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Ⅻー迷宮を攻略せよ‐  作者: tempester08
溝浚いの坑道
1/14

#1

 アホみたいなスケジュール。理不尽な要求。まったくでない成果。一銭にもならない。全く意味がない。こんな事をして何の意味がある。他の連中は阿呆だ。何にも考えず、ただただ上の連中の言葉に従って、盲従しているだけだ。考えていない。それも一つの手かもしれない。従うというのは、案外楽だ。それだけに集中すれば、怒られることはない。でも、それでもなんだよな。怒られるんだよ。「結果が全てなんだ」。何度も聞いた。うるさい。頑張っているじゃないか。過程は見ないのか。そんなの関係ないってか。そうかよ。やめてやる。糞だ。

 

 大学生になって、それで、二年くらい過ごして、そのあと研究室に配属された。

 これまた糞だった。ファックだ。社会の縮図がこれかという感じだった。いや、それ以上に酷い。第一、働いているのに、金銭が発生しない。むしろ学費を払っているので、マイナスだ。そして結果が出ないと、教授に怒鳴られる。准教授は教授の座を虎視眈々と狙っていて、とてもピリピリしてる。助教授はすぐさま結果が出ないと出世が出来ない。だから、生徒たちの対応なんて二の次だ。


 糞。総じて糞。全て糞。何もかもぶっ壊してやりたい。


 朝早く起きて、大学に行って、奴隷の如く研究して、真夜中を数時間過ぎて、家に帰って寝る。また起きて、大学に行って、研究して、おそくまで起きて、寝る。起きる、寝る。起きる。寝る。研究して、研究して、研究する。


 そのうち、どうして生きているんだろうと思った。何をしているんだろう。全く楽しくない。これは義務だから? いい会社に就職するため? 自分のため? 

 

 糞だ。死ね。死に腐れ。


 だけど、思うだけだ。


「どうなってるんだ。まったく結果が出てないじゃないか……!」


 知るかカス。お前がやれ。だけど言えない。「すみません」と謝る。


 教授が舌打ちする。「全く使えん。これだから……」と吐き捨てる。これだから、なんだ。その続きはどうしたんだよ。でも、言えない。すごすごと引き下がる。お前のテーマが悪い。指示が悪い。指示通りやってこうなっているんだ。分かっているのか。その辺。理解しているにか。腐敗した脳みそでもう一度よく考えて物を言え。どうして大学側はこんな人間的にクソな奴を雇っているんだ。頭がイカレてる。人を人と考えていない。

 

 他の奴らもやつれている。こんな所に来たのが間違いだった。死にたい。いや、死にたくない。そんなの嫌だ。あんな奴のために、人生を犠牲にするなんて、絶対に嫌だ。何とか耐えたい。どうにかして、生きていたい。


 今日も夜中の三時になって、ようやく解放された。フラフラになりながら、自転車を漕ぐ。


 夜中の三時だ。誰もいない。車だって通っていない。いや、ちらほら大型トラックが通っている。凄まじいスピードだ。ぶぉぉぉんと轟音をまき散らして、公道を疾走している。

 そんな毎日だ。馬車馬の如く働き、これが今後どうやって役に立つのかも分からない事をやり、達成感の無い日々。

 

 そう考えながら、いつか疲れるとそれはある感情に変わっていた。

 憎い。

 途轍もなく、臓腑を焼き尽くすほどの憎しみが体の中から湧き上がってきていた。


「ぶっ殺してェ」


 口癖になった。ふと誰もいなくなると、そうやって恨みつらみを聞かれないように呟くようになった。全くスッキリはしないが、これをしないと、自分がどういう行動に走るのか分からなかった。年齢ももはや少年法が守ってくれる範囲ではない。理解していた。殺せない。何も手出しできない。


 糞が権力を手に入れると、これ以上手を付けられない。

 そう悟るようになった。


 そして、口癖は続行しながら、寝る間際や一瞬の休憩時間にぶっ殺す手段を考え始めた。

 時に刺殺。時に絞殺。時に轢殺。一番爽快なのは、やはり射殺だろう。


 自分がスナイパーになって、大学のどこかに陣取り、虎視眈々とその時を待つ。雨の日が良い。音を消してくれる。そうやって、雨合羽を被り、息ひとつせず、じっと待つ。そして来る。教授が腰かけ、仕事をし始める。その一瞬が欲しかった。引き金を引く。……最高だ。一瞬であの世行きだ。


 だけど、相手が一瞬で死んでしまうのも勿体ないと考えるようになった。


 そこで、やはり良いのは刺殺であるという結論に至った。

 これもやはり雨の日だ。夜に紛れ、その時を待つ。強い雨だ。姿勢を低くして、傘を強く持たないといけない。当然そうすると、視界が悪くなる。しかし自分は雨合羽を被っている。両手は自由だ。しかし教授は違う。けった糞悪いスーツを着て、色度の低い傘をさして、風に対抗しようとして、傘を前に傾けている。それを見て、右手に持つ包丁を袖の中にあることを確認して、歩き出す。雨の音と視界の悪さが相まって、奴はまだ気づいていない。歩く。近づく。ふと奴が顔を上げた。その瞬間に駆け出す。体当たりするようにぶつかった。包丁がズップリと刺さった。肉を切った時の手ごたえ。快感だ。「あがぁっ……!」とか言っているが、雨の音でそんなものはかき消されて、誰も気づかない。奴は倒れる。奴の頭を何度も踏みまくって、その場を後にする。悲鳴も無い。爽快だ。気分爽快だ。


 自転車に乗りながら考えていた。いつもの妄想。これをしていないと、精神の安定が図れない。しかし、あれだな。


「ハァ――」


 パァァァ! とけたましい音が鳴った。クラクションだ。車が突っ込んできた。視界の端では信号機は赤だ。止まれかよ。いつ信号変わった。全く気付かなかった。終わった。


 暗転。


 名もない青年は瀕死の重傷を負い、病院に担ぎ込まれた。

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