47話『崩壊:処理不能』
ダリストの飛行は、戦闘機と同等の速度に達していた。
ブラックボックスとグレイパレスの境界空域。
その瞬間――
ロックオン。
ためらいはない。
戦闘機は、最初から“撃墜”ではなく排除処理として引き金を引いた。
――ドォンッ!!
直撃。
夜空が裂ける。
片翼が消失する。
だが、落ちない。
その時点では、まだ“問題”ではなかった。
問題は――その後だった。
「……ッ、が……」
呼吸が崩れる。
視界が“揺れる”のではない。
世界の整合性そのものがズレている。
翼が再生しない。
多足が機能しない。
肉は増える。
だが増えた瞬間、意味を失って崩れる。
(……違う)
ダリストの内部で、初めて“理解”が遅れる。
これは損傷ではない。
破壊でもない。
「構造そのものの拒否」
――放射線。
ヘンリーの知識が答えを出す。
だが、その言葉は不十分だった。
これは毒ではない。
攻撃でもない。
もっと単純で、残酷な現象。
“再構成の禁止”
機体が傾く。
翼は「形」を思い出せない。
多足は「用途」を失う。
落下。
一直線。
グレイパレス側の荒野。
――ドォォォォン!!
衝突。
地面が“割れる”のではない。
世界が一瞬だけ未完成になる。
沈黙。
ジジ……ッ。
音が、遅れて届く。
肉が崩れる音ではない。
再生しようとした記録が、途中で消される音。
皮膚が剥がれる。
内部構造が露出する。
それも維持できない。
(……喰えない)
初めての異常。
捕食が成立しない。
分解が失敗する。
取り込む前に“意味ごと破棄される”。
「……くそ……」
声は出ない。
言語ではない。
ただの残響。
腹部の門は沈黙している。
アストンも、バイオレットも、リアムも――
応答しない。
ではなく。
“応答するための状態に到達できない”
だが。
完全な停止ではない。
背中の重み。
それだけが、まだ“ここにいる”。
(……まだだ)
爪が地面を掻く。
動作は意味を持たない。
それでも、止まらない。
『生きたい』
その記憶が、ノイズの中から浮上する。
生存ではない。
命令でもない。
“構造に残った残響”
遠方。
エンジン音。
光。
観測。
「目標、生存確認!」 「回収班前へ!」
銃口が並ぶ。
だがその並びには、確信がある。
――“これはもう終わる個体だ”
その評価が、間違いだった。
「……捕まってたまるか」
指が動く。
骨が折れる。
筋肉が裂ける。
再生しない。
だが――動作は成立する。
生存ではなく、反射でもなく。
“拒否”。
立ち上がる。
意味がない。
それでも立つ。
「どうせ死ぬなら――」
赤眼が、微かに灯る。
「こっちの軍も道連れだ」
踏み込み。
突撃。
銃火。
肉体が“当たる前から壊れる”。
だが止まらない。
止まれないのではない。
停止という概念が、今ここに存在しない。
最前線。
接触。
腕。
浅い。
それでも十分。
兵士が崩れる。
戦線が乱れる。
そこにあるのは戦闘ではない。
“秩序の破綻”
(直線は無理)
思考は残っている。
だから戦い方を変える。
滑る。
沈む。
自ら装甲車の下へ入る。
選択ではない。
最適解でもない。
ただ――“そこにしか到達できない”
内部。
破壊。
爆発。
連鎖。
煙。
崩壊。
這い出る。
肉体は欠損している。
だが再生はしない。
必要がない。
(……長くはもたない)
それでも。
ダリストは笑った。
「上等だ」
再び、突撃。
その瞬間。
空気が変わる。
規律。
統制。
均一化された圧力。
これまでの軍とは違う。
“個の集合”ではない。
“一つの意思”
ダリストの赤眼が、ゆっくりと動く。
「……今度は、何だ」
崩壊する身体のまま。
災厄は――
次の“構造”を見た。




