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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第一章 覚醒編

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ラウンド3 都市伝説

第3話です。

よろしくお願い致します。

 烈華がゲームを起動すると大画面にタイトルロゴが映し出される。


 すぐにマッチング画面が表示されると共に『アンリミテッドバトルガール』のキャラクター選択ができるようになる。

 このゲームはとにかくキャラクターが多く、多彩な技と連携が売りだ。

 更には通常の攻撃ですら様々な角度や、態勢から繰り出せる。


 烈華は手慣れた様子でコントローラーをいじり始めた。

 プレイし慣れているのが、傍から見ても良く分かるほどに。



「しかし、(すげ)ぇよなコレ。こんなの俺には操作できねぇ……」



 ただのコントローラーではない。

 アーケードジョイスティック――『アンリミテッドバトルガール』専用――を操作してログインするとランダムマッチングを選択する。

 これで適当な相手とマッチングされ死合(しあい)が開始されるのだ。

 このゲームでは試合を()()と呼ぶ。



「慣れると案外使えるものよ?」



 画面から一切目を離すことなく烈華が答える。

 普段から無表情な彼女がどことなく笑みを浮かべながらマッチングされるのを待っていた。

 待ち時間も楽しみの1つなのだ。


 どんな相手だろうか?

 どのキャラクターを使ってくるのか?

 ランキングはどれくらいだろうか?

 烈華の脳裏には次々とわくわくが浮かんで、空っぽの頭の中に詰め込まれていく。


 そんな烈華の表情を武士は横からチラチラと見てしまう。

 相変わらず、その表情には微笑みを湛えているが、何処か上気している感じを受ける。


 だが既にゲームに集中している彼女がそれに気付く気配はない。


 烈華はいつも日本人の少女のキャラクターをカスタマイズしたものを使っている。


 何故かと問われればこう答えるだろう。


 柔術使いだからだ、と。


 家が『波取流柔術』の道場を開いていると言う理由もあるかも知れない。

 病弱で格闘技ができない。ましてや道場を継ぐことなど不可能だろう。

 そんな罪悪感にも似た思いが彼女の根底にあるのかも知れない。

 ただ気付いていないだけで……。



「あーこれな。えっと……何つーキャラだっけ?」


(ともえ)よ。巴御前が由来らしいわ。まぁ全キャラの技は覚えてるし使えるんだけど、私のお気に入りだから」



 その姿に見覚えがあった武士が尋ねるが、返ってきた名前に聞き覚えなどない。

 武士が間の抜けた声で疑問の声を上げると、冷たい言葉に耳を貫かれる。



「ともえごぜん……?」


「あなたには期待してないから」



 烈華にはゴミを見るような視線を向けられて、踏んだり蹴ったりの武士であった。



「お、決まったな。相手は世界ランキング87位か。余裕なんじゃねぇの?」


「……」



 既にゲームの世界に完全に没入している烈華に外部刺激は一切通じない。

 死合が終わるまで彼女はトランス状態になるのが常であった。

 その間だけ彼女からはいつもの笑みが消えて無表情になる。


 そして開始される死合。

 武士としては自分の弱さを理解しているため、烈華のプレイを参考にしようと集中する。

 せっかくの共通の話題なので、彼女に仄かな恋心を寄せる初心(うぶ)な武士には、絶対に落とせない必修選択科目よりも重要事項なのだ。



 だが――



 『K.O!!』



「は?」



 対戦相手を瞬殺する烈華。

 その美しいまでのテクニックとあまりにも早すぎる決着に武士は驚きを隠しきれない。

 と言うか手元が全く見えなかった。

 武士の動体視力を持ってしても何をどう操作しているのか理解できなかった。

 何を言っているのか分からないと思うが、彼にもさっぱり分からなかった。



「強すぎんだろ……。軽く引いたわ!」


「楽勝」



 死合が終われば全神経が解放される。

 都合よく『強すぎ』の部分だけが耳に入った烈華は怒涛の如くゲームについて話し始める。

 認められるのが嬉しい彼女の格ゲーオタクのスイッチが入ってしまったのだ。

 とにかく早口で技名や駆け引きの話を一気に捲し立てる彼女に、流石の武士も若干引いていた。



「――それでね! ネットで見つけたんだけど世界ランキング1位を1週間キープすると特殊コマンドが解放されるらしいのよね。都市伝説の類かも知れないけれどこれは挑戦すべきだわ!」


「お、おう」



 普段とまったく違う烈華を見て苦笑いする武士であったが、違うモノでも強さを追い求めることに変わりはない。

 彼女が明るい方向へ進んでいることに安堵しながら武士は格ゲー談義に耳を傾ける。


 取り敢えずカップラーメンを食べさせてもらって武士であったが、できればこの時間が長く続けばいいと思わずにはいられない。

 ホクホクしたとてもヤンキーには見えない緩みきった表情で、つい先程までガチバトルをしていたとは思えない表情だ。


 結局、居座ることになった武士であったが、烈華はゲームを止めることはない。

 長期に渡って世界的なブームになっていることもあるが、彼女はこのゲームが大好きだった。



「凄いのは技が多彩で1つ1つの攻撃を繋げていけることね! あ、通常攻撃だけじゃなくて、1人のキャラで必殺技が100くらいあるんだよ!」


「え、そんなにあんの……?」



 烈華の話は一向に止まる気配はなく、むしろどんどんと饒舌になっているほどだ。確かにずっと自分の部屋で1人ぼっちでプレイしてきたのだから、話したくて話したくてしょうがないのだろう。


 ちなみにゲーム内でチャットもできるのだが、内気な彼女はほとんど対戦者と話したことはなく、せいぜい対戦前の「よろしくお願いします」くらいのものだ。



「あるんだな、これが! それで技……えっと鉄槌とか裏拳とかあるでしょ? 普通の技とか特殊コマンドの必殺技を連携させるとね……起こるんだ!」


「おお……何が起こるんだ……?」



 前のめりになり過ぎて、烈華は武士にかなり接近していることにさえ気付いていない。

 これはもう武士の心臓に悪い。

 彼は近づく彼女の顔を直視することができずに思わず視線をズラした。



「『アンリミテッドコンボ』よ! 『アンリミテッドコンボ』! とにかく奥義ゲージ満タン状態で連携技を決めると発動するって訳!」



 『アンリミテッドコンボ』――それは無限に続く攻撃でありK.Oへの道。

 組み合わせ次第で可能性は無限大だ。


 攻撃方法もただの正拳突きや蹴りだけではなく多岐に渡り、上段、中段、下段、更にはタイミングはもちろん、攻撃角度、攻撃態勢、防御態勢などプレイヤーの操作次第でどんな攻撃も防御もできる。

 そのための専用コントローラーは有り得ないほどのボタンの数が備えられている上、十字キーに至っては3つも存在している。



「それは凄ぇな。そこまで言うってことは烈華はできるんだろ?」


「ふふん♪ 当ったり前じゃない! 上位ランカーでも決められる自信があるわ! とてもやり込んだもの!」



 上機嫌でドヤ顔をしているのだが、武士から見ても新鮮な表情であった。

 それだけ普段の烈華は、大人しく冷静沈着なのだ。



「私もよくも長年プレイして来たと思うわ! プレイヤーが世界に5000万人もいるのよ! 信じられる? しかももう5年も経つのに!」



 現在もなおアップデートが繰り返されており、開発陣の狂気が見て取れるほどだ。ゲームセンターにはアーケード版も置かれるようになったため、ますます気軽にプレイする者が増えているらしい。


 ゲーム評価サイトやレビューには『難し過ぎて逆に(ぬま)る』と大好評を博しており、至るところで大絶賛されているのだ。



「そうだな。よく続けてるよ。俺がお前に聞いたのが……中1くらいか?」


「そうね。よく覚えてるわね。そう……昔を想い出すわ……」



 そう言って遠い目をする烈華。

 興奮して騒ぎ立てていた彼女が突然、無言になったことで室内に沈黙が降りる。


 烈華はプレイすることを止めない。

 ネット網が発達し、あらゆるものがネットに繋がる時代。

 烈華は通信で授業自体はしっかりと受けている。

 ただ、日中に外に出ると倒れてしまうのだ。

 出歩くのは夜中だけだが、それでも気を失って救急搬送されることがある。


 彼女はいつしか外での活動を諦めてしまっていた。

 幼少期からの諦観。

 何故、自分だけがと言う怒りにも似た感情。

 一般人への羨望。

 両親への罪悪感。

 様々な感情が混じり合って現在の彼女が存在している。


 それ故に烈華にとって『アンリミテッドバトルガール』は救いであり、信仰にも似た心の拠りどころなのであった。



「よし! これで……あ、1892連勝か……。でも目標は序列1位なんだから頑張らないと」



 最早、食事、勉強、風呂、トイレ、睡眠時以外の時間は全て『アンリミテッドバトルガール』にベットしている状況。

 ゲーム中はトランス状態なので、何が起きても全く反応せず母親にはよく拳骨を喰らっているのだが、一向に懲りない少女――それが波取烈華である。



「そろそろ上位のランカーとやるかな……やっぱり1位は取らないとね」


「おッ……いいじゃねぇか。やっぱり序列1位を取ってナンボだぜ」



 ランダムマッチング以外は、直接対戦依頼を行うマッチング方法もあるのだが、こちらは現実のバトル法と同様に格下からしか挑戦できない仕様になっている。


 烈華が現在5位のため、申し込めるのは1位~4位まで。

 直接対決で勝利することができれば、序列は大きく上がる。


 相手がいつログインするのか分からないので、直接戦いたい場合は『果たし状』を言う機能を使って対戦申し込みを行い、指定した時間に対戦する必要があるので少々面倒なのだが世界中にユーザーがいる以上仕方のない話だ。



「えっと駄目元で1位に挑戦しようかな。確か『猫猫ナース』さんだったはず。名前的に日本人だから大丈夫でしょ……あっでももし看護師さんだったら不規則かな……?」



 登録ネームで検索できるし、ランキング表からも選択できるので特段問題はないのだが。

 取り敢えず勇気を出して『果たし状』を送ってみる。



「仕方ないよね。気長に待つかぁ……」



 そんなことをボヤきつつ、ここで休憩や勉強に浮気しないのが烈華たる少女。


 空いた時間はランダムマッチングで対戦して死合勘を、鈍らせない――それが彼女の流儀。


 そこへピロリンと言う音が耳に入った。

 ハッと俯いていた顔を上げた烈華が画面を見ると『果たし状』のボタンが点滅しているのが見える。



「ラッキーだね。タイミングが合ったみたいで良かったぁ!」


「お、やったじゃん! 1位だろ? 強ぇんだろーなぁ……」



 十中八九、『猫猫ナース』からの返答だろう。

 ここで格下からの『果たし状』だったら瞬殺してやろうと思いながら画面を確認する。



「やった! 『猫猫ナース』さんじゃん! すぐ対戦♪ すぐ対戦♪」



 普段は人前でこのような態度を取らない烈華だが、嬉しさのあまりに体が勝手に動き出してしまった。

 初めて見る態度に武士も驚きと共に、いい物が見れたと1人で和んでいる。


 烈華はもうウッキウキで対戦ボタンを押した。

 レーティングから考えると、勝利すれば2位もしくは1位に躍り出る可能性も十分に期待できる。


 彼女の笑みがより深まり、わくわくで胸の高鳴りが抑えきれない。



 さぁ格上相手の厳しくも楽しい死合が今始まる!

お読み頂きありがとうございました!

明日も3話更新です。

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