怒
陽がくれ、夜になり、新宿の東口駅にも僅かばかりの静寂が訪れた。
サチは新宿オルタの大型ビジョンの裏にある自分の寝床からでてくるとそのまま目の前にある大通りに舞い降りた。
そしてオルタを背にして左側。志摩丹と旧六越新宿店がある方を眺めた。
「うぅ~う。何だか今夜は面白い事が起きそうな気がするなぁ」
すると霞がかった大通りのはるか彼方から「グォー」という轟音と何かが軋むような音とガチャガチャという金属音が混ざった独特な感じの音が聞こえて来た。
何が自分に向って来るのか解らないサチは眉をひそめた。しかし姿は見えなくともそれから放たれる異様な雰囲気は十分に感じる。彼女の額に一筋の汗が流れる。
その音はドンドン近くなる。ガチャガチャと言う金属音はやがてキュラキュラという音に変わり「グォー」と言う魔物の遠吠えのような轟音はそれが大型の内燃機関から発せられるものだと解った。
霞の中に薄っすらとその化け物めいたモノの影が浮かび上がる。
それが全容を表すより先に彼女はそれの存在を理解した。
「ちょ…。いくらサチが強いからってコレは反則だよぉ~」
サチは大きな目をパチクリさせると、とりあえず日本刀を鞘からだして構えた。
軋む無限軌道。
分厚い装甲に覆われた砲塔。
それを思わせる車体の重力感。
側面に誇らし気に輝く「鐡十字」の紋章。
人々は尊敬と畏怖の念をこめてそれを「ケーニスヒティーガー」とそれを呼んだ。英語読みで
「キングタイガー」
だ。
タイガー戦車のハッチからゴーグルとレシーバーを付けた美雨が出てくる。
「はっはっはっ!!そんなチンケな刀で戦車の装甲は貫けないぞ!小娘!!」
眼前に王者の虎が迫る。砲身の先端はサチを捉え続けている。
彼女は苦笑いを浮かべると
「だよね~」
と言いながらオルタの方に後ずさりした。
そんなサチをあざけり笑うように美雨は
「砲塔旋回!右45度!目標!目に見えるものは全て吹き飛ばせ!!」
そう叫ぶと砲塔が機械の唸りをあげて動く。
長い砲身はオルタの正面口に照準をピタリと定めると大音量を発しながら鋼鉄の矢を放った。
それはサチをかすめてオルタのシャッターをブチ抜いた。
そして店内に飛び込むと凄まじい爆風を辺りにまき散らし爆圧でボロ布の様にシャッターをバラバラに吹き飛ばした。
シャッターと正面口を彩る数々の装飾が幾多の破片となりサチの周りに散り散りに落ちて来る。
サチは自分の後ろを振り向き砲弾の直撃を喰らった正面口に目をやる。
ほんの少し前にここでは人々が語らい。楽しそうにしていたのだ。
怨みでできたサチにも愛着はある。
ボロボロになった正面口を見てると自分自身が汚された様で何だかムカムカしてきた。
「この~。やってくれるじゃない。オルタの神聖な正面口をあっという間にボロボロにしちゃて!サチ許さないよ!」
そう言うと彼女の髪は逆立ち全身から殺気が迸ってきた。




