

目線は天井から地べたに移りその間に不気味な輝きを放つガバメントがあった。

彼女はそれをボンヤリ眺めながら

「ヤツに勝つにはもっと強力な武器がいる。」

そう呟くと立ち上がりガバメントをホルスターに戻すと内ポケットにある手帳を取り出しペラペラと捲っていった。

それを見ながら部屋の中をウロウロとして思案に暮れる。

そして何かを思い付いたように、はたとその動きを止める。

そして怪しい微笑みを口元に浮かべると肩を震わせた。

「くくく…。あった。あったぞ。強力な武器が。ヨーロッパで生き血を啜り。総統の電気鋸として恐れられ呪われた武器が…。夜が待ち遠しいわ!くくく…、ハハハハハ!!」

彼女は高笑いをすると、万年筆を取り出し手帳にサラサラと


「MG34」


と書いていった。


美雨はニヤケタ顔のままドカッと椅子に腰掛けるとテーブルの上に置いてあるワインをボトルのまま煽った。

口元から溢れて滴り落ちてくる赤い液体が血の様にも見えて異様だ。

それを拳で乱暴に拭うと再び机の上に足を載せた。

そして先ほどと同じく腕を後頭部に回すと

「ひと眠りするか…」

と呟いて目を静かに閉じた。


志摩丹にある開かずの間は彼女が眠りにつく様にその気配をまた消していった。

この開かずの間。実を言うとこの存在を知っているものはどんな古株の従業員でもいない。

この存在を知っているのは歴代の店長だけでありその存在は公けには知らされてない。

なぜならこの部屋の存在はこの店のありとあらゆる「負」エネルギーを溜め込む場所だからだ。

いわゆる風水で言う所の「鬼門」の様な所で志摩丹のありとあらゆる怨みがここには集まる。

そしてそのエネルギーが形となって現れたのが「美雨」である。

彼女は人間ではない為普通の人には見えない。そして暗闇の中でしか行動出来無い。

その代わり特殊な能力を持っており人間の怨みを持つモノを具現化出来る力とそれを操るズバ抜けた戦闘能力を持っている。

そして、彼女はいつも黒いスーツに身を固めている。

志摩丹は男性のファッション関係に明るい百貨店だ。なので美雨の姿も男性が着るような三つボタンのスーツでスラックスにローファーだ。

男装の麗人を思わせる容姿に性格も男勝りで少々粗暴な所もある。

しかしだが、呉服屋を起源に持つ志摩丹なので髪は黒く長い。

目も切れ長で唇も細くちんまりしている。古式ゆかしき日本女性の面影が垣間見れる。

まるで志摩丹の特徴をそのまま形にしたような女性と言っても差し支えは無いだろう。

そんな彼女は夜が来るまでこの開かずの間で一人まどろむのだ。

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