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魔王と下僕たち  作者: シズのおもちゃ箱
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1.俺、魔王やめてもいいか

 木洩れ日の射す一室から、何かを書く音が廊下に響いている。

 静かな空気の中、ただそれだけが聞こえてくる。

 平和な日常がそこにはあった……はずだった。


 「魔王様ーー、勇者が来ましたよー?」


 静寂を壊す勢いで部屋の扉が開く。

 インクの瓶が少し揺れるが、部屋の主は気にする事無く、手を動かし続ける。


 「ま、魔王様!」


 その声を聞いても、なお、休むことなく、山積みとなっている束に手を伸ばす。

 半ば諦めたように、男は溜め息を吐いた。


 「はぁ、ナタ様!」

 「……なんだ」


 今まで動きを止めなかった指が、ピタリと止まり、ナタと呼ばれた男は顔を上げた。

 

 「名前呼ばれなきゃ返事しないのは構いませんが、勇者が来ましたよ」

 「帰らせろ、こっちは忙しい」

 「帰らせろと言いましても、もう魔王の間で待ってますよ?」


 その一声を聞いて、ナタは額に血管を浮き上がらせて立った。


 「いつも言うが、勝手に勇者を待機させんじゃねぇ」

 「いえ、ほら、せっかく来てくださってるんですから」

 「いつもいつも、ほいほい勇者を案内しやがって、帰らせろ!」

 「嫌ですよ。案内しなきゃ殺されますもん」


 深い溜め息を吐きつつ、髪を掻き、ナタは部屋の外へと足を運ぶ。

 扉に手を掛けて、何かを思い出してか振り返り、自分の配下に対して優しい言葉を放つ。


 「次、勇者が来たら間髪入れずに殺せ……さもなきゃ、俺が貴様を血祭りにする」

 「えええぇぇぇぇ!」


 驚き反響する声は、閉まる扉の向こうに消えていった。

 座りっぱなしだったためか、ナタは軽く背筋を伸ばして歩き始めた。

 本来、主は魔王の間と呼ばれる広間にいるものだが、先代が派手好きだったらしく、シャンデリアなど煌びやかなものが多く、目に悪いという理由で、ナタはその部屋に行きたくない。

 それでも勇者が来るたびに脚を運ばないといけない。


 「いっそ取り壊すか、あの部屋」


 勇者が来るたびに、そう考えるが仕事に忙殺されると直感し、胸に留めるだけになってしまっている。

 憂鬱な気持ちを抱えて、問題の部屋の前にたどり着くと、軽く息を吸い込んで気合いを入れなおす。


 「行くか……」


 扉を開けると、剣を携えた男が膝を組んで玉座に腰かけていた。


 「来たか……魔王」


 男はそう言うと、頬杖をしながらナタを見下ろし言った。


 「おい、普通は逆じゃねぇか?」

 「なんかやってみたかった」


 頬を赤らめながら、勇者は周りを見て眩しさに目を擦る。

 ここまでの一連の流れは、来る勇者達の定番だ。


 「で、何の用だ」

 「あ、そうだ! 魔王に用があるんだった」

 「俺が魔王だ」


  嘘だと疑いの目で見てくる相手の襟を掴み、そのまま玉座から投げ捨てるように引っ張りあげる。

体勢を崩し地面に顔から激突する勇者を見ながら、ナタは玉座に腰を掛ける。

脚を組み、無様に地に伏す様を見ながら彼は口を開いた。


「よく来たな勇者、めんどくせぇから帰れ」

「なんか投げやりじゃない?!」


  顔を擦り見上げ叫ぶ声に、耳を貸す素振りすらなく、冷たい目で見下ろす。

 その様子から何を言っても無駄だと判断したのか、勇者は立ち上がりナタを見据え口を開く


 「お前、魔王だろ? なのに勇者倒さなくていいのかよ!」

 「うるせぇ、帰れ」


 一刀両断した。


 ただでさえ仕事が山積みになっているのに、ほぼ毎日この城には勇者がやってくる。

 魔王の責務だからと言われたらそこまでなのだが、勇者のここに来る理由がひどい場合が多々ある。

 例えば〈村の圧政で苦しんでいるから魔王を倒して報酬をもらう〉はまだ良い、他国の中には魔王を倒したというステータスが欲しい愚王が報奨金を設定しているところもある。

 だが、中には〈嫁が魔王に惚れてしまって冷たくなったから〉というよくわからない理由で勇者として旅立つ者もいる。


 「物思いに耽るな!」


 勇者の怒声に我に返り、冷ややかな目線で見下した。


 「んで、何しに来たんだ」

 「魔王に会いに」

 「何のために?」


 問いに勇者は顔を俯き、考え込み始める。

 と、同時にナタは着ていた服の袖から銃を取り出して銃口を勇者へ向けて、撃鉄を上げて


 「おせぇ、死ね」


 躊躇なく弾を発射した。

 咄嗟にだが身をよじった勇者の頬を掠め、大理石で出来た床に銃痕が刻まれる。

 その痕を見て撃たれた相手からは、血が頬から顎へ、そして床へと雫が落ちて行った。


 「いやいや、待て待て!」


 慌てて掠った傷の血を拭うと、ナタの座る玉座へと詰め寄っていく


 「何処の世の中に、考え事させた瞬間にぶっ放すやつがいるんだよっての! 鬼畜かよ」

 「魔王だからな」


 悪びれもせず、さも当然という顔で言い放つ。


 「魔王だからって、やっていいことと悪いことがあるんじゃないかなぁ!」


 そう言う勇者相手に第二射目を向けようとしたが


 「いや、させねぇよ!?」


 それを見逃さず、銃を持っている腕を抑え込まれ、怯んだ隙に奪われてしまった。

 ナタは舌打ちをすると掴まれている手を振り払う。


 「なにすんだ」

 「何すんだじゃねぇよ! 人に銃を向けちゃダメって習わなかったの!?」

 「すまねぇな、 そんなこと教えてくれる親切なやつはいなかったんでな」


 そう言うと、銃弾を勇者の足元に撃ち込んだ。

 一発、二発、三発……、タップダンスを踊るかのように避けられた。

 そうなるように銃撃していたというのもある。


 「あっぶ、 あぶねぇ!!」


 焦る声に聴く耳を持たず、続ける。


 「飽きたな」

 「散々、 撃ってきていう言葉がそれ!?」


 弾が切れて、やっと手を止めたと同時に息を切らしながら勇者が座り込んだ。

 薄く溜息を吐きながら、弾丸をこめ直す。

 逃さないよう、反撃を許さないように眉間へと照準を向けた。

 それを見て、剣の柄に手を伸ばそうとするが、視線をずらすことなく腰のベルトへと弾が発射され阻止される。

 音を立てて、剣が床に転がり、手の届かぬように足で遠くに蹴飛ばした。

 もう小細工は終わりか?

 問いかけるように視線を向ける。

 後は始末をつけるだけ、そこまで行ってふと疑問が浮かぶ


 「貴様、 仲間はいないのか?」


 部屋の中には他に人の気配はない。

 一人で攻め込んでくる者が今までにいなかったわけではないが、そういった勇者達は、みな肉体が屈強だったりした。

 目の前の人間は、見た目的にも一般的な少年から青年の間という印象だ。

 街までの道も、整備はされつつあるが楽なわけではない。

 だったら、なぜなのかと思ってしまう。

 考えていると、静かに勇者が口を開いた。


 「……だから」

 「あん?」

 「街が快適すぎて、みんな残って遊んでるからだよ!!」


 魔王城から百メートルほど離れたところにある街は、催事などの行事をナタ達が管理している。

 そこでは現在、祭りが開かれていたなとナタは気づいた。


 「普通、 魔王の城近くって荒廃してるもんじゃねぇの!? 道路は整備されてたし食事は美味かったし、 ここまで来る道のりのほうが辛かったまであったわ!」


 涙ながらに叫ぶ姿に哀れみすら感じていた。


 「俺たちの方の王国と比べても愕然としたわ!」

 「まぁ、負けねぇようにはしてるからな、なんなら楽しんでいけ、だからこっからは帰れ」

 「お前を倒すまでは帰らねぇよ!」


 鼻水を啜りながら、身をひるがえして立ち上がり叫んだ。

 哀れに感じていた隙のことだったため、銃撃が遅れてしまったが照準は変わらず勇者に向いている。

 それを見て、相手はしばらく口を噛みしめていたが、肩を落とし項垂れた。


 「どうした? おしまいか。」


 じりじりと勇者へ距離を詰めようとすると、向こうは一歩ずつ引いていく。

 そして、いつの間にか相手は玉座の前まで追い詰められていた。


 「くっ、そ」


 悔しさに顔を歪ませて、ナタをにらみつける。


 「仲間がいたら、もう少し違ったかもな」

 「うるせ、え」


 人数差は単純に手数や火力が増える。

 それは魔王自身が一番わかっている。


 「部下が誰一人として加勢に加わらねぇから特にな……」


 一応、入り口にはいるのか気配を感じる。

 入ってこない理由は、命第一だから、らしい。

 主君の生命を最優先にしろと言いたくなる。


 「まぁ、そんなことは良い」

 「俺を殺すのか?」

 「どうせ死んでも戻ってくるだろうが」


 勇者として任命された際、神からの加護か、死んでも最後に立ち寄った街に教会があれば、そこで生き返ることができる。

 それを利用して、何度も挑んでくる者がいないことも無い。


 「だから、対策を立てた。 玉座の肘置き部分にボタンみたいなのがねぇか」

 「は……?」


 見ると確かに、何か突起のようなものが視界に入る。 

 これはなんだ、と思考を巡らせようとした時


 「じゃあな、もう来るんじゃねぇぞ」


 銃声と同紙に、その弾丸によって突起が押される。

 同時に勇者の足元に、大穴が開いた。


 「は……っ? へっ」


 何かを言う前に奈落の底へと姿が消える。

 短い絶叫の後、城の後方で光が打ちあがった。

 その光は彼方の方向へ飛んでいく。

 おそらくだが、勇者の故郷へと向かったのだろう。

 そうなるように指定されているからだが。


 「全く、どうやったらこんなもんが出来るんだか」


 作った本人は現在、魔王城にいないが、勇者が攻め込んで来すぎて行事運営などが滞った折、キレて三日で完成させたそうだ。

 それのおかげで撃退が楽にはなった。

 空いた大穴を覗きつつ、溜息を吐いて部屋の入口に向き直り歩いていく。

 扉を開けると、予想した通り、従者がそこにいた。

 漫画本を片手に飲み物を口に含みながらだったが。


 「なにしてんだ」

 「あ、魔王様、お疲れ様です。」

 「おつかれ、じゃなくて何で寛いでんだ。」


 その問いに、持っていた飲み物を一気に飲みほして従者が答える。


 「えっ、 だって暇だったので」

 「はぁっ……、 俺、 もう魔王やめてもいいか」


 ナタの言葉が、 今日も城で虚しく空気に溶けていった。



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