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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第一章 覚醒編

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ラウンド5 起動

いつもありがとうございます。

本日2話目です。

 『猫猫ナース』との壮絶な死合(しあい)からちょうど1週間が経とうとしていた。



 結局、第2戦は逆に烈華が『アンリミテッドコンボ』を決められ、序盤の粘りも虚しく惜敗。

 勝負は第3戦にもつれ込み、激闘となった。



「うふふふふふ……」



 烈華はこの1週間の出来事を思い出して、口から意図しない笑いのような呻き声のような得体の知れない何かを漏らしていた。

 いや、目を細めて上機嫌なのだから笑っているのだろうが、本人にもよく理解できていない。



「やった……猫猫ナースさんとの激戦に勝利してから1週間! 序列1位もキープしてご飯も美味しい! それに今日も体調がいいわ……はッこれは本当に特殊コマンドが出る兆候だったりして!?」



 何と烈華は現在、日中にもかかわらず外出していた。

 自宅から左程離れていない公園にいるだけなのだが、これまでこんな行動をしようものなら倒れて高熱を出して動くことすらできなくなっていたほどなのだ。

 だからこそ、彼女は猛烈に感動しているのである。



「えへへへへへへ♪」



 きっとあの苦痛を味わった者でなければ、理解などできないであろう日々。

 健康な……いや、ごくごく普通の生活ができると言うことがどれだけ素晴らしく、有り難いことであるか。


 烈華はブランコに座ってゆっくりと前後にぶらぶらと揺らしている。

 暖かな春の陽気の中で感じる穏やかな風が非常に心地良い。

 相変わらず、変な声で笑っているが……。



「ママー! あのお姉ちゃん。なんかへんー!」


「めっ! 見ちゃいけません! 早く帰ろうね……」



 公園に接する道路を歩く親子が何やら話しているが、今の烈華は余裕綽々100%。

 肉体的な貧弱さが改善されたとなれば、精神的な強さを持つ彼女はまさに無敵の人状態であった。


 最初は調子が良かったので試しに家の庭に出てみる程度だった。

 それすらも両親は心配して止めたのだが、烈華の中で何故かは知らないが、確信めいた直感があったのだ。


 少しずつ長時間、体を慣らしているが今のところ全くは問題はない。

 掛かり付けの病院で検査してもらったが、原因は分からないらしい。

 元々が原因不明で、何の病気かすら判明していなかったところに、今度はまたまた原因不明で改善したのである。


 医者が困惑するのも当然のように思える。



「もしかしたら学校に行けるかも知れないし、友達もできるかも! ちゃんと勉強もしてたし編入できるでしょ」



 烈華はただただゲームをしていた訳ではない。

 しっかり通信で授業を受けていたし、勉強の時間もしっかり取っていたので、選択肢は大いに広がるだろう。



「武士は確か、国立の……乱武(らんぶ)高校だったわよね……あの全国から猛者が集まってくるって言う。毎日バトルしてるのかな……?」



 最近、武士のことをやたらと思い出すような気がする。

 幼馴染だから当然かとも思うが、久々に再会したあの日に、彼の見ている前で烈華は『アンリミテッドバトルガール』の序列1位を取ることになった。


 もしかしたら彼が幸運を運んできてくれたのかも知れない。

 そう考えると烈華は何処か心が温かい気持ちになるような気がしていた。



「さて、今日はちょっとだけ遠くに行ってみようかな?」



 烈華はブランコを漕いで勢いを付け、座ったまま遠心力を使ってジャンプすると見事な着地を決める。


 以前ならふらふらで、こんなことすらできなかったことを考えると、やはり信じられない。体幹が強くなったのかとも考えるが、運動などしてこなかったのだから有り得ない話なのだが。


 込み上げる嬉しさを体全体で表すかのように、烈華は大きな伸びをして口から新鮮な空気を取り込んだ。



「うん♪」



 喧嘩をするのは嫌いな烈華だったが、父親に柔術を学ぶのも良いかも知れない。

 ひょっとしたら、近い内にか弱き女子高生になる可能性があるのだ。

 習っておいて損はないし、きっと父親も喜んでくれるだろうと言う単純な考えである。


 住宅街から抜けた通りにはゲームセンターがある。

 武士が恥ずかしそうに言っていたこと――『アンリミテッドバトルガール』をプレイしていた――を思い出した烈華は少し寄ってみようかなと思い立ったのだ。


 自分が昔に勧めたゲームを覚えていて、しかもプレイしてくれていたことが嬉しいのだ。


 そう。

 覚えていてくれたと言う事実が、何より彼女の心を満たしてくれて胸がいっぱいになる。


 足取りは軽く、まるで乱舞するかのようにひらひらと烈華は歩いていく。

 ゲームセンターまでは3kmほどだろうか。

 場所自体は知っていたが、初めて行くので楽しみだ。


 幼い頃に通った道、通院する時に車に乗せられて通った道。

 疎らだった人影が、どんどん増えていくのが分かる。

 人の数が多くなったとは言えども、閑静な住宅地から近いせいもあって都心の人ごみとは違っている。



「武士のヤツ、こんなところに通ってたのね……乱武高校ってどの辺にあるんだろ? 学校の近くにもゲームセンターってあるでしょうに……あっ家が近いからね……帰りに寄り道してたのかぁ」



 寄り道――何と言う甘美な響きだろうか?



 烈華の妄想は止まらない。

 友達ができたら色々なところに寄ってみたり、買い物したり、カフェでくだらない話をしながら無駄な時間を過ごしたり。


 目を閉じると浮かんでくるのはそんなことばかりで、考えただけでも楽しくなってしまう。



「はわわわわ! いいわ……これはくるものがあるわね!」



 考え事をしながら歩いていると時間はあっと言う間に過ぎているものだ。

 気が付いたら烈華は、ゲームセンターと思しき店の前に立っていた。


 昔見た時よりも大きくなっている気がするが、『ゲームセンター武蔵』と言う看板が掛かっているのを見ると間違ってはいないらしい。

 1人の男が入ろうとして自動ドアが開くと、中から大きな音楽や人の声など雑多な騒めきが聞こえてくる。


 烈華も勇気を出して入ってみることにした。



「せっかく来たんだから入らないと損よね。でも何をすればいいのかしら……?」



 取り敢えず入店した烈華であったが、初めて見るものばかりでよく分からない。

 ぶらぶらとうろついてみると、最初に目に付いたのはクレーンゲーム。

 ガラスの向こうにはぬいぐるみや玩具(おもちゃ)、フィギュアなど景品はバラバラだ。



「ネットによれば一瞬でお金が溶けるって書いてあったわね……ぬいぐるみは可愛いけど……お金があまりないからな……」



 そのまま素通りして見て回ると本当に色んな種類のゲームがあるようだ。

 定番の格闘にシューティング、パズル、麻雀、音楽ゲームなど。



「でかい筐体ね……レースか。これは趣味じゃないかな」



 奥に進むと噂でしか聞いたことのないものが鎮座していた。

 脳内に補正がかかっているのか、キラキラして眩い光を放っているような気がする。



「こ、これは……伝説のプリクラ? えっ? 写真撮るんだっけ? いやいやいや、私1人だし。これは難易度高いわね。下手したら『アンリミテッドバトルガール』より強敵だわ……」



 後ろ髪を引かれながら撤退した烈華だったが、いつの間にか目の前にあったのは店内で最も巨大な筐体。



 これは――



 烈華はすぐに理解した。

 これが、これこそが世界に誇る日本の格闘ゲーム『アンリミテッドバトルガール』。



「あー私は結局、この場所に来るのが運命なのかもね」



 これほどの筐体が店の真ん中に設置され、今もプレイしている人がいる。

 やはり人気なのは疑いようのない事実だ。

 烈華としては、プレイヤーがどのような戦い方をしているのか気になるところ。

 横からさり気なくディスプレイを覗き込む。

 大人の男がプレイしているのだが……。



「(あーそこで掌底はマズいでしょ。ほらガードされてるし……仕掛けるなら下段足払いね。足元がお留守になってるわよ。あ、ハメ技喰らってる……)」



 しばらく見学していたが、男はそれほどの猛者ではなかったようで、怒りに打ち震えた様子で筐体を蹴るとこの場から立ち去ってしまった。


 ディスプレイを見るとランキングが表示されているのが見える。

 今のプレイヤーはランク圏外、つまり1万位以上と言う訳だ。

 ランキングに乗るのは9999位まで。


 彼のプレイを見て何故かうずうずした感覚が湧きあがってくる。

 そう言えば今日はまだ未プレイだ。

 どうやら烈華は自分が考えているよりも『アンリミテッドバトルガール』常用者(ジャンキー)のようである。



「仕方ない。ちょっとだけやろうかしら……ちょっとだけ……そうほんの少しだけ」



 自分に言い訳をしながらスマホをかざして決済するとプレイヤー情報を読み込ませる。


 刻は大規模ネットワーク時代である。

 お金はもちろん、スマホと自宅のゲーム機もリンクしているし、ゲームセンターで『アンリミテッドバトルガール』をプレイする場合にも自分がカスタマイズしたキャラクターで死合(しあい)が可能だ。


 何から何まで全ては繋がっている。


 ゲームセンターでプレイするのは初めてだが、感覚的に理解できるので操作は楽なもの。

 後はランダムマッチングで死合を行うだけだ。



「せっかく来たのにやることは一緒かぁ……ちょっと反省」



 そんなことを言いつつも負ける気など毛頭ないのが烈華である。

 開始されるといつものトランス状態に入り、周囲から騒めきが消える。

 その切れ長の目は大きく見開かれて一瞬たりとも相手の動きを見逃すことはなく、十字キーを握る左手とボタンを叩く右手がまるでAI制御されたロボットのように正確に暴れ回る。



「はっ……あれ!? 今何時!? 私どれだけやってた……って76死合も?」



 烈華の場合、ほとんど瞬殺していたのでそこまで時間は経過していないのだが、顔を上げると窓から射し込む日光は消え失せているのが目に入る。

 『アンリミテッドバトルガール』のことになると制御が効かなくなるのは反省すべきところだ。

 彼女は大きくため息を吐くとディスプレイをチラリと一瞥して筐体から離れた。



『おめでとうございます。プレイヤー烈華は世界ランキング1位を達成して1週間が経過しました。以後、特殊能力が解放されます。なお1位をキープする期間によりプレイヤーの能力や強さが更に解放されます』



 ディスプレイに映った女性のアバターが、いつも通りの柔和な声で何やら説明しているが、慌てて立ち去った烈華は気付いていない


 去り際に一瞥したディスプレイにはこのゲームセンター内でのポイントランキングが表示されていたが、全て烈華の名前で埋め尽くされていたのは気のせいだろう。


 そうに違いない。きっとそうだ。

 彼女はそう思い込むことに決めた。



「もう……早く帰ろっと……結局いつもと同じじゃん……周りが見えなくなるのは注意しないとね……」



 烈華がとぼとぼと店を出ようとするとピンポーンと無機質な音がして自動ドアが開閉する。


 辺りは既に黄昏時で薄暗い。

 日頃来ない場所にたった1人。

 しかも闇が迫ってきている時間帯だ。

 そう考えると急激に心細くなってしまう。


 自然と足早になっていくのと同じく、心細さも加速していく。

 街灯が点灯し始めているが、そのボンヤリとした明るさのせいで薄暗さが返って強調されている気がして、薄気味悪さに拍車が掛かる。

 更に急ぎ足になって心臓が早鐘を打ち、気が急いてしまい握る拳に力がこもっていく。


 その時、背後からバイクの音がして烈華を取り囲むようにして停まった。

 あまりにも大きな音に烈華の肩がビクリと震える。

 ノーヘルの若い男たちがバイクに跨ったまま、空ぶかしをさせると再び爆音が周囲に響き渡った。



「おい、そこの姉ちゃん。ちょっと俺らと遊んでいかね―か?」


「お、可愛い()じゃん。こりゃラッキーだなァ」


「俺らは『関東鳳凰会(かんとうほうおうかい)』のメンバーなんだ。付き合っといて損はねぇぜ?」 



 初めての経験。

 恐怖で体が竦み上がり、震えが止まらない。



 でも――



 波取烈華はどんな時でも諦めない。

 諦めなければ可能性は0%にならないことを知っているから。


 いつまでも反応がないのことに苛立ったのか、5人の男たちはあっという間に烈華を取り囲んだ。

 逃げようにも完全位囲まれてしまい、抜け出せそうにない。

 キッと彼らを強く睨みつけると薄暗くてもよく分かる。

 男たちの下卑た表情。

 どの顔も欲望に満ちて醜く歪んでいた。


 焦れた男たちの内の1人が烈華に向けて手を伸ばしてくる。



「触らないで!」



 力を込めて払いのけようとするが、男の腕はビクともしない。

 一体何が面白いのか、男たちは烈華の反応を見て喜ぶだけだ。



「いいもん持ってんだ。すぐに気持ちよーくなるからよ。安心しろや」



 脳裏に武士の顔が浮かぶが、そんなご都合展開を信じるほど烈華は甘くない。


 1撃だけでも喰らわせてやるんだ。

 絶対にただでは済まさない。

 烈華は男たちを鋭い眼差しでキッと睨みつけると、そう覚悟を決めた。



 その瞬間――頭の中に聞き覚えのある女性の音声が流れた。



≪『アンリミテッドバトルガール』を起動。速やかにバトルモードに移行します≫

お読み頂きありがとうございました!

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