第1話〜赤い目〜
「こんにちは」
不意に後ろから声をかけられ反動的にビクついた心臓。
「あなたに言ってるのよ、木ノ下 譲 (きのした ゆずる) 君」
『あ…はい』
振り返ると目の前には、同い年ぐらいで身長は低め、色白で大きな瞳、ストレートの長髪でこの辺じゃ見ない制服を着ている。なんとも可愛いらしい女の子が微笑んでいた。
「こんにちは」
『あ…あの、なんですか?』
警戒心むきだしで返事する。
「もう、あいさつされたらあいさつするのが基本でしょ!」
『あ…すいません』
注意されるとすぐ謝ってしまうのも今ではもう慣れてしまった。
「ふふっ冗談よ。それにしても噂通りの目ね」
何を言ってるのか状況がつかめない。噂通り…?
『あ…あの今から学校なんで失礼します』
人との会話が苦手な俺は、この場を逃れようと歩き始める。
「学校ね…屋上で授業をサボるために行くの?」
自然と止まる足。
『な…』
「なんで知ってるんだ!?」
今言おうとしていたコトをそのまま言われしまった。さすがに少し慌ててしまう。
「まぁ、こんな所じゃなんだし…ファミレスでも行きましょ?」
手を引っ張られ連れてかれようとするが俺は無理矢理踏み止まる。
『…触るな!」
「あらあら…こりゃ大変そうな仕事だわ」
ため息をつく女の子。
仕事とは一体何なのか、その娘への疑いは増すばかりだ。
「もっとゆっくりした所で話したかったけど、ここでいいわ」
彼女は話始める。
「まず、私の名前は小森 愛。…と言うのも人間界の別名で、本当の名前はエン・リューファって言うの。譲君からしたら初めましてね」
おいおい…、何言い出すんだこいつ…。人間界?
「人間から見れば〜天使ってとこかしらね…」
ふざけてるのだろうか、俺は天使などという人間の架空上でしか存在しないものは認めない主義だ。
「神様からの使いでね…あなた、譲君を助けに来たの」
はぁ…くだらねえ。
俺は話の途中で歩き始める。
「信じてないみたいね。…まぁ、無理もないけど」
『当たり前だろ!いい加減にしろ!』
「口が悪くなってる!あんまり興奮するとまた目が…」
『…………くっ!』
俺の目は真っ赤になっていた。決して充血しているとかではなく、瞳が赤くなるのだ。
『…ちっ』
俺はすでに見られてしまっているが、慌てて前髪で両目を隠した。
「いつもそうやって伸ばし放題の髪で目を隠す。友達にも反抗できない。興奮した拍子に目が赤くなったら気味悪いって思われる」
俺の本心を綺麗に並べる愛と名乗る女。
「だからいつも一人ぼっち。人と関わらない様にしているのね」
愛はさらに続ける。
「あなたがそれに気付いたのは小学三年生の頃…親友だと思っていた人に裏切られた」
『……ろっ』
「それ以来人が苦手になり、誰にも言えない秘密を隠してきた」
『…めろっ!』
「恋人どころか友達もいない。両親も三才の時に事故で他界して親戚の家をたらい回し。今となっては施設とはね」
『やめろぉーっ!!』
もはや俺の目は真っ赤であるだろう。
「天界から見させてもらったわ」
『だからそんな話信じられるわけ……う!!』
愛の背中に大きな…羽の様な物が見える。
『うわぁ!』
「信じた?」
愛の背中には片側直径2メートルの羽が両肩についていた。
服の中に隠すのは不可能。仮に隠したとしても制服の背中が大きく膨らむはず。
『…な?……はぁ?』
あまりの突然に俺は言葉を失ってしまった。
「大丈夫。私の姿が見えるのは譲君だけよ」
先ほどから通り掛かる人の視線が気になっていた。こんな昼間っから制服を来た男女が二人話しているからだと思っていたが…
「つ、ま、り、周りの人から見れば今までの会話はあなたの独り言☆」
クスッと微笑む愛。
俺は恥ずかしさのあまり、目だけじゃなく顔まで赤くなってしまった。
『…じゃあその制服は何だよ!』
「これはサービスよ。第一、こんな格好しなぃと話聞いてくれなぃでしょ!」
するとフッと風が吹いたかと思えば愛ゎ白い布の様な服を着た姿になっていた。それは普段人間が想像している天使の姿そのものであり、エン・リューファの本当の姿だった。
『…で、その天使が何しにきたんだよ』
「だから言ってるでしょ。あなたを助けに来たって。……赤い目を持つなんて…どの世界でも嫌われるんだから…」
急に遠い目になった愛。
何が助けに来ただ。
何が赤い目はどこでも嫌われるだ。
急に悲しそうな顔しやがって。
あんたの目だって赤いじゃないか。