ラウンド9 武士の決意
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明日も3話更新です。
炎下武士は国立乱武高校に入学したばかりの1年生である。
全国から様々な武術を極めんとする猛者たちが集う大規模な学び舎だ。
その歴史は古く、300年以上の歴史を誇る。
とは言え、校是は『文武両道・質実剛健・心技一体』であり、高校生の本分である勉学も重要視されている。
そんな高校に何故か入学してしまったのが武士と言う男だ。
中学時代は喧嘩ばかりの日々。
勉強ができないので推薦枠を使っての応募であったが、その恵まれた巨躯、喧嘩により磨かれた独特な戦い方とセンスに期待されて何となく合格してしまったと言うのが本当のところである。
ちなみに推薦は武士の母親のお陰で取れたようなものだ。
「それにしてもやっぱり、でけぇ学校だぜ……どんだけいるんだよ? 確か2000人近くいんのか? 国が造ったらしいが要は喧嘩の強ぇ奴らが集まってんだろ?」
武士が入学してまだ1か月も経っていない。
中学生の時は素行が悪かったが、まだ問題行動を起こしていないのは奇跡と言っても過言ではないだろう。
遅咲きの桜が散りゆく中で、武士はぎりぎりになって1階の教室へ入る。
何故か?
友達がいないからに決まっている。
乱武高校は武術を修める強者が数多く存在しているが、だからと言って喧嘩が常態化している訳でもない。
武術家ではあるが、根は真面目な者も多いのだ。
「あ、来たわ……いつもいつも滑り込みね……居心地悪いのかしら」
「いやだって友達いないでしょー。私だったら泣いてるかも……くすくす」
「武術やってないから部活にも入ってないらしいよ? あの人」
「え? そうなの? じゃあ何やってる人なの?」
「そんなん知る訳ないじゃーん。見た目的に喧嘩家とかじゃないのー?」
「聞こえてんだよ!この女が!」と武士が心の汗を流しながら吠える。
もちろん心の中でだ。
こう言う連中は聞こえるように言っている。
それは厳然たる事実。
と武士は思っているのだが、彼の偏見が混じっているだろうことは想像に難くない。
自分の席にたどり着いた武士は、大して中身のないスクールバッグを椅子の後ろに乱雑に投げた。
教壇から最も遠い位置――窓際の一番後ろの席に着いた彼の口から呟きが漏れる。
「それにしても……部活か……全員入部なんだよな」
陰口を叩いていた女生徒の言葉を思い出すが、武術などやったことがない。
小学生の頃に烈華宅の波取流柔術道場に体験で参加してみたこともあったが、すぐに止めてしまった。
「気とか勁道とか、ある訳ねぇだろ。ありゃゲームの中の話だぜ……」
そう考えると思い出すのは『アンリミテッドバトルガール』だ。
大気や大地からの気を吸収して力に変えるだの、発勁で相手を吹き飛ばすだの、相手の内部からダメージを与えるだのと、かなり多くの技があるらしい。
烈華がまるで同志を見るように目を輝かせながら説明してくれたので間違いない。
確かに同志と言えばそうなのかも知れないが……。
その後、だらだらと退屈な授業を受けてようやく放課後が訪れた。
これでも出席している分、かなり頑張っている方である。
とっとと帰って寝るか、何処かでバトルでもするかと考えながら、バッグを担いだ武士の脳裏に電流が走った。
「部活か……ってそうだわ! 入れそうな部がないなら、自分で創ればいいじゃねぇか! いやー自分の才能が怖いぜ」
心なしか弾んだ声でそう言いながら、実に短絡的な思考で武士は担任の元へと向かうことにした。
その足取りはとても軽い。
既に何度も何度もせっつかれているのだから、自分の提案に乗ってくれるに違いない。
るんるん気分で武士は教職員室に足を踏み入れた。
――――
「駄目に決まってンだろ」
我ながら最高の策だと思っていたものが、無惨にも呆気なく破られた時の悲しみときたら。
即行で断ってきたのはスキンヘッドで巨漢担任の鷹無――通称、禿鷹。
鋭い目つきの強面でその筋の御方のような雰囲気を纏っているが、意外と話を聞いてくれる先生である。
「えー! なんでッスかー!? ここって新しい部活って創れないんスか?」
「いや創れるぞ。一応は校則にあるからな……だが……」
「だが……?」
鷹無は言葉を濁したが、すぐにいつもの調子に戻り武士に規則通りの内容を伝える。
「いや……何でもねぇ。部活作んなら5人連れて来い。でなきゃ諦めろ」
「ご、5人も……?」
「当たり前だろ。集めることすらできないなら、お前の意志もその程度ってことだ。それにただ人数始めても何も始まらないんだよ」
完全に沈黙して魂が抜けた抜け殻と化した武士に鷹無が尋ねる。
「ちなみに聞いとくが……どんな部活にするつもりだったんだ?」
「……喧嘩部」
鷹無が額を押さえて大きなため息を吐いた。
「いやだって、大昔には必殺仕事人とか必殺仕置屋稼業とか色々あったみたいじゃないスかー! 喧嘩部があってもおかしくないッスよ!」
「とにかく必ず入部しろ。本気で創部したいならその執念を見せてみろ」
抗議も虚しくにべもなく断られた武士が教職員室から出ると、重い足取りでさっさと帰宅するべく歩き始めた。
「聞こえてたぜ。兄ちゃん。喧嘩部か……実に楽しそうな部じゃねーか」
武士の頭の中は部活のことでいっぱいだ。
既存の武術の部活に入って疎外感を味わうか、入部しないで学校から制裁を受けるか。
「やっぱ創りてぇな……どっかに廃部になりそうなとことかないか?」
「聞けや! 小僧!!」
ぶつぶつとボヤキながらこの場から去ろうとしていると武士の背後で大声が聞こえた気がした。
喧嘩か?と思って振り向いた武士の少し離れた場所に変な男がいた。
背中を廊下の壁に預けて腕組みをしており、茶髪に両耳に幾つものピアスをしたチャラそうな風貌をしている。
「俺に用か? つかそれでカッコつけてんの?」
「ハァァァァァ? 違ぇし! お前にはこの美学が理解できねーのか!」
武士は話にならないと判断するも、再びその体に電撃を浴びたような気がした。
「そうだ! あんた、どこの誰かは知らんが、部活創らねぇか?」
「だからそう言ってんだろーが! 『喧嘩部か……実に楽しそうな部じゃねーか』って聞いてなかったのかよ!」
反射的にチャラ男が怒鳴り返してきた。
「いや聞いてねぇよ。それなら早く言ってくれよ。んじゃ喧嘩部に入るってことでいいのか!?」
「いいぜ。だがな1年。俺が部長であることが条件だがな……」
「あ? 何言ってんだ? 強ぇ方が部長に決まってんだろ! ってかあんた2年かよ!」
「俺は柊蓮、乱高の2年だ」
キラキラした眩い笑顔でサムズアップしている蓮からは強者の風格が感じられない。取り敢えずは殴っておくかと考えた武士は、蓮を武道館裏まで連れて行った。
「とにかく俺が創りてぇのは喧嘩部だ。強さこそ正義。お前の実力を試したいんでな。とっとと掛かって来い」
「喧嘩なんて野蛮な方法で部長を決めるとか間違ってんよ」
言動不一致すぎて茫然とする武士。
こいつは本当に喧嘩部に入りたいのか、悲しいが自分のようにあぶれて部活に入っていないだけなのか。知恵熱が出そうになるほど考えた武士であったが、今は何より人数を集めるのが重要事項である。
「ガタガタ抜かすな。行くぜ!」
わざとらしいキザな立ち方で悠然と佇んでいた蓮に、武士が一気に迫る。
正面からぶち抜く!と気合いを入れつつ、大きく強く踏み込んだ左足に体重を乗せると思い切り右拳を振り抜いた。
「げふぅ」
一応、腕を使って防ごうとしたようだが、無意味であったようだ。
あまりにも軽い手応えに、戸惑い過ぎて武士はとてつもなく混乱してしまった。
吹っ飛んだ蓮の元へ近づくと、倒れて泣きそうになっていることにこれまた若干引きつつ声を掛ける。
「おい……あんた、弱ぇな……」
「だ、だからこれから強くなんだよ……」
情けないようにも聞こえるが、強くなりたいと言う意志は感じられる。
なるほどなと武士は納得できたような気がした。
ここに喧嘩部(予定)2人目のメンバーが加わったのである。
新しい門出に相応しい素晴らしい1日になった瞬間であった。
「それで喧嘩部に入って強くなりたいってくらいだし、そこら辺は詳しいのか?」
「おま、敬語……ってまぁいい。そりゃな色々と情報は追ってるぜ!」
武士が蓮に尋ねると、なけなしのプライドが傷ついたのか文句を言い掛けたが、すぐに心の折り合いを付けたようだ。
強くなりたくてもなれないが、ヤンキーたちの情報には明るい者はいるものだ。
今、武士が懸念しているのは烈華についてだ。
『アンリミテッドバトルガール』の件があって以降、彼女の身に危険が及ばないかと心中穏やかではいられない。
「『関東鳳凰会』について知ってるか? 最近大きくなった愚連隊なんだが」
「ああ、あいつらな。ヤベーよ。かなり。私闘はもちろん、恐喝、暴行、強姦、更にはドラッグから売りまで何でもござれだ。女を攫ってシャブ漬けにして売り飛ばすのもやってる」
武士も『関東鳳凰会』についてはある程度は知っているが、蓮はそれ以上に詳しいようだ。
聞いたことがあるのは会長が序列は2000位以下らしいと言う話。
「まぁあいつらはプライドが高いらしくてな。反社の連中とはつるんでないらしい。その内大人に潰されんだろ」
それは朗報である。
バックに大きな組織が付いていた場合、喧嘩だけでは沈静化しない。
その点、子供の遊びの範疇なら、喧嘩で全員倒せば良い話だ。
「『関東鳳凰会』がどうかしたんか? え? まさかいきなり仕掛けんのか!?」
目を見開いた蓮が驚愕して、慌てて武士から距離を取ろうとするが、すぐに一喝する。
「いやしねぇよ! 蓮は巻き込まないから安心してくれ。喧嘩部が発足したら分からんけどな」
流石にか弱い蓮を巻き込んでも何の意味もない。
武士が心配しているのは烈華のみだ。
何しろ、知らなかったとは言え、無意識の内に5人を瞬殺したのだ。
何故、そう判断したかと言うと、警護ロボが到着する前に全員を仕留めたと言う厳然たる事実があるから。
「こっちの都合があんだよ。蓮に迷惑は掛けねぇさ」
「ホントかよ! マジで止めてくれよなーもー」
表情を緩め、安堵の声を上げる蓮を無視して、武士は1人思う。
とにかく烈華を護りたい。
そして彼女を狂気へと引きずり込んだ『アンリミテッドバトルガール』の力を使わせたくない。
それが現在、武士が強く願っていることだ。
満月を背景に哄笑する烈華の姿が目に焼き付いて離れないのだ。
あの笑顔がどうしても頭から消えてくれない。
あの力は危険。
決して使用させてはいけない気がして武士はぼそりと呟く。
その目は怒りと覚悟で据わっていた。
「烈華を戦わせたら駄目な気がする。『関東鳳凰会』は俺が狩る」
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