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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第二章 関東鳳凰会編

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ラウンド8 不安の烈華

ありがとうございます。

もう1話更新します。

 烈華が我に返ると、傍には心配そうな顔付きで寄り添う武士の姿があった。


 何が起こったのかを思い出そうとするが、その必要はなさそうだ。

 何故なら、強く刻みつけられたかのように鮮明な記憶として残っているから。



「確か声が……敵の殲滅……? 『アンリミテッドバトルガール』を終了……?」



 表情を無くして1点を見つめ続ける烈華は譫言(うわごと)のように呟きを漏らしながら放心状態に陥っている。



「おい烈華ッ! 落ち着け! 一体何があった?」



 烈華が俯いていた顔を上げると、すぐ目の前には彼女を案ずる武士の顔が目に入る。

 ようやく我に返りまじまじと彼の心配げな目を見つめた。

 とは言え、まだまだいつもの微笑みを絶やさないような状態の烈華ではない。



「あ、武士……? あ、あのね……何か変なことが起こったのよ……これは夢……?」


「俺が考えた限りじゃ夢でもへちまでもねぇな。こいつら……『関東鳳凰会(かんとうほうおうかい)』のスカジャンか。取り敢えずこの場から逃げっぞ!」



 茫然としたままの烈華の手を取って走り出そうとする武士であったが、未だ現実を受け入れられない彼女は上手く走れない。

 あまりにも現実離れした経験に思考が追いついていないのだ。

 下手をしたら警護ロボが駆けつける可能性があることを考えると武士のするべきことは1つである。



「これは仕方ないことだッ! 不可抗力だからなッ!」



 止む無く武士は彼女を背中に背負うと、誰かに言い訳をしながら一目散に、バトル会場から走り去った。

 軽いなと場違いなことを考えながら。




 ―――




 やがて烈華の自宅へたどり着いた武士は、彼女を背負ったまま玄関の引き戸を開けた。


 俯いていた武士を見下ろす影が1つ。

 ギクリと体を震わせながらも恐る恐るゆっくりと顔を上げた彼の前には、想像通りの人物がいた。


 仁王立ちしていたのは言わずと知れた烈華の父親、波取烈将(はとり れっしょう)その人であった。

 ようやく一息つけると安堵した武士の前に難敵が。



「貴様……烈華をどうした? こんな時間まで連れまわしていたのかね?」



 武士におんぶされている烈華の姿を見てそう思ったのだろう。

 誤解を受けていると理解した彼はすぐに事情を説明すべく、慌てて口を開いた。



「あ、お父さん……コンバンハ。えっと違うんです。烈華さんがですね……ヤンキーたちに絡まれてたみたいだったもんで……」


「な、何ぃ! 烈華がヤンキーなんぞに!? 武士……貴様と言う奴はぁぁぁ!」


「え?」



 急に激昂して、般若のような表情になった烈将に武士は困惑する。

 何故怒られているのか理解できず、間抜けな返事をしてしまった彼に向けて、何処から取り出したのか烈将が鏡を突きつける。

 もちろん、映りこんでいるのは武士の顔である。



「……?」


「なるほど。鏡を見なさい、答えがあるからってところかしら……」



 未だ事態が飲み込めない武士より先に烈華は気が付いたようだ。

 ようやく心が落ち着いて、いつも通りの彼女に戻っている。

 いつまでも背負われているのが恥ずかしくて烈華は武士の背中から降りた。



「は……? どう言う意味なんだ?」


「えっと、要するにそのヤンキーは武士なのかって言いたいのよ。たぶんだけれど」


「んだよ! 俺はヤンキーじゃねぇぞ!」


「ごちゃごちゃと煩い! 貴様がヤンキーじゃなかったら誰がヤンキーだと言うのだ!」



 烈華としては十二分にヤンキーに見えるのだが、今、話すべきことなのか大いに疑問の余地があるところだ。

 話が進まないので彼女は、素直に事情を話してみることにした。

 父親なら曲解しそうだなと思いつつも。



「お父さん、ヤンキーだろうと何だろうと武士は武士なの。ちょっと体調が良くて、ほんの少し遠くに行った迂闊な私を助けてくれたのよ」


「何だって!? 今は体調はどうなんだ? 大丈夫なのか?」



 武士に対する怒りから一転して、烈将は烈華には心配そうな言葉を次々と投げ掛けた。



「まぁとにかく、助けてもらったの。それじゃ部屋に行くから……」


「烈華! 待ちなさい! ええい武士も待たんか!」



 そこへ烈将の頭に薙刀が降り落とされる。

 当たったのは刃の部分ではなく柄の部分だが、痛いものは痛い。

 全くの突然の出来事に、玄関前の廊下で悶絶して転げまわる烈将。



「武士君、ごめんなさいね。うちの旦那が馬鹿で。烈華を助けてくれたの? あらあら……それはありがとうね」



 奥から現れて烈将の頭をドついたのは烈華の母親である(あかね)だ。

 いつも目を細めてにこやかな微笑みを浮かべているが、薙刀の腕は超一流。

 かつては乱武高校に在籍しており、薙刀部のエースとして『一刀の蒐』と呼ばれていたらしい。



「お父さん、お母さん、心配掛けてごめんなさい。ちょっと武士と話があるから」



 烈華も自分の行動が、迂闊だったと素直に反省していた。

 だからこそ、頭を下げて謝ったのだ。

 幼少期からずっと心配を掛け続けてきた両親なのだから。


 バトルが様々な場所で行われ、反社会的な集団も多い中、修羅の国で武力を持たない烈華が夜にうろついて良い場所ではなかった。

 いくら警護ロボのお陰で治安と秩序が回復していたとしてもだ。



「ええ、分かったわ。武士君もゆっくりしていってね」



 そう言う蒐は烈華に似た微笑みを湛えている。

 いや、烈華が蒐に似たと言うべきなのか。



「はいッス!」



 階段を上りながら武士が烈華の耳元でこっそりと呟く。



「蒐さん相変わらず、(すげ)ぇな。いつの間に現れたのか分からなかったわ」


「そんなに凄いの? 確かに神出鬼没なような気もするけど……」



 烈華の部屋に入ると彼女はベッドに腰掛けて大きなため息を吐いた。

 武士はまだまだ慣れない様子で彼女から少し距離を取ってカーペットの上に座る。


 気だるげな烈華に彼は少しばかり話を切り出すか戸惑ったが、どう考えてもあの時の彼女は普通ではなかった。それに単純に彼女が譫言(うわごと)のように言っていた言葉が武士には気になったのだ。



「それで何がどうなったのか、教えてくれるか?」


「……ええ、今日の私は凄く調子が良かったの。それであなたが行ってるゲームセンターに行ってみようと思ったんだけど――」



 すぐに本題に入った武士に、烈華は今日起こった全ての出来事をつらつらと話して聞かせた。正直、あまりにも荒唐無稽な話だと自身も十分に理解していたため、武士に何を言われても仕方がないと思いながら。


 烈華の説明を聞き終えた武士の第一声は彼女にとっての救いになるものであった。



「よく分からんが、凄ぇ体験だな。烈華はその力を使ってあの連中を倒したって訳か……」



 否定されると思っていたことが、普通に受け入れられた事実に烈華は唖然としてしまった。まずは疑われると考えていただけに、らしくない神妙な表情で考え込む武士を見て彼女の心がぽかぽかしてくる。



「んで『アンリミテッドバトルガール』の声を聞いたんだな?」


「ええ、頭の中に直接響いた感じだった。確か、≪『アンリミテッドバトルガール』を起動。速やかにバトルモードに移行します≫って言ってたわね」



 『アンリミテッドバトルガール』やバトルモードと言うキーワードから武士はすぐにゲームとの関連性に気が付いたようだ。

 神妙だった顔がハッとしたものへと変わる。



「それってあれか? あの世界ランキングがなんたらって奴」


「そうそう。普通に考えるとあの時に言った都市伝説が、真実だったってことになるわね。他に心当たりなんてないもの」


「俺には自分を操作する感覚なんか分からんけど、烈華はゲームだけじゃなくて現実でも強くなれたってことだな」



 そうは言われても烈華は複雑な気持ちでいっぱいだ。

 確かに健康になった上、強さも手に入れたのだから、両親を喜ばせることはできるのだろうが。



「そうね。それだけだったら良かったんだけど……もしかしたら私は戦闘狂なのかも知れない……」



 5人の男との戦いの時もゲームプレイ時と同様にトランス状態に入っていた。

 だが、自身の心に溢れ出る高揚と狂喜、愉悦などの感情だけは鮮烈に記憶に残っている。


 戦いが終わって感じたのは恐怖。



「俺が通った時は、凄ぇ高笑いしてたんだぞ? 一瞬見違えたくらいだ……」



 美しい黒髪を風になびかせて妖艶なほどの深い笑みを浮かべていた烈華の姿が思い出される。



「私は覚えているの。戦いながらどうすれば敵を効率良く倒せるか、如何に破壊して再起不能にするか……思い出すのも怖いわ……」



 やはりあるのは不安。

 あの湧きあがる破壊衝動。

 効率良く壊すことを考えるなど自分は人間なのか、得体の知れない力『アンリミテッドバトルガール』に精神を乗っ取られたのではないか。


 そのような考えばかりが、繰り返し繰り返し烈華の脳裏を過るのだ。



「今後もきっと起こるわ……その時に私は自分を抑えこめるのか不安でならない」



 烈華はベッドの上で、大きなウサギのぬいぐるみをぎゅっと強く抱きしめる。

 そして顔を埋めて動かなくなった。



「……烈華、心配すんなよ。お前が暴走したら俺が止めてやる。なんとしてもな」



 いつもの荒っぽさはないものの、力強い言葉だ。

 それに少しだけ勇気づけられた烈華がぬいぐるみからチラリと顔を覗かせる。



「何てったって俺は喧嘩上等のヤンキーだからなッ!」



 そこには幼き時に確かに見た頼もしい晴れやかな笑顔。

 武士が断言するほどの頼もしい言葉を聞いた烈華は、自分の心が安らぎ胸のつかえがとれた気がした。

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