最終話〜リプレイ〜
「…る!…譲!!」
誰かに呼ばれてる…?
この声は…愛か…。
『う…あれ?俺どうなったんだっけ?』
確か…そうだ、俺はカラスになって人間に殺されかけたんだった。
『俺…生きてる?』
「当たり前でしょ」
『でも、シュミレーション期間でも死ぬって』
「あんなの嘘よ。ああいう言い方しないと無茶する人がいるかもしれなぃからね…」
ょかった。とりあぇず生きてる。姿は、人間に戻ったのか。ここは…施設の俺の部屋か。
「大変だったわね…どうする?また何かに生まれ変わりたい?」
『なんでだろう…』
「…え?」
『なんで人間は動物をいじめるんかな…?』
「…いじめているわけじゃない。生きているだけよ」
『でも動物は生きるためでも人間に逆らうコトは許されない』
もし…もし仮に、人間ょり遥かに身勝手な新生物が現れ、この世を支配したら…俺らはどうなるのかな…?
平気で殺され、逆らうコトもできない。
そんな事って…酷いよ。
酷い…?
違う…!!
これは…俺達人間が動物にしている事じゃないか。
俺だって身勝手だったんだ。
『…愛。何にでも生まれ変われるのか…?』
「意志があるものならね」
『じゃあ、俺が神になる。この世界を…変える』
「それはできないわ」
『…な、なぜ!?』
「神様は絶対なの。そもそも生まれ変わる時に神様に頼むの。そんなの無理に決まってるでしょ?…それに神様が二人いたらどうなると思う?意見の違う絶対がぶつかれば世界が滅びるかもしれないのよ」
愛の呪文の様なものは神様との通信だったのか。
しかし、困ったなぁ。他になりたいものもないし。
いや、なりたいけど…人間を敵に回すのが怖い。
『時間はどれくらいある?少し考えたい』
「シュミレーション期間が終わってから一週間よ」
『あと一週間か』
「いえ…明日までよ」
『…え?』
「あなたは六日間気を失ってたわ。それにしても、ここの施設の人間はたいしたものね。譲君が六日も起きないのに心配のひとつもしないんだから」
『ハハっ、それは普段俺が無愛想だからいいんだよ』
さらに困ってしまった。明日の三時までに決めなくちゃいけないのか。
今は昼の三時か、あとちょうど二十四時間後…か。
『分かった。じゃあ、また明日な』
「うん。また…」
そう言い残して愛は天界に帰っていく。
部屋の周りを見回せば、見舞いの花が花瓶に飾られていた。
スーパーなんかではなく、花屋専門店で売っているような綺麗な花。見るだけで心が洗われる様だ。
誰がこんな事をしたんだろう。俺を心配してくれる人なんかいないし、愛はターゲット以外の人間からは見えないはず。
まぁ、いいか…そういえば、愛の目は黒かったなぁ。
俺が気を失ってても悲しくなかったの…かなぁ…。
〜次の日〜
「今日は学校に行こう」
俺は学校へ行った。…とは言っても向かうのは屋上。
もしかしたら今日が最後の学校になるかもしれない。
朝、遅刻寸前で校舎に入る。…すると
「オッス!譲。お前最近休みがちだな。単位とれねぇぞ!」
確か…同じクラスの岩嶋 彰吾 (いわしま しょうご)だったな。
『あ…あぁ。気をつけるょ』
「おいおい…どこ行くんだ?教室はこっちだぞ」
あぅ〜屋上行こうとしたのにぃ…
無理矢理のように章吾に連れられ、教室に入る。
「オッス!」
「おう、彰吾!…あれ?確か…譲?」
彰吾の友達か…。なんか苦手なんだよなあ。
彰吾はクラスのムードメーカーでいつも明るく面白い。女の子にも人気だ。
「いやよお、もうそろそろ俺ら高校二年だろ?最後くらいみんなで仲良くしようってなってな」
彰吾らしい…いい奴だなぁ。俺がもっと素直だったらこいつと親友になれたかもなぁ。
「それからな、あと一人来てない奴がいるんだけど、今日来るかなあ?」
「それ、沢田 大樹だろ?あいつ留年確定だから辞めたって話聞いたぜ」
「う〜ん…でも昨日大樹に電話したんだけどぉ〜あいつクラスにいる時とテンションが違うっつーか、明るい奴だったぜ?」
「はぁ?俺大樹が笑ってるとこなんて見たコトないぜ?」
よく分かんないけど、大樹も俺と同じで来てなかったみたいだな。
「…あ、おい!どこ行くんだ譲?」
こっそりと教室を逃げようとした所を章吾に見つかってしまう。
『ゴメン彰吾。気分悪いから保健室行ってくる』
「そ、そうか。病み上がりなんだから無理するなよ」
こんな俺を気遣ってくれるなんて本当に良い奴だな。
しかし、もちろん気分が悪いなんて嘘だ。屋上に向かう。
〜ガチャ〜
…ぁれ、先客がいる。まいったなぁ。
「…うわぁ!」
いや、何もそこまで驚かなくても…って、こいつ…目が赤い?
「あ…あぁ」
『あ…えっと…その目…』
「あ…お願い!誰にも言わないで…」
こいつも俺や愛と同じ…?
『君は…?』
「あ…ってゆうか君、譲君だよね?僕、同じクラスの沢田大樹って言うんだ」
『君が!?』」
「あれ?知ってるの?」
『さっき教室で君の話を聞いたよ』
「僕の?あ、彰吾君か」
『あぁ。せっかく来たのに教室行かないのか?』
「だって目が………譲君はあまり驚かなぃね」
『まぁな』
なんせ俺本人も目が赤くなるからな。
「僕ね…本当はみんなと仲良くしたいんだ。でも…臆病だから…目が赤くなっちゃうの…」
大樹ゎ恐怖心で目が赤くなるのか…。
『俺も怒ると目が赤くなるんだ』
「…そうなの?」
『今…天使って奴に生まれ変われるって言われて…どうしようかって悩んで屋上に来たんだ』
「それ…愛ちゃんって女の子でしょ」
『知ってるのか?』
「一週間前…僕のとこにも来たんだ。制服姿でね。ついていくと譲君が倒れてて…」
こいつが看病しててくれたのか…。
花瓶の花もこいつがやってくれたのかな?
『お前…いや、大樹も生まれ変わるのか?』
「うん。最初、猫になったんだけど…人間には勝てなくて…」
『俺なんかカラスだぜ?』
ハハッと二人で笑う。大樹は笑顔が似合う。
「僕の目が初めて赤くなったのは中学一年生の頃でね、友達もいっぱい居た。それで…好きな子に告白しようとしたけど…自信がなかった。彼女ゎ悲鳴をあげた。僕の目を見て……。何が何だか分からなくて…」
『大樹…』
「だから昨日彰吾君から電話あった時、嬉しかった。たくさん話したんだ。だって…電話なら…顔見られないから…でもやっぱり教室行く自信がなくて…屋上に来たんだ」
だからさっき目が赤かったのか。
『なんで俺達…みんなと違うんだろうな…』
「生まれ変わるチャンスなのに…ダメだね…僕たち」
長い沈黙が続く冬の空の下。
この時期、木は寒そうだなぁ。葉っぱも枯れてるし、自分じゃ動けないもんなぁ。
この時期、虫達は暇そうだなぁ。寒さを凌ぐために土の中にずっといるんだから。
そう考えると人間っていいのかもな。
いや、ズルィんだ。
暑かったらクーラーもあるし、冷たくておいしいアイスクリームや素麺、プール。
寒かったら暖かい暖房や鍋。
でも、人間が欲を満たす度に犠牲になる森林や動物。
いつから人間にそんな権利ができたのだろうか?
「譲君…僕達にも幸せ…ってあるのかな?」
『…あるさ。まず、生きている事…。これが1番幸せじゃないか?別に今まではいつ死んでも構わなかった。でも、カラスになった時、死にかけて…生きてた時は本当に嬉しかった。
目指している幸せは同じでも…たどり着く幸せの場所は人それぞれだろ?
それに今日、七年ぶりに…人間の友達ができた』
「ぁりがとう…譲君」
『礼を言うのはこっちの方だぜ…大樹!』
「…ねぇ、教室行ってみない?」
今のこの気持ちなら行ける。それは俺も大樹も同じだった。
『…ょし!行くか!!』
時間的に昼休みだな…。
もういいんだ。俺らは一人じゃない。俺も譲も…これでダメだったら愛に頼んで人間以外の生き物になれるからってゆうからじゃなぃ。
人間である限り…人間として生きたい!
ここでまた逃げたら…俺達は本当にダメになってしまう。だから…!!
〜ガラッ〜
静まり返る教室。集まる冷たい視線。
「譲!大樹!来てくれたのか」
周りの反応などお構いなしに駆け寄る彰吾。こいつは本当にいい奴なのだ。
すると、彰吾の友達が俺らに向かってこう言う。
「あいつら…いまさら何しにきたんだよ」
「マジ…キモいんだよ」
「おい、何言ってんだよお前…ら?」
彰吾が友達を叱る間もなく、俺の拳が炸裂していた。
『悪いな…人間が身勝手な生き物だってのは俺達が一番知っている。だから…俺達はそういう奴らを許さねぇ』
はぁ…やっちまったか…。もう俺の目は真っ赤…あれ?
「譲君…目、黒いよ…?」
『大樹…あれだけ言われたのに…自信なくなっただろうに…目…黒いぞ』
俺達は顔を合わせると教室を飛び出した。
向かう先はもちろん愛と待ち合わせのあの場所だ。
『愛ー!出てこい』
「愛ちゃん!どこー?」
「はいはい。見てたわよ。二人共、よく頑張ったわね」
『愛!なんで…急に俺達は?』
「調べたら分かったわ。そもそも譲君達は極度なトラウマを受けたがためになってしまったの」
『俺は…親友に裏切られた怒り…』
「僕は…好きな人に告白できなかった…恐怖心…」
「だから、治すにはそれと同じくらいの大きさで、逆の感情を持てばょかったの。
譲君、あなたは大樹君に優しくしてあげれた。
大樹君、あなたは譲君のおかげで自信が持てた」
『確かに…俺…あんなに人と話したの…久しぶりだ』
「僕も…」
「そして…私の悲しみの反対は、喜び。
実は昨日から治ってたの。
あなた達の行動がうれしかった。譲君は初めて会った私を本気で心配してくれた。大樹君は私一人じゃ負えない譲君の看病を手伝ってくれた」
『じゃあ…俺達……これから…』
「普通の高校生…?」
コクリと愛が頷く。
「『ゃったぁー!!』」
「それじゃ…私の仕事は終わったから…か、かえら…な…きゃ…」
別れを惜しんだのか、突然愛が泣き出してしまった。
『愛…泣くなよ。お前が来てくれて良かったぜ』
「そうだよ愛ちゃん。それに…泣いたらまた目が赤くなっちゃうよ」
「だって…私…こんなに優しくされたの…初めてなんだもん…」
『それはお互い様だろ』
「…あ!譲君…彰吾君達が…」
もうとっくに昼休みは過ぎているというのに、章吾が俺が殴ってしまった奴らを連れてきた。
「譲…大樹…さっきはゴメンな」
「お前達にあんな勇気あったなんてな…」
「さぁ、午後の授業始まるぞ!行こうぜ!!」
「大樹…学校辞めんなょ!まだ間に合うからな…!」
『みんな…大樹!行くか!!』
「うん!!」
校舎に戻ろうとする時、俺と大樹は声をそろえて大きな声でこう言った。
「『愛ー!ありがとなあー!!お前も頑張れよおーー!!』」
「…愛?いきなり何言ってんだ?」
「『別にぃ〜♪…ただの…二人言☆★』」
「なんだそれぇ〜ハハハッ」
俺達は確かに生まれ変わったよ。…だから、今までの生き方をリプレイするんだ。やり直すんだ。