悪夢
自分が何かに押し潰されそうな感覚に襲われる。
足元はコールタールの様にドロドロとした沼のようになっていて自分の行く手を阻む。
前にも後ろにも進めずひたすらもがき苦しむ。
自分の頭上が狭くなる様な感覚に襲われそこから逃げ出そうと必死に足を動かすが、コールタールの沼で全然進まない。それどころかドンドンぬかるみにハマってゆき遂には自分の腰までそれは来てしまった。
頭上の得体の知れない暗闇は更に近くなってくる。
どこからともなく耳障りな女の高笑いが聴こえてきた。それはまるで自分の心をあざ笑うかの様に思えてならない。
コールタールの沼は胸の辺りまで来ていて、頭上の得体の知れない闇は更なる圧力を放つ。
女の高笑いは自分の頭の中でグルグルと回る様に聴こえ続け心を掻き乱す。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
美雨は叫びながら飛び起きた。
全身が汗で濡れている。彼女は額の汗を手で拭うとゆっくり椅子から立ち上がり机に両手を付いた。
「この私が悪夢だと…?」
じっとりと汗ばんだ全身に衣類がまとわりついてくる。
美雨はその不快な感触を取り払う為カッターシャツのボタンを三つ程外していった。
「くそっ!」
吐き捨てるように呟くと傍らに置いてあるワインのボトルを乱暴にとりそのまま煽った。
まるで水でも飲むかの様に彼女は喉を鳴らしながらワインを飲んでいく。
そして空になったボトルを投げ捨てた。ボトルは壁に当たり「ガチャン」と音を立てて砕け散るとバラバラと打ちぱっなしのコンクリートの床に落ちていった。
「あの野郎~…」
美雨の頭の中に昨日の出来事が蘇る。
机の上に置いた手がいつの間にか固く握られ拳になっていた。
彼女は昨晩打ち砕かれた自尊心を取り戻す策を頭の中で必死に考える。
「こうなれば建物もろとも吹き飛ばしてやる!!」
憎悪の炎で燃え上がる美雨。彼女は一旦うな垂れると不気味な笑い声を上げた。
「ふふふ…。」
肩が震える。それと連動するかの様に机の足がカタカタと音を立てる。
志摩丹にある開かずの間で美雨は夜が来るのを待つことにした。
彼女の腕時計が夜を知らせるまでまだまだ大分時間はありそうだ。
美雨はいつもの様に椅子にドカッと腰を落とすと持て余し気味の長い足を机の上に投げ出し、静かに目を瞑った。




