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東口百貨店闇物語  作者: リノキ ユキガヒ
「心」
18/25

 満月の夜。

 月明かりの青白い光が妖しく通りを写し出す。

 濡れたように光るアスファルトの上を美雨は歩く。

 そして彼女は閉店してひっそりとした家電量販店になった元六越新宿店の前に辿り着いた。

 シャッターは閉まっており普通に入れそうな雰囲気はない。

 彼女は辺りを伺っていると一人の警備員が自分に向かってやって来るのが見えた。そしてその警備員は美雨を見つけると

「黄色いネクタイをした方がいらっしゃったら御通ししろと伺っておりますので」

 と微笑みながら話しかけて来た。

 警備員は回れ右をすると建物の縁にそって歩き始めた。

 美雨もその後をついて行く。

 ある程度進むとシャッターの降りてないドアがあった。

 そこからは光が漏れており少し周りの景色からは浮いていた。

 警備員は鍵の束を取り出すと、そこのドアを慣れた手つきで解錠して右手を差し出し美雨を中に入るよう促した。

「ありがとう」

 彼女はいつもの表情でそう言うとドアをくぐった。

 数メートル歩くとエレベーターホールにそこはなっていた。

 三基あるエレベーターのうち一基

 はすでにドアが空いてあったので美雨はそのまま乗り込んだ。

 そこには今では珍しいエレベーターガールがおり美雨を笑顔で出迎える。

 彼女は「屋上へ参ります」と言うとパネルを操作した。軽い振動と共にエレベーターは上昇を始めた。

 階数表示の電光掲示板がどんどん増していく。

 そして遂にRFの表示が現れた。

「屋上でございます」

 エレベーターガールはそう言うとと深々とお辞儀をして美雨を送り出した。

 美雨は「ん」と短く返事をすると感謝の意味で右手を挙げながらエレベーターから出た。

 後ろからエレベーターのドアが閉まる音がする。

 美雨が屋上に降り立つと二人の女性が出迎えで立っていた。

 一人はメイド姿なのですぐ華と解ったがもう一人の六越の制服に身を包んだ女性がサチと解るまで少し時間がかかった。

「お待ちしておりました。美雨様」

 華はそう言うと深々とお辞儀をした。

 サチもそれに習うように深々とお辞儀をする。

 美雨はそれを見ると「似合うじゃないか」と視線を合わせず呟いた。

「サチも六越の端くれだよ」

 意外な切り返しに美雨は思わずサチの顔を見てしまった。

 彼女はそれに気付くとパチンとウィンクをしてそれをお礼とした。

「それではこちらにどうぞ」

 華はそう言うと美雨をもてなしの席へと促した。


普段は殺風景なだだっ広い屋上だが今日は違う。

 中央にテントが張られ、その下には真っ白いクロスに包まれた丸テーブルが一つあった。

 テーブルはロウソクの光で彩られ美雨の目にも優しく柔らかい雰囲気を感じる事ができた。

「ワイン一本に随分大袈裟だな」

 美雨はそう呟く。

「そうかしら?」

 涼しい顔で華は答えると椅子を引いた。

「ふん。相変わらず負けず嫌いだな」

「おあいにく様」

 彼女達は目線を合わせると微笑みあった。

 華は調子を取り戻す為軽く咳払いをするとサチを呼んだ。

 そしてサチからメニューを受け取ると

「メニューでございます」

 と言って前菜のページを開き美雨の前に置いた。

 美雨はテーブルの上に組んだ両腕を預けると軽く息を吐き。

「任せる」

 と一言言ってメニューを閉じた。

 その閉じたメニューを華はテーブルより拾い上げると微笑み。

「かしこまりました」

 と言って回れ右をした。

 それと入れ替わるようにサチが静々とワイングラスを持ってきた。彼女はそれをテーブルの上におくと

「食前酒です」

 そう静かに言った。

 ワイングラスに注がれている液体は無色透明でそれがワインではないことが一目瞭然だ。

「ほぅ」美雨はそう言葉を発するとグラスに口を付けた。

「なるほど…」

 美雨は意外なもてなしに口元をニンマリとさせた。

「これは日本酒だな」

 そして嬉しそうな表情をしながらグラスをテーブルに置いた。

 そしてサチの方を見るとおもむろに呟いた。

「お前、今日はギャルソンなのか?」

「そうだよ。カッコいいでしょ。それとね今日のディナーの食材、サチが選んだから」

「そうか。そうだな、オルタの前は食糧品の専門店だったな。あそこは」

 美雨は懐かしそうに遠くを見ながら呟いた。

 時折吹く風が酒で火照った身体に心地よい。


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