老婆のお迎え
ショートです。
読んでいただけたら幸いです。
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老婆がいた。
老婆の口癖は、
最近の若い男は、魅力がないだった。
回りばっかり着飾って、中身が見えない、それとも中身がないのか。
昔の男は、かっこよかった。
着ている服は、ぼろだったけど、りっぱな中身を持っていた。
ちゃらちゃらしてなくて、皆、誠実でりっぱな信念を持って生きていた。
ああいう男はよかったねぇ。
今の男なんて、子供っぽくて何の魅力もない。
ある日、老婆は、ぽかんと考えていた。
私ももう直ぐお迎えがくるのかねえ。
私って何のために生まれてきたんじゃろうねえ。
年取ってからは、体のあちこちにガタが出てきた。
それは、よくなるどころか、あちこち悪くなるところが増える一方だった。
まるで、廃車寸前の車じゃないか。
別に、こんな晩年を過ごしているのは、私だけじゃないって分かっている。
私ぐらいの年の者は、皆、似たり寄ったりで、体にガタがきまくって苦労している。
年だから仕方ないと諦めている。
今は元気な若者も、年を取るにつれて、
何れ皆私みたいに、体のあちこちに故障が出てきてしまいポンコツになるんじゃ。
私の体のガタは、最近、特に激しくなってきた。
もう、あの世に往く兆候なのかのう。
往く時は、苦しのだろうなあ。
なぜ、最期の最期になって、苦痛を味会わないといけないんじゃ。
人生って理不尽だ。
夜寝て、朝起きたら、人生を全うしてた。
そのような最後がいいんだけどな。
でも、そんなうまい往きかたをする人って、
20人に一人もいないって聞いている。
時々、老婆は、見えない相手と会話をするようになっていた。
老婆「ねえうちらは、何のために生まれてきたの。」
相手「それは、役割があって生まれてきたんだよ。」
老婆「いったい、なんじゃね、うちに割り当てられた役割っちゆうのは、
相手「生き物の生を過去から未来へ引き継ぐことだよ。
あなたは、りっぱにその役目を果たされた。」
老婆「その役目を果たしたからと言っていったい何になるんじゃ。」
相手「生物には、皆大きな目的があって生まれてきているんだ。
そのために、地球上の生物が皆協力しあって生きて行かねばならない。」
老婆「目的って、なんじゃ。」
相手「それは、生のリレーなんだ。
あなたは、生を引き継いでいくために生まれたんだ。
そして、りっぱに子孫を残すことができた。
老婆「生を引き継いでいっていったい何になるんじゃ。
うちらも昔からずっと考えてきたんじゃが、
うちらちっぽけ過ぎるのかのう、
全く分からんやった。
人間だけでなく、生物っていう枠まで広げて考えてみることもあった。
生物には、利用するものと、利用されるものがいた。
それは、生物にとって不公平であり、
生物にとって大変不幸な弱肉強食の世界だった。
うちだって、強い者の犠牲者になりながら、
弱い者を苛め利用して生きてきたと思う。
強い生物が弱い生物を食らっていかないと、
生のリレーができない世界だった。
あまりにも、理不尽でこの世の存在する意義を理解できなかった。
どうして、
こんな嫌らしい世界の生のリレーをしていかなといかんのか、
全く理解ができんやった。
この世は、神様の設計ミスでこんな変な世界になってしまったのかのう。」
相手「どうでしょうね。でも言えることは、
皆がいるからこそ、この地球上では、生のリレーができているのです。
そして、地球は、華やかに繁栄しているのです。
食べたり、食べられたり、弱肉強食っていう大変嫌な面もあります。
しかし、それが結局は、お互い協力していることになっているのです。」
老婆「そうかもしれんが、
個々の生物の魂のことを考えると、協力しているとは思えない。
一寸の虫にも五分の魂で、食べられる方は堪らない。」
相手「もっと、心の広い考え方は、できませんか。
自分が他のためになったため、他が生かされた。
その他は、生をリレーしていく主役を担う。
自分は、犠牲になったようだけど、それを喜びと感じることはできませんか。」
老婆「うちは、自分が食べられたりする立場になったら、
他を怨むことはあっても、とてもじゃないけど、喜びなんて見いだせん。」
相手「あなたって僻みっぽいんだなぁ。もって広い心を持って下さい。」
老婆「持てるかっ。」
老婆は、相手の顔面に正拳を喰らわした。相手は、あっけにとられ顔を抑えていた。
相手「おのれ~、人間の分際でよくも食らわしてくれたな~。
俺は、こんな侮辱的なことされたの初めてだ。
もっと俺を敬え~。」
老婆「ふざけるな~。」
老婆は、今度は、金属バットを持ってきて、相手の頭を叩き割った。
相手「くっそう、もう許さねえ~。
設計ミスで、できたできそこないの豚どもが~。」
老婆「やっぱり、てめ~の設計ミスのせいだったのか。」
相手「俺一人で設計したんじゃない。
他にも設計に加わったやつがいるんだ。
俺だけのせいにするんじゃない。」
老婆「てめ~みたいな、心の狭いやつが設計したから、
このような失敗作ができたんじゃ~。」
老婆は、相手の股間を思いっきりけりあげた。
相手「そんなことしても、痛くも痒くもないよ。
俺達は、おまえ等みたいに、下等でないため生殖活動をしない。
んでもって、急所なんか持ってないいもんな。」
老婆「恋愛もできないんだな。そりゃ寂しいことで。」
相手「よくもいいやがったな。
ばあさんよ、折角、お迎えにきてやったんだけど、や~めた。
設計ミスの製作物さん、さようなら、いつまもでもお元気で~。」
このような経緯で、老婆は、お迎えの方に見捨てられ、この世に残ることになった。
老婆は、山姥として、永遠にこの世で暮らしたとさ。