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大学祭1日目①

 事の始まりそう、あの日の夜だった……。 あの日起こったことが、まさかこんな事になるなんて思いもよらなかった――



 ●


 長谷川 貞道、20歳。生まれてこの方、恋愛経験皆無。中高と男子校で育った俺は、自分でも思っていた以上に女性に対してコミュ障に成長していた。

 大学に入れば自然とカノジョとかできるだろう、と高をくくっていたが、蓋を開けてみれば大学デビューに乗り遅れ、周りでどんどんカップルが誕生するのを尻目に、通称「残飯」と呼ばれる非モテカテゴリーに属していた。

 既に大学生活の半分を過ぎた今、これではまずいと危機感を覚え、同じ部内の「非モテ三連星」と呼ばれる、熊代と外村と桃園の契りを交わしたところだった。

「我ら3人、生まれし日時は違えども、彼女ができる時は一緒ぞ!!!!」

 深夜テンションと酒も合わさり、一人暮らしの熊代の家でバカ騒ぎしていた。

 そんな中、「非モテ三連星」のリーダー格の外村がこう切り出した。

「来週、我が大学で大学祭なるイベントがあるらしい」

「いや知ってるよ」

「さっき、学祭費とか言って3千円徴収したばっかだろ、返せ」

 俺と熊代の冷めた反応にも、外村は負けじと声を張り上げる。

「偶然にも! 我らが好意を寄せる女子は同じサークル内、そしてかぶりなし。これは奇跡と言えるだろう」

 外村は拳を握り、高々と天に突き上げる。

「なればこそ! 我ら協力して、それぞれの恋を成就させようではないかッ!!!」

 あまりの大声に、隣の部屋から怒号と壁ドンが飛んでくる。しかし外村はなおも興奮冷めやらぬまましゃべり続ける。

「そこでだ、諸君。我らの部活は去年に引き続き、たこ焼きを売ることになっている」

「去年から結構苦情出てるよなぁ。タコが入ってねえとか生地が不味いとか」

「そうだねぇ、どうしても素人が作ってるからミスがでてきちゃうよね」

 まぁ、学祭の食べ歩きにそこまで求められても困るということだ。

「はい、冷静な議論は部会の時にしてくれなー」

 ゴホンと咳払いをいれ、外村は話を続ける。

「これを見てくれ」

と、外村は酒の空き缶が乱立するちゃぶ台の上に、一枚のコピー用紙を出す。

「「こ、これは……」」

 そうなんのことはない。誰がその時間に店に入るかのシフト表だった。

「ふっ、驚くのはまだ早い」

「いや、驚いてねぇんだけど」

 外村はメガネをかけてない癖に、クイッとメガネを上げる仕草をする。

「見ろ、この一日目、9時からのシフトを!!」

 外村が指さしたコマに、皆の視線が釘付けになる。

「なん…だと……?」

 そこには3人の、皆字体はバラバラだが、どれも可愛らしい字体で、女子の名前が3つ書かれていた。

「浅間、氷川、諏訪……。そう、まさに我らの想い人が全員いる神シフトだ!!」

「つまり……、何だ外村……。お前、まさか……?」

「ふっ、長谷川は察しがいいな」

 外村はニヤリと笑う。

「この日、それぞれ協力して、二人組になるように協力する。A班は店頭で応対。B班は歩き売り。C班は部室での材料の下ごしらえ。これで二人っきりの状況が簡単に作れるというわけだ」

「なるほど……、考えは面白い。だがそう上手く行くものか? シフトが入ってなくても来るやつはいるし、女子同士くっついて行動する可能性もある。というか、その可能性の方が高い」

「わかる。わかるぞ、長谷川! だが人は挑戦せぬ限り、成功確率はゼロだ!! この2年と半年、俺たちに彼女ができなかったのは行動しなかったからだ!!」

 正論を言われ、ぐうの音も出なかった。

「受身で彼女ができるのはイケメン×肉食ビッチのカップリングだけだ! 自分から動かなくては何も始まらない!! いざ鎌倉だ、いい嫁作ろう鎌倉幕府だ!!!」

 もう最後の方、意味わかんねえな。

「そういえば、鎌倉幕府って僕らの世代は1192(いい国)で覚えたけど、今は1185(いい箱)なんだってね」

「そんなことはどうでもいい。今は歴史の話など関係ナッシングだ! 空気を読めないうんちくを語るのがお前の悪い癖だぞ、熊代!! このうんこちんちん熊代、略してうんちくが!」

 小学生レベルの下品な言葉を多用するのが外村の悪い癖だと思うのだが、黙っておく。

「さて、異議はないようだな?」

 外村は満足そうにこちらの顔を見渡す。そう言われると指をさしながら、異議ありッと大声を上げたくはなる。

 だが、こうなった外村を止められないことは、俺も熊代もわかっている。だから俺たちは黙って外村の大統領ばりの熱のこもった演説を黙って聞くしかない。

「……以上だ! 必ずこの作戦は上手く行く! オペレーション・メテオ! イエス、ウィーキャン!」

 締めの言葉に、隣の部屋から拍手の代わりに、本日5回目、15分ぶりの壁ドンが送られる。

 自分から動かなくちゃ何も始まらない、か……。唯一、今日ためになった外村の言葉を思い出しながら、その後も宴は進んでいった。


 ●


 来たる決戦の日。天才軍師・今孔明外村(自称)の天女三分の計。今のところは順調に事は進んでいる。

 かなり早い段階で、一つのシフトに6人が名前を書き連ねたことで、他の部員たちは空気を読んで、他の手薄なシフトに名前を書いていった。

 外村の目論見通り、一日目、9時からのシフトには俺たち3人と、それぞれの想い人である三大天女の3人が揃った。

「そ、それじゃあああ、役割分担して頑張るか!」

 きょどりすぎだ外村。

 白々しく、外村が話を切り出す。

 打ち合わせ通り、3班に分かれて行動する。これは毎年、俺たちのサークルでのやり方だ。だから天女陣営も、特に異論は挟まない。後は都合よく、目当てのペアを作るだけだ……。

「と、言うことで、く・じ・び・き・ボックスー!」

 と、国民的ロボットの声真似をしながら外村は細工を施した箱を取り出す。

「せっかくだしさ、ゲーム感覚で決めようぜ! な、長谷川!」

「ん、あぁ……、そんなの作ってたんだな。やっぱお前バカだな、なぁ熊代」

「え、あ、うん。でも凄いね外村君。作るの大変だったでしょ?」

 少し白々すぎたか……?

 たかが班分け程度のことに、こんなものを作ってきた外村に、天女たちは多少なりとも引いていた。だがそれは俺には関係のないこと。

 評判が下がるのはお前だけだ、外村。

 仲間意識など俺はまったく持ち合わせていない。外村、お前はさんざん使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやる。

「す、凄いね、外村君。こんなの作って、やる気満々だね」

 と、浅間。愛しのマイラブリーエンジェルだ。フォローするなんて、流石お優しい……。

「……めんどくせぇからさっさと引いて仕事しようぜ」

 と、氷川。氷の女王、外村の想い人だ。たぶん好感度下がったなこれ……御愁傷さま。

「そ、そうですね」

 と、控えめに賛同する、唯一の一年生の諏訪。消去法で、熊代の想い人だ。

「うっし、それじゃあレディーファーストってことで、女性陣からどうぞ!」

 うむ、ここら辺の手腕は流石だ、外村よ。ごく自然な流れで女性陣に先に引かせることができた。

 既に俺たち男性陣は、意中の相手が何を引こうとも大丈夫なように、3種類のくじを外村から貰っている。

 後はこれを手に隠したまま箱の中に突っ込めばいい。

「赤」

「青」

「黄」

 女性陣がそれぞれ、違う色を引く。当たり前だ、1個ずつしか入ってないのだからな。

 くじの数が少なかったといぶかしがられる前に、俺と熊代は手を突っ込む。

 浅間は赤……。俺は間違いのないよう確認してくじの色を宣告する。

「お、偶然にも男女別れたな」

 わざとらしく外村が感想を口にする。

「それじゃあ、今日の商売繁盛を祈って……、ミッションスタートだ!」

 こうして、俺たちの恋のXデー作戦は始まった。


 ●


「まだ時間が早いから暇だねー」

 あぁ……、エプロン姿が美しいです、浅間さん。彼女の旦那になる男は、この姿を毎日見ることができるのか……っと、冷静になれ。

「そうだな。まだ混む時間じゃないからな」

 大学祭の開始時刻は9時30分。朝一で来る人は少なく、たこ焼きという軽食はあまり人気のない時間帯だ。

 それでも朝食代わりにと来る、学生たちをさばいた後に暇な時間ができた。

 会話終了――

 いかんいかんいかん。これではいつもと変わらないじゃないか。

 せっかく二人きりになったんだから、どんどん会話していかないと。

「あ、浅間は、学祭で見たいところとか、あんの?」

 無難な切り出しからの、上手く行けば一緒に回れる可能性もある妙手だと自画自賛したくなる。

「え、私? うーん、気になっているのは雅楽研究会の尺八ソロライブかなぁ」

「ほ、ほぅ尺八か……」

 やばい、まったく興味ねえ……。ここは話を合わせるために面白そうとか言うべきなのか……?

 てか、尺八ソロライブって何だ……。

「長谷川君は、どこか行きたいところとかあるの?」

「ん、いや…特に……」

 いかんいかん! ここは嘘でも行きたいところあるっていうところだろ! 俺のバカ野郎!

「そっかぁ、でもせっかくのお祭りなんだし、楽しまないと損だよ?」

「そ、そうだなぁ……」

 よし、ここで、「よかったら、俺も尺八ソロライブ見に行ってもいいかな?」と、当社比1.5倍のイケボで問いかけるんだ。

 いかん、足が震える。どんだけチキンハートなんだ俺は……!

「よ、よ、よかったらさ……」

「ママー、たこさんー」

 意を決して浅間を誘おうという時に客が来る。

 子連れだろうか、子供のまだ覚束ない発音が聞こえる。

 くそっ……。ここは一旦、客の方に行かなくては……。

「いらっしゃいませー。たこ焼きどうですかー?」

 焼きは浅間に任せ、店頭に向き直り接客モードに入る。

「パパッ!」

 子供の喜ぶ声がする。

 しかし、どうみても客は若い女と子供だけ。パパと呼ばれるべき人物はどこにも見当たらない。

 それでも子供は母親の腕の中で、何度もパパ、パパと呼び続けている。

 それに、どうみても俺の方を見て呼んでるよな……。

「長谷川君、どうしたの?」

 店頭でのやり取りに気付いた浅間は、たこ焼きを焼く手を止め、こちらへとやってくる。

「ど、どうしたのかなぁ、パパと似ているのかなぁ?」

 子供に向かって最大限の笑みを浮かべながら尋ねる。どうせ子供の勘違いだろう。何故か俺を父親だと認識してしまっている。

「長谷川君の……、お子さん……?」

「違うに決まってるだろ!」

 俺はまだ童貞です!

「会いに…参りましたわ、あなた」

 今までずっと黙っていた母親が口を開いた。というか、「あなた」とか、浅間さんの目の前で誤解されるようなこと言うんじゃねえ!

「あなた…だって……?」

「はい、この子はあの時の子供ですわ、貞道様」

 あの時ってどの時ですか!? あの日あの時あの場所で

「何を言って……」

 その時、母親の顔を初めてしっかりと見た。

「マリア……?」

 成長していてすぐには気付かなかったが、どことなく幼い時の面影が残る顔に見覚えがあった。

「お久しぶりでございます、あなた……」


 ●


 ひとまず店先は浅間に任せてその場を離れる。まだ早い時間だから一人でも困らないだろう。一応、歩き売りの班に連絡を入れて店の方に戻ってもらう。

 だが、はっきり言って今の俺はかなり混乱している。わけもわからず自分を攻撃してしまいそうになる。

 その混乱の原因は、身に覚えのない子供に、長年疎遠になっていた幼馴染のマリアとの再会、そして何よりも想い人である浅間を前にしてのあの爆弾発言。絶対に誤解されたに違いない。この体は女を知らぬ清廉潔白な身なのに……。

「ほらあなた、抱いてあげてください」

 人の気も知らず、マリアは名も知らぬ赤ん坊を俺に預けようとしてくる。

「待て、マリア。俺はそんな子供のことは知らないんだが。お前が産んだのか?」

「そんな御冗談を。私はまだ処女ですわ」

 さらりと、恥ずかしげもなく打ち明ける。ではなんだ、お前の名前よろしく聖母のように処女懐胎したとでも言うのか?

「じゃあその子供はなんなんだよ……」

「あら、覚えていらっしゃらないのですか? あの時の夜のことを……」

 だから誤解を招くような言い方はやめろ。

「三年前の、生誕祭の前日のことを思い出してください」

「三年前……?」

 三年前というと、高校三年生の時か……。

 彼女のいない俺にとってはクリスマスとは忌むべき存在。その日も俺は一人寂しく、浮かれた雰囲気の街に恨み言を吐きながら過ごしていたはずだ。

 その日の行動を、おぼろげな記憶を呼び覚ます。

 思い出した……。俺はその日、一人の赤ん坊…捨て子を見つけたんだ。

 俺は昔、プロテスタント系教会が併設する幼稚園に通っていた。マリアとはそこで出会った。

 そして三年前、老朽化が進む聖堂を建て直すということで、俺は慣れ親しんだ聖堂を目に収めておこうと思って十数年ぶりに教会に足を運んだ。

 あの日は寒い日だった。吐く息が白く、彼女のいない俺にとっては心までもが寒かった。そんな中、明らかにゴミではない何かが、教会へと続く道脇の植え込みに置いてあった。

 最初はゆり籠なんて思いもしなかった。ただの好奇心から、落ちている物を見ようとしただけだった。

 かぶさっていた地味な色をしたタオルケットを取ると、自分の置かれている状況すら理解できていない赤ん坊が眠っていた。

 このまま放置したままでは凍死しかねない状況だったため、俺は急いで拾い上げて教会の方へと向かった。

 教会の中はクリスマスの準備ので騒がしかったが、運よくすぐに俺が幼稚園の頃に世話になった先生兼牧師のおっさんがいた。

 お互い年齢を重ねてはいたが、顔を合わせると牧師の方も俺のことを覚えていてくれた。

 事情をかいつまんで説明すると、牧師のおっさんは「後は任せなさい。ありがとう、君が見つけたことは神の御導きがあったのだろう」と言ってくれた。

 場所、職業柄、そういう事は過去に経験した事があったのか、冷静に対処してくれた。

 その日以来、俺は新しくなった聖堂には行かず、普通の生活へと戻っていった。あの後、あの子供がどうなったかなど、興味も湧かなかった。

「オーケーオーケー、話はわかった。だけどよ……」

 その後、きっと本当の親は見つからず、仮戸籍の申請なども教会側で行ったのだろう。しかし……。

「なんでおいつが俺を父親だと認識してるんだよ!!?」

「こいつじゃありませんわ。ちゃんと時貞という名前がありますのよ。ちゃんとあなた様の字を一字拝領して名づけたのですよ」

「いろいろと言いたい事があるが……、とりあえず置いておいてやる。俺は、なんで、こいつが俺を親だと認識しているんだと聞いているんだ!!」

 俺がマリアに厳しく接すると、マリアの腕に抱かれていた赤ん坊はぐずりだす。

「おぉよしよし、怖いパパですねぇ」

「誰がパパだ!」

「ひとまず落ち着いてください、あなた」

 マリアは赤ん坊をあやし続ける。俺より年下にも関わらず、手慣れた様子で赤ん坊を泣き止ませる。

「……悪かった、大声出して」

 少しだけ罪悪感が芽生えたので謝っておく。だが、こんなわけのわからない状況で取り乱さない奴がいたら顔を拝んでやりたいところだ。

「いえ、すぐに受け入れられない気持ちもわかります」

「受け入れるつもりもないんだが」

 俺のつぶやきを聞こえなかったことにしてマリアは話を進める。

「何故、あなたを父と思っているか、でしたよね。それは勿論、あなたが寒さに震えるこの子に救いの手を差し伸べたからですわ」

「いや、そういう話じゃない。俺がそいつを拾った時、そいつは寝てたから俺の顔なんて覚えていないぞ。なんですぐに俺が拾った人間だとわかったかと聞いているんだ」

「ああ、そのことですか」

 と、このとぼけた女はさも当然のことのように言い放つ。

「毎晩寝かしつける時に、あなたの写真を見せながら私とあなたの馴れ初めを語り聞かせていたからですわ…きゃっ」

「オーケーオーケー」

 つまりなんだ。

「全部お前のせいか!? なんでそんなことした? 嫌がらせか! あァん!?」

「まあ嫌がらせなんて心外な。両親のわからぬこの子のために、少しでもその寂しさを紛らわせようとしたに過ぎませんわ」

 マリアはですから、と話を続ける。

「結婚しましょう、貞道様。そうすれば晴れて私たちは本当の親子になれますわ」

「それが本音か貴様ァ!!!」

「おーい、貞道ー。急に呼び戻してどうしたんだよ? 計画の途中に何かあったのか?」

 歩き売りにでていた外村が最悪のタイミングで帰ってきた。

「その可愛い子ちゃん、誰よ? ってか結婚ン!!?」

 まずい、聞かれていた……。

「あなた様のお友達で? それに可愛い子ちゃんだなんて、照れてしまいますわ」

 マリアは頬を赤らめる。

「あなた様…だと……? 奥ゆかしさMAX!! やばいやばい。俺の中のジェラシーメーターが限界突破で振り切れそうだぜ……」

「…………」

 俺はこの状況をただ見ていることしかできなかった。

 一つだけわかることは、もう俺はこの部活内で彼女を作るのは無理に近いということだけだ。

「ちょっと待て貞道。いま、Lineと顔本とツイッターで報告する。後、VIPに「俺の友達が学生結婚するらしいんだが質問ある?」ってスレ立てるから待って…ぐはぁ!!!」

 事態が変な方向に広がる前に、外村を黙らせる(物理)。

 いっそ殺すか? こいつの口の軽さは羽毛のようにゆるゆるだ。

「待て! 悪かった! ツイ消ししたし、記事も消した! スレの方にも削除申請出すから!!」

 お前はあの短時間で全部のツールで報告したというのか……。

「へへ、すまねえな貞道の、奥さん? 少し取り乱しちまったみたいだ」

「奥さんだなんて…きゃっ」

 マリアは恥ずかしそうに身をよじらせる。

 やばい、殺意の波動に目覚めそうだ……。今すぐスパコンとウルコン吐いて、こいつらに瞬獄殺を当てたい気分だ……。

「一つ聞かせてくれ」

 急に外村は真顔になる。久々に見る、こいつの真顔だった気がする。真顔になってもバカっぽい顔だなぁ。

「その赤ちゃんは……?」

「はい、私と貞道様の子供ですわ。名前は時貞と」

「ファーーーーーーーーーーーーー」

 突如奇声を上げる外村。

「もう我慢できねえ! ヒャッハー、いいや、限界だ! 押すね!」

「うるせぇ!!」

 今度はさっきよりも五割くらい割増しで外村に腹パンする。

「っと、メール?」

 ポケットに入っていた携帯がバイブする。差出人は、所属する部活のメーリスだった。

「お前まさか……?」

「おう、メーリスで全員に送った」

 何故か外村は清々しい笑顔を浮かべながら親指を立てている。

 こいつは殺すことに決めた。

「お待ちください、あなた! 暴力はいけませんわ!」

 こいつ殺したら次はお前だ。

「神は言ったな、右頬を殴ったら、左頬も殴れと」

「そんな物騒な神様は、私は存じ上げませんわ!」

「いいからそこをどけ! そいつ殺せないだろ!」

 周りの目があることも気にせずに騒ぐが、あたりはお祭りムードで誰も別段気にとめない。

 やるなら今しかない。殺った後に、こいつの携帯から誤爆しましたとメーリスを送りなおして、類焼は最低限に留めるしかない。

「あ、いたいた」

 と、そこに部室で作業をしていたはずの熊代と諏訪の二人が来た。

「っと、何々この一触即発の雰囲気は」

 並々ならぬ空気を感じ取ったのか、熊代は尻込みする。

「おうちょっと待ってろ。今から外村を名状しがたい何かに変える解体ショーを見せてやるから」

「そ、そうなんだ。でもその前にちょっといいかな」

 何やら熊代は俺たちに話したいことがあるらしい。

「僕たち、付き合うことになったんだ。ありがとう外村君、長谷川君。二人のおかげだよ!」

 その時、俺と外村の中で何かが崩れ落ちた。


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