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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第二章 関東鳳凰会編

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18/18

ラウンド18 粛清の宴

ありがとうございます。

 烈華は体の震えが一向に止まらなかった。



 覚悟を決めたつもりだった。

 だけど相手を目の前にするとこれほどまでに恐ろしさが襲ってくるとは思わなかった。


 最初に5人を瞬殺した時に感じた恐怖と比べても想像以上。

 圧倒的なまでの嫌悪感と恐怖感、悲壮感、不安感、後悔の念、そして絶望感――様々な負の感情が烈華の心の中で渦巻いている。


 烈華は大きく深呼吸をして空を仰ぎ見る。

 廃倉庫の天井が見えるのみ。


 目を閉じると、たった1週間程度で起こったことが浮かんでは消えてゆく。


 私が啖呵(たんか)を切ったんだ!

 絶対にこんな下衆に負けたくない!

 不思議な現象がきっかけになったとは言え、自分の意志で一歩を踏み出したんだ!

 そんな想いが烈華の胸に去来する。


 修羅の国で生きていく以上、これから烈華は幾重もの戦いに巻き込まれ……いや身を投じることになるだろう。


 今回の『関東鳳凰会』の件では、武士が自ら首を突っ込んだ。

 全ては烈華のを護ろうとしたが故。



「私は……きっと武士に並び立つわ」



 気が付くと体の震えは既に止まっていた。

 代わりに心が激しく震え始めるがこれは――魂の叫びだ。




≪『アンリミテッドバトルガール』を起動。速やかにバトルモードに移行します≫




 烈華にとって聞き慣れた、どれだけ聞いたかも分からない声が脳内に響いた。

 力が体中にみなぎり、万能感が押し寄せてくる。

 彼女は自然とファイティングポーズを取っていた。




≪それではッ!! 来栖救世(くるす きゅうせい)Vs波取烈華(はとり れっか)のバトルを開始するッ!! いっくぞーーー!! ファイッ!!≫




 レフリーロボによる宣戦布告。

 来栖救世は動かない。

 完全に舐めきった表情、見下す視線、両手を大きく広げて挑発する姿――醜い。



「嬢ちゃん。ホラかかって来いよ! 可愛がってやっからよ!」



 せっかく油断してくれている相手だ。

 初撃が入れば死合(しあい)を優位に進められる――『アンリミテッドバトルガール』では。

 実際の喧嘩でもきっと似たようなものだと思う。



「吐き気がするわね」



 烈華の脳裏に『アンリミテッドバトルガール』専用コントローラーが浮かぶ。

 これを操作する自分に負けはない。

 彼女にはそれほどまでの自負がある。


 烈華は(おもむろ)に戦いへの第一歩踏み出した

 無造作に。



 そして――『右鉤突き』



 大地を滑るように瞬時にして、来栖の懐に飛び込んだ烈華の初撃が見事に脇腹を抉った。



「ガハッ……」



 堪らず苦痛の声を上げたのは来栖救世。



「!?」


「……!!」



 道藍(どうらん)大我(たいが)の顔が驚愕に染まり、大きく目を見開いている。

 魅夜(みや)も口をポカンと開けて呆気にとられている様子だ。


 あまりにも速過ぎる初撃。

 体をくの字に曲げながらも来栖の顔からは、苦痛ではなく怒りの感情が読み取れる。


 自分の口から呻き声が漏れたのが、余程気に入らないと見える。



『左中段正拳突き』



 踏み込んでいた右足に重心を乗せたままの突きが、来栖の丹田に決まる。

 烈華の表情はもう変わらない。

 既にいつものトランス状態に入っていた。



「クソがッ」



 流石にこの程度で沈まない辺り末端のメンバーとは違うのだろうが、来栖の膝が折れて少しだけ体が落ちる。


 当然、烈華は見逃さない。

 踏み出した左足を軸に、くるりと回転すると来栖の顎を下から蹴り上げた。



『上段右蹴り上げ』



 烈華の狙いは1つだけ。

 来栖に攻撃させず、『アンリミテッドコンボ』で決める。


 巨躯を持つ来栖の上体が浮いたところへ、右足を地に着けると、すぐさま左に回り込む烈華。

 地から吸い上げた力に回転の力が加わり、左膝から腰へ、腰から上体へ、そして捻りを入れて、来栖の右脇へとねじ込む。



『左鉤突き』



「ぐぅ……」



 来栖は烈華の繰り出す技に、反応すらできていない。

 苦痛の声を漏らすのみ。



「凄いわね……あれが本当に烈華ちゃんなの……?」


「やっぱ(はえ)ぇ……反応できるのか……? 俺に……」



 魅夜は信じられない光景を突きつけられて、いつもの余裕の表情が消えていた。

 一方の武士は対烈華戦の想定をしているようだ。


 烈華の拳に伝わる確かな手応え。

 だが、あの巨躯は伊達ではない。

 筋肉と脂肪の鎧を纏った来栖が相手ではダメージの入り方が違っていた。




『下段右蹴り上げ』




 烈華の右足が、容赦なく来栖の股間を蹴り上げた。

 流石に金的には耐えられずに、地面に膝を付く来栖。

 その後頭部を両手で掴むと更なる追撃。




『中段左膝蹴り』




 顔面から鮮血がほとばしる。

 来栖は倒れ込むことすら許されずに再度、上体が浮き上がる。




『鉄槌』




 後頭部へ右拳を振り下ろした烈華は少し後ろへ下がると、左足を軸にしてくるりと一回転。

 烈華の長い髪が遅れてさらりと揺れた。

 そこへ――




『中段右後ろ回し蹴り』




 来栖の巨体が軽々と宙を舞った。

 その光景にどこからともなく呟きが風に乗って聞こえてくる。



「何もんだよあれ……」


「人間じゃねぇ……」


「あ、あんな来栖さん初めて見たぞ?」



 特攻隊長の大我も道藍の方に視線だけ向けると当惑した声で問い掛ける。

 いや、これは同意してもらいたいと言う大我の心境を表してた。



「おい。ラン。これマジか? 現実を受け入れられねぇんだが」


「トラっち、それはオレもだよ。もしかしたら夢かも知れないな」



 そんなやり取りが続く中でも烈華の攻撃は止まらない。

 脳内コントローラーで十字キーを操作し、体を急加速させる。

 長い滞空時間中に、来栖との間合いを一気に詰めた烈華の連撃が始まった。




『右アッパー』



『ジャンプ 両拳叩きおろし』



『中段右蹴り上げ』



『左掌底かち上げ』




 烈華の細腕による掌底で、来栖のような巨体が軽々と浮き上がる様は異様の一言に尽きる。



「圧倒的じゃねぇか……俺は誰に対して護るって言ってんだ?」



 武士が自問する中、烈華は烈華でむくりと頭をもたげ始めた破壊衝動を抑えるべく、騒めく心を平常に保とうとしていた。



「(まだ大丈夫……一気に決めて終わらせるんだ!)」




『両手突き』




 来栖の顔面と下腹部に迫る烈華の両拳。

 そう。冷静に淡々と技を決めていけば良い。

 一気に決めたいが、『アンリミテッドコンボ』は技の積み重ねの結果である。


 烈華の心中は冷静と情熱がせめぎ合っていた――


 そこへ腕を握られたかのような感触。



「なっ!?」



 突如として腕が動かくなったことに驚愕し、烈華は思わず声を上げていた。



「はッ……つーかまえたっと。いやーワリーワリー。正直ナメてたわ」



 烈華の両腕は来栖にがっちりと掴まれて身動きが取れない。

 顔面を血みどろにしながらもニカッと笑う来栖が口から折れた歯を吐き出した。

 その表情にも態度にも余裕さえ感じられる。



「ま、よくやったぜ。オマエ。つっても借りは返してもらうけどな。アレだ。女にも平等にってな」



 両腕を封じられたまま、烈華は来栖に力づくで押し倒されていく。

 ガチンコの力と力だけの勝負。

 全体重を乗せられた烈華の表情が、初めて焦燥に(まみ)れる。



 マウントを取られたら負ける――烈華の脳に(よぎ)る声。



「んだよ。力もあんじゃねーか。オマエ本当に女かよ」



 調子に乗っていた!?

 慢心していた?

 烈華はそう考えるも即座にそれを否定する。

 そして腕を取られたくらいで焦りと恐怖を覚えた自分に一喝した。


 技の連携は上手く出来ていたしそんなはずはない。

 こんな下衆な男に負ける訳にはいかない。

 逆行こそが精神を高める好機。



 ――ピンチをチャンスに変えろ!



 烈華の心はまだ折れてはいなかった。



「マズい……技を掛けるしかねぇぞ。烈華、技で引き離せッ!!」



 武士が烈華に焦りを含んだ大声で呼びかける。

 今、彼に出来ることはそれくらいしかないのだから。



「技……?」



 隣で死合(しあい)を見ていた魅夜が、武士の横顔を訝しげな目で見る。


 その反対側では『関東鳳凰会』の会長と特攻隊長が言葉を交わしていた。



「流石に負けだな。あいつの馬鹿力と打たれ強さは半端ない」


「どうかな。オレはそうは思わない。彼女の目はまだ死んでない」



 諦めムードの大我の言葉を即座に否定した道藍が指摘する。



「まだだ。まだ終わらないよ」



 烈華に何かを感じているのか、それとも単に期待したいだけなのか、道藍の笑みが深くなった。

お読み頂きありがとうございました。

面白い、続きが気になるという方は是非、評価★★★★★、ブクマなどお願いします。

私が喜びます。

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