#4
予想通りの稼ぎで、部屋に戻る事が出来た。
一番安いシャワーを買うと、部屋の側面に新たに扉が出現した。その中に入ると、めたくそ衛生環境の悪そうなシャワーだった。水を出すと濁っていて、かび臭い。これ、シャワーなの……?
しかしそれ以上にナナシの方が汚い。汚物にまみれ、血で彩られている。まだこの臭い水を浴びた方が良いと判断して、服を脱いで水を浴びる。
やっぱり冷たい。お湯なんて気の利いたものはない。水量も少ないし、無限に出続けるわけでもないだろう。さっさと汚れを洗い流して、さらに買っておいたタオルで体をふく。洗髪用品なんかないし、石鹸もまだ買えない。勿体ない。さらに簡素な服も買っておいたので、そちらに着替える。これで金は無くなった。命を張って稼いだ金は、服とシャワーだけでなくなった。
飯も食べれなかった。ため息ばかりが出る。
頭をふきながら、椅子に座った。パソコンを操作する。『ショップ』にはえらくたくさんの品物が売っている。生活用品もあるし、娯楽もある。だが、目を引くのはパーティーメンバーだ。
人を買うのだろう。
ナナシは後ろを振り返った。空いている部屋は五つ。恐らく、五人までパーティーを組める。小団だ。ちょっとした団体行動で、Dを攻略しようという制度だ。
「でもなぁ……」
人を買うって、どうなの……?
倫理的に。協力ならわかるんだよ。ナンシと志や境遇が同じ同士がいるなら協力しようと思う。でも、人を買うって何? そもそもその人って何? 人形のこと? それともそのままの意味で、生きた人間を寄越すってこと……? でも、ナナシは死んでるし、死人を寄越すのかな……? そもそも、ナナシは一体どういう状態なのか。疑問がわき出てくる。疑問が疑問を呼ぶ。この部屋は何だ。なんでこんな事をさせるのだろう。
ナナシは腕を組んで、瞑目する。頑張って考えるが、答えは出ない。
正直言えば、刺激的ではある。楽しいか、楽しくないかで言えば、ギリギリ楽しい。比べるまでもないが、大学の研究室生活よりは雲泥の差で良い。なら、今は良い。
ナナシは一つ体を伸ばして、立ち上がった。ダガーのホルダーを引っ掴んで、腰に巻きつける。一時間程度は休んだと思う。結局ご飯にはありつけていない。さっぱりはしたが、それでは腹は膨れない。タオルなんて買わなければよかった。
ナナシは一つ学んだ。
二体は倒せない。ナナシがはっちゃけて、テンションも上がりまくりで、ハイになっていたとしても、二体は倒せない。ナナシはそう考えた。そしてその考えに基づいて、動いている。狙いは、一体で行動しているシーカーを狙う。
だが、基本複数で行動するシーカーを見つけるのは、なかなかに骨だった。かなりの時間部屋から離れないようにしながら、探しまくった。ほとんど複数で行動していた。二体か、三体。それでも根気よく探し続けた。そうしたら、見つけた。ノコノコと歩いてやがる。これが運の良い事に、武器を持っていない。
ナナシは笑った。これはいいカモだ。ナナシは予定通り、シーカーに襲い掛かった。シーカーは抵抗したが、一体なら何とか捌けるという自信がナナシにはあった。自信があるとテンションが上がる。テンションが上がると、難なく倒せる。
ガッツガツダガーで刺しまくって、シーカーの命を奪った。
「流石に疲れた……」
数時間行動していたのに、倒したシーカーはたった一体。それも何も食べていない。ナナシは部屋に戻った。
シーカーとは接触しなかった。
もう一回シャワーを浴びて、パンと水を購入した。
パソコンを弄りながら、もっと効率のいい稼ぎ方はないかと模索した。ナナシ自身がもっと強ければ、シーカーをバッタバッタとなぎ倒すのだが、そうもいかない。
ナナシはふと『ギルド』欄はあまり見ていない事に気付いた。あまり親しみのない言葉だったので、放置していた。パンをかじり、中を見てみた。
「お……。これ……」
ギルドとは要は、特定業種団体のことであり、つまりは個々の役割を決める事である。それは各自が戦闘に於いてどのような働きをする事に繋がる。
ナナシはまだ特定業種団体に入っていない。それもそうだ。ナナシは金がない。特定業種団体に入るには、おおよそシーカー十体分の命を吸わないといけない。
まだトータルでナナシは四体しかシーカーを殺していない。それも金はほとんど使ってしまった。ナナシはお金をためないといけない。
日々の生活を行いながら、ナナシはお金を貯める算段を付ける。
特定業種団体に入ると、まず一つだけ技能を教えてくれる。習得するのに数日かかるようだが、ズブの素人であるナナシにはとても有難いシステムだ。
パーティーメンバーを買うには、シーカーを約四十体分の金が要る。これは今のナナシでは貯めるのが困難だ。まずナナシが強くなって、その後じっくり時間をかけてお金を貯めよう。
ナナシは急いでパンを食べた。余った水はそのままにしておいた。カバンがあれば、ペットボトルを持ち運ぶことも可能なのだが、今はその余裕もない。
ナナシはさっさとダガーを持って、D1に舞い戻った。
狙いは単独行動をしている阿呆のシーカー。
それにしても――。
「全然喋ってないなぁ。暇だよ」