Ⅰℓ‐2
サチが覚悟を決めたその時アスファルトの道路を機銃掃射の弾丸が舐めて来るのが見えた。
美雨は慌て掃射のする方に顔を向ける。
どうやら第一射は牽制のようで命中弾は車体には無かった。
しかしキングタイガーはその行き足をピタリと止めてしまった。
「ヤーボ!?」
美雨は目を細めて空を見つめる。
夜空に轟く爆音。
大きく弧を描きながらそれは再び美雨の駆るキングタイガーに向けて突っ込んで来た。
「クソッ!」
美雨はそう叫ぶとMG43の照準を不明機に合わせた。
「ふんっ、素人が。そちらから射線を合わせて来るとはな」
ニタリとしながら美雨は照準環の中に収まるヤーボを見ると迷わず引き金を引いた。
レーザービームのような火線がヤーボに吸い込まれて行く。
そして機体から激しく飛び散る火花を見ると
「手応えあり」
と呟いてニンマリした顔をした。
しかしヤーボは悠然と突っ込んで来る!
「なんだと!」
思わず叫ぶ美雨。驚く彼女を尻目にグングンと高度を落とし地上スレスレを這うようにそれは飛んで来た。
そして美雨の乗るキングタイガーをかすめるように飛び去った。
「ヒッ!?」
彼女はえもいわれぬ感覚に一瞬首をすくめてしまった。
そして飛び去った無傷のヤーボを改めて凝視した。
角張った無骨なキャノピー。
バスタブの様な機首。
命中弾をもろともしない堅牢性
美雨の背中に一筋の汗が流れる。
その美しいまでに無骨な機体は悠然と新宿の空を旋回している。
そしてそれが再び美雨の駆るタイガーに突っ込んで来るのを見ると思わず叫んでしまった!
「空飛ぶトーチカ!イリューシンシュルトモビクか!!!」
タンクバスターの名を欲しいままにしてきた旧ソ連軍の名機「イリューシンIℓ2」は地上目標を破壊する為に生まれて来た。当然被弾をする事を前提に設計されている。
分厚い装甲板をコクピットに張り巡らしパイロットを銃弾の雨から守るその機体は「空飛ぶトーチカ」と言われる程の防御力を誇った。
「ぼやっとするな!!ヤーボから身を隠せ!!」
美雨は慌て指示を出す。先程まで化物の様に聞こえたキングタイガーのエンジン音が何故か断末魔の悲鳴の様にサチには聞こえだした。
戦車の弱点は上面だ。正面は戦車砲で撃ち合う為、重装甲が施されているが重量面を考えると全てをそうする訳にはいかない。なので上面の装甲は薄い。そこを飛行機で狙うのだ。
キングタイガーはイリューシンから逃れようともがく様に走り始めた。
しかし運の悪い事にキングタイガーが通れそうな広い通りは全て見通し良く飛行機から狙い打つには格好の場所になっている。
「くそっ!抜かった!」
美雨はそう叫ぶとヤーボが攻撃をしにくいように牽制射撃を加えた。
しかしそれは牽制にはならなかった。
今度はイリューシンの照準環に美雨の駆るキングタイガーが収まる。
「いいぞー!華ー!!」
ボロボロになったオルタの正面口からサチが手を降る。
それに答える様にキャノピーが開きメイド服姿で飛行眼鏡を付けたの華が姿を現した。
「あのメイドめぇ~」
美雨は恨めしく空を睨みつける。その様子を目ざとくサチは見つけると
「睨んでも弾は避けてくれないよ~。オネーさん☆」
美雨に向けて面白おかしく言い放つ。
「ガキがぁ~。調子付きやがって」
ワナワナと肩を震わせながら彼女にMGの一連射を浴びせるが、サチはソレをヒョイと飛んでかわすとそのまま羽を生やし空へと舞い上がった。
そして華の操るイリューシンIℓ2は空中でサチを拾い翼に彼女を乗せると再び旋回してキングタイガーに照準を合わせた。
「華、助かったよー。まさかあんなイカツイのアイツが連れて来るとは思わなかったよ」
キャノピーに捕まりながらサチは大声で華に話しかける。
「さぁここからは私の見せ場ですよ!」
華はそう叫ぶと操縦桿をグイと前に倒した。




