正義の味方
また死んだ。
また救えなかった。
今度こそきっと助けられると思ったのに。
何故だ、どうして争う?
何がそんなに憎いんだ。何がそんなに気に食わないないんだ。教えてくれ。
救って見せるから…………。
「そう嘆くな」
「…………」
争いが絶えない世界。
誰もかれもが明日に怯える世界。
間違っている。
何度も手を伸ばした。救えた命は明日には絶えた。
それの繰り返しだ。
何度も何度も。
僕は正義の味方になりたかった。
救われたから。
悪意に満ちた世界で確かな優しさに救われたから。
「仕方のないことなんだ。一度流れ出したら止まれない。罪を問うのならその生まれがもう業なのだろう」
「生まれた瞬間から間違ってたっていうのかよ…………」
ならば何のために僕らは呼吸をする?
足を動かしてご飯を探して腹を満たす?
「正しい間違いじゃない。正義なんてものはね…………ないのだよ。悪だけがある。だってそうだろう?争いというのはどう取り繕たって何かを奪う行為だ。それを肯定する謳い文句なんていくらでもあるさ。家族を守るため何もしなければ大切なものにその牙が向く。しかし、そもそも争いなんてなければ守るために奪う必要もない。はなから必要のない行いだ。争いにあるのはどちらが一方が現状を維持し、どちらか一方が不幸になる。プラスになる要素なんて初めから存在しないんだよ。心に折り合いがつくだけさ。それでも奪ったことに違いはないしそれは間違いなく悪だ」
「それならどうして争うんだ…………」
「言っただろう?一度流れ出したら止まれない。人間は掘り当ててしまったんだよ。水を。乾ききった人間には過ぎたものだった。悪意の川は憎しみの海にたどり着き復讐の雨を降らす。それの繰り返しさ。誰かが犠牲となって堰き止めたところで流れが分かれるか耐え切れず決壊する。優しさというのは虚しいだけなんだ。君がそれを背負う必要ない。君が他者の命や心まで背負い必要はないんだ。人一人が背負える命の重さなんてせいぜい一つ。自分自身のものだけだ」
だから全てをあきらめて見殺しにしろと?
今更無理だ。
こんな世界でも誰かに手を差し伸べられる人がいた。
つかんだ手はどこまでも暖かかったんだ。
あの温度を忘れて冷え切った人間になるのはあの優しさを否定しているようで俺には出来ない。
「それが正しいのだろう。でも…………僕には諦めているようにしか思えない。世の不条理だけを懇切丁寧に並べて諦める理由を探しているだけだ」
僕は知っている。
「つないだ手の暖かさも」
僕は知っている。
「一緒に食べる食事の美味しさを」
僕は知っている。
「すぐ近くにいるのにもどかしい恋心を」
ただそれを知ってほしい。
「諦めるには早すぎないか?頑張る理由には物足りないか?でもそんな正義の味方がいたんだ」
「…………優しさは虚しいだけじゃない。時に残酷だ」
「そんなのは分かっている」
救う側と救われる側にはどうしても強者側と弱者側の境目が存在してしまう。
それは往々にして傲慢に映る。弱者をさらに惨めにする。
それでも、奪うことが間違いなく悪なように。手を差し伸べて掬い救うことは間違いなく正義なんだ。
「君は何処まで行っても不器用だな。彼女のようにはなれない。彼女のような馬鹿にいはなれやしない。かの正義の味方は君のような悩みを抱かなかった。死んでしまった人間がいたなら涙を流しながらも笑い、生き返らせる方法を見つけようとか言う頓珍漢だ。そんな馬鹿だからこんな偏屈な私も光に当たられて希望を見た。でもそんな彼女ですらたどり着けやしなかったんだ…………もう潮時だろう?」
「だから僕たちがいるんだろう。彼女とともに同じ道を歩いた僕たちが足を止めてどうする?自分のためだけに生きてどうする?」
「どうもしないさ…………ただ生きるだけだよ」
「生きた先に何が…………」
「意味のために生きているんじゃない!生きているから、生まれてしまったから生きているんだ…………。誰も初めは望んじゃいないさ。生まれてくることなんて。君の言っていることは胸糞が悪い。悪いがもう私はこれ以上馬鹿にはなれそうにないだ…………」
きっともう、いっぱいなんだ。
余裕がないんだ。
でも、それこそもう止まることは出来ない。
「僕はこのまま進むよ」
「…………何故伝わらない?…………どうして君は腐らない?…………どうして一緒に堕ちてくれない?」
「とっくの昔に焼け堕ちたさ。馬鹿な太陽に焼かれてね。だからこのまま絶望しながら続けていくしかないんだ」
正義の味方のフリを。




