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環の場合 3

 映画館は、駅前のショッピングモールに入っている。その店内を環がさっさと歩き、少し後ろをりょうはどこか呆けたような表情で追いかけるように歩いた。エスカレーターで二階に上がる時には、背後を守ることに心を砕いたのは、環にはちょっとナイショの話だ。

 兄のポイントカードを使って一人分をタダにして、もう一人分を割り勘で映画のチケットを購入し席を決め、待ち時間でフードコートへ向かう。夕飯は兄二人が用意したクリスマス用のごちそうがおそらく待っているだろうからと、環は軽めに和風スパゲッテーとサラダを頼み、龍はニオイに負けてのカレーライスとサラダだ。それらを美味しくいただくと、館内入場時間となった。

 薄暗い館内の席に並んで座ると、龍の妙に緊張した気配が、より伝わってくる。

(龍ちゃん、緊張してるよなー)

 環はどこか他人事のように考える。

『環はさ、りょうくんの気持ちに気付いてるの?』

 そう言ったのは、親友の八重だ。言われて、腑に落ちた感じがした。気付いていた、とは環は言えない。だが、そういうことだったのか、と思ったのだ。だから、八重には「気付いてなかった。けど、うん、判った」と答えた。その答えで良かったのかと思い出すと不思議な気持ちになるが、八重はそれで引き下がってくれた。

 今日のことは、その矢先のことだった。

 緊張しまくりの龍には悪いが、素直にいい機会だと考えた。自分が龍のことをどう思っているのか。ちゃんと見極めようと思うのだった。

 携帯電話の電源を切りながら、環はふっと思いついて右隣に座る龍を見た。

「龍ちゃんの初恋って、うちの母さんなんだっけ?」

「……な!……へっ?!」

 同じく携帯電話を操作していた龍は驚いて少し身を引きながら環を凝視した。

 その様子を見ながら、訊くんじゃなかったなーと、環は思った。

 その瞬間、場内は暗くなり、スクリーンに映画館のコマーシャルフィルムが流れ出す。

「あ、ごめん。気にしないで」

 少し声を落として言う。そんなに客の入りは多くはないが、ひそひそ話をしていたら、迷惑だろう。

「いや、あの……?」

 龍も声を落として真意を問おうとしたが、環は右手を顔の前に上げて拝むようにしてスクリーンに向き直り、座席に深く腰掛けた。置いてけぼりの龍は、しばらく口をぱくぱく開けたり閉じたりしていたが、脱力したように背もたれに体重を預けた。

 とっとと気持ちを切り替えたらしい環は、充分に映画を楽しんだが、放置プレイ真っ最中の龍は、環のセリフが頭の中をこだまして、まったく集中できなかった。

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