憂い
新宿に夜が訪れる。昼間は賑わっていた通りの店舗もシャッターを固く閉ざしひっそりとしている。
そんな寂しい通りをトボトボと美雨は歩いていた。
そして彼女は新宿オルタの前でその行き足を止める。
そして何かに引き寄せられるようにオルタの正面口へと向かって行った。
当然の事ながらオルタのシャッターも閉まっており昼間の賑やかさは微塵も感じない位に静まり返っていた。
美雨はそのシャッターの前に立ちそっと触れた。
金属の冷たい感触が伝わって来る。
「何?またシャッター壊しに来たの?」
後ろからサチの声がして来た。
美雨はそのままの姿勢でシャッターを眺めながら
「なぁ、お前自分の存在について考えた事あるか?」
意外な質問にサチは一旦首を傾げると小さい溜息を付いた。
「悪魔にそんな事聞いてどうするの?」
「ふふっ。それもそうだな」
そう言うとサチの方に振り向いた。彼女の長い髪が月夜に照らされ、なびきながら青く輝く。
それから二人の間にしばしの沈黙がながれる。
「どうだ!一戦交えるか!?」
美雨は突然拳をサチの前に突き出す。
彼女は白々しくその殺気のない拳を見ると「気分じゃ無い」と吐き捨てる様に言って美雨に背中を向ける。
「悪い。邪魔したな」
美雨は力なくそう言うとオルタを後にした。
サチは美雨の憂いを秘めたその背中を見ると軽く溜息を吐いた。そして彼女が自分の視界から消えるのを見計らって
「はーなー。出て来な」
そう言った。
オルタの脇にある地下鉄の出入口の闇に潜んでいた華が姿をあらわす。
「なんだ。解ってらっしゃったの?」
華はシレッとした口調でサチに話しかけながら近づいて行った。
「らっしゃったの?じゃないわよ」
腰に手を当てあきれた様子で彼女は近づくサチに目線をやる。
「なんだか今日の御姉様、御姉様してるわね」
「いつもバカやってる訳にはいかないの」
ニタニタした表情の華とは対照的にサチの表情はキリリと引き締まっていた。
その様子から何かを感じ取った華は表情を引き締め改めて姉であるサチに話しかける。
「あの様子からすると美雨さん…」
横に並んだ華を見ながらサチも答える。
「あぁ、多分、志摩丹で何かあったんだろうな」
「でしょうね」
二人は美雨の歩いて行った新宿通りを見つめた。
彼女達の住む闇の世界に彼女達以外の存在は無い。




