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東口百貨店闇物語  作者: リノキ ユキガヒ
「心」
20/25

 新宿に短い夜が訪れる。世界に冠たる歓楽街「歌舞伎町」を背に新宿東口はその身を横たえる。

 今宵も新宿は人々の情念を街に宿しながら夜が開けるのを待つ。


 美雨は新宿通りに佇んでいた。

 彼女はいつものようにジャケットの内側からタバコを取り出すと火を付けて一息ついた。

 辺りに月明かりに照らされた青白い煙が漂う。

 そしてその煙の向こうには家電量販店に成り果てた元六越新宿店が見える。

 彼女はソレをチラと見ると志摩丹の店舗の柱に背中を預けた。

 そして腕組みをして暫らくタバコをふかしていた。

 一本を吸い終わる頃か?元六越新宿店の影に人影を見つけた。

 それが華と気付くのに時間は必要無かった。

 二人はまるで申し合わせた様にお互いに歩み寄って行った。

 そして丁度、道の真ん中辺りまで来るとその歩みをピタリと止めた。

 お互いに手を伸ばせば届く距離だ。

 志摩丹と六越新宿店の間の空気が異様な緊張感に支配される。

 新宿通りに風が吹き抜けた、次の瞬間。

 美雨のジャケットの裾が跳ね上がる。そこにはホルスターがあり彼女は素早くそこにあるコルトガバメントを引き抜いた。

 それと同調するように華もエプロンの腰紐の後ろに差してある銃剣を鞘から引き抜いた。

 逆手に握られた銃剣の切っ先を迷わず美雨の喉元に向け伸ばして行く。

 美雨はそれを見ると上半身のみの動きでかわす。

 そして華の銃剣の握られた腕に己の腕を絡め彼女の動きを封じると、コルトガバメントの銃口を彼女の眉間に突き付けた。

 華は上目遣いでそれを捉えるとバレリーナの様に片脚を高く上げた。

 そしてそれは美雨のコルトガバメントが握られた手に当たると彼女は口を歪めた。

 ガバメントを握った腕が脚で弾かれ華の身体から離れて行く。

 それと同時に絡めていた腕もほどけた。

 美雨は軽く舌打ちをすると苦し紛れに弾丸を一発放った。

 しかしそれは虚しく空を裂くだけでビルのカベに当たり跳弾となって闇夜に溶けていった。

 絶妙なバランスで辛うじて立っている美雨を再び華の銃剣が喉元を狙って襲って来た。

 彼女はそれを身体を捻ってかわす。

 勢い余った華はその流れを相殺する為両足を開いて踏ん張る。

 背後に殺気を感じる。

 美雨のガバメントの銃口が華の後頭部に押し付けられる。

「チェックメイト」

 彼女はそう言って引き金に指をかける。

「どうかしら?」

 華は踏ん張った姿勢のままで視線だけを美雨に向けそう言った。

 その刹那今まで感じなかった殺気が彼女を襲った。慌てて後ろを振り返ると、何かギラリと光るものが美雨の鼻先をかすめる。

「うぅ~う、かわされたか」

 サチはそう言い放つと振り抜いた日本刀を再び上段の構えに直す。

 美雨もガバメントを両手で握りサチの額に照準を付ける。

「しっかり狙いなよ」

 サチはキバを見せながら美雨をからかうように挑発する。

「ぬかせ」

 彼女はその挑発には乗らず冷静に引き金を引く。

 しかし銃弾が銃口から放たれた瞬間にサチはアイアンサイトから姿を消した。

 美雨は一瞬サチを見失ったが自分の足元から気配を感じたので思わず退け反った。

 間一髪。眼下よりサチの日本刀がせり上がるのが見えた。

 余りの素早さに日本刀越しに彼女の鋭く光る瞳しか見えない。

「くっ」

 美雨は思わず苦悶のため息を吐き出しあとずさる。

 すると背中に柔らかい感触が当たったと思うと白百合の様な手が首元から伸びてきた。

「今夜は三人で楽しみましょ」

 艶かしい視線を送りながら、華は美雨の耳で囁いた。

「柄にもない事いうな」

 彼女はそう言い放つとその伸びて来た腕を掴んだ。

 そして力任せに華の腕を引っ張ると彼女をサチに向かって投げ付けた。

 重力を無視するように彼女はすっ飛んで行く。

 サチはそれをヒョイとかわしたが、その影から美雨の手が伸びて来た。

 その手はサチの細い首をつかむと

 そのままアスファルトの地面に叩きつけようと渾身の力を込め彼女を引き寄せた。

「ぐぅ⁈」

 普段のサチから出る事のない声色が聞こえる。

 美雨はその声を聞くと口角を釣り上げながら悪魔の様な形相で腰を捻る様にしてサチに全体重を載せる。

 彼女の足がアスファルトの地面から離れ、頭がアスファルトの地面に叩きつけられる寸前。

 サチの目の色が変わる。まるで猫のように縦長な瞳孔になり眼は赤く不気味に光だした。

 美雨の背中に悪寒が走った次の瞬間。彼女を突風が襲った。

 そしてサチをつかんだ腕は彼女の重みを感じられなくなった。

 気が付くとサチは黒い羽を生やし美雨に首をつかまれたまま中に浮いていた。

 バサバサとした羽音が聞こえる。

 彼女は寝てる様な姿勢のまま美雨をジロリと見る。

 今までのサチとは比べ物にならない威圧感を感じると首を掴んでいた手が思わず緩んだ。

 サチはそれを見逃さなかった。彼女の口は耳まで裂け大きく開くとキバを露わにして美雨の手に喰いつこうとした。

「むおっ!」

 慌てて手を引き難を逃れる美雨。

 すかさず間合いを取る為二、三歩下がる。

「キャキャキャ!!」

 フワフワと立ち姿勢で浮いたまま不気味な笑い声を上げるサチ。彼女の手にある日本刀が月明かりに照らされ怪しく光る。

 悪魔と形容するに相応しい姿だ。

「あぁ、御姉様…素敵」

 華が恍惚に潤んだ瞳でサチを見つめる。彼女からは殺気を感じられない。サチから放たれる妖しい魔力のような雰囲気に毒され完全に戦意を失っている。

 美雨はそれを横目で見ると

「これは鉛の弾丸ではなく銀の弾丸がいるな」

「キャキャキャ!!それは西洋の悪魔だよ!サチには通じないよーぉ!!」

 と叫びながら美雨に襲いかかって来た。

 彼女は咄嗟にコルトガバメントを飛びながら向かって来るサチに向け放つ。

 しかし嘲笑いながらそれをサチはかわして来る。

 間合いはあっと言う間詰まるとサチの日本刀がヒュンヒュンと美雨の鼻先で音をたてながら通り過ぎる。

 かわすのが精一杯の美雨を弄ぶ様にサチの日本刀が舞っている。

 完全に悪魔の狂戦士と化したサチ。

「ほら、ほらぁ~。ぼうッとしてるとヤられるよぉ~」

 美雨は何とかサチの電光石火の太刀筋を紙一重でかわしていく。

 しかしかわし切れずスーツのあちこちが裂けていた。

「キャキャキャ!こんな楽しい夜は久しぶりだなぁ!!」

「全くだ!」

「二人とも素敵すぎるわ!!」


 新宿駅東口。今宵も百貨店の亡霊達が刄の火花を月明かりの元で散らす。




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