表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/40

円の場合 柚子仕事

推敲してなかったらあんまりにも酷いので、ちょっと直しました(2014.1.3)


「たっだいまー」

 まどかは声とともに開けたドアの中に滑り込み、鍵をかける。

 その瞬間、爽やかな柚子の香りに気付いた。

(柚子……ね)

 円は心の中で小さく頷く。部活の宿題のテーマが和菓子だったのだ。柚子というのは安易かもしれないが、時季に合っていて、そして簡単だ。和菓子よりは洋菓子のほうが得意な円にとっては、手軽で美味しければとりあえずは良しとしたいところだった。

 そろそろ冬至。この時季になると、母の田舎から祖母が送ってくるから、おそらくそれだろう。香りが玄関まで漂ってきている、ということは、既に柚子仕事に取りかかっているのだろう。円は足早にキッチンへと向かった。仮に違っていたとしても、去年の漬けたものを空けるだろうから都合が良い。

 予想通り、はるかが大量の柚子と闘っていた。

「おかえり。ヒマなら手伝って」

 大き目の瓶が五つと氷砂糖がカウンターテーブルの上に並べられている。

 その脇の段ボール箱に、大量の柚子が入っている。

「今年もスゴイね。何キロあるの?」

 上着を脱いで、掛けてあるエプロンを取りながら、円は訊ねる。

 もともとは母がしていた仕事だった。母が亡くなってからは、量を減らそうかと祖母からは聞かれたが、同じだけ使うと悠は答え、毎年同じだけ、漬けている。

「五キロかな? 今年はドライハーブも作ろうかと思って」

「ドライハーブ? 何それ」

 質問を投げかけながらも、手洗いウガイをするために洗面所へ向かう。柚子の香りに誘われて順番が逆になってしまったが、これは仕方がないことだ。

 食べ物を扱うので、手は丁寧に洗い、ささっとウガイをすませて戻ると、待っていたというように悠が先程の質問に対して返事をした。

「皮の黄色いところだけを剥いで、乾燥させたもの。水に戻して使えるよ。夏向きのお菓子にもいいんじゃない?」

「へえ…」

 夏向きの、というと、レアチーズとか、寒天寄せとかアイスクリームとか。

 なんとなく頭に思い浮かべながら、どう使おうか考え始め、慌てて取り消す。今は、和菓子、と心に言い聞かせる。柚子の良いところは、桜と違って洋菓子にもとても合うところだ、と円は思う。が、悠の言っていたものは皮を乾燥させたものだけのようだ。ということは、皮をすりおろして使うのと同じと考えて良いのかもしれない。

「とりあえず、洗って、傷んでる部分は切り落として」

「ほーい」

「あと、柚子の果汁も取っておこうかなって思って。使わなかったら来年は止めるけど」

「絞るのどうするの? 機械ないよね?」

 柚子の果汁を酢として使うのは、柚子の産地ではよくあるというが、その際、皮も押しつぶすようにして搾るのだ。そうすると、皮の成分も果汁と一緒に絞りだされ、あの柚子独特の香りもより強いものになる。手でも皮ごと搾れないことはないだろうが、効率は悪そうだ。

「ま、試しにするだけだから、頑張ってやってみるよ」

「ふぅん…」

 適当に返事をしながらも、柚子を洗う手は止めない。悠が用意していた柔らかめのスポンジで、軽く洗うのだ。祖母の家の庭にある柚子の木は特に消毒などもされなていないので、強くこする必要はない。なるべくキレイなものを選んで送ってくれているためか、タワシでこすらなければ落ちないような汚れもない。ありがたいことだ。

 洗った柚子をザルにどんどん入れていくと、それを今度は悠がキッチンペーパーで水気を取っていく。

「ただいまー」

 ドアの開く音がして、たまきの声がした。

 「おかえりー」と二人が言うのにかぶせるように「あ! 柚子だ!」という声とパタパタと軽い足音がして、妹が顔を出し、

「待ってね、今手伝うから!」

 上着を脱ぎながら、自室に引き上げていく。窓際で寝ていた鉄子は立ち上がって近寄ろうとしていたが、置いていかれてポツネンと立って、環が消えた方を見ていた。

「………」

 よく気の回る良い子に育ったとは思うが、イマイチ残念な感じがするのは何故だろう、と円はふと思う。

「いいんじゃない? りょうが貰ってくれるのは判ってるんだし」

 タイミングよくそんなことを言う兄を見る。

「にーちゃん、俺のココロのツブヤキに返事しないでくれる?」

「オトウトよ、いまさら無駄なことを考えるのはやめようって話だよ」

 至極真面目な顔で見つめ合って、どちらからともなく小さく笑う。

「黙ってりゃ、充分可愛いんだけどね」

 もちろん、二人にとってはとても可愛い妹だが。

「本当の良さなんて一部の人が知ってればいいって、本人が思ってるんだから仕方ないことだよね。気にしてるんならともかくさ」

 環は黙っていたら、線の細そうな大人しそうな、深層の令嬢のような、美少女だ。白いふわふわの丈の長いワンピースなんかがよく似合いそうな、そんな雰囲気の少女だ。だが、中味が違う。はきはき、しゃきしゃきと元気で明るく、そして、突拍子もない。

 どうもその見た目の期待値と中味が違いすぎることが、残念さをアップしているのだ。

「まあ、私服を着ている限りは、あんまり誤解する人はいないよね」

 円は苦笑しながら言う。

 環の私服の好みは、中味にちゃんと合っているのが救いと言えば救いだ。

「高校卒業したら、そんなに困ることもないだろうし…まあ、龍がいるか」

 結局は兄と同じ結論に達するのだ。

「ん? 龍ちゃんがなに?」

 セーターとジーパンに着替えた環が戻ってきて、掛けてあったエプロンを身につけながら訊いてきた。

「困った時にはいろいろ助けてくれそうだって話」

「うーん?」

 環は首を傾げるが、それ以上を教えるつもりは円にも悠にもない。

「環はまずラベルを作って。レシピはそこ。今年は、柚子酒と柚子の酢漬けと、塩柚子とドライハーブと、絞って果汁を取る」

「了解」

 返事をすると、鉄子に窓際へ行って寝るように促して、ラベル用の紙とペンとセロハンテープを用意する。

 基本的に前年通りの分量で作るが、中には毎年少しずつ分量を変えているのもあるので、味見をした時に確認し易いようにしているのだ。

「柚子酒は、七百グラム? 多いのは、あ、塩柚子を減らしてるんだ」

 レシピに目を通して、去年との違いを確認しながら、書きいれていく。

「今年は酢漬けが多いんだね」

 柚子を氷砂糖と一緒にお酢に漬けたもので、水で割って飲む。夏は前年に漬けた梅の酢漬けとこれで暑さをしのぐのだ。

「夏に喜ばれたから、今年は少し配ろうと思って。塩柚子は思ったほど使わなかったからね。柚子酒で代用できる部分もあるし」

「ふぅん」

 生返事をしながら、環はレシピノートに書かれているだけのラベルを作っていく。悠のレシピノートには、何をどんな分量で、瓶をいくつ作るかも書かれている。こういったところは、母よりマメだった。

「ほい、洗い終わったよー」

 円は最後の柚子を置くと、手を拭いた。次の作業は悠を手伝って柚子を拭くか、作り始めるか。様子を窺う。

「円はとりあえず柚子を拭くの手伝って。環はそれが終わったら氷砂糖を量っていく」

「りょーかい」

「はーい」



 カウンターテーブルの上に、柚子酒の瓶が二つと、酢漬けの瓶が三つ。塩柚子が小さな瓶に一つ。色付きの一升瓶が一つとザルの上に薄く剥いた皮。

「おお…壮観…」

 作業が終わって、環がうっとりしたように呟いた。

 液体の中に、厚めの輪切りにした柚子とその上に氷砂糖が載せられていているのが見られるのは、今日だけだ。氷砂糖が融けてくると、柚子は徐々に浮き上がってくる。

「去年の柚子酒は?」

 梅酒も柚子酒も、だいたい一年寝かせる。前年漬けたものは果実を取り出し液体は他の容器に移して瓶を空ける。そしてその空いた瓶に新たに漬けているのだ。

「いつもの棚。一昨年のがまだ残ってたから、そっちから使って。あと味見したら感想」

 円の質問に、悠は調味料棚を指す。ストック類や、製菓関係の材料が入っている棚でもある。梅酒も柚子酒も、基本的にはお菓子の材料だ。あとは父が思い出した時に飲むくらいで、それほど減りはしない。以前は母が好んで飲んでいたが、甘目に作られているそれらは、父の好みではなく、現在改良中なのだ。

「お菓子用の感想でいいの? 父さんが飲むのに丁度良い甘さにしたらいいんじゃない?」

「うん。それはそれ。とりあえず参考にしたいから」

「ふうん……」

 返事をしながらも、円は面白いな、と思う。

 母から教わって、晩ご飯程度の料理は悠も環も円もする。多少のお菓子作りも三人ともする。が、お菓子作りに興味を持っていて多少なりとも専門的にしているのは円だけだし、食事の用意だけでなく漬物とかにまで興味を持って手を出しているのは悠だけなのだ。環は、中味は母そっくりだが、何かに特化して興味を持つものはない。

 性格と言えばそれまでだが、同じ料理という分野でも、向いている方向が違うのが不思議だと思ったのだ。

「そういえば、母さんは和菓子も作ってたよね」

 ふっと思い出して円は口に出した。

「そうだね、簡単なものばかりだったけど」

 悠は、さっと台所を片付けて、ヤカンを火にかける。

「桜餅とか、おまんじゅうとか。……あれは、ただの食いしん坊だよね」

「あ、そうか」

 円は納得する。母は、基本的に「食いしん坊」だったのだ。作るのは嫌いではなかったのだろうが、食べたいが故の行動だったということなのだろう。

「そうそう。買って来てまで食べてたからね。自分で無理して作らないものもあったよね」

 悠は、今日漬けたばかりの瓶を床に下して、小さな瓶を戸棚から取り出した。

「ん? そんなものあったっけ、って、自分で作らなかったものってことだけど。ってか、それ、何?」

 悠が置いたのは柚子のハチミツ漬けだ。そういえば、今年は漬けていない。

「うん。シュークリームとかね。で、これは、去年のハチミツ漬け。去年、二瓶作ったけど、一つ丸々残ってるから、今年は漬けなかったんだ。で、」

 と、さらに取り出したのは、有名ファストフード店のビスケットだ。

「あ!」

 環が歓声をあげる。と、悠は自慢気に笑った。

「今日ちょっと思いついて買ってきた。合うと思うんだよね」

 その様子を見て、円は兄も充分食いしん坊だと思う。

「紅茶? コーヒー?」

 お湯が沸いたところで、兄が質問を投げかけるのに、弟妹は声を揃えた。

「インスタントコーヒー!」

 その答えを聞いて、兄は苦笑したのだった。

 


 電子レンジで温められたビスケットを上下に半分に割って、その片方に柚子の酸味と風味が移ったハチミツをとろりとかける。

 漂う香りは、安いインスタントコーヒーのものだが、それは気にしない。インスタントにはインスタントの美味しさがあるのだ。時間をかけて美味しく淹れたい時もあれば、手早く飲みたい時もある。今の気分がインスタントコーヒーだっただけだ。

 が、それは横に置いて、円は大きく口を開けて、ビスケットに噛みついた。とたん、口の中に広がる柚子の芳香。そして程よい酸味と、ハチミツの甘さ。

「んー!」

 隣で声をあげているのは環だ。こっそりと様子を窺うと、悠は満足そうに目を細めて食べている。

 円は口の中のものを咀嚼し、飲みこんで、息をついた。

「ホットケーキにも合うけど、これもいいね」

「だね。思った通りだ」

「うん。これ好きー」

 円の感想に、兄妹は同意を示す。

「柚子ってエライなぁ…」

 瓶の中の柚子を見ながら、円は呟く。やはり、洋の物にも合う。ハチミツレモンでも美味しいが、レモンとはまったく違うのだ。

「エライよね。ま、今年はもう漬けないから、来年まではこっちを使って」

「うん。あ、その漬かってる柚子はどうするの?」

 確か、酒に漬けたものも酢に漬けたものも、味と香りが抜けて美味しくなくなっていた。

「これは、ジャムに。柚子茶にもできるしね」

「へえ…」

 こんなやり取りをしながらも、円はやっぱり自分はこっち方向に興味がないんだなと思う。お菓子の材料になることがあっても、まったく興味が向かないのが不思議だ。

「ってか、最初の瓶ので作ったのがもうあるよ。柚子茶飲む?」

「飲むー!」

 と返事をしたのは環だ。

「夕飯までにちょっと勉強するから、勉強の友に」

「円は?」

「俺はいい。……あ、でもちょっと味見させて」

 部活の宿題があることを思い出してそう言い添える。食べた記憶はあるが、何か思いつかないかと思ったからだ。

 和菓子と言えば、どら焼き、饅頭、桜餅、練り切り、羊羹…といくつか思い浮かべて、自分の作れそうなものをピックアップする。ふと、頭の隅を何かがよぎった。

「あ」

 立ち上がって古新聞置き場へと向かう。思い出したのは新聞の料理コーナーだ。六方焼きという、どら焼きを立方体にしたような饅頭が意外と簡単に作れたのを読んだことを思い出したのだ。

 円の中では、和菓子はものすごくハードルの高いものだ。まったく作ったことが無いわけではないし、手順そのものは洋菓子とそれほど変わらないことは、知識としては知っている。が、どうも身近な感じがしないのだ。洋菓子ならば、どんなものでも手を出せるのだから、経験値の問題なのかもしれない。などと考えながら、目当ての新聞を見つけ、キッチンへ戻ると、小皿に一口分の柚子ジャムが既に用意されていた。

「ん? 六方焼き?」

 カウンターテーブルの上に広げて置きレシピを目で追いながら、柚子ジャムを口に含む。とたん広がる芳香。

「……うん」

 出てきた言葉は、環への返事ではない。

 記事のレシピでは中の餡はこし餡のみを使う。が、これに柚子ジャムを混ぜたらどうだろうか。柚子ジャムだけでなくてクルミを足すのもいいかもしれない。

 円は頭の中で味を組み合わせていく。

「うん。決まりだ」

「冷蔵庫に、粒餡ならあるよ」

 いつの間にか夕飯の支度を開始していた兄が、苦笑するようにそんな言葉を投げてきた。

「……にーちゃん?」

 なんでそんなもんがあるの、と円は思う。思って見つめる。

「善哉を作ろうかと思って。でも使っていいよ。今日作ってみるなら」

「ぜんざいー!」

 環が反応するが、悠はそれに対しては笑顔のみを返して、「どうする?」と返答を迫る。

「使う。ありがとう」

「良かった。すごい偶然だね。たぶん余るから、環にはそれで善哉を作ってあげるから。善哉は、明日でいいでしょ?」

「うん。もちろん。円ちゃんの作るものも食べてみたいから、全然大丈夫だよ」

 にこにこ笑いながらそんなことを言う環は、母の血を立派に引いているなと、感じさせる。自分の食べる分があると信じているあたりがさすがだ。

「悪いね。柚子ジャムを刻んだものとクルミを餡に混ぜて作ろうと思うんだ。……悠ちゃん、餡は砂糖が入ってるのだよね?」

「美味しそう」

「うん。でも、それ宿題でしょ? それならちゃんとしたのを作り直すよね?」

 環の合いの手は無視をする。

 悠はさすがよく判っているなと、円は感心して、表情を改めた。

「そう。さすがに作りっぱなしだと怒られるからね。……でも、助かった。にーちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」

 円の礼に対し、悠はにこやかに返事をする。

 思わず笑ってから、材料を用意するために動き出す。手順は既に頭の中に入っていた。

 悠が夕飯の支度を開始しているが、ホットプレートを使えば、そんなには邪魔にはならないはずだった。



 目の前に、皿の上に載ったサイコロ状の饅頭が転がっている。

 台所には悠が作っているスープが食欲をそそる香りを漂わせていた。食事は、父が帰ってきたらすぐだ。ちなみに父は、もう五分ほどしたら帰ってくると、先程連絡があった。

「味見、してみる?」

 材料を混ぜる前に、餡の味見はしているし、柚子ジャムとクルミを混ぜた時点でも味見は済ませてあるから、円は大体の雰囲気はつかめている。

「するー」

 環は無邪気に返事をして、勉強の手を止める。もちろん、出来上がるまでも、円が何かを混ぜるたびに手を止めて様子を窺っていた。ちゃんと予習復習ができているか、微妙に不安になるが、環的にはまったく問題を感じていないらしい。

「じゃあ」

「俺もね」

 十個ばかり載せた皿を環の前に差し出すと、ローストした鶏もも肉を切っていた手を止めて、悠も参加する。二人が口に入れるのを待って、円も手を伸ばした。

 口の中に広がる香りは確かに柚子のもの。餡の甘さにハチミツの甘さもプラスされて、かなり甘い。粒餡に混じって歯ごたえの良いクルミが良いアクセントだが、濃し餡の方が良いかもしれない。

「俺は、もう少し柚子の香りが強い方がいいかな」

 一つ食べ終えたところで、悠が言う。

「そう? 私は丁度いいけどな。それよりも、甘いね。餡は自分で甘さを調節したほうがいいんじゃない?」

 環も感想を言う。

「じゃあ、あとは父さんか。一応、砂糖は減らす予定。粒餡より濃し餡の方がいいかと思ったんだけど」

「ん? これでいいんじゃない?」

「私は、濃し餡がいいな」

 二人の意見はどうやら合わないらしい。

 それでも、参考になる、と礼を言う。円としては、せっかく柚子を使うのだから、風味付け程度の存在感では物足りないような気もしているのだ。だが、こればかりは好みというものもある。円自身がすごく美味しいと思っていても、食べる人がそれを気にいらなければ意味がないのだ。

「うん、判った。参考にする」

 そう言って、レシピをノートに書き写す。改良はこれからしていけばいい。とりあえずは、月曜日に宿題を持っていければ、他は大した問題ではないのだ。

「それにしても、いつも思うけど、時間がないよね」

 悠が思いついたように言う。

「うん。あんまり時間をかけると、やり過ぎてしまうことがあるからと、たった一日でどこまでできるかを見るためだって。要は、ひらめく力をつけようってことみたいだけどね」

 宿題は大抵週末に出され、日曜日に作って月曜日に持って行くことになっている。休日に作業ができるように、というのも宿題の提出日が月曜になっている理由の一つだ。

 これについては、円はそれほど異論はない。考えても何も浮かばないことの方が多いし、考える時間が多いと迷うことが多くなるからだ。

 なので、大抵試作品を一度作って味見をし、それに対して改良したものを持って行くことにしている。

 提出した宿題は部員全員で試食し、得点をつけ、感想を言う。得点よりも、感想をきくことが、勉強になる。自分が手を抜いたと自覚がある部分を欠点とされた時など、何度これからは丁寧に作業をしようと思ったかしれない。

 頭の中のノートに自分の感想と兄と妹の感想を貼り付け、そっと息を吐く。

 最終の着地点を決めるのは結局は自分なのだ。兄でも妹でも父でもなく。

 全員が全員美味しいと思うものを作れるはずはない。が、少しでも平均点に近く、そして自分の味覚とそう遠くないと思えるものを作れるかが問題なのだ。

 将来、製菓を生業とするかどうかは判らない。まだ、円の中では決まっていない。それでも、できるだけ多くの人が美味しいと感じる味をちゃんと認識できるようになりたいと、円はしみじみと思うのだった。


END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ