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アンリミテッドバトルガール~病弱なゲーマー少女、修羅の国で天下に武を布く~  作者: 波 七海
第二章 関東鳳凰会編

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ラウンド17 けじめ

ありがとうございます。

 既に連絡を取り、けじめを付けさせる刻が来た。


 不安が武士の心にじわじわと広がり、どうしても緊張な面持ちを隠すことができない。だが、今の彼に出来ることと言えば、大人しく烈華の戦いを見守り、その勝利を祈るだけ。


 もし負けたとしたらその時は武士が仇を取る。



「チッ……やっぱり実際の力を見てねぇと不安しかねぇ」



 "あの日"、武士が目撃したのは倒れ伏した『関東鳳凰会』の5人の男とそれを見て妖しく嗤う烈華の姿。

 後は本人による自己申告のみだ。

 烈華のことが信じられない訳ではなく、『アンリミテッドバトルガール』の能力が現実化したことが信じられないのである。


 これは似ても非なるもの。


 玄関を出ようとした武士に背後から声が掛けられる。

 振り返るとそこには真面目な表情をして腕を組む母親――炎下魅夜(ひのもと みや)がいた。



「そんな怖い顔して今から喧嘩でもいくのかしら」


「ああ、ちょっとな。けじめって奴だよ。母さん」


「ふぅん……それは烈華ちゃんが関係していること?」



 魅夜の口から飛び出したまさかの台詞に武士は目を白黒させて返す言葉もない。

 そんな様子を見ながら彼女はふうとため息を吐く。



「やっぱりね……」


「な、なんで……?」


「そりゃあ、息子のことですから。」



 やっとのことで言葉を捻り出した武士に対して、魅夜は胸を張るとニコリと笑う。



「マジかよ。(すげ)ぇな。心でも読んだみてぇだ」


「当たったみたいね。烈華ちゃんもおかしな気配がしたしね。波取さんには乱武高に入ったって聞いて何かあるなと思ったのよ」



 と言うことは烈華に近づいて何かを感づいたと言うことか。

 それに今でも普通に彼女の母親としっかり交流があるようだ。



「まさか止めるとは言わないよな。あいつにも大事な日なんだ。行かせてくれよ」


「なら何をするのか言ってみなさい」



 スゥッと目を細めで魅夜は真剣な口調で問い掛ける。

 こうなると嘘も誤魔化しも効果がないことは武士が良く知っている。

 観念したようにため息を吐いた武士は、素直に白状するべく口を開く。



「……『関東鳳凰会』ってとこを抗争になった。烈華が巻き込まれた……と言うか中心にいるのが烈華だ」


「え……? それじゃまさか喧嘩をするのは烈華ちゃんってことなの?」


「そう言うことになるな」


「どう言う経緯でそうなるのか全然理解できないんだけど……」



 流石に驚いたようで、魅夜が頭を押さえながら困惑した様子になるが、すぐに結論にたどり着いたようだ。



「と言うことは強いのね? 烈華ちゃんは」


「たぶんだけど……強い」



 確信はないが、自分より強いと思われる事実に武士が伏し目がちで答えた。

 それに対して返って来たのは、武士が予想だにしない提案であった。



「へぇ、それは興味深いわね……でも危険なところに烈華ちゃんを行かせるのもねぇ……あ! じゃあこうしましょうか! 私が諸君らをバトル会場に送ってってあげるわ」


「はぁ!? 正気かよッ!! 誰が母親同伴で喧嘩に行くんだよ!! 恥ずかし過ぎるから止めてくれ!!」



 当然、有り得ない話に批難の声を上げる武士だったが、そんなことを聞き入れる魅夜ではない。

 このような性格の彼女だから、現在の武士が存在している。



「まぁまぁ。私も興味があるし、もし何かあったら子供だけじゃ大変でしょ? ホラッ遠慮しない!」



 本気で嫌がって抵抗する武士を軽く押さえ込んだ魅夜は、彼を家から叩き出す。

 そして今度は車に叩き込むと、まるで誘拐するが如く猛スピードで車を走らせたのであった。




 ◆ ◆ ◆




 烈華の家と武士の家は目と鼻の先である。


 波取家の玄関のチャイムがなった。



「あ、武士かな……早く行かないと」



 リビングにいた烈華はそそくさと玄関へ向かう。

 両親には心配させる訳にはいかないので、武士とゲームセンターに行くと言ってあるので問題はないだろう。


 バトルは道藍が気を利かせてくれたのか、夕方から『関東鳳凰会』の溜まり場となっている廃倉庫で行われることになっている。

 かなり広いらしいので多くのメンバーが集まるらしい。

 その中からこれまた多くが『粛清』されるようなのだが……。



「んじゃお母さん行ってきまーす! はーい、今開けまーす!」



 開いたドアの前には、満面の笑みを浮かべた女性がいた。

 黒髪のボブで蒼い瞳をした不思議な雰囲気を纏っている人だ。



「えっと……」



 チラリと視線を横に向けると、そこには死んだ魚のような目をしている武士が。

 となると、考えられるのは1つ。

 視線を戻した烈華と女性の目が合うが、何処か懐かしい印象を受ける。



「あっ! 魅夜(みや)さん!?」


「烈華ちゃん、久しぶり~!」



 驚く烈華に、ひらひらと右手を振る武士の母親――魅夜。

 懐かしい顔に烈華の声のトーンが自然と上がる。



「お久しぶりです! なんか目が蒼いんですけど……」


「ああ、これはカラコンよ。まぁそんなことはいいから、行きましょうか」


「え? 何処に……って、そっか……」



 間抜けな質問をしてしまったことに気付いた烈華が納得する。

 魅夜の隣に項垂れる武士がいると言うことは、無理やり連れて来られたと言うこと。


 烈華は思う。

 これから彼女の前でバトルしなければならないのか、と。



「さっ速く乗って。飛ばすわよ~!」



 何も言うことができないまま、武士と共に車に押し込まれる烈華。

 後部座席に乗せられた烈華が、隣に座る武士に顔を近づけて小声で囁く。



「ちょっと。何がどうなってるの? どうして魅夜さんが?」


「悪ぃな……喧嘩に行くってバレちまったんだ」


「ええ……何でバレるのか分からないんだけれど」


「母さんは勘が良くてな……」



 武士は何もかも諦めた様子で、ただただ茫然としている。

 チラリと運転席に目を向けると、機嫌が良さそうに鼻歌を歌う魅夜が車を飛ばしていた。



「確かに昔から変わった人だったような気がするわ……でもどうするのよ! 私が戦うのよ? 強くなったってバレちゃうじゃない……!」



 小声で怒鳴ると言う器用な真似をする烈華にも武士の態度は変わらない。

 烈華としても、家族ぐるみの付き合いである魅夜を疑う気はないが、『アンリミテッドバトルガール』の能力を知る者は少ない方が良い。


 最近、友達になった乱武高校の生徒なら誤魔化しようもあるだろう。

 だが、昔の烈華を知る彼女がバトルの様子を見れば、おかしいと気付くのは当然。


 と言うか、烈華がバトルすると分かっているに違いない。



「あ、これはもう言っても仕方ないことね」



 烈華は今の状況になっている時点で、どうしようもないことを悟った。

 男の世界がどう言ったものか、まだまだ理解するには程遠いが、自分から喧嘩を売っておいてやっぱり止めますと言うのは筋が通らないくらいは流石に烈華にも分かる。


 全てを諦めた2人は大人しくなり、車はハイウェイを猛スピードで爆走するのであった。




 ◆ ◆ ◆




 魅夜の運転する車が廃倉庫前に停まった。


 結局、どうしようもないことを考える無益さを理解した武士は考えるのを止めた。

 となれば烈華の喧嘩に付き合うのみ。


 本当は武士自身が戦いたいが、事の始まりである烈華が決断したことだ。

 尊重してやりたいと言うのが男と言うもの。



「つってもなぁ……俺は見てるだけかよ。俺がやるべきじゃないのか……?」



 車から降りた3人は廃倉庫へと入っていく。

 周囲にはかなり多くの『関東鳳凰会』メンバーが好戦的な視線を飛ばしてきている。


 それだけではない。

 憤怒、憎悪、好奇、関心、その感情は多岐に渡る。

 誰も彼も『関東鳳凰会』の象徴たるロゴ入りのスカジャンを身に纏い個性的な髪型をしている見た目からしてヤバい奴らだ。



「おう。来たぜ」



 武士たちは『関東鳳凰会』会長、菅原道藍の目の前までやってきた。

 隣にいるのはかなりの長身でガタイの良い男が、目を細めて武士たちの様子を見つめている。

 長髪を(まげ)のように後頭部で纏めている侍のような男だ。



「いやあ! ブシクンとリッカちゃん……とどちら様?」



 まぁ当然疑問はそこだわな……と武士はどうしたものかと頭を痛めるが、正直に話しておくことにした。



「いやな……俺の……お袋だ」



 照れていることを悟られないように、武士は何とか言葉を絞り出した。

 それを聞いた魅夜が、笑いながら武士の背中を力強く叩いた。



「なーに言ってんの! お袋だなんて言ったことないでしょう?」



 倉庫内がひと時の静寂に包まれる。


 しかしそれも一瞬のこと。

 バトル会場は一気に罵詈雑言と嘲笑の嵐が吹き荒れる場と化した。



「おいおいおい! 喧嘩に親子同伴とか笑わせてんじゃねーよ!」


「今時の小僧は母ちゃんがいなきゃ喧嘩もできねぇのかぁ!?」


「うちに喧嘩売るくらいだからどんなヤツかと思えばこれかよ!」



 しばらく続く雑音の中で、武士は気が付いた。

 道藍と、隣の男は全く笑っていないことに。

 後方に並んでいる隊長格と思しき連中も笑っている者は少ない。

 真面目な顔をしているのは武士と戦った者。



 そして打たれる。


 終止符が。



「お前ら、ちょっと黙れ」



 大声で怒鳴った訳でもないのにもかかわらず、倉庫内に一瞬で沈黙が降りる。



「(流石は天下の『関東鳳凰会』会長と言ったところか……少し一喝しただけでこれかよ)」


「それではこれより『関東鳳凰会』のツラに泥を塗ったクソ共に、鉄槌を下す。粛清人は波取烈華。相違ないな?」


「ま、間違いないわ」



 烈華が緊張した様子で一歩前へと進み出る。



「うちに溜まったクソを捻り出してくれ。そのゴミカス共は元1番隊隊長、来栖救世(くるす きゅうせい)、元3番隊隊長、野羽大悟(のば だいご)の2人だ」



 汚い言葉のオンパレードからも道藍の怒りが伝わってくる。

 乱武高校で語った言葉はあながち間違いではないようだ。



「立会人はオレ、菅原道藍(すがわらの どうらん)。特攻隊長、竜宮大我(りゅうぐう たいが)



 道藍自身が立ち会い人になって今回の一件を見届け、覚悟を持って裁くのだろう。



「ちょっといいかしら? 私もこのバトルを見届けるために来たの」



 道藍の覚悟を感じ取った武士が自分にできることは何なのか考えていると、突然、魅夜が臆することなく道藍に話し掛けた。

 一瞬だけ面喰った表情になる道藍だが、すぐに承諾の返事をする。



「分かった。アナタにもしっかり見届けてもらおうか」


「ありがと」


「お前ら、クソ共と拉致ったレフリーロボを連れて来い!」



 後ろ手に縛られたまま連れて来られたのは、金髪をウルフカットにした野性的な男と如何にもヤンキーと言った感じのパンチパーマの男。


 烈華は動きやすいからと、場違いなピンク色のジャージ姿だ。


 双方の様子を見た大我が道藍に小声で囁く。



「来栖はあのでけぇ体に馬鹿力、筋肉の鎧を纏ったドS野郎だし、野羽は喧嘩のセンスがある。まぁ強気過ぎるのがアレだけどな。ラン、あの()が本当に()れんのか? 正直、俺には……つか誰も戦いになるとすら思ってねぇだろ」


「オレとしても有り得ないとは思ってるよ。だけど目の前で啖呵切った時の面構えを見たからね。何かがあるのかも知れない。そう思ったのさ」


「何かねぇ……」



 そこへ縛めを解かれた来栖が手首を振りながら、烈華へと近づいていく。



「おい。道藍! このガキを()れば本当に無罪放免なんだろうな?」


「ああ、今回は見逃そう。今回はな」


「つかよ。おりゃ、てっきりそっちの男が相手だと思ったんだがな。間違いねーのかよ?」


「間違いない。テメーの相手はそこの少女だ」


「はッ……なっさけねー。女に戦わせるカマ野郎かよ」



 分かり易い挑発に武士の血が煮えたぎる。

 武士だって本来なら自分の力でぶち殺してやりたいところだが、こればかりは烈華の決意の問題だ。

 彼女の意志を尊重したい。


 いや嘘だ。

 今も烈華を護るのは俺だと言う気持ちと、彼女が自身に打ち勝ちたいと言う気概を大切にすべきだと言う相反する考えの間で揺れ動いている。


 怒りと不甲斐なさで強く噛んでいた唇から血が滴り落ちる。



「何勘違いしてんのか知らねぇが、もし烈華に傷つけたらてめぇは殺す。俺の手で必ずだ」



 武士は静かに怒りを爆発させながら来栖に告げた。

 だが返ってきたのは鼻で笑い飛ばす声のみ。



「……では波取烈華はバトル申請を」


「はん……バトルとかヌリーこと言ってんから『関東鳳凰会』は腐るんだよ! 喧嘩がナンボの人生だろーがよ!」



 来栖が吠えるが、烈華は彼の前まで進み出るとスマホを向けた。


 武士は気付いている。

 平静を保っているように見える烈華だが、彼女の足は細かく震えていることに。

 あんな見た目も言葉も悪い者を見れば、誰だって恐怖で足が竦むに決まっている。それがずっと病弱で体を動かすのにも大変な思いをしてきた烈華なら尚更だろう。


 内心で何を考えているのかも気になるところだ。

 震えてはいるが、きっと「怖いけど私が終わらせる」などと考えているかも知れないと武士は思った。




≪序列圏外:波取烈華から対戦申請:承認しますか?≫




「ははッ……ははははははッ!! 圏外!? マジかよ! 俺も舐められたモンだな……」



 音声を聞いて来栖の口から馬鹿にしたような笑い声が吐いて出た。

 愉快で愉快で堪らないと言った感じを受ける。



「おい、嬢ちゃん。今からお前は俺になぶり殺される訳だがどんな気持ちだ? いや結構可愛らしい顔してんじゃねーか。その顔を雌豚みてーにしてやっから。一生見れねー顔にしてやんよ。んーその前に犯すか?」


「黙れよ、来栖ぅ……テメー今すぐオレに殺されてーみてーだなぁ……」


「おっとコエーコエー。殺されんのは勘弁な。はい承認っと!」



 先程から神妙な面持ちを保っていた道藍が、流石に聞きづてならないとばかりに凄むと、空気が震えた気がした。

 それを敏感に察知したのか、来栖はおちゃらけた態度で両手を上げるとバトル承認を告げる。


 AIの音声認識によるマッチングがバトルのトリガーとなる。




≪双方向認証:承認! マッチングが成立しました。5秒後にバトルが開始されます≫




 レフリーロボがいつもの通り優しく柔和な声で無慈悲に告げた。

お読み頂きありがとうございました。

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