ラウンド6 アンリミテッドバトルガール
いつもありがとうございます。
本日3話目です。
烈華は耳を疑った。
一瞬、バトル法によるマッチングのバトルかと考えたが、今回はスマホを使っていない、あくまで"私闘"だ。
私闘を禁じるために成立した『路上格闘及び、喧嘩上等関連法案』――通称、バトル法。
だが自然と理解する。
声が届いたのは耳ではなく――脳。
直接脳内に語り掛けられたと言う驚き。
全ての刻が停止した。
少し肌寒くなってきた気温も、緩やかに吹いていた風も、アスファルトの臭いも何もかもなくなってしまった気がする。
当然の如く烈華の頭は大混乱で、今目の前に危機が迫っていると言うのに無意識の内に思考が口から漏れ出てくる。
と同時に彼女は、自身の体の奥の奥から何かが湧きあがってくるような感覚に陥っていた。
「『アンリミテッドバトルガール』起動? え……? バトルモードって何!?」
今まで自分たちを憎々しげな鋭い目で睨みつけていた少女が、突如困惑した様子になっておろおろし出したのだ。
急激な変化に『関東鳳凰会』の男たちも烈華に、戸惑いの視線を送る。
だがそんなことは関係ないとばかりに1人の男が前に進み出て、上から見下ろすように威嚇し凄んで見せる。
「何言ってんのか知らねーが。やっと理解したかぁ? だから大人しく着いて来いよ」
聞こえている。
烈華の耳にはしっかりと届いている。
ただ、それどころではないと言うこと。
感覚は研ぎ澄まされ、今の自分には強力が備わっていいると言うことを自覚させられる。
そして烈華は全てを理解した。
今の烈華――それは『アンリミテッドバトルガール』
世界ランキング1位に君臨するバトルの帝王であった。
「おい!! 聞いてんのかッ!! チッ……もういい。オラッお前ら、攫うぞ!!」
動かなくなった烈華に苛立った男が仲間に号令を掛けると、彼女の腕を掴もうと手を伸ばす。
刹那――『左鉤突き』
伸びる右腕を軽快なフットワークで掻い潜った烈華は、その小さな左足を大地に強く叩きつけて踏み込むと、吸い上げた力を回転の力に乗せる。
左足から左膝、腰を回転させて、下体から上体へと力を伝えていく。
そしてがら空きになった男の右脇腹に左拳を叩き込んだのだ。
全ては一瞬。
「がッ……」
短い呻き声を漏らしたかと思うと、男は悶絶しながらその場に倒れ込んだ。
誰もが何が起きたのか理解できていない。
脳が目の前の現実を否定し、受け入れることを拒んでいるのだ。
この場で理解しているのは烈華ただ1人。
完全に刻が止まったかのような中で、動けるのは烈華のみ。
烈華はそのまま踏み込んでいた左足を更に回転させると、アスファルトがジャリッと音を立てた。
唸る右拳――『裏拳』
隣で呆けたかのように突っ立っていた男の顔面に、烈華の硬い拳がめり込んだ。
男の体が大きく吹っ飛ばされて停めてあったバイクに激突し、最早ピクリとも動かない。
ここでようやく時間停止から立ち直ったようで、男2人が烈華の背後から襲いかかる。
「おいおい。あんなにビビってたのにどうした! おもしれぇ! 格闘技でもかじってたかぁ?」
「路上じゃ捕まえちまえばこっちのもんだ!」
男たちとの距離は僅か。
だが烈華には『視えて』いる。
背後から2人――右後方から1人、左後方から1人。
となれば――
烈華はすぐに振り返りざま脳中に自らの動きを描き出す。
右足に移していた重心を左足に瞬時に移し替え、振り向く際に発生した回転力を乗せて、右突きを繰り出した。
体重の乗った左足と回転による力が集約された、強烈な一撃。
『右中段突き』
烈華を捕まえるべく左後方から腕を伸ばしていた男の丹田に突き刺さった。
鈍い音がして男が大きく後方へ吹っ飛ばされてしまう。
明らかに尋常ではない。
本来ならば、その場に崩れ落ちて悶絶する程度の攻撃であるはずなのにもかかわらず、だ。
「ガードもなしじゃクリティカル判定よ?」
そこへ烈華の細い肩が強い力で握り締められる。
まだ少し怖いと思う部分があるようで、体が一瞬硬直するが問題はない。
頭では分かっているつもりでも、本能的な恐怖心があるのだろう。
2人同時に連撃を入れる自信はあったが、試したいことがあったのだ。
「へへ……つーかまえたっと。男に力で勝てる訳ねぇだろ。今夜はメン――」
横目でキッと射すくめるような目でねめつける烈華。
全ては言わせない。
汚らわしくて耳にするのも嫌悪感で怖気が走る。
『→溜め ↗ ↑ ↖ ←』
『左上掌底』
『背負い投げ』
『中段両手突き掌底』
コマンドを頭の中に描く。
これは操作――烈華と言うキャラクターを自分で操作する感覚。
十字キーを脳内で操作し、鋭い掌底で男の顎をかち割ると、烈華を掴んでいた力が緩んだ。
「ぐがッ」
そして自分の倍はあろうかと言う男の襟を掴んで前方へと投げ飛ばす。
全ては回転により生み出される力。
踏み出した左足に滑らかな体重移動、そして後方の右足で大地を強く蹴り出す。
浮いた状態の男に決まる――両手の掌底が。
「飛べ! 『崩玉烈壊掌』」
『アンリミテッドバトルガール』の所謂、必殺技だ。
掌底が男の胸部に当たった瞬間に、掌から生み出された衝撃が分厚い胸を貫通し虚空へと消える。
発勁の技でゲーム内ではこのような必殺技は多い。
まとも攻撃を受けた男は、口から何かを吐き出しながら弾き飛ばされる。
電柱に直撃して頭から地面に落ちると、間抜けな格好でお尻を天に向けて動かなくなった。
「ふう……突然だったけれど何とかなったわね……バトルモードになると私が『アンリミテッドバトルガール』になるのかな? 操作は頭の中で想像すればいい訳だし」
烈華が戦闘中に気付いたことや気になったことを、ぶつぶつと呟きながら反芻している。
現実でプレイする時のようにコントローラーを直接、両手で操作するのではなく、脳内に直接命令することになるのだから反応速度はゲームのそれとは比較にならないだろう。
「おいおい。お前さん、何モンだ? さっきまでビビってたのが嘘みてーだぜ……」
不意に背後から掛けられた声に烈華が驚いて振り返る。
そう言えば――
絡んできたのは5人で倒したのは4人。
「何? あなたも死に――やられたいのかしら……?」
そう挑発的な言葉を投げ掛ける烈華だったが、「今、自分は何を言おうとしていた?」と言う思いに内心では唖然としていた。
『あなたも死にたいの?』
こんな好戦的で野蛮な言葉など烈華は今まで使ったことはない。
烈華に走る戦慄。
――『力』を得た代償?
「俺も一応、『関東鳳凰会』の看板背負ってっからな。ここで引く訳にもいかんのよ」
「……」
平静を装いながら、目の前の大男に目をやる烈華は沈黙を決め込む。
戦うと何処か得体の知れない場所へと引きずりこまれるような気がしたから。
「チッ……ダンマリかよ。取り敢えず戦ろうぜ。『関東鳳凰会』5番隊隊長、狭間義元! 参る!」
戸惑う烈華を置き去りにして、義元は戦いの狼煙を上げた。
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