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Ⅻー迷宮を攻略せよ‐  作者: tempester08
溝浚いの坑道
8/14

#8

 『溝浚いの坑道』の浅い場所に繰り出し、すぐに二体で行動しているシーカーを見つけた。どちらもぼろぼろの短剣を持っている。強敵だ。ナナシにとっては。そしてそれはカレンも同じことだ。


 周りに他のシーカーはいない。邪魔は多分だが、入らない。ナナシは決心した。


「やろう……!」


 これが倒せるなら随分ナナシ達の行動制限が解除される。コソコソ逃げ回る必要もない。二体までなら倒せるという実績が欲しい。確かにナナシには二体を倒したことはある。けど、あれは運の要素も絡んでいたし、かなり殴られた。あんなことが毎回続いていたら、ナナシは死んでしまう。


 隣でずんぐりむっくりしているカレンに目をむけた。先程、聖騎士になったばかりの新米である。スキルを一つ覚えてきた。結構時間がかかったので、習得するのも一苦労だ。が、覚えただけだ。やり方を知っている。だが、実戦で耐えうるレベルではない。しかし使わないと、慣れない。100%の力を発揮したいなら、何度でも、失敗してでも使うしかない。


 保守的な考えではやっていけない。ナナシはダガーを抜いた。カレンもロングソードに手をかけた。


「二体いける?」

「無理」


 曖昧な返事でないだけマシだ。無理な物は無理。それでいい。ならナナシが一体、カレンも一体だ。ナナシは攻撃スキルはまだ覚えていないが、通常攻撃でシーカーを殺せる自信はある。一か月近く戦っていたのは伊達ではない。かなり癖を掴んでいる。


「無理はしない。でも頑張る。オッケー?」


 カレンは無言で頷いた。少し固い。緊張している。今まではナナシが攻撃を弾き、その隙をついてカレンが倒していた。カレンは初めて、シーカーとタイマンを張ろうとしている。緊張するだろう。だけど、ナナシにできる事はない。それに、発見された。見つかった。


 シーカー二体がこっちに来る。汚い被毛を揺らし、ランランと赤く輝く瞳でナナシとカレンを射抜いている。殺る気満々だ。


「やるぞ!」

「よ、よーし……!」


 カレンが盾を前面に構えて突進した。凄い圧迫感だ。これにはシーカー達も立ち止った。ナナシも走る。シーカーは左右に分かれた。カレンが右のシーカーA、ナナシが左のシーカーBに行った。


 別れてしまった。少し離れている。カバーには行けそうにない。

 それよりもこっちだ。ナナシはいつも通り立ち止まる。シーカーBが短剣を薙ぐ。ナナシは叩き落し(スラップ)で迎撃。シーカーBはもう一度反対側から、短剣を振った。ナナシは一歩引いた。


「よし……」


 やっぱりそうだ。今まで相手にしてきて分かったが、シーカーは極端に上下からの攻撃が少ない。いつも左右にしか攻撃していない。右、左、右、左を続ける。単調に続ける。だが、逆に誘っているのではないかと疑ってしまうが、シーカーは真面目だ。本気でやっている。けど、左右にしか剣や棍棒を振らない。これは、シーカーの特徴だ。一度攻撃させれば、次の攻撃をほぼ予測できる。


 次は左。「ヂュラァァ!」

 次は右。「ヂャァッ!」


 ナナシは避ける。だが華麗には躱せない。大きく下がる。大げさに体を下げたりする。紙一重で避けるなんて神業は出来ない。ナナシは達人ではない。素人だ。余裕ではない。だが、初見のときより遥かに楽だ。慣れた(・・・)。次の動きが予測できる。分からなかったが、本当なら三体まで行ける気がする。

 チラッとカレンを見た。頑張っている。防戦一方だが、シャットアウトしている。聖騎士の防御専用スキル盾受(ブロック)だ。粗末な木製の盾というのが少し残念だが、必死になりながらも防御している。昨日までなら、すでにテンパってずっこけている。未だに立っているだけでも成長だ。いいぞ。カレン。


「そのまま防御に専念!」

「ハイッ!」


 いい返事が返ってきた。シーカーAはカレンを攻めきれず、どう見てもイライラしている。怒涛のように攻めているが、盾に阻まれる。

 ナナシは頷いた。いける。出来る。次を弾く。来る。来い。やっぱりだ。右。叩き落し(スラップ)


「……ッッ!」

「ンゴッ……!」


 思いっきり短剣を弾いた。ここぞとばかりに、ナナシは近づく。シーカーBは一歩下がった。だが体勢が悪い。苦し紛れの後退だ。ナナシはそのまま腹にダガーをねじ込んだ。「ギヒャァァッ!」とシーカーBが叫ぶ。ここで追撃をしたいが、駄目だ。すぐにシーカーBは剣をめちゃくちゃに振り廻すはずだ。やはりそうだ。ナナシは急いで離れた。


 止めを刺せなかったと思ったが、意外な事が起こった。シーカーAの動きが悪い。こっちを見ている。狼狽えている……? そうか。仲間がやられて動揺したのか。「あれ……?」とカレンが首をひねって、束の間戦場が膠着した。「カレン攻撃だ!」ナナシの声に反応して、すぐにカレンが剣を思い切り振り下した。頭だ。「ギヒッ!」とシーカーAが何とか攻撃を弾いた。でももうすぐ終わる。「えいっ、えいっ、えいっ!」と連続攻撃が降り注ぐ。頭ばかりだが、圧力に負けてシーカーAは膝を着いた。もう終わりだ。カレンはシーカーAを蹴倒して、剣で串刺しにする。滅多打ちにする。


 シーカーBがそれを見て、逃げようとした。ナナシに背中を見せた。傷を負っているから、全く早くない。ナナシはすぐにシーカーBに追いついて、背中にダガーを埋め込んだ。そのまま倒れ込むようにして、のしかかり、何度も何度もダガーを突き刺す。すぐにシーカーBは動かなくなった。


 倒した。倒した。完全勝利だ。やってやった。やれるという事が分かった。

 周りを見る。音を聞く。近づいているシーカーはいない。気づかれた様子はない。


 カレンがこっちに来た。手を挙げている。ニッと笑った。快音鳴らして、その手を叩いた。ハイタッチだ。ちょっと高いからジャンプしたのは内緒だ。


「いやぁ。良かったんじゃない? 私も倒れなかったし。いつもよりいいなと思ってたんだな、これが」


 カレンは調子の良いことを言っている。鼻高々と言った様子だ。少しばかりイラッとしてしまった。調子の良い事言っていると、足元をすくわれそうで怖い。戒めておく必要がありそうだ。


 先に進みながら、ちょっとだけ説教した。


「いや、まだだな。理想と程遠い」

「えぇぇ。そんな事言わなくても良いじゃん」

「駄目。ダメダメ。なにより、シーカーを倒せたのは、勝手にあいつが動きを止めてくれただけで、カレンが何かした訳じゃない」

「いや、うん。まぁ。そうかもしれないけど……」

「そんで、正直言えば俺はシーカーの後ろを取りたい。そんで背後から突き刺す。これが俺の理想なの」

「……卑怯」

「何か言った?」

「別に」

「ホントは聞こえてるけど」

「え、嘘」

「ホント」

「――そういえばぁ」

「話逸らすな」

「トイレがぁ」

「無視か」

「トイレ。何とかしてくださいよ。ボットン便所て。乙女に恥かかせる気満々ですか。あと風呂。これも譲れません。かび臭い水しか出ないじゃないですか。しかも冷たいし。駄目過ぎ。今日まで言わなかったけど、改善する気無いみたいだし」

「……高いんだよ。良いのは。あれ幾らか知ってるか? 三百円しないからな」

「は、ハァ!? そんなもん使わせてたんですか!?」

「うん」

「うん、じゃないでしょ! これでも女なんです。身だしなみにも気を使うお年頃!」

「いや、俺しかいないから。どんな格好してても怒らないよ」

「違くね? そうじゃなくね?」

「なにが」

「モテないでしょ。ナナシ」

「……それが?」

「ほら」

「何も言ってねーし」

「いや間があった。言いにくい事があったに違いない」

「うっせーな。そうだよ。モテないよ? それが? はぁ? 悪い? 迷惑かけましたかァ? うん?」

「ナナシがそれでいいならいいんじゃない? それでいいならさ」

「イラつく……」

「イラつけ、イラつけ。私はトイレと風呂の改善を要求する!」

「じゃあもっと気張れ。頑張って稼いで、それでグレードアップさせてくれ。シーカーを一対一で倒せるレベルまで頼む。防いでるだけだったら俺でもできるんだぞ。分かってか? 倒せよ。いつまでも甘えられると思うなよ。必要なのは――」


 結果、と言いそうになって、慌てて口を押えた。何を言おうとした。一番嫌いな言葉だったはずだ。それを言おうとした……? それじゃあ、ナナシはあの糞どもと同じになってしまう。確かに結果も大事だ。でもカレンはまだ始まったばかりだ。要求する事が高すぎるんじゃ……?


 突然黙ったナナシに違和感を覚えたか、カレンが身を曲げて顔を覗き込んでくる。「ナナシ?」「なんでもない」誤魔化せたか。分からない。ちょうどいい。行く先にシーカーだ。カレンも気づいた。「さっきと同じ」「はーい」走り出す。


 あっちも気づいたようだ。槍シーカーと剣シーカーだ。槍シーカーがナナシに向かってきた。うわ。最悪だ。剣シーカーはカレンに。


 槍シーカーは、やはり槍を突く。突いて、突いて、突きまくる。ナナシは当たらない様に、必死に避けたり、危ない攻撃は叩き落し(スラップ)で弾く。全く近づけない。いや隙はある。突いた直後だ。それと叩き落し(スラップ)で弾いたときに突っ込むのも良い。槍は間合いが広いけど、ダガーの攻撃範囲まで近づかれたら、流石に手が出ないはずだ。剣を持っている様子もない。

 

 だが、突っ込むのもリスキーだ。どこかで左右に槍を振ってくれれば、そこからは左右にしか振らなくなるはずだ。それを待っても良い。しかし時間が経てば、他のシーカーが来るかもしれない。知らず舌打ちをする。剣シーカーと戦いたかった。

 

 できなくもないのか……? 交代するだけだ。


 カレンも攻撃を防いでいるだけ。反撃をしようとしていない。


 よそ見をしたのがいけなかった。危うく槍で貫かれるところだった。「うぉっ……!」ナナシは飛びのく。下がるが、槍シーカーも追いかけてきた。


「カレン、交代しろ!」

「な、なんで……! ……ほらっ!」


 カレンは剣シーカーの攻撃を盾受(ブロック)で受け止める。「相性が悪い。槍シーカーを止めてろ」言うが早いが、ナナシは剣シーカーに襲い掛かる。瞬間的にだが二対一になり、剣シーカーが慌てた。カレンは「あぁもう」と悪態をついて、槍シーカーの方に向かった。


 槍シーカーは懐に入り込むまでが難しい。ダガーのナナシでは結構なリスクを背負う。しかし剣ならどうにかなると、ナナシは判断した。後ろから槍が盾にカンカン当たる音がする。カレンも守りだけなら、何とかなりそうだ。欲を言えば、倒してほしい。もっというなら、二体くらいガツッと引き付けて欲しい。カレンは体は大きいのだが、威圧感が少ない。まだ始まったばかりだが、もう少し我武者羅になっても良いと思う。少し悪い意味で理性的だ。自分を押しとどめている。本気を出せば、この体格差だ。一発で沈めるのも可能だ。


 目の前の剣シーカーが攻撃を繰り出す。やはり左右からの攻撃だ。御しやすい。様子見をする必要もない。一発目で攻撃を叩き落し(スラップ)する。力は強いと言っても、ナナシよりは弱い。小学生程の大きさの生物に敗れるほど、ナナシもひ弱ではない。


 体勢を立て直される前に、ナナシは剣シーカーの腹を蹴った。毛が邪魔であまり良い蹴りではなかった。しかし蹴りで殺したい訳じゃない。さっきより近くにいる。それでもシーカーは剣を振る。見えてる。右上からだ。ダガーを振る。弾く。そのまま腕を引いて、突きだす。


「ブホッ……」


 そして倒れ込むようにして、組み倒す。攻撃スキルがあれば。もっとやりようがあるのに。やり方を知らない。それも真正面から戦わないといけないようだ。それなりのスキルを取らないといけない。


 ナナシは剣シーカーにとどめを刺し、槍シーカーの方に向かう。

 相変わらずカレンは盾受(ブロック)で攻撃を防ぐだけだ。右手に持っている剣を全く使う気配がない。使えよ。守りに専念している。そりゃナナシが援護すれば、槍シーカーも注意散漫になって、中途半端な攻めになるだろう。


 頑張ってほしい。そこはナナシを待つのではなく、自分の力で突破して欲しい。無い物ねだりだろうか。わからない。弱くはない。カレンは堅い。強固だ。なかなか攻め崩すのは難しいだろう。だが、相手は攻める一方だ。カレンが攻撃しないのをいいことにやりたい放題だ。


 ナナシは槍シーカーの背後を取った。チラッチラと槍シーカーが後ろを見る。そうなってようやくカレンが攻めに転じた。堅実だ。チャンスを待っていたんだ。カレンにはカレンなりのやり方がある。まだ口を出す時期じゃない。聖騎士一日目だ。対してナナシは盗賊歴一か月。少し経歴に差がある。ここから独自のスタイルを掴んでいってほしい。


「セイ、セイ、セイッ!」

 

 かさになって攻め立てている。ガッツンガッツン大上段から剣を振り下ろしている。もう怒涛の連撃だ。槍シーカーは槍を掲げて、守るだけで精一杯である。チャンス。


 ナナシは気づかれないように歩く。歩くというより走る。できるだけ音は立てないようにしたいが、無理だ。でもできるだけ気配は消したい。背中に体当たりするようにぶち当たった。「グヒョッ……!」と気の抜けた音が出る。しかし、駄目だ。骨だ。ダガーが止まった。骨に当たって攻撃が中断されている。


 それでも十分だ。

 カレンだ。体勢が完全に崩れた槍シーカーの肩口にロングソードをめり込ませた。「えいっ、せいっ、やぁっ!」と滅多打ちにして、とどめを刺す。とうとう頭にロングソードをぶち込まれて、槍シーカーはぐったりして、動かなくなった。


 カレンは肩で息をしている。振り回しまくって疲れているようだ。

 何か言おうと思ったが、自分で考えるのも必要だ。他人に言われた事と、自分で思いついた事は重みが違う。どういうスタイルで行くのか。基本戦略は。それは各々決めないといけない。


 放っておけばいい。何かあったら――仲間として手を貸そうじゃないか。

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