閉
やまない雨はない。開けない夜はない。
どんなに長く続いた事でも終わりは必ずやって来る。そしてそれは唐突だ。
地下にある志摩丹の開かずの間。この部屋の前に一人のスーツ姿の男性が佇んでいた。
胸には志摩丹のバッチを付けている事からこのデパートの関係者である事は間違いないが、仕立ての良いスーツからその男性が普通の従業員ではない事が容易に予想できる。
その男性は開かずの間の南京錠を手に取るとポケットから鍵を取り出した。
その鍵は今の時代の物とは違い大分大きいくて少々大雑把な作りだ。
スーツ姿の男性はその大きめの鍵を鍵穴に挿入すると力強く回した。
「ガチン」
と鈍い音を放ちながら南京錠はその固い封印を解いた。
そして彼は重く閉ざされたその扉を開けて中に入って行った。
中に入った瞬間に扉は閉ざされ漆黒の暗闇の中にかれは放り込まれたようになってしまった。
それとほぼ同時位にロウソクの灯りが灯った。
現代の照明に比べるとその明かりは弱いが先程までの暗闇に比べると幾分ましだ。
そしてそのロウソクの炎の傍らには美雨が深々とお辞儀をして立っていた。
「顔をあげてくれないか?」
スーツ姿の男性は美雨に穏やかに話しかける。
美雨はその彼の言葉通りに顔を上げた。
「いかがされました。店長」
美雨はいつもとは違う凛々しい口調で店長と呼んだ男性に話しかける。
そう、彼がこの志摩丹で開かずの間に入る事を許されている唯一の人間だ。
「やあ、美雨君。いつも苦労をかけてすまないね」
彼は微笑みながら美雨に話しかける。
美雨はキョトンとした表情をうかべると
「苦労というと?」
そう問い返した。
「こんな狭い部屋に君は150年近く閉じ込められて、色んな人の恨み辛みを受けて来たわけだろ?」
「それは、まぁ…。昔に比べると大分穏やかにはなりましたが…」
「それでも辛い事には変わりないだろう?それを苦労と言わずしてなんと言うんだい?だからこの部屋は僕の代で終わりにしたいんだよ」
「え!?」
驚きの声をあげる美雨を尻目に店長は話し続ける。
「今の世の中に百貨店という物がどれだけ必要とされているか解らないし、これから先どうなるか解らないからね」
「しかし!志摩丹の魂を終わらせる訳にはいきません!」
必死に食い下がる美雨だが店長は彼女の肩にそっと手を置き
「君の言う事も解るけど、商売は人に求められてなんぼなんだ。我々の行く末を決めるのはお客様であり百貨店の人間ではないのだよ」
穏やかに話す。
「しかし!…」
反論しようにも言葉が見つからない美雨。店長はそんな彼女の表情を見て察すると
「まぁ、君みたいに長い事人の恨みを糧に生きてきた者にいきなり
こんな事を言うのは酷かもしれないが…」
その言葉を聞くと美雨は黙ってうつむいてしまった。




