ラウンド2 前触れ
第2話です。
よろしくお願い致します!
少しばかり時間は掛かったが、救護ロボに治療されて武士は立ち上がった。
流石にまだふら付くものの、AIがここまでできるのかと思うほどの適格な処置である。
「すげぇもんだな……負けたことなかったから知らなかったわ……」
「知らないことが知れたようで良かったじゃない。酷い顔してるけど……でも久しぶりね。なんか金髪になってるし。今も喧嘩ばかりしているの?」
思わず漏れ出た本心に、烈華が呆れた様子で言った。
だが、その声色は優しく柔らかい。
「お、おう……まぁボチボチって感じだ。あー久しぶりだな……えっと、れ、烈華は元気にしてたか?」
「日中はまだまだだけれど、体調は良くなってきてるわ。それに今日は特に調子が良くてね。夜だし近くのコンビニに行ってみようと思って」
武士は突然の再会で、嬉しさのあまり声が上ずってしまう。
本人は誤魔化せていると考えているが、表情は緩みきって挙動不審。
彼女の方は意識していないのか、普通に話しているようだが……。
その強い想いが実を結んだのか、ついてない日だと思いきや最後に良いことがあった。
想い人で幼馴染でもある烈華との思わぬ出会いに心臓が激しく鳴り響く。
これほどまでに人に惹かれるものなのかと自分でも驚いてしまうほど。
首を傾げながらニッコリと微笑む烈華の表情を見て舞い上がる武士。
今なら何をされても全て許せそうな気がする。
ゲームとバトルで負けた記憶など、とうの昔に遥か彼方へと追いやられていた。
「親御さんがよく許してくれたなぁ」
「あ……父さん泣いてたわね」
「おいおい……う……」
バトルで頭に受けた衝撃のせいか足元が覚束ない。
慌てて烈華が支えようと受け止めるが、体格差があり過ぎた。
懸命に支えようとする彼女を巻き込まないために、武士は足に力を込めて何とか踏み止まる。
「ちょっと! ふらふらじゃない。もう……仕方ないわね。私の家に寄って行きなさい。カップラーメンの1つでも食べて行けばいいわ。それに少し休んだ方がいいと思うし」
2人の顔が至近距離まで接近する。
武士の目の前には漆黒ストレートの長髪が美しい色白美人――まさしく烈華。
切れ長の二重まぶたが印象的で、少し影があるものの凛とした大和撫子のような少女である。
一瞬見惚れていた武士だったが、気恥ずかしさからすぐに視線を逸らした。
今が夜で本当に良かったと安堵する。
自分の顔は恐らく真っ赤だろうなと思ったから。
「す、すまねぇな……悪ぃ……でも問題ねぇよ。コンビニに行く途中だったんだろ?」
「別に構わないわ。それにしても遠慮なんてらしくないわね。そんな柄じゃないでしょうに。変なものでも食べたの? あ、バトルで頭を打ったとか?」
さりげなく毒を吐く烈華だが、きつい物言いではないところが彼女らしい。
おかしそうに微笑んでいるだけだ。
かなりダメージが足に来ていた武士は素直に彼女の提案に乗ることに決める。
本当のところは久しぶりに烈華の家に行けるのが嬉しいだけなのだが……。
「そ、そっか……んじゃあ少し休ませてもらうわ」
「ええ。そうした方がいいわ」
そう言ったきり、2人が黙り込む。
烈華の自宅は目と鼻の先である。
そのはずなのに無言になったせいか、今日はやたら遠いように感じられる。
武士が緊張のあまり何を話すべきか迷っていると、先に口を開いたのは彼女の方だった。
「でもあなたがそんなになるなんて珍しいわね」
「……やたら強ぇおっさんにやられた。序列が低いのにありゃバケモンだぜ」
烈華は武士が中学生の頃から頻繁にバトルをしているのを知っている。
それ故にその強さも良く知っているつもりだった。
だからこそ負けたのが信じられなかったし、武士をしてバケモンと言わしめる者に少し興味を抱く。
「あなたが喧嘩を吹っ掛けたんじゃないの?」
「違ぇよ! 俺がそこまで喧嘩野郎に見えるのか!? それに序列が低い方からじゃないとバトル申請できないからな?」
足を止め、慌てて即座に否定する武士だったが、烈華からしてみれば胡散臭いことこの上ない。
「あ、そっか! で・も・ね? 喧嘩馬鹿に見えるに決まってるじゃない。基本的に昔から喧嘩上等でしょうが。あなたは」
「お前が俺をどういう目で見てるのか分かった気がするわ……それにしても金をかなり持ってかれた……今月厳しいぜチクショウ!」
ジト目の烈華に武士は何かを諦めたかのように言った。
更に負けた時の感情が蘇り、武士は思わず拳を自らの太腿に叩き付ける。
「なるほど。理解したわ。私にお金を貸せと言っている訳ね?」
「んなこと言ってねぇよ!!」
これ以上、恥ずかしいところを見せたくない武士は強がっては見るものの、久々の再会とは言え長い付き合いの烈華である。
ふらふらなことなどお見通し。腹が減っていることもまるっとお見通しだ。
「ふふふ……変わってないわね……あなたは」
烈華はそう言って少しだけ照れくさそうにしながらも武士に肩を貸して歩き始める。
小柄な少女と巨躯を持つ少年。
到底支えられるようには見えないが、再び2人はぎこちなくも歩き始めた。
烈華は必死に支えようと。
武士はなるべく体重を掛けないように気を付けながら。
「す、すまねぇな……」
「いいってことよ……でも本当にふらふらね。そこまで派手に負けたの? それにお金の方はそこまできついの?」
烈華は特段、喧嘩に興味がある訳でもないし、当然の如く強いはずもない見た目通りの貧弱な15歳の少女だ。
幼少期から病弱で入退院を繰り返している。
ただバトル自体は嫌いではない。むしろ大好きであった。
とは言ってもそれはゲームの話。
「大丈夫じゃねぇよ。マイナスだマイナス。一気に持ってかれちまった」
武士も自分が負けたことを思い出して再び悔しさが頭をもたげてきたのか、頭を抱えてうずくまる。
「ちょっ……座り込まないで! 早く帰るわよ!」
「す、すまん……思い出すと泣けるぜ」
苦労しながらも何とか烈華の自宅へと到着する2人。
久しぶりの彼女の家を見て武士は猛烈に感動していた。
「ほらっ! 何してんの……早く入りなさいな」
「すまん。感動してた!」
「ええ……」
咽び泣きながらはっきり言った武士に烈華は少しだけ引いていた。
明らかに武士を見る目が怪訝なものに変わっている。
取り敢えず動こうとしない武士を自宅に叩き込んだ烈華が自分の部屋に連れていこうとすると、目の前に立ちはだかる人物の影。
武士にとっては久しぶりの再会だが、無論、それが誰かは知っている。
「全く……夜に外出するから心配して待っていたと言うのに、何処の馬の骨とも分からん男を連れ込もうとするとは……」
「ちょっ! 父さん、何言ってんのよ! こいつはアレよ! 武士でしょうが! 忘れたの!?」
勘違いされたことに動揺した烈華が、慌てて口を開くと一気に捲し立てた。
「ばっかもーん!! こんなでかいのが武士な訳あるかぁ!! 烈華、誰だこいつは?」
「あ、お久しぶりです……炎下武士です。あのう一応、本物なんスけど……」
親バカの波取烈将にとっては、武士だろうが知らない男だろうが関係ない。
そう。関係ないのである。
愛する烈華に近づく男はゴートゥーヘル確定だ。
「まぁそう言う訳だから、武士がバトって負けたんだって。ふらふらだから少し休ませて欲しいんだけど……」
「流石、烈華は優しい娘に育ってくれて……私に似たのかな?」
烈華のことになると、盲目になり何も言っても理解しないほどの親バカである。
一応は説明してみたが、やはり現実を受け入れられずにいるらしい。
「はいはい。じゃあ行くから」
華麗にスルーして2階の自室へ向おうとすると、烈将がすばやく再び2人の前に立ち塞がる。
これでも波取流柔術の師範である。
その動作には一切の無駄がない。
「だから誰だ貴様は」
「だから武士ッス……お父さん」
渇いた笑いで少しばかり引きながらも武士は柄にもなく丁寧な態度を崩さない。
「バトルをする以上、決して敗北は許されん!! 死中に活を求めよ! 心が折れてからが本当の勝負なのだ! とまぁそれはともかく……貴様にお父さん呼ばわりされる謂れはないわ!」
「いい加減にしなさい!」
烈華の容赦ない一言が効いたようで、烈将はハラハラと涙を流しながら無言になりその場に崩れ落ちた。
「心が折れてからが勝負か……そうか……俺にはまだまだ精神的な強さはないのかもな」
バトルを思い出して視線を落とす武士。
ボソリと小声の呟きが彼の口から零れる。
「え? 何か言った?」
「いや何でもねぇ」
茫然と項垂れる父親を放置してようやく自室にたどり着くと、武士を中に招き入れる。
子供の頃以来に訪れた部屋をしげしげと見回す武士。
綺麗にまとまった女の子らしい部屋だが1つだけ違和感を抱かせるものがある。
大画面のテレビと家庭用ゲーム機、コントローラ、そしてゲームのパッケージである。
「何だ。まーだ、ゲームやってんのな」
「いやだって私は喧嘩なんてできないから……」
武士がカーペットの上に置かれていたゲームのパッケージに目をやった。
そこには大人気格闘ゲーム『アンリミテッドバトルガール』の文字。
そう。武士がゲーセンでプレイしていたゲームである。
自宅でオンライン対戦もできるので、態々出かける必要がないのだ。
「やっぱハマってんのな。実際に戦おうとは思わねぇのかよ」
「何言ってんの? 私は別に戦いたいとは思ってないし!」
「だよな。すまん。でもよ……格ゲーなんてやってるくらいだから――」
「ちょっ! 見ないでよ!」
喰い気味に武士の言葉を遮ると、赤くなってパッケージを取り上げる烈華。
ゲームを後ろ手に隠してもじもじしている。
「オンライン格闘ゲームだろ? 前に教えてくれたのは烈華じゃねぇか。ってかランカーなんだろ? 烈華って」
「よく覚えてたわね。まぁ……い、一応ね……やり込んでるし……暇だからさ」
何故か歯切れが悪い烈華を不思議に思うが、武士としても影響を受けてゲーセンでプレイするほどになったゲームだ。
ランカーである烈華の順位が気にならないはずがない。
「それで? 何位なんだよ」
「……5位」
ボソッと漏らす烈華の言葉に耳を疑い、絶句する武士。
僅かな沈黙の後、驚きすぎて思わず突っ込みを入れてしまったほどだ。
「はぁ? マジかよ! 強すぎんだろ! その強さが現実になればなぁ……」
どこか遠い目をして武士は呟く。
ちなみに彼のランキングは圏外だ。
「……そうね。まぁ父さんも思ってるでしょうけど」
部屋の空気がどことなく気まずい雰囲気になる。
いたたまれなくなった武士がこの場から逃げようがと考えるが、烈華の部屋に来れる機会など滅多にあることではない。
彼の心の中では激しい葛藤が繰り広げられていた。
だが――
「じゃあ俺はそろそろ、痛つぅ……」
「来たばっかりじゃない。もうしばらく大人しくしていなさいな。張る見栄なんてないでしょ?」
「……まぁな」
苦笑いしながらも烈華の提案を受け入れる。
しかし小さな頃ならいざ知らず、お互いに大きくなった現在では共通の話題もなく沈黙が降りた。
「何もしねぇのもなんだし、やってみてくれよ。そのゲーム」
「ええ……」
思いきり嫌な顔をする烈華だったが彼女としても間が持たなくてどこはかとなく気まずい感じだ。
彼女はため息を1つ吐くと仕方なくゲームの電源を入れた。
烈華のプレイを見るのが初めてな武士は、少しばかりわくわくし始めるのであった。
もうすぐ彼女がおかしな事態に巻き込まれることも知らずに……。
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